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【百合】放課後だけ距離が近い女の子と、友だちではしないことをしている。  作者: 夏野恵


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第5話 ……へぇ

「じゃあ行こうか」

「おっけー」


 放課後になると私の席に寺島さんが来たので、一緒に教室を出た。


 渋谷さんの誘いを断ったことに少し罪悪感があるけれど、他の友だちと楽しそうに話をしていたから大丈夫だろう。

 そもそも私たちはずっと一緒にいるというタイプでもないし、たまには他の友だちを優先したって何も問題はない。


 そんなことを考えながら校門を抜け、近くの書店へと足を踏み入れた。


「あーこれこれ」


 漫画コーナーのタイトルを斜め読みしていると、寺島さんに肩を叩かれた。

 彼女の方を見ると、最近人気が出始めていると聞く漫画を手にしていた。


 寺島さんによると、本に挟まれているQRコードを読み取って応募するらしい。


「これを買えばいいの?」

「うん。お金は私が出すから、二宮はレジに立ってくれればいいよ」

「おー気前いいね」


 それくらいするよ、と言って、寺島さんが笑顔で最新刊を2冊押し付けてきた。


「じゃ、レジへどうぞ」

「え、2冊も買うの?」

「私が1冊で二宮が2冊だから、計3冊だね」


 ……マジか。


 思ったより本気だな、と思いつつ2冊手にしてレジへ向かった。


「同じ巻ですがよろしいでしょうか?」と店員に聞かれて頷くのは少し恥ずかしかったけれど無事に清算を済ませて書店を出ると、寺島さんに二千円を渡された。


「作品はいらないから、QRコードの紙だけちょうだい」

「この作品のこと好きなら保存用と読書用とかで分けたほうがいいんじゃない?」

「いや私、そんなにガチじゃないからさ」


 懸賞のために三冊も買うのはガチではないのだろうかと疑問が浮かんだけれど、もらえるものは貰っておこうと、鞄の中に漫画を二冊入れた。

 渋谷さんが明日来るから一冊渡せばいいだろう。


 そこで寺島さんと別れて、私は自宅に向かった。


 いつもはすかすかな学生鞄に漫画が二冊も入っているせいで、少し重く感じる。

 歩くたびに揺れる音は、漫画が鞄の中で傾いているからだ。


 自分の家の鍵を開けて階段を上り、部屋に入った。

 ふぅ、とため息をついて鞄を放り投げる。


 今から宿題するの大変だな、と思ってスマホを開くと渋谷さんから『もう帰り着いた?』という、親からのメッセージみたいなものが来ていた。


 こんなことを同級生に聞かれたことがなかったので返事に困る。


 少し悩んでから『うん。あと渋谷さんってこの漫画知ってる?』という文章に寺島さんから貰った最新刊の写真を送信した。



 *



 翌日の放課後、私の部屋に足を踏み入れた渋谷さんの口数は少なかった。


 いつもならすぐにゲームをしよう、と誘ってくるのだけれど、帰る途中から手を繋いだままだ。繋いでいること自体は別にいいのだけれど、何も言わないで繋ぎ続けているというのは少し居心地が悪い。


「……渋谷さんって漫画とか読む?」

「そんなに読まないかな」


 少しでも沈黙を埋めようと話題を振ってみたものの、すぐに話題が終わってどんよりと重たい沈黙が流れ込む。


 そういえば、今日の渋谷さんは教室でも口数が少なかった。

 遠巻きで眺めていたのだけれど、声を聴くことが少なかったのだ。


 ちらと渋谷さんを見ると、不機嫌そうに口元を歪めている。


「……あの漫画、もし欲しかったら渋谷さんにあげるよ」


 どうするべきか迷った私は、机に置いてある寺島さんに貰った漫画を指さした。


 物で釣るのは褒められることではないかもだけど、背に腹は代えられない。

 繋いでいる手とは逆の手を伸ばして漫画を取り、渋谷さんに見せる。


 私を握る手が少し緩まり、渋谷さんの視線は漫画の表紙に映る。

 角ばったキャラクターデザインで、主人公の逞しさが筆致に表れていた。


「ふーん」とまずまずな反応を見せて、私の手を離し漫画をぱらぱらとめくる。


 一分ほど沈黙があってから、彼女は漫画をテーブルに置いた。


「面白そうだね」

「それはよかった」

「でも私、一巻持ってないんだよね」

「私もだけど、寺島さんに借りればあるよ」

「……へぇ」


「別にいいよ、ゲームしよ」と渋谷さんは私の腕を突いて誘ってきた。


 ひとまず難は逃れたかな、と胸を撫でおろしつつコントローラーを取り出す。

 それを黙って受け取ると、渋谷さんは腰を上げて私にぴたっと密着した。


「今日は近いね」

「……そうかな」


 これくらい普通だと思うけど、と言って隣の女の子は俯く。


 いつもより近いのは間違いないと思うけど、気にせずゲームを始めることにした。

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