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【百合】放課後だけ距離が近い女の子と、友だちではしないことをしている。  作者: 夏野恵


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第4話 イメージに合わないなぁ

 授業が終わってから、教科書とノートを引き出しに入れた。


 数学の授業だったはずなのだけれど後半の記憶が抜け落ちている。

 ノートにうねうねした線が残っていたところを見ると、寝落ちしたらしい。


 後で見返すと恥ずかしくなるから、あとで痕跡を消しておこう。


 そんなことを考えていると渋谷さんくらいの身長の女の子が近づいてきた。


「二宮ー、一緒にご飯食べよー」

「いいよ。あと寺島さんってさっきの授業聞いてた?」

「聞いてたけど、なんで?」


 ノートを見せると、「そういうことね」と頷いた。


「昼ご飯食べた後見せるってことでいい?」

「どうもどうも」


 じゃあ食べようか、と机に弁当を広げ、お箸を取り出して卵焼きを口に入れた。


 寺島さんは私の友人のひとりで一年生の頃から同じクラスだった。


 昼ご飯を食べたりするときにどちらかの席に行くことが多く、ゆったりとした雰囲気をしているから一緒にいても気まずくならないのがいい。

 他にも話をする友だちはいるけど、なんだかんだ寺島さんと話をしている時間が一番長いような気がする。


 私もご飯を食べようと思って蓋を開けると、ご飯が片方に寄っていた。


 今日は平行に持ってきたはずなんだけどな、と思いつつ白ご飯から手を付ける。


「ノート見せる変わりにお願いしてもいいかな」


 もぐもぐと白米の味を楽しんでいると、おもむろに寺島さんが口を開いた。


「できることならいいよ」

「できるできる」


「さっき返却された宿題を渋谷さんのとこまでもっていってってだけだから」と言ってから、寺島さんはペットボトルに口をつけた。


 まだ話の途中だと思って、箸を止めて彼女を見る。


 お茶を飲んでいる寺島さんの喉はとくとくと揺れた。


 ペットボトルを置いてから、話を続ける。


「席替えした直後だからかもだけど、私の席に渋谷さんのヤツ乗っててさ」


 ちらと渋谷さんを見ると、グループの人たちと購買で買ったパンを食べていた。


 あのグループの中で言えば、渋谷さんは落ち着いたタイプの人間だ。だからまだ話しやすいんだけど、他の子もいる時に渡すのは少しハードルが高い。急ぎの用でもないなら、渋谷さんがひとりのときに返しに行けばいいだろう。


 そう考えて、ノートを見せてもらう貸し借りをちゃらにすることにした。


 ミネラルウォーターを喉に通してから、深呼吸して食事を再開する。

 夕飯の残り物ではあるけれど、食欲を刺激するような味わいをしていた。


「そういえば二宮って今日の放課後空いてる?」


 しばらく食事を続けていると、寺島さんが声をかけてきた。


「空いてる」

「それならちょっと本屋に行こうよ」


 なんでも寺島さんの好きな漫画の最新刊に抽選券が入っているらしく、その抽選の景品を当てたいみたいだ。しかし同じ巻を二冊も三冊も買うのは体裁が悪いため、分担してもらいたいらしい。


 本屋か、と思ったけれど、断る理由もないので頷いた。


 それからは他愛のない話をしてお昼休みを過ごした。

 ご飯食べ終えてから渋谷さんの宿題を受け取り、寺島さんと別れた。


 渋谷さんたちのグループの様子をうかがいつつ、彼女の宿題を覗いてみるとやはりというべきか、答案のほとんどは正解だった。

 

 イメージに合わないなぁ、としみじみ思う。


 だって渋谷さんはぱっと見だとそれほど成績がよさそうに見えない。

 明るい人たちを悪く言うつもりはないけど、成績が良くなさそうだと思う。


 でも渋谷さんはグループの中でもとびぬけて成績が良い。

 いつも勉強してるわけではなさそうだし、要領がいいのだろう。


 それに少し羨ましく思っていると、話を終えた渋谷さんが近づいできた。


「やっほー、二宮さん」

「やっほ。これ渋谷さんのだよね」


 別の席のとこに置いてたらしいよ、と言って彼女に宿題を渡す。「あっどうもー」と渋谷さんは自分の席に宿題を持ち帰ってからもう一度こちらに来た。


「今日って二宮さんの家行ってもいい?」


 普段ならいいよって答えるんだけど、あいにく今日は先約がある。


「ごめん。今日は友だちと本屋行くんだよね」

「へー、寺島さん?」


 彼女の声のトーンがほんの少し落ちた。


 私が渋谷さんの交友関係を知っているように彼女も私の交友関係を知っている。

 だからすぐに寺島さんの名前が出たのだろう。


「なんか抽選で当てたいヤツがあって、一緒に来てって言われた」

「そっか。それはまあ仕方ないかもね」


 私の本意ではなく交友関係として仕方ないこと、というニュアンスだった。


「じゃあ今日は無理だとして、明日はどうかな?」

「明日は大丈夫だよ」

「じゃあ明日は家に行くね」


 おっけーと口にすると、笑みを零して向こうの席に戻っていった。


 渋谷さんの誘いを断ってしまったのは心苦しいけれど、今日はいいだろう。

 放課後はいつも一緒というわけでもないし、無理のない範囲でかかわるべきだ。


 ふぅ、とため息をついて窓の外に視線を向ける。


 六月入りということもあってか、空にうっすらと雲が張っていた。

 放課後の天気はどうだったかな、と授業が始まるまでぼんやり過ごした。

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