第24話 また二人で入ってみるー?
「花火ってここからどの辺に見えるものなの?」
「いつもあの辺に見える感じかな」
渋谷さんは夜空に指をさして方向を示してくれた。
雑談をしていると、あっという間に花火が打ちあがる時間になった。
もう晩ご飯は軽く済ませていて、花火を見ながらお菓子を食べるつもり。
今はコンビニで買ったお菓子を手にしてベランダに出ている。
「ここからならちゃんと見えそうだね」
なんとなく方向だけは確認してから焼き菓子を口に放り込む。
渋谷さんの住むマンションは河川敷から少し離れているため、ここから人だかりを確認することはできない。でも微かに花火が打ちあがるアナウンスらしき放送が聞こえた。
手すりに身を寄せながらぼんやり眺めていると、突然、やけに綺麗な模様が夜空に浮かんだ。
それに少し遅れてドーンっと重い音がこちらに届く。
花火大会が始まったみたいだ。
花火を生で見るのは中学生ぶりだった。
久しぶりに見て、花火ってこんな綺麗だったんだ、と思った。
でもめちゃくちゃ感動したというわけではない。
今さら言うなって言われそうだけど、私は花火がそれほど好きではないのだ。
嫌いではないけど、好きでもない。自分で見たいと思うほどではないって感じ。
だから今、私が花火を見ているのは完全に渋谷さんから誘われたからだった。
「そろそろ戻ろっか」
「うん」
しばらく黙って見てから、私たちはリビングに戻った。
ベランダとは言っても外であることには変わりがないから暑い。
汗をかいてまで見るほどでもない、と思っていると渋谷さんが口を開いた。
たぶん渋谷さんも同じことを考えていたんだろう。
リビングのソファに腰を下ろすと、渋谷さんがテレビをつける。
地域のテレビ局では花火大会の様子を生中継しているから、それをぼんやりと見てみる。さっき見たような花火がスクリーン上に映し出されていて、それにニュースキャスターがコメントをしていた。
「テレビで見るくらいがちょうどいいね」
「生で見たのにそんなこと言う?」
情緒ゼロだね、と渋谷さんはくすくす笑った。
もちろん、生で花火を見るのもいいことだと思う。
スクリーンを挟んだら、どんなに解像度が高くても生には劣るわけだし。
でも生で見るのもいいことばかりではない。暑いなか人混みで座る場所を探したり、食べきれない焼きそばのパックを持て余したりするかもしれない。
そういうのも花火大会の良さだろうけど、私はそんなに心が惹かれなかった。
花火が打ちあがり始めたけれど、私たちは見向きもしない。
テレビで何度か流れている花火大会の様子をぼんやりと見ていた。
「これからどうする?」
「お風呂入ろうかな」
これから外に出る予定もないし。
「それなら、また二人で入ってみるー?」
すすす、と私に近づいて渋谷さんは顔を覗き込んできた。
冗談とも本気ともわからない、柔らかな笑み。
彼女のぱっちりとした瞳の中には、私が写っていた。
前みたいに唇かまないならいいよ、という言葉が出かかった。
でもあの時は特殊だったわけだし、そう何度もするものじゃないと思う。
だから私はその言葉を飲み込んだ。
「今日はひとりずつでいい?」
「うん。二宮さんから入っていいよ」
「ありがと」
そういって渋谷さんの頬に手を当てる。
彼女の頬は、子どもみたいにふっくらとしていた。
とても触り心地が良くて、ずっと撫でていたくなる。
「……なに?」
渋谷さんは私の方を見てきた。
私の手を退けようとしないから、私のことを信頼してくれているのだろう。
お風呂に入る前に、と思って、私は軽く渋谷さんと唇を重ねてすぐ離れた。
「なるべく早く入るね」
「……ん」
渋谷さんがこくんと頷いたのを確認してから、私は脱衣所に入った。
すぐに服を脱いで左胸に手を当てると、ドクドクと脈を打っている。
でも苦しい感じではなくて、ちょっとだけ気持ちが良い胸の締め付け感だった。
キスしようってわざわざ言ってするよりも、ああいう感じの方が好き。
生活の延長線上にあるから、気合を入れる必要がないっていうか。
ああいうの、もっとできたらいいな。
さっきの触れ合いに満足した私は、悠々と浴室に足を踏み入れた。




