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【百合】放課後だけ距離が近い女の子と、友だちではしないことをしている。  作者: 夏野恵


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第23話 もうちょっとしよ

 誰かの家に泊まるという経験は、私にとってそれほど多くない。


 渋谷さんの家に泊まることが決まってから、そういえば何年振りだろうって考えると小学生ぶりだったことに気が付いた。

 そこそこに仲の良い友だちの家でゲームしたり夜中までおしゃべりしたりして楽しかった記憶がある。


 でもその友だちとの仲は、中学に上がると次第に薄れていった。


 別のクラスになって友だちにも新しい人間関係ができたし、私も新しい人たちと出会って、昔の関係性は昔のものになった。

 高校生になってもそれは同じで、仲の良かった友だちのうちで連絡を取り合っているのは西方さんだけ。


 人との関係性もある意味では鉄と同じで、何もしないと錆びていくんだろうな。


 そんな他愛のないことを考えつつ、私はレジ袋を提げてコンビニから出た。


 今日は渋谷さんの家で花火大会を見る日。

 そして今は渋谷さんの家に向かっているところだった。


 最初は渋谷さんが家まで来るよって言っていたけど、いつも来てもらって悪いからと私ひとりで行くことにした。

 あのお店のちょっと先にある、と言われたからとりあえずそのお店に向かっているところだ。


「はぁーあっつ……」


 むわっと湿度の高い空気が肌にまとわりつく。


 午後四時なのに昼の熱気がしぶとく残っていて、コンビニから出て数分も経っていないのに、額から汗がぽつぽつと浮かんできた。


 そよ風もどこか湿っぽくて、全然ありがたくない。

 吹かないほうが気分的にはましだ。


 汗をぬぐって辺りを見回すと、そこそこに人通りが多かった。


 向かう先はおそらく河川敷。

 花火大会の催される場所だ。


 浴衣を着ている人はそれほど多くなくて、涼し気な半袖にハーフパンツといういで立ちの高校生らしき女の子たちもちらほら見受けられる。


 そういえば渋谷さんは私とふたりで花火を見るのはよかったのかな。


 その女の子たちが通り過ぎたタイミングでふと思った。


 花火大会って普通は仲の良い友だちと一緒に見るものだと思う。中には恋人と一緒にって人もいるかもだけど、普通は友だちと一緒なんじゃないかな。

 もし私と一緒に見るから他の予定を断ったってなったら少し申し訳ないかも。


「おーい二宮さん、通り過ぎてるよ」


 ぼんやり歩いていると、ふいに肩をとんとん叩かれた。


 名前を呼ばれて振り返る。


 すると目の前には、顔立ちの良い女の子が不思議そうにこちらを見ていた。


「二宮さん大丈夫? 体調悪くない?」

「大丈夫だよ」


 ちょっと暑くてぼんやりしてたかも、と付け加える。


 今日の渋谷さんは普段と違ってやや軽装だった。

 ルームウェアと外出するときの中間くらいの恰好。


 たった今出てきたばかりなのか、額に汗は浮かんでいなかった。


 私たちは軽く話をしながら、目の前の建物へと入っていった。

 エントランスを抜けてエレベーターに入ってからボタンを押す。


 ゆっくりと扉が閉まって、ごうんごうんと機械音が狭い空間に響いた。


 渋谷さんの住んでいる建物はまさにマンションって感じだった。

 この地域にしては割と高い建物で、家賃もそこそこに高いと聞く。

 私からすると、エレベーターがあるだけですごいと思ってしまうけど。


 エレベーターは目的の階に到着して、ゆっくり扉が開いた。


「こっちだね」


 そういう渋谷さんに従って突き当り右の廊下を進むと、渋谷さんが立ち止まって鍵を取り出した。すぐに差し込んで捻ねったら、音もたてずに扉が開いた。


 ぺこりと会釈してから中に入ると、冷気が首筋に当たる。

 冷房が効いていて、とても過ごしやすい空間だ。


 ここまで歩いてきたかいがあったな、と思いつつ靴を脱ぐ。


「今日、渋谷さんの親はいない感じ?」


 ふと疑問に思って私は口を開いた。


 置いてあった靴は学校指定のローファーと外出用のスニーカーだけ。

 渋谷さんの親の物らしき靴は見当たらなかった。靴箱に入っているのかもしれないけど、それにしても玄関に靴が少ない。


 私の家ならもっとごちゃついているのに、この玄関はやけに綺麗な感じがした。


「まあ、今日は帰ってこないだろうね」


 サンダルを脱ぎながら渋谷さんはなんてことないように口にする。


 含みのある言い方が少しだけ気になった。

 帰ってくるかどうかもわからないみたいだったから。


「そんなことより、花火大会が始まるまでどうしよっか」


 話題を変えるように、渋谷さんは私の顔を覗き込んできた。

 その表情には、いつもの柔らかさが残っている。


 渋谷さんの雰囲気から察するに、今はあまり踏み込んでほしくなさそう。

 そのため、私は色々な疑問を飲み込んで靴紐をほどいた。


「ゲーム機とかはないんだよね?」

「残念だけどないね」


 携帯ゲームを持ってくればよかったかもだけど、渋谷さんの家に行ってまでゲームするのは違うかもと思って、持ってこなかった。


「とりあえず、渋谷さんの部屋に行っていい?」

「もちろん」


 コンビニで買った夜ご飯とお菓子をリビングに置いてから、渋谷さんの部屋に向かう。扉を開いて中に入ってみると、本棚と小学生くらいに買ったらしい勉強机が目についた。


 私の部屋より一回り小さいくらいで、落ち着いた雰囲気をしている。


 ひとまず荷物を整理しようと思ってリュックからパジャマとか色々取り出す。

 花火大会まで時間をどう潰そうか考えながら、荷物の出し入れを繰り返した。


「そういえば、渋谷さんは他の友だちと花火大会に行く予定なかったの?」


 行きがけに考えたことを、雑談がてら渋谷さんに尋ねてみることにした。


「最初はみんなで行こうって話もあったんだけど、彼氏のいる子とかもいてさ」

「あーそういうことね」


 皆で集まれるわけじゃないから、予定が自然消滅したって感じかな。


「もし集まったとしても、二宮さんと花火見る予定だったから断ってたけどね」


 そう言いながら、渋谷さんは私との距離を詰めてきた。

 すぐに背中に手を回されて、逆の手は私の頬にあててきた。


 部屋の空気がほんの少し熱くなる――。


「二宮さんは他の子と見る予定なかった?」

「なかったよ」


 それはよかった、と笑みを浮かべてる。


 そして私たちはすっと唇を重ねた。


 嬉しかったからしたわけじゃなくて、日常生活としてのキス。

 深い意味がないカジュアルな感じ。


 何度もしてから距離をとると、渋谷さんは目を伏せる。


「……自分の部屋でこういうことするの、悪いことしてる気分になるね」


 そう言うものの口角は上がっていて、罪悪感を抱えている気分には見えない。

 むしろ嬉しそうだから背徳感みたいなヤツだろう。


「私もちょっと、緊張してるかも」


 たぶん渋谷さんの部屋にまだ慣れていないから。

 いつも私の家でしてたから、落ち着けていたのだと思う。


 ちょっと心を落ち着けようと思って深呼吸をひとつ入れようとすると――。


「もうちょっとしよ」


 私の心臓が元に戻る前に、渋谷さんは口を開いた。


 そういって渋谷さんは私の頬を指でさらいながら唇を落とす。

 私にとって新鮮なこの部屋で、ちゅっと小気味よい音が響いた。


 それから私たちは、花火大会が始まる数十分前までいつもすることをした。

 ゲームをせずとも時間を潰せたというのは、私たちの中で収穫だったと思う。


 いったん満足してから、私たちは部屋を抜けて晩ご飯の準備を始めた。

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