第14話 知ってる。友だちなんだよね
人の心の中をのぞくことはできない。
それは当たり前のことだし、のぞきたいとも思わない。もし仲の良い友だちが裏で陰口を言うような酷い人だったら傷つくだろうし、私はそれほど打たれ強いタイプではないから一週間くらい引きずると思う。
そうだとしても、今の私には心の中をのぞきたい女の子がいた。
「おーい、二宮ー」
はっと視線を戻すと、一緒に昼ご飯を食べていた寺島さんが小首を傾げている。
「ぼーっとしてるけど、なんかあった?」
「ううん、ちょっと眠いだけ」
そういってペットボトルを傾け、唇を湿らせた。
喉を通っていき、胃の中に溜まる感覚が生まれる。
しかし、それはあまりいい気持ちではなかった。
私がさっきまで見ていたのは、少し離れたところで友だちとパンを食べている渋谷さん。そして彼女こそ、私が何を考えているか知りたい人だった。
二週間ほど前に西方さんが家に来てから、渋谷さんが家に来る頻度が少し落ち込んだ。ぱったり来なくなったってほどではないけど、これまでに比べたら明らかに少ない。いつもなら週に三回くらいは来るところなのに、先週は一回しか来なかった。その一回の時間も普段よりもずっと少なくって、キスとかハグをする時間があまりとれていない。
その理由は十中八九、西方さんなのだと思う。
渋谷さんの言動がおかしくなったのはそのあとから。
家に来てもやたら西方さんのことを聞いてくるから、間違いないと思う。
でも原因がわかったからといって、対策ができているわけではない。
私と西方さんの関係は誰が普通そのものだ。
渋谷さんみたいにキスをしないし、付き合おうなんて言わない。
たまに連絡して近況報告をする程度のどこにでもある関係性。
それなのに、拒否反応を見せる渋谷さんの心情が理解できなかった。
「そういえば、もうそろそろで夏休みだよね」
色々と考えていると、寺島さんが口を開いた。
今は七月中旬という夏休みに浮足立ってくる時期。
期末テストも終わり、教室の空気もなんとなくふわふわしている。
「夏休み、なんかする予定とかある?」
「んー、私は今のところないかな」
「私もー」
何のために話しかけてきたのか、と思うほど実りのない会話がすぐに終わった。
私も寺島さんも根っからのインドア派。
だから休みの日に外に出かけるという選択肢がそもそもない。
それこそ、誰かに誘われでもしない限り――。
食事を終えてひとりになると、私はスマホの電源をつけた。
すっすっとスワイプをして、アプリを起動してトーク履歴を開く。
新着一覧に、西方さんからのメッセージが表示されていた。
『明日の放課後、ちょっと出かけられる?』という誘いだった。
昨日メッセージが来たので、出かけるのは今日。
私はこのメッセージに『オッケー』と返している。
西方さんが家に来た時は渋谷さんがいたから、またヒマな時に会おうって言われて、最近は渋谷さんが家に来ないから、今日は大丈夫だと思った。
でもそういうときに限って、渋谷さんは私に声をかけてくる。
「ねぇ、二宮さん」
スマホから顔を上げると、何とも言えない表情の女の子が私を見下ろしていた。
「今日、家に行ってもいいかな」
それは、いたって事務的な聞き方だった。
声のトーンから、家でキスすることをイメージできる人はいないと思う。
それくらい渋谷さんの聞き方には熱が感じられなかった。
「今日はごめん、予定ある」
「……っ」
渋谷さんの空気に、どろりとした湿っぽさが混じる。
「昨日の夜に、西方さんから連絡が来てさ、ほら前に来た時にまた今度って言われたから。それで、今日の放課後に出かけないって誘われたから、今日は難しいかも。でも友だちと出かける感じだから、気にしないで」
なんで渋谷さんにこんなこと言わないといけないんだろう。
そう思ったけれど、断る理由をはっきりとさせないと安心してくれないかもという不安があった。
ちゃんと説明したら納得してくれる。
そう思っていたけれど、上手く行かなかった。
「……西方さんとは、ふたりで出かけるくらい仲いいんだ」
「仲はいいけど、友だちとしてで――」
「知ってる。友だちなんだよね」
知ってるから、と私の言葉を遮って呟いた。
「今日は無理ってことはわかったから、楽しんでくれば?」
じゃあね、と席を立って渋谷さんは私の席から離れていった。
失敗したな、という実感が遅れて湧いてくる。
胸にじくじくとした感情が溜まる。
でもどうやってその気持ちを解消できるのかわからなかった。
だって私と渋谷さんは恋人ではない。正確に言えば恋人ではなくなった。
それなのに、交友関係にあれこれと口出しするのは違うと思う。
別に渋谷さんは西方さんと一緒に出かけるな、なんて一言も言っていない。
でも、出かけないでほしいというニュアンスを強く滲ませていた。
回りくどいやり方じゃなくて、はっきり『行かないで』って言ったらよかった。
もしそう言われたら、私だってどうにかしようと思ってたのに。
「……はぁ」
私はどうすればよかったんだろう。
ため息を吐いて、私は机にべたりと倒れこんだ。




