第13話 ……さっきの続き、するよ
「おー二宮久しぶりじゃん」
扉を開けると、私の中学時代の友だちがいた。
少し着崩した制服に軽やかな雰囲気のあるショートボブ。
切れ長な目は近寄りにくい印象もあるけど、実際はフランクな女の子だ。
「久しぶりだね、西方さん」
軽く手を上げると、西方さんも手を上げた。
西方さんは中学生の頃によく話をしていた友だちのひとりで、ふたりだけで出かけたこともあるくらいの仲だった。とはいっても西方さんは部活をしていたからそれほど頻繁に出かけることはなかったけれど。
「西方さんが来るのは半年ぶりとかだよね。どうしたの?」
「や、ちょっと顔でも見ようかなって」
私たちの関係はあっさりしているけれど、ときどき連絡を取ることがある。
半年ぶりとはいっても、それほど昔の友だちって感じでもなかった。
「せっかくなら入ってなんか話でもー……って思ったけど」
そこで言葉を切り、西方さんは私の後ろに立っている渋谷さんに視線を向ける。
「中央高校……の人ですよね?」
区切りを入れるような間で、渋谷さんが私の前にすっと入ってきた。
中央高校というのは、私たちの住む地元ではなかなかに入学するのが難しいところだった。公立高校ではあるけれど伝統的な制服を変えていない。
半袖のセーラーに白い線が何本か入った濃紺の襟、胸元に襟と同じ色のスカーフが結んでいて、その服装自体が優秀な生徒であることを暗に示している。
「うん。中央だね」
西方さんの返事はとても軽くって、それを自慢する意図は感じなかった。
もともと西方さんは成績の良さを笠に着るような人じゃない。
中学生の頃から、ずっと謙虚に勉強をするタイプだった。
でも渋谷さんの表情は少し曇った。
「渋谷さんとは一年から同じクラスで、最近は一緒にゲームしたりしてる感じ」
まだ渋谷さんのこと話してなかったなと思って、簡単に紹介することにした。
ゲームしたりの「したり」には、キスとかハグが入ってくるのだけれど、流石に言うことはできない。傍から見た私と渋谷さんのイメージを崩すことなく伝える。
もしキスするような仲なんだ、と言ったら西方さんはどんな反応をするんだろうって思ったけれど、そんなことはおくびにも出さない。
「友だちが来てるんなら、また別の日に来るよ」
「ごめんね」
「や、私も連絡してなかったし」
じゃあまた今度、とひらひら手を振り、西方さんは家から出て行った。
ここまで徒歩で来たらしく、軽やかに歩いて離れていく。
姿が見えなくなってから、玄関の扉をゆっくり閉める。
「……さっきの続き、するよ」
私の返事を聞く前に手首をつかんできた。
すぐに階段を上って扉を開けて中に入る。
そして渋谷さんは私をベッドへと連れて行った。
いつもはベッドですることはない。
なんとなく「それっぽい」感じになるから。
でも渋谷さんは迷うことなく私をベッドへと押し倒した。
そしてすぐに覆いかぶさって唇を重ねてきた。
今までのキスとは違って、むさぼるような食いつき方だった。
息ができなくなるほどの密度の高いキス――。
私は、それを受け止めてあげることしかできなかった。
彼女が満足したのは、西方さんが出て行ってからしばらくしてから。
かなり長い間、私たちは唇を重ねていた。
抱きしめられていたから、渋谷さんに触られた余韻がまだ残っている。
時計を見ると、普段なら渋谷さんが帰っている時間だった。
窓の外も少しずつ暗くなってきている。
「渋谷さん、そろそろ帰ったほうがいいんじゃない?」
身体を起こしてティッシュを渡すと、渋谷さんの眉間にしわが寄った。
「早く帰ってほしいの?」
「そうじゃなくって、いつも帰る時間だからさ」
「私がいなくなったら、あの子に連絡するんでしょ」
ティッシュを受け取った女の子は、口元を拭かないで私を見てくる。
「するよ。友だちだし」
「……っ」
私の答えが不満だったのか、渋谷さんは唇を噛んだ。
ベッドから腰を上げて、制服のボタンを留める。
スカートに手を滑らせて、キスしたことによる乱れを整えた。
「じゃあ、もう帰るから」
「ごめんね、長居して」と付け加えて、渋谷さんは部屋から出て行った。
それから玄関の扉がガチャと音を立てるまで、いつもより少し時間があった。




