第百十七話
姫宮を連れて後宮に戻った芙蓉を姫君攻撃が待っていた。
せっかく姫宮と遊ぼうと思っているのに、公卿たちがわんさか押し寄せてくるのだ。
で、どの人も言うことは決まってるらしい。
うちの姫は幾つになって、美しく心優しく賢く芸事に秀でている。
異口同音に、まったく違う姫君のことを同じ形容詞で褒めるんだから、恐ろしい。
聞いてるだけだと全員同じ姫君のことなのかと思ってしまうくらいだ。
流石の公卿たちも、帝の女御は脈なしと判断したのか、東宮の女御で攻めてくる。
新たに東宮と同じ年頃の姫君を用意するものがほとんど。
でも中には、帝の使い古しというか・・・いやそう言っては語弊がある。
帝は使ったわけではないもん。
とにかく帝にお勧めしていた、今女盛りな結婚適齢期の姫君をそのまんま東宮に・・・なーんて人も珍しくないのだ。
東宮は、御年五歳。
女御の君と夫婦になるには、あと十年近く待たなくてはならない。
気の早いこと。
芙蓉は、溜め息をつく。
同い年くらいの姫ならともかく、今を女盛りの姫に東宮の成長を待たせるのは、無駄に思える。
だからと言って、上流貴族たちが勧めてくる姫を、すげなく断ったら角が立つ。
身内の姫だけでも、三人は確実だというのに・・・
こうしたことに頭を悩ます自分をみて、芙蓉は、自分がかつての自分ではないのだということを感じる。
まだまだ容姿が大きく変わったとかではない。
ただ・・・母になり、中宮になり、そして、大人になってしまったのだ。
大人になること自体は、決して悪いことではない。
けれども、ただ純粋に東宮にドキドキしているだけの芙蓉は、どこかに行ってしまったのかもしれない。
いま残されたのは、帝と自分の子供を守ろうとする自分。
帝のことが大好きなのは変わらないけど。
かつての自分ならば、寄ってくる貴族たちの言葉をのらりくらりとかわすことも出来なかったもの。
守る。
その気持ちだけで、自分がこんなにも変わっちゃうなんて。
芙蓉は苦笑する。
最近、母が身ごもったという知らせがきた。
まだ見ぬ弟か妹。
この子も守らなくては。
それにしても、東宮たちには年下の叔父か叔母が出来ることになる。
変わってしまった自分。
それを感じながらも、変わる前の自分も、今の自分も好きだと思える。
だって、今なら色んなものを守ってあげられるから。
芙蓉として、気軽に生きていた時間を懐かしむことはある。
三の君のハチャメチャな生き方を羨んだこともある。
けど今、私は私で良かった。
そう思える。
自分が入内して幸せだったように、東宮の女御たちも幸せを見つけれますように。
芙蓉は、まだ見ぬ姫君たちにそんな願いを抱かずにはいられない。
ここまでお読みいただいて、ありがとうございました。続編を予定していますので、そちらもよろしくお願いします。