04.
「ヨキ!」
「タスキンス?」
朝日がようやく地平線から顔を出した頃に宿を出たというのに、代季たち新兵が解放されたのは既に日は高く西の空を泳ぎ始めた時刻だった。今にも鳴りそうな腹を抱えて、とにかく食堂にでも足を向けよう、と中央街を出ようとする。ばらばらと虫がばらけるように散らばって行く黒の大群に紛れて軍宮の中庭を去ろうとする代季の背に、彼の名を呼んで止める者があった。振り向くと、先ほどの式で隣に並んだ青年が駆け寄って来る。
「どうした?」
「あ?いや…」
「うん?」
「あの…だな…」
傍までやってきたハルヴィサは、瞬きをする代季の顔を見た途端、今までの不遜さが嘘のように歯切れ悪く周囲に視線を辿らせた。それを見て、代季は首を曲げる。
「タスキンス?」
「……それだ」
「どれ?」
唐突に、しゅび、と手早く鼻先に突き付けられた指があって、代季は曲げた首を強制的にゆるゆると押し戻された。鼻先にある指のせいでやや寄り目になった代季に構わず、ハルヴィサは水を得た魚のように口を開く。…まさか考えもなく呼び止めて、その結果代季本人が発した己の名字に喰い付いたとは決して言えない。
「なんで名字呼びなんだ」
「なんでって…別に理由はないけど」
「じゃあ名前で呼べ。姓名は嫌いなんだよ」
「ああ…えっと…ハル……」
「ヴィサだ」
「言い難いな…」
「お前なあ…」
「縮めてもいいか?」
「あ?」
「ハルって呼んでも?」
「……」
「うん?」
「…しょうがねえから、許可しないでもない」
「ああ、ありがとう」
「! お前なあ!」
「どうした?」
覚えていない言い難い、だから短くしても良いだろうかと言い出したのは自分の方で、それを快諾してくれた彼に礼を言うのは当然のことだろう。だというのに、何故ハルヴィサは怒りだしたのだろうかと、代季には理解出来なかった。




