02.
朝日が瞼の裏を忙しなく刺激するから目が覚めた。
「…なんか懐かしかったな」
ぐしぐしと眠気眼を擦りながらベッドから身を起こす。
きちんと閉めなかったのか、僅かに開いたカーテンの隙間から枕元に一筋差す朝日を恨めしく眺めて数分、起きる寸前まで視ていた一年ほど前の出来事を訳もなく脳内で反芻させながら、代季はようやっとベッドから抜け出した。
春先になったとは言えフローリングの床はまだ冷たい。
素足で歩くたびに足先から伝わってくる冷たさに頭の中が段々とすっきりしてきて、バスルームに到着するころには眠気で垂れていた目も普段通りの涼やかな目許に戻っていた。
欠伸を零す自分の顔を鏡で見ながら、顔を洗い歯を磨き髪を手櫛で整えて、未だ未開封だったビニル袋から真新しい紺の制服を取り出し、腕を通す。新品の、あの独特な臭気が代季の動きにあわせて室内に仄かに立ち込めた。首元を締め付ける襟の着慣れない感覚に違和感を抱きながら、鏡に映る己を見る。首元同様、違和感のあるかっちりとした服に着られていて、思わず笑いが漏れた。
ベッドのサイドテーブルに置いてある必要最低限の手持ちを引っ掴み、大して広くない自室を出る。それから緑色のストラップがくっ付いた鍵で扉に錠を掛けた。
部屋を出てすぐの突き当たりにある階段を降りる。
階下からふんわりと漂ってくる珈琲の匂いに誘われるようにして、階段を降りた先にある、まだcloseのプレートが掛っている喫茶店の扉を開けた。
開けた向こう側に、茶色に近い金髪をうなじ辺りで無造作に纏めた髪を背に流している見慣れた後ろ姿を、予想していたいつもの場所に見掛けて、代季は思わず苦笑する。
また寝坊をしてしまった、と申し訳ない気持ちで彼女に声を掛けようと室内に一歩踏み出すが、代季が声を掛ける前に彼女は物音に気付いたらしく、こちらを振り向いた。
華やかな大人の微笑みで自分を迎える彼女に、代季の苦笑が深くなる。
「あら、おはよう、代季。今起こしに行こうかどうか悩んでいたとこなのよ」
「おはようございます。…いつもすみません、ウィリンズさん」
「いいのよ。それよりも今日は入軍式でしょう?遅れたら大変だわ。早く朝食を食べて」
ウィリンズが階段を降りる時に嗅いだ珈琲が置かれているカウンターを指差す。
すみません、と会釈をひとつ、湯気を立てる朝食の前に代季は座った。




