表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鎮めよ!  作者: オノダ竜太朗
第1章 諸法無我〜俺たちには実態がない
PR
93/120

松下 劉弦

第93話 お灸


「まだ50にしちゃあ、ヨッちゃんボケるのは早いだろう、なんて思ってたんだがね」


『ヨッちゃん』とは、松田のババアのことだろう。


「もしかしたら、3人を4人と言い間違えただけかもしれん。揚げ足をとるようなこと言うと、ヨッちゃんは怖いからの。その時はあまり気にせんとヨッちゃんの話を聞くことにしたんだ。先祖からお世話になっているお寺が潰れそうだと言うんだ。なんでも先代の和尚が早く亡くなって、息子が継いだんだが、この息子がロクな奴じゃない。甘やかされて育ったのか放蕩息子で、パチンコや競輪で借金して、法事なんかそっちのけのくせにお布施だけ強請ってくるような輩で、この辺の檀家さんたちゃあ困ってるという話だ。アンタたちのその見た目でお灸を据えてくれ、っちゅうことじゃ。若い頃の雲仙さんと優禅さんは図体もデカいし、目付きなんかもっとギラギラしとったし、カタギの人間には見えんかったんだろう。誰かさんたちがやってることと同じじゃな」


 いちいち余談が入るので、今日も和尚の話は長い。


「まあ、そんなことくらいならお安い御用と受けることにしたんだ。じゃあ早速詳しい話をと、松田のバアさんの家に呼ばれてなぁ。お茶を出すから上がっていけというからお邪魔したんじゃが、バアさんはやっぱりお茶を4つ出すんじゃよ。まあまあそりゃあ自分の分なんじゃろなと思ってると、ワシらの前に出して、最後のお茶をワシの隣に出すんじゃ。なんじゃと思ってみると、そこにはかつてのワシの子分、あの組員に処分させた若い子分が座っとるんじゃ。雲仙さんも『コイツは誰っすか?』なんて聞くから、彼らにも見えたんじゃろ。『コイツは死んだ子分だ』と答えると、『俺は死んだんですか』のその死んだ子分が聞いてきよる。ワシャ、もうなにがなんだか分からんくなってなぁ。そんなバカなことがあるはずない、と自分で自分に言い聞かせたんじゃ」


 ジジイは、その時初めて死人が見えるようになったのだ。それは雲仙さんと優禅さんにも言える。


「そしたらバアさんが『あれ?さっきの子は、どこへ行ったの』と言うんだ。そしたらヒロキの姿が、あ、その若い子分はヒロキっちゅう名だったんじゃが、バアさんがそう言ったら、ワシらにもその姿が見えなくなった。『わたし、どうしたんだろう』なんてブツブツ言いながら、バアさんはもう1つの湯呑みを片付けてたんじゃ。なんか不思議なこともあるもんじゃと、とりあえず気にしないようにして、バアさんの話を聞いたんじゃ。雲仙さんたちとも首を傾げてしまってなぁ。まあ、優先するのはバアさんの頼み事の方だから、翌日その放蕩息子にお灸を据えに行ったんじゃ」


 一休の姿が見えなくなったと思ったら、お盆に湯呑みを乗せて戻ってきた。お盆の上にはお茶の入った湯呑みが4つ。俺たちの姿はが、和尚にも一休にも見えてることに一先ず安心した。


「設定もなにも用意せんと、次の日とりあえず3人でそのお寺に向かったんじゃ。もうわかっとると思うが、その寺っていうのが、この龍幸寺じゃ。寺の息子もワシら3人見たら借金の取り立て屋かなんかだと思うたんだろうなぁ。無い袖は振れんって開き直って。この寺でも土地でも借金の形に持っていけなんて言うから、その態度が許せんと雲仙さんが激昂してなぁ。胸倉掴まれとっても平気な顔をしておる。とんだバカ息子だ。これじゃあ松田のバアさんたちも怒ってて仕方ない。お灸据えるどころじゃない、と。変に警察沙汰になっても、こっちは出所したばかりだから、もう面倒なことに首を突っ込むのも嫌でなぁ。雲仙さんも諦めようと胸倉から手を離したら、急にバカ息子が怯えた態度で『ごめんなさい、ごめんなさい』と謝るわけだ。こっちも冷めてきてな。『なんでもしますから、許してください』って喚いてるわけだ。なんじゃコイツは、一本ネジ外れとるのか、と冷めた目でバカ息子を見ると、コイツ視線が合っとらん。シャブでも食っとるのか、と奴の視線を追うと、そこにヒロキが立っとるのよ」


 そんなアホなオチあるか、と普段なら言えてるはずが、俺もそのヒロキという輩と同じ立場だから、言えるはずもない。


「『若頭カシラナメてると殺すぞ』なんて言って、そのバカ息子に銃を向けて立っとるのよ。ワシも、雲仙さんも優禅さんも、もつわけが分からんくなってなぁ。バカ息子はバカ息子で裸足で走って逃げていきおった。デカい図体の2人も気味悪がってな。『お前らは兄貴の何なんだ』ってヒロキの奴は雲仙さんたちに絡むから、『まあ一旦落ち着こう』と、なんでかわからんが4人で話し合うことになったんじゃ」


 幽霊の話をしているというのに、間の抜けた話だ。話の展開もそうなのだが、和尚のいつもの笑顔が緊張感を無くす。


「なぜか不思議と怖いっちゅう気持ちはなかった。ヒロキをころいた場にいたわけじゃないから、死んだっていう実感もない。しばらく音信不通だった奴が、ひょこっと現れたようにしか感じん。雲仙さんたちはヒロキのことを知らんから気味悪がってはいるが、ヒロキはそこに普通に立っとるから、知らん奴が現れたっくらいにしか思えん。主人がいなくなった寺に上がって、お堂の真ん中で顔を突き合わせて話たんじゃ。まずはヒロキに死んだことを伝えないといかん。ヒロキは殺された時の記憶がスッパリ抜けてるようでなぁ。骨のある男だったが、少々オツムが弱い奴で、何回説明したって分かりゃあしない。そうこうしてるうちに、岸本のジイさんが来てなあ。あの松田のバアさんっちの3軒隣の檀家さんだよ。『新しいお主様すさんかね』って。こっちゃあ出所したばっかりだったから3人とも坊主頭でなぁ」


 ここから奇妙な4人での暮らしが始まったらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ