松下 劉弦
第91話 ジジイの昔話(1)
「ワシはな。ヤクザやっとったんだよ。罪を犯してな。地元におれんようになったから、ここへ流れついたのよ。どっかにも、そういう奴おったな」
そういう奴って誰だよ。天馬のことか?
「ワシとアイツが違うのは、ワシゃチンピラじゃなくて小さい組だったが、若頭をやっておった。組長の代わりに下のモンを束ねる役目じゃ。その若い奴がちょっとしたお粗末な事をしでかして、その責任を取るのにソイツを処分しなきゃならなくなった。特別可愛いがってたわけじゃあないが、なかなか骨のある奴でね。ちょっと目をかけておったのかなぁ。そうは言っても上の指示には逆らえないから、割り切るしかなかった。ソイツの処分は、子分にやらせたんじゃよ。そしたら、その頃から暴対法だのなんだのって警察がうるさくてなぁ。殺人教唆でワシも捕まってしもうた」
ここまでを和尚はいつもの笑顔で話す。その柔らかい顔から、元ヤクザだったなんて想像できない。
「ワシもなぁ。背中に墨しょっとるよ。どっかの誰かと違ってパチモンじゃないぞ。ほれ」
法衣を捲って、遠山の金さんみたいに肩を出した。肩から背中にかけて炎のような絵が見えた。
「刑務所を出た頃にゃあ、組は潰れとった。小さい組だったし、他の組との揉め事で自分らの若い奴らを守ってやれんような組長や。潰れるのは目に見えとった。ワシは娑婆に出たところで、行き場所を無くしたんじゃ。出所したってなんもすることなくてのぅ。ワシャ捨て子で身寄りも無いし、元々そこの土地の出じゃないからなんの未練もなかった。むしろこんなところにおりたくない。そう思ってフラフラしとったのよ」
そこの土地とはどこなんだろう。疑問が生まれたが、話の腰を折るようで聞くに聞けない。
「刑務所でな。知り合ったのが雲仙さんと優禅さんよ。知り合った頃は、まだ20歳にもなってない小僧じゃった。2人ともヤクザじゃなかったが、暴走族上がりで相当悪さをしとったんじゃろ。雲仙さんは水商売のボーイをしとってクレームつけてきた客への暴行罪。優禅さんはコックをやっとって、店の口喧しい先輩を刺して傷害罪で捕まっとった」
和尚だけじゃなくて、雲仙さんと優禅さんまで元受刑者なのか。同僚を刺した優禅さんが、その包丁捌きで料理を作っていたと思うと、怖い。
天馬も含めて、俺は知らないうちに元受刑者4人と暮らしていたのだ。




