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松下 劉弦
第90話 和尚の話
蝉がまばらに鳴いている。夏も終わりに近づいている。夏のど真ん中だと鳴き声が塊のように耳に届いてくる。それはそれで煩わしいのだが、蝉の鳴き声が少なくなると、理由もなく寂しくなってくる。小学生の時のもうすぐ学校が始まる憂鬱な気分を思い出してしまう。子供の頃の記憶というものは、ずっと残る。
だからと言って静かになったわけではない。残り少なくなったはずなのに、生き残った蝉たちはより甲高く鳴き、夏のど真ん中よりも煩わしく感じる。その尖った鳴き声が耳に痛い。残りの命をアピールするために、木にしがみついて鳴く。地面には多くの死骸が転がっている。俺は、その死骸だ。
あの死骸が器だとすれば、奴らの魂もどこかに浮遊しているのだろうか。力尽きて地面に落ちたことにも気づかず、魂は木にしがみついたまま鳴いているかもしれない。死んだことにも気づかず木にしがみついている蝉。俺は、その蝉だ。
「和尚は、なんで俺たちが見えるんだよ」
「知らん」
和尚はキッパリと答え、大きな声で笑い出した。
「ワシの身の上話でも聞くか?」
「それは、長えのか?」
和尚は笑うだけで、勝手に話し始めた。こちらの都合なんて聞かない人だ。




