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鎮めよ!  作者: オノダ竜太朗
第1章 諸法無我〜俺たちには実態がない
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浅川 沙千絵

第81話 客間


 食事中、会話という会話がほとんどなかった。


 食事が終わると、近所の檀家さんが訪ねてきて、和尚は檀家さんと共に部屋に消えた。

 弟さんたち家族はまた客間へ通され、天馬さんも利休くんに連れられ、客間へ移動した。そしてなぜかワタシまで同席する羽目になってしまった。んー、居心地が悪い。


 ナツオくんが、天馬さんにむかしの話をして1人盛り上がっていた。溢れて聞こえる内容は、むかし長野に住んでいたこと。母親と天馬さんが同じ工場で知り合ったこと。知り合ったのはナツオくんが小学校1年生の時だったこと。母親とナツオくんが天馬さんの家に押しかけるように来て、ほぼ一緒に暮らしているような感じだったこと。3人で暮らす話が出たが、実現しなかったこと。

 冗談混じりで天馬さんを咎めるような口振りで思い出を語るナツオくんは楽しそうだった。少し成長した自信が彼を大人にしている。天馬さんとのエピソードを1つ1つ楽しかった思い出として大切に仕舞って、大人の階段を駆け上がろうとしているように見えた。

 天馬さんもそれに合わせて相槌を打っているが、彼の方はまだそれを上手く処理できていないようだ。


 それを察知した利休くんがナツオくんをコンビニに誘った。ナツオくんは、なぜそんなことを言うんだ、と不思議な顔をしていた。ナツオくんからしたら、せっかく再会を邪魔されてるのだ。「べつに買うもんないよ」と断るが、利休くんは聞こえていないのか、聞こえないフリをしているのか、それを無視して席を立った。

 利休くんはこの場の空気を読んで、天馬さんたちを3人にしてあげようと気を遣ったのだ。ワタシもこの空気に耐えられないので身支度をすると、


「2人で行くので、沙千絵さんはいいです」


 と、さらっと断られた。このガキは空気を読んでいるのか読めていないのかわからない。もしかしたら、敢えてこの場に残すという嫌がらせなのかもしれない。天馬さん、もう1発引っ叩いてくれないか。


 ソファに腰掛ける天馬さん。ローテーブルを挟んで弟の舜さんが向かいに座っている。舜さんから少し離れた隣に座っていたミフユさんは立ちあがって、窓の外の境内を見ていた。

 うわっ、重い。べつに外は真っ暗で、何も見るものなんてないのに。ミフユさんもこの空気の重さを感じているのだろう。でも、その行為が部屋の中の空気をさらに重くしている。


「ちょっと涼しくなってきたので、窓開けますね」


 重い空気を動かそうと、ワタシは窓を全開にした。クーラーの効いた部屋に、外のぬるい空気がムワッと入ってきた。全然涼しくない。

 床まである大きな窓を開けると、縁側になっている。板が突き出している外廊下からは、一応境内が見渡せる。手洗い場と外のトイレに灯りが点いているくらいで、ほとんど真っ暗。

 ミフユさんは縁側に出て、縁に座った。外廊下の向こうに足を投げ出した。外廊下の高さは境内の地面から1メートルないくらいの高さで、丁度足をブラブラさせられる。

 ワタシも隣に座って、足をブラブラさせた。夜の空気が裸足に当たって、気持ちいい。同じように足をブラブラさせていたミフユさんと目が合った。少しだけ、頬が緩んでくれた気がする。


 ワタシを含めて4人とも黙っている。窓を開けたので、外からガシャガシャと皿を洗う音が聞こえた。台所の方向ではなく静かな境内に響いて、外から聞こえた。


 どのくらい沈黙が続いていたんだろう。30分くらいは経ったのかもしれない。利休くんたちはコンビニに行ったが、ここから歩いてだと30分以上はかかるはずだ。もしかしたら1時間くらい経ってるのかもしれない。ただひたすら足をブラブラさせているしかない。指先がちょっと冷えてきてしまった。


「あー。まさかお前らがくっついちまうとはなぁ」


 口火を切ったのは天馬さんだった。この人は普段は劉弦さんと口喧嘩したり、利休くんを揶揄ったりして落ち着きのない人だから、こんな沈黙に耐えられないのだろう。


「兄ちゃん、ホント、ごめん!」


 振り返ると舜さんが床に手を着いて頭を下げていた。土下座の格好だ。天馬さんは慌てて近寄り、弟の体を起こそうとした。


「やめろやめろ。そういう意味で言ったんじゃねえんだ」


 隣にいたミフユさんは音を立てずに立ち上がると、すぅーっと舜さんの隣に座り、こちらも手を着いて頭を下げた。


「舜さんが悪いんじゃないです。私が、私が1人に耐えられなかったんです」


「ちょ、ちょ、ちょっと。やめやめ!」


 天馬さんも2人が土下座するのを必死で止めさせようとしているが、片方の体を無理やり起こしても、もう片方が頭を下げるので、にっちもさっちもいかない状態に困り果てていた。


「おい!お前も見てないで、手を貸せ!」


 不意にワタシが呼ばれた。なにを偉そうに。天馬さんに『お前』呼ばわりされる筋合いはない。

 とは言っても、大人2人が頭を下げている光景はあまり見ていていい気分ではないので、ワタシも手を貸した。

 天馬さんが舜さん、ワタシがミフユさんを持ち上げ、やっとの思いで2人をソファに座らせた。


 ミフユさんは長い沈黙の後、訥々《とつとつ》とこれまでの経緯を話し始めた。

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