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鎮めよ!  作者: オノダ竜太朗
第1章 諸法無我〜俺たちには実態がない
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浅川 沙千絵

第80話 食事会


「母ちゃんが、おじちゃんに1番会いたがってたんだぜ」


 子供ならではのデリカシーのない発言。ミフユさんは頬を赤らめて、慌てて息子の口を塞いだ。


「ちょっと、アンタ。なに言ってんの!」


 背の高い息子の口を塞いでも、力のある息子は簡単に母の手を退けてしまう。


「おじちゃん、急にいなくなっちゃうから、俺たち探したんだぜ」


 ナツオくんの強気な発言には、怒りの感情は感じなかった。高校生がクラスメイトを揶揄うのに似ている。


「お前、岡山から来たって言ってたけど」


 あー、それ聞いちゃう?この状況で判断するのは、それしかないのに。鈍感な天馬さんには、わからないか。


「母ちゃんと舜ちゃんが結婚して、俺も辻村だぜ」


 あー、言っちゃった。聞かれたら、そのまま答えちゃうところは、まだ子供よねえ。

 天馬さんは呆けたような顔でミフユさんを見る。彼女は肩を狭めて小さく頷く。この様子から見て、天馬さんとミフユさんの関係性も、なんとなく読めてきた。


「おじちゃんが、いなくなっちゃうからだぜ」


 バツが悪そうな顔をしているのはミフユさんだけではない。弟の舜さんは更に縮こまっている。天馬さんも、なんだかいつもより小さく見えた。堂々としているのはナツオくんだけだ。


「まあ、仕方ねえよ。おじちゃんが悪いんだぜ」


 天馬さんは、塩でもかけたら溶けてしまいそうなほど萎れていた。


「さあ、みなさん、食事の用意ができました。そろそろリビングにいらしてください」


 そう呼びかけてきたのは雲仙さんだった。

 和尚は、何事もなかったかのようにニコニコしていて、「さあ、こちらへどうぞ」と3人をリビングに案内した。


 リビングには、いつもそうなのだがお店で出てきそうな豪勢な料理が並んでいる。

 今日はハンバーグだ。利休くんは、それを見ると少し頬が緩んだ。いつも冷静で小生意気な利休くんでも好物を見ると気が緩むらしい。


「辻村さんは、お酒は飲めるのかな?」


 和尚からの突然の酒の誘いに、弟の舜さんは若干戸惑っていた。お酒もいつもなのだが、坊さんからの酒の誘いは、最初は意表を突かれる。


「ああ、えっと、少しなら」


「なににしますかな?」


「えっと、なんでも大丈夫です」


「じゃあ、まず乾杯はビール。ですよね、天馬さん」


 天馬さんは、ああ、はあ、と曖昧な返事をした。そして当たり前のように目の前にビールが置かれる。雲仙さんがビアガーデンのようにトレイに乗せたビールをみんなに配膳した。ナツオくんと利休くんの前にはソーダ水が置かれた。


「それでは、辻村さん。遠いところから、よくいらしてくださいました。遠慮なく召し上がってください。それと、利休さん。おかえりなさい」


 和尚はそう言うと、今日はいつもの長い説教は無しで「乾杯!」とグラスを掲げた。


 ふと見渡すと、劉弦さんと蓮実さんの姿がない。雲仙さんが2人分の食事をトレイに乗せていた。


「今日はあちらの部屋で召し上がるそうです」


 訝しんでいるワタシに、雲仙さんはそう答えた。

 あの2人、どうかしたのかな?


 利休くんとナツオくんは、年が近いので話が合うのか談笑していた。その会話をニコニコしながら和尚が見つめている。

 でも、大人たちはぎこちない。天馬さんは、いつもでは考えられないくらいにおとなしく食事をしている。劉弦さんたちがいないせいだけじゃないことは、重々承知している。ワタシまでぎこちない。

 いつもとは違うぎこちない食事会が始まった。


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