浅川 沙千絵
第79話 再会(2)
天馬さんはナツオくんをマジマジと見ている。天馬さんの記憶の中の彼は、きっと小さな男の子だったのだろう。その頃の面影を探す。何歳の時のナツオくんと比べているのかわからないが、このくらいの年頃の子は、ほんの数年でだいぶ印象が変わってしまう。
決して低い方ではない天馬さんの身長よりも、ナツオくんの目の位置の方が高い。声変わりもしていて、声の印象も違うのだろう。
天馬さんは、はぁぁー、と久しぶりに孫に会ったお爺さんみたいな息を漏らしていた。
「俺さぁ。舜ちゃんにバスケ教わってんだよ」
「舜に?」
ナツオくんの口から弟の名前が飛び出して存在を思い出したのか、天馬さんは弟さんに目を向けた。
「どうして、ここがわかった」
天馬さんの弟さんに聞いた。弟さんの代わりに、利休くんが答えた。
「僕が連れてきました」
利休くんの飄々《ひょうひょう》とした態度に、天馬さんは今日の本題を思い出したようだ。
「はぁ?テメェ、四国に行ってたんじゃなくて、岡山に行ってたのか!」
「そうですよ」
「そうですよ、じゃねえよ!出家しに四国へなんとか巡りに行くって言ってたじゃねえか」
殴りかからんばかりの勢いで怒鳴った。若干弟さんもナツオくんも引いている。天馬さんに会うことを躊躇していた弟さんなんかは、バツの悪そうな顔で俯いている。
「なんだよ、おじちゃん。俺たちが来たのが迷惑だったのか」
ナツオくんの訴えに少々怯む天馬さん。
「いや、ナツオ。そうじゃねえ。お前が来たのは嬉しい。けど、いつもコイツは余分なことをするから、コイツに文句を言ってるんだ」
天馬さんの「コイツ、コイツ」と利休くんを指して言い返した。ナツオくんが相手だと口調が優しい。
「って言うか、なんでナツオは舜にバスケ教わってんだ?」
急に話題を切り替えた。情報量が多すぎて、話を整理するにはギガ数が低い天馬さんの脳ではついていけないようだ。
「舜も......、いいから上がれよ」
弟さんにも声をかけて、その直後利休くんの頭を引っ叩いた。突然の被害に利休くんはムッとして、「なんで叩かれなきゃならないんですか」と抗議した。
「って言うか、舜。お前なんでモジモジしてんだ。早く上がれ」
「おじちゃん、なんで舜ちゃんに怒ってんだよ」
「ナツオもなんだ。なんでお前が舜と一緒にいる」
「僕は和尚に言われて行ってきただけですよ!なんで叩くんですか!」
「兄さん、怒ってるよね」
「俺たち、おじちゃんに会うために態々岡山から来てるんだぜ」
「兄さんに相談もしないで、本当に悪いと思ってる」
「だから、なにが!」
「そういう暴力で解決するの、僕は良くないと思いますよ」
「うるせえな!」
みんなが好き勝手に話し出して、収拾がつかない。情報が渋滞して、天馬さんがパンクしかけている。外では蝉がシャンシャンと鳴いているが、ここはそれよりもうるさい。
「ナツオ。お前、今、なんて言った?」
そう天馬さんが言ったと同時に、外の蝉が一斉に鳴き止んだ。静まり返った廊下で、みんなの視線がナツオくんに集中した。
「だから、態々岡山から来たんだって」
「お前、長野の母ちゃんは、どうした?」
客間からいつもの笑い声が聞こえた。和尚だ。
「なんだね。揉めているのかね?兄弟、久しぶりに会ったんだから仲良くしなさい」
「和尚、そうじゃねえよ。和尚が連れて来いって言ったのか?」
「わたしは何も言ってないよ。ただ、利休さんに天馬さんの家の様子を見てきてください、としか言っただけです」
利休くんは和尚の言葉に、首が曲げそうなほどフンフンと頷いている。
「俺がおじちゃんに会いてえからって、このお兄ちゃんにおじちゃんのところ連れてってくれって言ったんだよ。だから、このお兄ちゃんに怒んないでやってくれよ」
1番年下のナツオくんの対処が、1番大人だ。
和尚の後ろから、ナツオくんの母親が顔を出した。
「......綾人さん」
「ミフユさん?」
天馬さんは、ナツオくんの母親の姿を見ると、急におとなしくなった。
なんとなく、この状況が掴めてきた。




