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鎮めよ!  作者: オノダ竜太朗
第1章 諸法無我〜俺たちには実態がない
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浅川 沙千絵

第75話 お遣い


 天馬さんは昨日の夜からニヤニヤとしている。利休くんが帰ってくるのが余程嬉しいらしい。トムとジェリーみたいにいつも小競り合いしているが、やはり天馬さんにとっても大切な家族なのだろう。親子ほど歳が離れているから、利休くんのことを息子のように思っているのだろうか。


 それにしても蓮実さんの様子が気になる。

 話しかけてもどこか上の空で、心ここに在らず、といった感じ。告げ口ではないが、劉弦さんに何か心当たりがないか聞いてみると、様子を見てくると言ってカルマの部屋に入っていった。

 時間が経って劉弦さんがカルマの部屋から出てくると、劉弦さんまで不機嫌な様子。いったい何があったんだろうか。

 込み入った相談を受けてしまったのか。相手がヤクザとかで、復讐を代行するのに危険が伴うとか。でも、それなら天馬さんにも相談しそうなものだが、劉弦さんは天馬さんが話しかけても、何も話そうとせずにはぐらかしていた。これは元夫婦の問題で、他人が介入するものではないのか。

 天馬さんに聞いてみようと思ったが、ワタシがしゃしゃり出てはいけない気がした。天馬さんの周りをウロチョロしていたので話しかけられそうになって、「そうだ、スーパーに買い物頼まれたんだった」と独り言を言って、私もはぐらかした。


 スーパーに行くなんて言ったもんだから、本当にスーパーに行かないと嘘がバレてしまう。ワタシは慌てて、台所に顔を出すと丁度優禅さんが夕飯の支度を始めようとさていた。冷蔵庫をあけて、食材と睨めっこをしている。


「あのー、今日の夕飯って、もう作るもの決まってます?」


「そうですね。今、食材を見て何を作ろうかと考えていたました。利休さんが帰ってきますので、彼の好物から何にしようかと悩んでいるところです」


 相変わらずの丁寧な受け答え。あまりにも丁寧すぎて、たまに突き放されている感覚に陥る。本人はあまり気にしていないようだが。


「何か足りないものあれば、買ってきますよ」


 これで用を頼まれれば、嘘にならない。


「じゃあ、玉葱を買ってきてくれますか。合挽き肉が大量にあるのでハンバーグにしようかと思ったましたが、玉葱が足りないので違うメニューにしようかと悩んでいるところでした」


 台所のステンレステーブルの上に玉葱が4つ乗っていた。そんなにあるのに足りないのか、と思っていると察しのいい優禅さんはすぐに答えた。


「今日はお客さんが来るので、少し多く作ります」


 お盆の時期になると、檀家回りやお客さんの来訪でお寺は大変なんだな。


「じゃあ、沙千絵さんにお遣いを頼んでもよろしいですか?玉葱を3つほど。あと、牛乳も買ってきてください」


 忘れないようにスマホのメモ機能に言われたものを入力して、ワタシはスーパーに向かった。玉葱と牛乳くらいなら覚えてられるがスマホにメモするのは、むかしの仕事の時の癖だ。

 石階段を降りて歩道を出たところで、後ろから雲仙さんに呼ばれた。慌てて階段を駆け降りてくるので、何か用があるのかとワタシも小走りで階段を上がった。

 雲仙さんは私に千円札を渡してきた。お遣いのお金か。雲仙さんは、これのために追いかけてきたのだ。


「いいんですよ。玉葱くらい」


「いやいやダメです。受け取ってください。あと、生姜も買ってきて欲しいそうです。チューブのものでいいそうです」


 ワタシは千円を受け取ると、「チューブ」「生姜」とスマホにメモした。





 スーパーから帰ってくると、石階段を上る4人の後ろ姿が見えた。1人はクリクリ頭の利休くん。


「あ、お帰りなさい」


 ワタシが声をかけると、4人とも振り返った。心なしか利休くんはスッキリとした表情をしていた。

 あとの3人は、男性2人に女性1人。背の高い男性と、その男性と同年輩の女性、高校生くらいの男の子が1人。この3人は家族なのかな。利休くんを含めて4人家族に見えた。

 この人たちが今日のお客さんなんだろうか。


「天......、辻村さんの弟さんです」


 利休くんは背の高い40歳くらいの男性を指して、ワタシに紹介した。辻村さんって、天馬さんのことだっけ?男性が会釈したので、ワタシも会釈した。

 そして、その隣の女性に親近感を覚えた。ふわっとだが雰囲気がワタシに似ている気がする。

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