辻 天馬
第72話 利休の電話
今日は酒が進んでしまう。
みんな乾杯はビールだったが、2杯目からは各々好きなものに変えている。劉弦はハイボール。女性陣は白ワイン。和尚と雲仙さんと優禅さんは冷酒を飲んでいた。俺は最後までビール、だ。しつこいようだが、唐揚げとの組み合わせは、ヤバい。なんの根拠もないが、ビールのホップが唐揚げの脂分を分解してくれると思っているから、無限に食える気がする。
若い時は全然飲めなかった。酒を飲んで調子が悪くなるのに、大人たちがなんで酒を飲むのか理解できなかった。ここへ来て毎日飲むようになり、酒も強くなった。和尚には仏の教えより、美味い飯を食うための酒の飲み方を教わっただけの気がする。その和尚も、むかしはビールをガンガン飲んでたくせに、最近は冷酒をチビチビ飲むようになってきた。やっぱりジジイだな。
今日はハンパなく汗をかいたので、ビールの吸収率もハンパない。いつもはそう簡単に酔わないのに、3杯目辺りからフワフワとしてきた。そこからは更に唐揚げが美味く、食ってることが楽しくなってしまう。
いつも和尚は「お酒は嗜みなさい」「悪いお酒は飲むな」と言う。要は悪酔いするな、と言いたいだろうが、そもそも坊さんが酒飲んでいいのかよ、と思う。だが、それを突っ込んだところで結局は自分の首を絞めてしまうので、言わない。
「そう言えば、先程利休さんから電話がありましたよ」
雲仙さんは、和尚の空になった小さいグラスに冷酒を注ぎながら言った。
「明後日、都合がつきそうなので、帰るとのことでした」
「なんだ、なんだ。もう少しゆっくりしてくればいいのに」
雲仙さんの報告に和尚は笑いながら答えた。
和尚。笑ってる場合じゃねえよ。もう少しゆっくりなんて冗談じゃねえ。何が明後日都合がつく、だ。テメェの都合ってなんなんだよ!何様のつもりだ。また明日も檀家回り、俺が行かなきゃならねえじゃねえか。とっとと今日の新幹線で帰って来い!
雲仙さんも俺の顔を覗き見て笑っている。なんだよ!俺がヘロヘロになって檀家回りから帰ってくるのが、そんなに面白えか。
でも、明日もう1日、この美味いビールが飲めると思うと楽しみでもある。あの暑い中歩き回るという苦行に耐えてこそ、この美味さが待っているのだ。いかんいかん。思考回路が僧侶化してきやがった。こんなの続けてたら、マジで僧侶になっちまう。
あの野郎、帰ってきたらいつもの倍以上苛めてやる。それにしてもビールが美味い。今は、ビールと唐揚げの方が大事だ。
和尚と雲仙さんが俺の方を覗き見て、なにやらコソコソと話している。和尚はフンフンと頷いて、「それはいい」とほざいてやがる。
まさか、一休が帰ってきても、檀家回りは俺にやらせるとか言ってんじゃねえだろうな。冗談じゃねえぞ。
「なんすか?」
怒鳴りたい気持ちは、ビールと唐揚げで鎮めることができた。だけど、コソコソと話している内容が気になる。
「明後日も、美味しいビールを飲みましょう」
含むような笑みで雲仙さんが返事をした。
なぁにぃ!巫山戯るなよ。




