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鎮めよ!  作者: オノダ竜太朗
第1章 諸法無我〜俺たちには実態がない
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63/120

数原 利休

第63話 目


 桜庭さんとテツジさんには、僕と天馬さんの関係を一から順を追って説明した。この2人には嘘は通じない、いや、むしろ僕の方が嘘を吐きたくないと思わせるものがあった。べつに2人が元ヤクザだからというわけではなく、なんとなくこの2人には嘘を吐きたくなかっただけだ。それに、誰かの息子だと勘違いされていてもいいが、その父親が天馬さんだという勘違いだけは嫌だった。

 桜庭さんたちが知っている辻村綾人は、今は「辻天馬」と名乗っていること。僕が育児放棄している親から逃げ出し、和尚に拾われたこと。天馬さんも静岡に流れ着き、和尚のお世話になっていること。そのお寺には僕や天馬さんのように行き場のない人が他にもいること。ちなみに、僕の社会的な年齢も伝えておいた。やはり2人も、僕のことを中学生くらいに思っていたらしい。

 その他色んなことを桜庭さんたちに話した。その話している間、僕たちはフォークでテツジさんの料理を突き、あっという間にタッパーの半分ほどなくなってしまった。



「あのバカは、今『天馬』なんて名乗ってんのか。洒落た名前にしやがって」


「お兄さんは、綾人の背中見たことあるかい?あのマンガみたいなお釈迦さん」


「天馬さん、それ言うとキレるんですよ」


「あのヤロウ。調子コイて兄ちゃんを揶揄からかうのか。俺が、1べんシメてやろうか」


 他愛ない話で盛り上がる。テツジさんは、優禅さんの話に異様に食いついてきた。同じ料理人として気になるのだろう。また、僕の憶測だが元料理人で、現在坊さん、そしてみんなの賄い料理を作っているとなると、料理人じゃなくても気になる存在ではあるのかもしれない。


「それで、その和尚さんは、なんで君に綾人の家族を探せって言ったんだ?べつに綾人が会いたがってるわけじゃないんだろ」


「和尚の考えてることは、いつも突然で、あまり理由を話してくれないからわからないんです。食事前の説教は長いんですけどね」


 彼らは天馬さんの家族の住所を知っていると言う。そこを教えてもらえれば、もうここには用はない。だけど、僕にとっては天馬さんの家族にも用はない。和尚に行け、と言われたのが唯一の用事だ。会って何をしていいのかわからない。だから、特に急ぐ必要はないので、彼らの話に付き合っていた。


「そう言えば、テツジ。お前、連絡もなしに今日はなんだ。突然、飯置きにきて」


「何言ってんですか。今日は親父おやっさんの面会日でしょ」


 親父さん?この玉城会の組長さんのことか。


「おお、そうだった!何をボヤボヤしてんだ。着替えてくるから、お前、先に車行ってろ」


 慌てて立ち上がり、鶏モモの入ったタッパーを冷蔵庫にしまうと、


「そうだ。兄ちゃんも一緒に来な。オヤジも綾人のこと心配してたから、兄ちゃんをオヤジに会わせたい」


「ですからー。僕は息子じゃないんですって」


 桜庭さんは高らかに笑った。


「わかってるよ。だけどなぁ、兄ちゃんと綾人が、なんか似てるんだよ。目だな、目が似てんだ」


 あんないい加減で頭の悪い人に、体の一部でも似ていると言われるのは心外だ。そして、そんな視力の弱い目で、どこでどう判断してるんだ。天馬さんのことだって20年以上も会ってないくせに。


「ぼんやりだけどな。感じるんだよ。似てるって」


 桜庭さんはそう言ってニヤリと笑った、この人は読心術でもあるのか。視力が弱くなった分、そういうことに長けているのか。


「テツジ。さあさあ、お客人を乗せて、車で待ってろ」


 どうやら組長さんのところに僕も連れて行くことは決定事項らしい。急ぐ理由もないので、僕は素直に従うことにした。

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