真鍋 蓮実
第28話 利休のこと
「は?ここで働きたいって?」
なぜそんな展開になったか理解できない劉くんに対して、天馬くんはことの展開を楽しんでいる節がある。浅川さんの申し出に、とりあえずみんなで話し合ってみるからと返事をし、今日のところは帰ってもらった。それで、その話し合い。
「いいじゃねえか。本人が働きたいって言ってんだから」
「働くって言ったって、収入はねえんだぞ」
「無給だけど、3食昼寝付きって言った」
「昼寝はねえだろ」
「座禅の時、寝てる」
天馬くんは、ただ楽しんでいる。
「馬鹿じゃねえのか。俺たちのやってること、あの女は知ってるのか」
「んー、説明はしてないけど、ただのカウンセリングの仕事だと思ってるのかも」
わたしが答えると、劉くんは深い溜息を吐いた。
「あの女がうちに来て、なんの役に立つんだ。俺らの復讐行為でも手伝わせるつもりか」
女の子を危険な目に合わせられない、と劉くんは言いたいのだろう。それとは別に、天馬くんとの復讐行為を邪魔されたくない、というのが本音だろうか。
「電話受付とかできるんじゃない?」
嬉しそうに天馬くんは答える。彼は、浅川さんを引き入れることに肯定的だ。むしろ、浅川さんに入ってほしいと鼻の下を伸ばしているように見える。
「カウンセリングの資格とか取らせちゃえばいいじゃん」
「そんな簡単に取れねえよ。なあ、蓮実」
「結構時間もかかるしね。講習受けるのに30万くらいかかったよ」
アホで資格とは無縁な天馬くんに教えてあげた。
「え?資格って、お金取んの?」
そこからかぁ。説明するのが面倒臭い。
「べつに人手不足なわけじゃねえんだから。人、増やす必要もねえだろ。ちゃんと断れよ」
劉くんは、やたらと変化を拒む性質。事あるごとに否定から入る。慎重と言えば慎重なのだろうが、大した理由はない。何かが変わるのが嫌なだけだ。頭が固いと言っていい。
それに人手不足ではないという理由を出したところを見ると、まだあのことを知らないのではないか。
「人手不足って言えば、人手不足なのよね」
「なんだよ。カウンセリングの方が1人じゃ大変なのか」
「そうじゃなくて。聞いてないの?」
「何を」
やっぱり知らない。利休くんのことだから、2人には話してないのだろう。
「やっぱりね」
「やっぱりって、なんだよ」
天馬くんは少々苛立ってきている。べつに勿体つけてるわけじゃないが、私の口から言っていいのかなぁ。
「利休くん、抜けるのよ」
2人の動きがしばらく止まった。
「「なんだって!?」」
2人同時に大声を上げた。
劉くんは、ただ驚いた顔をしただけだった。それに引き換え天馬くんは、指の骨をボキボキ鳴らし、明らかに怒っていた。生意気な下っ端が抜けるのが許せないらしい。まだ理由を言ってないのに。どんな理由でもチームを抜けるのは許さない、まるで中学生の不良みたいだ。
「あの野郎、痛めつけてやる」
今にもここから飛び出して、利休くんのいる精舎に殴り込みに行きそうな勢い。
「違うの。天馬くん、聞いて」
「うるせえ。アイツ、どれだけ和尚の世話になってると思ってんだ。巫山戯やがって!」
身寄りのない利休くんを引き取って面倒を見てくれているのに裏切るのか、と天馬くんは言いたいのだろう。ダメだ、勘違いしている。
「違うって言ってるじゃん!利休くんは出家するの」
また2人の動きが止まる。
「出家?出家すると、どうなるんだっけ?」
天馬くんの思考回路が止まってしまったようだ。わたしが彼らに言えなかった理由が、そこにはある。劉くんはわかったみたいで、ソファに腰をかけてからクスクスと笑い出した。
「アイツ、坊さんになるってこと?」
一応、天馬くんも意味はわかったみたい。だけど、劉くんがなぜ笑っているかが理解できないらしく、キョトンとした顔で見つめている。その顔が面白いらしく、劉くんの笑いは止まらない。
「おい、劉弦。なんで笑ってんだよ」
意味の分からなさに半分戸惑っているが、半分は釣られて笑ってしまっている。それを見て更に笑いが止まない劉くん。利休くんが出家するとどうなるのか全く想像つかないようだ。勉強ができないアホな上に鈍感というところが、天馬くんのチャームポイントだ。自分がバカにされてることに気づかないで、楽しそうにしているところは《《可愛い》》と言ってあげていい。
「おい。いい加減にしろよ」
さすがに天馬くんもイラついてきたようだ。顔は笑っているが、カサカサと人差し指と中指をものすごい速さで交互に擦り合わせている。天馬くんがイラついている時の癖だ。劉くんもそれに気づいたらしく、掌で顔を擦り、なんとか笑いを鎮めようとする。
「あのな。怒るなよ。一休が出家するっていうことは、下働きの俺らからすると、アイツが兄弟子になるってことだ」
劉くんも天馬くんも、利休くんのことを「一休」と呼ぶ。頭がクリクリしてて、アニメの一休さんみたいだからだそうだ。
天馬くんは体を静止させ、黒目だけ上に向けて考えを整頓していた。しばらく考えて頭の中が纏まったらしく、あの野郎!と言って部屋を飛び出していった。
それを見て我慢したいた劉くんは、また更に笑い出した。
「ちょっと、止めなくていいの!?」
「いいよ、放っておけ」
劉くんは呑気にゲラゲラ笑っているだけだった。
まったく、この人たちはまるで子供みたいだ。




