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鎮めよ!  作者: オノダ竜太朗
第1章 諸法無我〜俺たちには実態がない
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119/120

数原 真樹夫

第119話 災難


 みんなの視線は、どうするんだ、という沙千絵さんに答えを求める眼差し。


「ちょっと、ちょっと。もうワタシ成仏してるんだし、そんなの、もういいですよ」


 慌てて否定する。


「それに、ワタシ、復讐してスッキリしたいとか、もうないんですよね。べつに誰も恨んでないし。納得して成仏したんだから、そんなことしなくていいですよ!」


 沙千絵さんは本気で拒んでいた。たぶん、彼女が部署異動するきっかけになった不倫上司と裏切り者の後輩に復讐すると思ったのだろう。


「沙千絵さんのことは、もうそっとしといてあげたら?」


 蓮実さんは、僕にそう言って沙千絵さんも宥めた。


「違いますよ。沙千絵さん、成仏する間際、最後に田村課長ぶん殴ってやればよかった、って言ってたじゃないですか」


「田村課長?」


 沙千絵さんはしばらく宙を見て、自分の頭の中を探るように目をキョロキョロと動かした。


「あ、田村?あんな奴、どうでもいいですよ」


 沙千絵さんにとって、そいつは成仏したら忘れてしまうほどクソみたいな奴だったということだ。でも、そんなことは関係ない。誰かが言ったことを復讐という形で実現させる。僕にとっては、その方が重要。


「いいんじゃねえの。やろうよ、復讐」


 そう言い出したのは劉弦さん。なんだかんだ言って、このメンツでは僕を省いて1番歳上の劉弦さんがリーダーみたいなもんだ。僕は見た目が18歳なのだから。


「それじゃあ、今から東京に向かいましょう。その会社までは沙千絵さんが案内してください」


 えー、と大声をあげて眉を顰める沙千絵さんは、心底嫌そうだった。どうやら、僕の成仏に巻き込んでしまった。沙千絵さんにとって、とんだ災難だったようだ。



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