数原 真樹夫
第118話 提案
「久しぶりって、お前。まだ2日しか経ってねえじゃねえかよ!」
相変わらず天馬さんは寝起きが不機嫌だ。劉弦さんはボオッとしたままだ。2人の様子を蓮実さんは苦笑いでやり過ごしている。1人テンパッているのは沙千絵さんだった。
「ねえ、なんで?ワタシ、死んだよねぇ。死んでんだよねぇ」
朝からこのテンションは、わりとウザい。
「朝からウルせえなぁ。っていうか、なんでここにいんだよ」
天馬さんの方からは文句しか出てこないのも、相変わらずだ。
「利休くんが、みんなを呼んだんでしょ」
冷静なのは蓮実さんだけだ。僕が頷いて返事をすると、フフフッと笑う。蓮実さんは、存在自体が人を和ませる。それは元々持ってる才能なので、カウンセラーの資格なんかいらないんじゃないか。そうだった、蓮実さんは死んでから資格を取ったと思ってるから、実際に資格は持ってないんだ。
「呼んだって何だよ。俺らはポケモンじゃねえんだぞ。勝手に召喚するな」
劉弦さんが嫌味を含めた突っ込みを入れてきた。寝惚けているとはいえ、相変わらずキレのある突っ込みをする人だ。
「テメェ、なんで呼んだんだよ。俺ゃー、あの世じゃ、結構モテてたんだぞ。キングサイズのゴージャスなベッドで両手に美女はべらかして、目が覚めたら畳の上だぞ。どうしてくれるんだ!」
こちらの品のなさも相変わらず。
「そりゃあ本当かなぁ。こっちは知らねえから、いくらでも言えるよなぁ」
劉弦さんの突っ込みに、天馬さんが絡む。久しぶりに見る、しょうもない喧嘩だ。
「あれかなぁ。最後にやっぱりもう少し生きてたいってお願いが叶ったのかなぁ。ねえねえ。ワタシ、お母さんのところ行ってきていい?」
沙千絵さんのマイペースさも相変わらず。そんな沙千絵さんを見て、フフフッと笑っている蓮実さんは、自分の旦那とその友人の小競り合いを見て「もうやめなさいよ」と口を挟むが、然程止める気もない。
うわぁ、このメンバー。和むわぁ。
「私たちを呼んだのには、理由があるんでしょ」
まとめ役の蓮実さんからの質問。
「そうだぞ。理由があるならちゃんと言え!こっちはせっかく成仏したってのに、すぐに呼び戻しやがって。テメェ、1人ぼっちになって寂しいからなんて理由だったらぶっ殺すぞ。オメエも早く成仏しろよ!」
天馬さんが捲し立てるように言うと、他の3人の動きが止まった。
「成仏って.......?」
沙千絵さんが、戸惑いながら聞いてきた。
「あれ?みんな知らなかったの。コイツも死人だよ、死人」
オブラートに包まない物言いが、天馬さんの長所でもあり、最大の欠点でもある。その欠点さえも心地良く思える。
「死人って、利休くんも死んでるってこと?」
沙千絵さんは、当たり前のことを当たり前のように聞く。
蓮実さんは、ただ微笑んでみんなの様子を眺めていた。いつも静かにみんなのことを観察している蓮実さんだから、もしかしたら僕が死んでいたことも薄々勘づいていたかもしれない。
「なに、ニヤニヤしてんだよ。気持ち悪ぃな」
自然と笑みが溢れていたようだ。
「あー、そあいうこと」と劉弦さんは声を上げた。
「最後に打ち明けた秘密って、そのことだったのか」
劉弦さんは、天馬さんが成仏する時、1番気の合わない僕に天馬さんが身の上話をしたことを訝しんでいた。僕は天馬さんの心を開くために、僕が死んでいることを白状したのだった。
「秘密の告白ついでに、もう1つ隠してたことあるんですけど。僕、見た目は子供ですが、皆さんより歳上です」
「はあ?適当なこと、言ってんなよ」
「はい。生まれた年から数えると劉弦さんの1つ上で、天馬さんよりも2つ歳上です」
「そう......なんスか?」
「はぁ?歳上マウントか?」
割と素直な天馬さんに比べて、劉弦さんは鼻で笑っていた。
「いくら歳上だって言ったって、一休は一休だよ。偉そうにすんな」
本当に性格が捻くれてるのは、劉弦さんの方かもしれない。その一言に天馬さんは気を持ち直して、「そうだよなぁ。威張ってんじゃねえよ」と僕の首に腕を回しスリーパーホールドしてきた。
「おい!まさか、このメンツ集めて復讐代行でもやる気じゃねえだろうなぁ」
僕は死人だから首を絞められたって苦しくないのだが、それじゃあ面白くないから苦しそうな態度をとる。そういうフリをしていると、本当に息苦しくなってくるもんだ。ちゃんと行動に伴った態度をとらないと、人生つまらないものになってしまう。
「そ、その《《まさか》》ですよ」
天馬さんがさっと腕を外し、僕から離れた。
ちょっと咳き込んでみる。
「利休くん1人のところに依頼が来たの?」
蓮実さんは真っ当な疑問をぶつける。あの復讐代行の依頼は、蓮実さんたち死んだ者が作り上げた妄想と現実の狭間で、実際に起こったことかどうか判別がつかないものなのだ。蓮実さんの妄想の中のパソコンというツールを通して依頼が来る。蓮実さんが不思議に思うのも無理はない。
「違いますよ。さ、ゴホッ。依頼人は沙千絵さんです」
予期してなかった提案にキョトンとした顔の沙千絵さんに、みんなの視線が集まる。




