数原 真樹夫
第115話 ヒント
「どこ行ってたの」
「めうちゃんと、お山いってた」
『めうちゃん』とは近所の檀家さんのお孫さんで、正確には『美羽』と書いて『みう』ちゃんだ。陽夏ちゃんよりも2つ上の女の子だ。来年、小学校に上がる歳だ。それに陽夏ちゃんの言う「山」とは、近くの広場のことだ。地元の子供たちがサッカーや野球をするような広場だが、整備されていないので草が生えている。小さい陽夏ちゃんにとって、草が生えてれば、全部「山」なのだ。
「子供だけで、あんまり遠くに行っちゃいけないよ」
「だいじょうぶ。めうちゃんのママもいたから」
それなら安心だ。
「みうちゃんと、何して遊んでたの?」
「よつばのクローバァさがしてた」
「みつかった?」
陽夏ちゃんは口を尖らせて眉間に皺を寄せた。そして大きく首を横に振った。
「みつからなかった。ぜんぜんないから、もうかえりますよって、めうちゃんのママがゆった」
「そうか。残念だったね」
「めうちゃん、みつからないから、かえるのイヤってゆってた」
そうか。見つからないクローバーを探していて、帰るのを嫌がってるなんて、僕が成仏しないのと一緒じゃないか。
「よつばのクローバァって、なに?」
可愛すぎて自然と笑みが溢れてしまう。陽夏ちゃんは、みうちゃんが何を探しているのかわからないまま、一緒に探していたのだ。そんなの見つかるはずがない。そしてそれは自分とおなじなのだから、自嘲するしかない。
「あのね。クローバーって葉っぱが3枚なんだけど、たまに4枚の葉っぱのクローバーがあるんだよ」
小さい子でもわかるように、丁寧に教えた。陽夏ちゃんは難しそうな顔をしながら尻をモジモジと動かしている。困った時や言いにくいことがある時の陽夏ちゃんの癖。
ポケットを弄り、「これかなぁ?」と差し出してきたものは、四葉のクローバー。
「そう。それだよ。陽夏ちゃん、見つけてたんだ」
陽夏ちゃんは、ポケットから取り出したそれを不思議そうに眺めていた。珍しいものを見つけて、宝物のように大切にしようとポケットに仕舞っただけなのだろう。まさかそれがみうちゃんの探している物とは知らず、内緒で隠したみたいでバツが悪くなってしまった。そんな風に思われたらみうちゃんに嫌われてしまうかもしれない。多分、そういったところだろう。今にも泣きそうな顔になっている。
ポケットに仕舞われていたそれは少し萎れていた。葉っぱが破れている部分もある。
「そうだ。これを押し花にして、みうちゃんにプレゼントしよう」
「おしばな?」
クローバーは葉っぱだから、押し《《花》》で合っているのか、と余分なことを考えた。陽夏ちゃんは押し花自体の意味がわからないだけで、要らぬ説明はしない方がいい。
「これをね。ペチャンコにしてカードみたいにするんだよ」
「ペチャンコにしちゃうの」
せっかく見つけた物を潰されると聞いて、陽夏ちゃんは悲しい顔をした。ちょうど萎れたこのクローバーみたいに、しょんぼりしている。
「カードにしたら、ずっと枯れないから、みうちゃんにずぅーっと待っててもらえるよ」
陽夏ちゃんの顔に、段々と陽が差すように笑顔になっていく。
「そしたら、めうちゃん、たからものにしてくれるかなー」
僕は頷いて、小さな頭を撫でた。そして早速押し花作りに取り掛かった。ティッシュと新聞紙、そして重い辞書を3冊ほど。必要な道具を並べていると、陽夏ちゃんはこれから何が始まるかと興味津々で目を輝かせている。
ヒントは、ここにあった。無ければ、作ればいいのだ。和尚が教えたかったのはそういうことかもしれないし、そうでないかもしれない。




