浅川 沙千絵
第107話 心残りは......。
今度は天使の頭を撫でた。掌にスッポリと入る小さな頭は暖かくて、髪はスベスベとしていた。ほんのり甘い匂いが漂ってきた。血の繋がりはなくても、抱き寄せたくなるくらい可愛い。
「またね!」
陽夏ちゃんはシコを踏むように足を大きく広げ、両手を思い切り振って、和尚の元へ駆けていった。明るく元気で、女の子だけどちょっとワンパクな子だ。きっと劉弦さんたちは安心して、行くべきところに旅立ったのだろう。
「あの子が側にいれば、きっといつか気づくだろう。和尚は、あの子を立派に育てるから安心して行きなさい、という気持ちがあったのでしょう。だけと2人の後悔の気持ちが強かった。会社を辞めてたら、車に乗らなければ、もっと話を聞いてやれば、あの時ああしていれば。何もしなかった罪の意識で、本当の心残りは陽夏ちゃんをこの手で抱き上げられなかったことに気づかなかったんです。だから、こんなに時間がかかってしまった。死んでしまったのは仕方のないことです。どんなに気をつけていても、いずれ人は死んでしまいます。それは罪ではなくて、もっと自分本位で何がしたかったか、って気づくことで魂は救われるんだと僕は思ってます」
利休くんの言葉がスーっと胸に入ってきた。いつもの生意気な利休くんではなくて、彼の言葉1つ1つが、ワタシの気持ちを整理していく。大袈裟かもしれないが、利休くんがお釈迦様に見えてきた。
ワタシは自殺してしまったことに罪の意識を感じている。その事実を受け入れたくなくて蓋をしていた。死んでしまったことに向き合おうとしなかった。
なんてバカなことをしたんだろう。殺されてしまった天馬さんや、事故に遭った劉弦さんと蓮実さん。3人と違うのは、ワタシは自ら命を絶ったこと。後悔してもしきれない。
理由を振り返れば、ほんの些細なこと。ほんの一瞬の気の迷いで、ワタシは人生を終わらせてしまった。悲しいを通り越して、恥ずかしい。今思えば、大石さんや美幸のことなんかハナクソみたいな理由だ。誰も可哀想なんて思ってくれない。我儘だけど、やり直したい。あの時、フェンスに登るワタシを引き摺り下ろしてビンタしてやりたい。だけど、それは叶わない。
今、ワタシにできること。ワタシの心残りは、こんなバカな理由で死んでしまったことを謝りたい。誰に?ワタシを心配してくれて、いつもワタシの味方になってくれて、今までワタシを大切に育ててくれた人。お母さん。お母さんに、謝りたい。お父さんにも、妹にも、お爺ちゃんお婆ちゃんにも。会って謝りたい。謝って、叱られたい。アンタはバカだって怒られて、さっきの陽夏ちゃんみたいに抱きしめられたい。
和尚がワタシの言葉を待っている。
「ワタシ」
お母さんに謝りたい。その言葉が込み上げてくるものにつかえて出てこない。
「沙千絵」
その声に振り返ると、そこに母が立っていた。母が今、どんな顔をしているのか、涙でぼやけて見えない。




