浅川 沙千絵
第102話 記憶
目を覚ますと、そこは客間だった。いつもお客さんを通す客間ではなく、その隣の小さい方の客間だ。襖で隔たれているが、襖を外せば広い客間になる。
お客さん用の布団が敷かれ、ワタシはその上に寝かされていた。上半身を起こした。まだ頭がフワフワとしている。
さっきワタシは死を感じた。頭の中で死の体験をした。フェンスに登って、跨線橋から飛び降りた。ここ1、2ヶ月のワタシよりも鮮明な感覚。それは夢でも幻覚でもなくて、ワタシの中にあった記憶。
『意味わかんない!』
蓮実さんの声が聞こえた。隣の和尚の部屋からだ。
立ちあがろうとしたけど、足に力が入らない。念のため自分の足を確認したけど、足はちゃんと付いている。幽霊は足がないなんて、いったい誰が言い出したことなんだろう。
外国のオバケって、みんな足があるじゃないか。足がないなんて発想は、日本特有のものなのかなぁ。日本のオバケって、足の付け根からクッキリないわけじゃなくて、腿から下がボヤッと薄くなっている印象だ。根拠もなく曖昧にしてるところは、日本独自の考え方なのかもしれないな。
むかし『ゴースト』という映画を見たことを思い出した。主人公の男の人が幽霊なので、物を掴めなかったり壁をすり抜けてしまったり。恋人に気づいてもらえないことを四苦八苦しているような内容だった気がする。恋人が轆轤を回している後ろから、彼女を抱くように一緒に陶芸をしているシーンが有名な映画だ。それがどういう経緯でそういうシーンになったのか記憶にない。小さい頃に母とテレビで見た映画だ。意味なんかわかってなかった。
ただ1つ印象に残っているのは、主人公が街に出て自分と同じような幽霊に会った時のシーン。その幽霊は黒い影のようなものに捕まって吸い込まれていってしまった場面が怖かった。映画の意味はわからなくても、その幽霊が地獄かどこかに連れ去られたのだけは感覚的にわかった。
それを思い出して、ゾッとした。ワタシは地獄に連れていかれるのかもしれない。辺りを見回したが、黒い影の姿はない。
人を殺してしまったら、天国に行けない。小さい頃から、そう信じていた。それはたとえ自分であっても同じだ。
ワタシは、自殺したのだ。




