浅川 沙千絵
第101話 リンク
見てるものが全てって言われても、目の前にあるのは劉弦さんと蓮実さんと天馬さんのお墓。それが全てと言われちゃうと、3人は死んでるということになってしまう。冗談だとしたら、やり過ぎだ。でも、利休くんは生意気だけど分別はある。仏の元に身を置いて、そんな冗談は言わないはずだ。
「冗談でしょ」
わかっているのに聞いてしまう。その他に言葉が見つからない。
「どう受け止めるかは、沙千絵さん次第です」
「だって、蓮実さんたち、普通に朝いたよ」
利休くんは何も言わず、真っ直ぐワタシを見ている。怒ってるわけでもなく、困っているわけでもない。
「お墓があるってことは、昨日今日に死んじゃったってことじゃないでしょ。天馬さんだって、昨日までいたじゃない。どういうことなの?ちゃんと説明して!」
利休くんの肩を掴んで揺すった。利休くんは目を閉じて黙ったままだ。ワタシに説明する意思は感じられない。ワタシの答えを、ただ待っている感じ。
お墓があるってことは、そういうこと。こんな手の込んだ悪戯なんかしない。じゃあ、ここ1、2ヶ月、ワタシは幽霊と一緒に仕事してたってこと。そんなバカな話、誰が信じる。
また眩暈がした。今度の映像は、赤茶色。視界いっぱいが赤茶色でボコボコしている。足に力が入らなくなった。
「大丈夫ですか?」
ふらついて、劉弦さんたちの墓石に靠れてしまった。体を支える。ここに墓石はある。幻覚なんかじゃない。だけど、感覚がはっきりしない。
「ねえ。さっきのリンクってなに?」
さっきも聞いたけど、ちゃんとした説明になってなかった。答えてくれないのはわかってるけど、聞かないわけにはいかない。
「んー。ペットボトルにフゥーって息吹きかけると、ボーッて鳴るじゃないですか。気柱の振動ってわかります?」
なに難しいこと言ってるの?なにそれ。理科とか科学とかの話?
「わからないですか。共振の方で話したらわかりやすいですかね。棒に複数の紐で繋いだ重りを吊るします。紐の先の重りは同じ重さです。紐の長さが違うんですが、そのうち2本だけ同じ長さです。1つの重りを揺らすと、他の重りは揺れないのですが、紐の長さが同じ物を揺らした時、もう一方の同じ長さのものも揺れるんです」
「だからなに?ワタシ、科学とかそういうの苦手なんだけど」
「科学じゃないですね。物理ですね」
「どっちでもいいよ。ぜんぜんわかりやすくないんだけど!」
利休くんは態とらしく溜息を吐いた。そして、はっとして顔を上げて、じゃあこれならわかりやすいですか、と話を続けた。
「じゃあ、これはどうでしょう。学校でテストの時間とか、教室が静かな時、1人が咳払いや鼻を啜ったりすると、みんなが一斉にしたりするじゃないですか」
「それと、これと何の関係があるの。意味わかんない」
「まあ、こんなの物理でもなんでもないんですけど。僕はこの現象はこう思うんです。1人は咳をしたかったのをずっと我慢していたり、1人は自分が初めになるのが嫌で誰かが先に咳をしないか待っていたり。もう1人は咳をしたいことにすら気づいてなくて、その誰かの咳を聞いて咳がしたいと気づくんです。そうやって、誰かの咳をきっかけに、教室に波動のように広がっていくんです。伝染みたいなもんですかね」
「伝染......」
天馬さんが消えた。劉弦さんたちのお墓。でも、このお墓はたしか劉弦さんたちの娘さんのお墓だったはず。さっきの女の子。え?
「さっきの女の子って......。まさか陽夏ちゃん?」
利休くんはこちらを真っ直ぐ見ているだけで何も答えない。否定しないところを見ると、それが答えなのだ。
劉弦さんたちは娘さんが亡くなったと思っている。でも現実はその子は生きていて、亡くなっているのは劉弦さんと蓮実さん。その劉弦さんたちとリンクしてるって?なんでワタシにその話をしたの。
また眩暈がして、線路が見えた。今度はその線路がものすごいスピードで近づいてきて、バンッと体に衝撃が走った。目の前が真っ暗になった。




