61 スタンガン
屋上に出ると、亜衣ちゃんと『女』が組み合っていた。
亜衣ちゃんは、女の口を押さえて声を出せないようにしている。
マズイな、不意討ちは失敗したらしい。
どうやらこれは、膠着状態の様だ。
しかし、近くにいるはずの実行犯達二人は、まだ駆けつけて来ていない様だ。
サイボーグなら、声が出せなくても他の連絡手段がある筈だ。
機械の体と通信機器の相性は、確実に良いのだから。
それにしても、一体これはどういう状況なのだろう。
外の強烈な日差しと暑さも相まって、オレをイライラとさせる。
「どうなってんだコレ?掩護に入る?それとも、実行犯の方に行く?」
「多分、通信機能とかのある頭部を、スタンガンでショートさせたんだと思う。実行犯達には、まだ気付かれてないみたいだし。今の状態だったら、亜衣と二人で簡単に倒せる。最後の一人の活性化は切り札にしたいから、活性化しないでちょっと待ってて。実行犯達と接触したら、そっちも活性化って事で。」
「分かった。オレは、まだ活性化しない事にする。」
各々の活性化のタイミングと、活性化時間の有効活用が生命線だ。
オレも、彼女達の予定に合わせなくては。
それにしても、頭部に通信機能だって?
オレはそういう様な説明、一切されてないんですけど。
「波が荒れ狂う時、黄泉の門は開き、すべての亡びの矢は放たれる。」
突然、園池さんがそんな事を言い出した。
荒れ狂う波、黄泉の門、滅びの矢?……。
おそらく、ナノマシン活性化のキーワードだな。
オレのキーワードと比べると、随分とカッコイイ台詞。
『マンボウの寄生虫』VS『黄泉の門と滅びの矢』じゃ絶対に勝ち目なさそう。
オレも、中二病っぽい台詞がいいなぁ。
そんなオレの不満をよそに、園池さんはさっさと亜衣ちゃんを掩護しに行った。
それはもう、ありえないスピードだった。
オレも必死で走ったが、たいした距離でもないのに取り残される。
やはり、さっきの厨二病みたいな台詞は、活性化用のキーワードで間違いない。
ゲームでは気が付かなかったが、活性化って傍目から見ると、トンデモない事になってんだな。
園池さんが上手く女の隙をついて、後ろから羽交い絞めにした様だ。
オレはまだ、辿り着いてもいない。
瞬間、亜衣ちゃんのスタンガンが凄い光を発して、押し付けられた女が倒れた。
青白い光の渦、見ただけで凄い威力の電撃だとわかる。
そのわりに、電撃の発生音は殆ど無かった。
今の状況において、最適な攻撃だろう。
凄いな、あの未来のスタンガン。
オレ、そういう武器とか一切貸して貰ってないんですけど。
扱い酷くね?
「オイオイお前ら、こんな事しでかして、覚悟は出来てるんだろうな。」
『派手男』のサンバカーニバルと『スキンヘッド』が異変に気がつき、こっちに来ちまったらしい。
この派手な格好をした男は、カポエラみたいな格闘術をつかう難敵だった。
幸いな事に、VRゲームの時には持っていたライフルは、所持していない様だ。
飛び道具の相手をしなくていい、ってのはありがたい。
……いや、安心は出来ないな。
相手にも、活性化時の特殊遠距離攻撃みたいなのが、あるって話だった。
「女二人は、かなり高度なサイボーグ化をされているようだ。先に始末する。アンタは下がっててくれた方が、仕事がやり易い。」
見た目以上に物騒な発言と、低く威圧的な声。
そういえば、このスキンヘッドの声を聞くのは初めてだな。
VRゲームでは向うから突っ込んで来て、特殊攻撃一発で倒せた。
あの時、もの凄い速さだった。
多分コイツは、かなりの難敵だろう。
大抵の場合、ボディーガードの方が守られる対象よりも強い事が多いし。
「シュウ君、私達は二人がかりで『頭の薄い人』を狙うから、『派手な人』の方をお願い。時間を稼いでくれればいい。」
直後、亜衣ちゃんと園池さんはスキンヘッドに突っ込んでいった。
活性化の残り時間を考えると、ほんの少しの時間も無駄に出来ない。
やはり園池さんは、格闘技の経験者の様だ。
なかなか迫力のある連続打撃攻撃で、スキンヘッドを追い詰め始めた。
亜衣ちゃんもスタンガンを持って背後に回ろうとするので、スキンヘッドは防戦一方になっている。
さっきの威力を目の当たりにしてるなら、スタンガンを警戒するのは当然だろう。
あの様子なら、問題なさそうだ。
「ヘッヘッヘッヘッ。頭の薄い人ってのは、ヒデェ言い草だな。」
派手男は、オレの方を見て笑った。
いやいや、お前の『派手な人』だってバカにして言ってるんだと思うぞ。
だって、乳首丸出しだからな。
しかし、今の状況はコイツも見た筈だが、随分と余裕がありそうだ。




