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『忘れられた六つ目の神器に選ばれました 〜人見知りな闇の少女と毒舌黒猫の学園英雄譚〜』  作者: 伊佐波瑞樹


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第77話 名前で呼ぶと、役割の向こうに人が見える



 翌朝。


 アリシアは。


 目を覚ました瞬間。


 一番最初に。


 机の上を見た。


 昨夜。


 何度も確認して。


 鞄へ入れたはずの紙。


 闇黒猫刀。


 黒月。


 自分ができること。


 できないこと。


 怖いこと。


 止めてほしいこと。


 それらを書いた。


 六人で作る。


 最初の能力記録。


 鞄は。


 机の横にある。


 閉じている。


 ちゃんと。


 入れた。


 分かっている。


 それでも。


 朝になると。


 不安になる。


「……あるよね」


 寝台から。


 小さく言う。


『何が?』


 足元。


 掛け布の上。


 ノアが。


 片目だけ開けた。


「紙」


『昨夜、自分で三回確認したでしょう』


「朝、なくなるかもしれない」


『紙が夜逃げするの?』


「しない」


『なら寝ていなさい』


「もう朝」


『では起きなさい』


「どっち」


『その程度は自分で決めなさい』


 アリシアは。


 ゆっくり起き上がった。


 窓の外。


 薄い朝靄。


 隠れ里の木々。


 まだ。


 夜の冷たさを少し残した空気。


 遠く。


 鳥の声。


 昨日より。


 少しだけ早い時間。


 理由は。


 一つ。


 パン。


 祖父が。


 焼いてくれている。


 教室の少女へ。


 持っていくための。


 一つ。


 そして。


 もう一つ。


 名前。


 昨日。


 眠る前に。


 何度も。


 練習した。


 レオ。


 セレナ。


 フィン。


 ミリア。


 ルシアン。


 一人から。


 名前で呼ぶ。


 昨日。


 ノアへ。


 そう言った。


 どの人から。


 決めていない。


 でも。


 レオが。


 一番呼びやすい。


 大きな声。


 真っすぐ。


 言葉が短い。


 仲間だろ。


 そう言った人。


「レオ」


 寝台の上で。


 小さく練習する。


『本人はいない』


「分かってる」


『昨日も言ったわ』


「もう一回」


『レオ』


「レオ」


『セレナ』


「セレナ」


『フィン』


「フィン」


『ミリア』


「ミリア」


『ルシアン』


「ルシアン」


『はい。全員覚えている』


「うん」


『では問題』


「問題?」


『赤い髪』


「レオ」


『眼鏡』


「セレナ」


『嫌味』


「フィン」


『雑』


「ミリア」


『それは失礼!』


 ノアの声ではなかった。


 部屋の外。


 祖父。


 いや。


 違う。


 誰もいない。


 アリシアは。


 一瞬。


 本気で驚いた。


『今のは私』


「……ノア」


『眠そうだったから』


「びっくりした」


『百点』


「何の?」


『目が覚めた』


「ひどい」


『続き。白』


「ルシアン」


『黒』


「私」


 答えてから。


 アリシアは。


 少し止まった。


 黒。


 以前なら。


 ノア。


 黒月。


 闇。


 そう答えていたかもしれない。


 今。


 自分。


 そう言った。


『今のは百一点』


「増えた」


『たまには』


 ノアが。


 掛け布から降りる。


 伸び。


 黒い背中。


 長い尾。


 朝。


 始まる。


 ◇


 台所。


 祖父が。


 焼き上がったパンを。


 布の上へ並べていた。


 湯気。


 香草。


 小麦。


 朝の匂い。


 いつもの。


 自分の分。


 祖父の分。


 そして。


 少し小さく。


 形を整えたものが。


 一つ。


 別の布へ置かれている。


 アリシアは。


 すぐに分かった。


「これ?」


「ああ」


 祖父は。


 短く答える。


「柔らかめにした」


「薬草は?」


「少し減らした」


「どうして?」


「初めて食べるなら、その方が食べやすい」


「昨日は、土と火が食べた」


「誰だ、それは」


 アリシアは。


 止まる。


 昨日までなら。


 普通に。


 土。


 火。


 そう説明していた。


 でも。


 今。


 名前。


「ミリアと、レオ」


 言えた。


 祖父が。


 少しだけ。


 こちらを見る。


「名前で言えるようになったな」


「……うん」


「どっちが土だ」


「ミリア」


「火は」


「レオ」


「水」


「セレナ」


「風」


「フィン」


「光」


「ルシアン」


「闇」


「……私」


 祖父の手が。


 少し止まる。


 ノアが。


 椅子の下で。


 静かに尾を動かす。


 祖父は。


 何も言わない。


 ただ。


 小さなパンを。


 丁寧に布で包む。


「忘れるなよ」


「忘れない」


「紙も」


「入れた」


「本当に?」


「三回確認した」


「今朝は?」


「まだ」


「確認しろ」


 アリシアは。


 鞄を開ける。


 紙。


 ある。


「ある」


「ならいい」


「おじいちゃんも確認するんだ」


「お前が忘れたら、帰ってくるからな」


「帰る」


「取りに?」


「うん」


「遅刻するぞ」


「じゃあ、忘れない」


「最初からそうしろ」


 ノアが。


 足元から言う。


『この家、全員同じ会話をしているわ』


「ノアも」


『私は確認役』


「食べる役」


『それも重要』


 祖父が。


 ノアの皿へ。


 小さなパンの欠片を置く。


「朝から一つだ」


『半分を二回なら?』


「一つだ」


『あなた、分かっているじゃない』


 アリシアは。


 笑った。


 朝。


 まだ。


 少しだけ。


 緊張している。


 でも。


 パン。


 紙。


 名前。


 三つ。


 持って。


 学園へ向かう。


 ◇


 教室の扉。


 今日は。


 昨日より。


 止まる時間が短かった。


『十六秒』


「数えなくていい」


『昨日は二十八秒』


「減った」


『成長』


「点数は?」


『九十九』


「どうして?」


『点数を先に聞いた』


「厳しい」


 アリシアは。


 取っ手を回す。


 教室。


 朝。


 窓から。


 やわらかな光。


 生徒たちの声。


 昨日のように。


 神器継承者の話をしている者もいる。


「今日も六人で集まるのかな」


「昨日、昼に見たぞ」


「全員でどこか行ってた」


「何してたんだろ」


「食事じゃない?」


「神器の会議で飯食うの?」


「飯くらい食うだろ」


「神器って飯食うんだ」


「人間だからな」


「そこから?」


 笑い。


 アリシアが入る。


 何人かが。


 こちらを見る。


 でも。


 昨日ほど。


 声は止まらない。


 少しずつ。


 慣れている。


 自分も。


 周りも。


「おはよう」


 焼き菓子の少女が。


 すぐに声を掛ける。


「おはよう」


 アリシアは。


 席へ向かう。


 鞄を置く。


 座る前に。


 布包みを取り出す。


「これ」


 少女の机へ。


 置く。


「え?」


「パン」


 少女が。


 目を大きくする。


「本当に持ってきたの?」


「うん」


「忘れなかった」


「ノアと、おじいちゃんに確認された」


「三人で?」


「うん」


「すごい確認体制」


『あなたのためではなく、この子の忘れ物対策よ』


「ノア様」


 少女が。


 机の下へ。


 小さく笑う。


「ありがとうございます」


『私は何もしていない』


「確認した」


『それだけ』


「それが大事なんだよ」


『……あなた、時々変なところで素直ね』


「褒められた?」


『違う』


 少女は。


 パンの包みを。


 両手で持つ。


 まだ。


 開けない。


「昼に食べていい?」


「うん」


「一緒に?」


 聞かれ。


 アリシアは。


 少しだけ。


 止まる。


 今日は。


 また。


 六人で集まるかもしれない。


 昨日の紙。


 提出。


 もしかしたら。


 昼。


 呼ばれる。


 でも。


 今。


 約束できるか。


「昼、呼ばれなかったら」


「うん」


「一緒に」


「分かった」


 絶対。


 ではない。


 でも。


 今できる約束。


 少女は。


 嬉しそうに。


 パンを鞄へしまう。


「昨日の続き」


 少女が言う。


「何?」


「名前、覚えた?」


 アリシアの胸が。


 少し動く。


「うん」


「火の人」


「レオ」


「水」


「セレナ」


「風」


「フィン」


「土」


「ミリア」


「光」


「ルシアン」


 全部。


 言えた。


 少女が。


 少し笑う。


「今日は早い」


「練習した」


「ノア様と?」


「うん」


「かわいい」


『何が?』


「ノア様と名前の練習してるアリシア」


『私は教師ではないわ』


「でも、問題出した」


「どんな?」


「赤い髪」


「レオ」


「眼鏡」


「セレナ」


「嫌味」


「フィン」


 言ってから。


 アリシアは。


 少し止まる。


 少女が。


 笑いを堪える。


「本人に言わない方がいいかも」


「言わない」


『私は正確な特徴を挙げただけ』


「ノア」


『何?』


「嫌味は特徴?」


『非常に分かりやすい』


 アリシアは。


 また少し笑う。


 その時。


 教室の前扉が開いた。


 青い髪。


 セレナ。


 昨日より。


 少し早い。


 手には。


 書類。


 その姿を見た瞬間。


 アリシアの心臓が。


 少し強くなる。


 名前。


 呼ぶ。


 今。


 呼べる。


 でも。


 教室。


 人がいる。


 いきなり。


 セレナ。


 そう呼んだら。


 変に思われる?


 向こうは。


 アリシアと呼んでいる。


 ノアも言った。


 でも。


 今まで。


 自分は。


 水の人。


 青髪の少女。


 そう思っていた。


 セレナは。


 教室へ入る。


 周囲のざわめき。


「また水の神器」


「昨日も来てた」


「仲いいのかな」


「何か書類持ってる」


 セレナは。


 真っすぐ。


 アリシアの席へ。


 近づく。


「アリシア」


「……はい」


 返事。


 いつも通り。


 でも。


 呼ぶ。


 今。


 呼ぶ。


「昨日の記録を提出できますか」


「うん」


 鞄。


 紙。


 取り出す。


 手渡す前。


「セレナ」


 声が。


 出た。


 セレナの手が。


 止まった。


 教室。


 ほんの少し。


 周囲の声も。


 止まる。


 アリシア自身も。


 止まる。


 言った。


 名前。


 本人へ。


 初めて。


 セレナの眼鏡の奥。


 青い瞳が。


 少しだけ。


 大きくなる。


「……はい」


 返事。


 いつもの。


 正確な声。


 でも。


 少しだけ。


 遅かった。


「これ」


 アリシアは。


 紙を渡す。


「書いた」


 セレナは。


 受け取る。


「確認します」


 紙へ。


 目を落とす。


 でも。


 一度。


 また。


 アリシアを見る。


「名前」


「……嫌だった?」


「いいえ」


「急だった」


「はい」


「ごめん」


「謝らないでください」


 セレナは。


 少しだけ。


 眼鏡の位置を直す。


「私も、あなたをアリシアと呼んでいます」


「うん」


「ですから」


 少し間。


「名前で呼ばれることに、問題はありません」


 正確。


 でも。


 その頬が。


 ほんの少し。


 赤い。


 焼き菓子の少女が。


 横から。


 じっと見ている。


 アリシアが。


 気づく。


「何?」


「何でもない」


「笑ってる」


「ちょっとだけ」


「どうして?」


「初めて名前で呼ぶ瞬間って、こんなに緊張するんだなって」


「……笑わないで」


「ごめん」


 でも。


 楽しそう。


 セレナは。


 紙へ視線を戻す。


 そのまま。


 何行か読む。


 そして。


 急に。


 動きが止まった。


『怖くても、大丈夫と言うことがある』


 その行。


 見ている。


 アリシアは。


 胸が。


 少し狭くなる。


 消さなかった。


 でも。


 今。


 読まれる。


 恥ずかしい。


 セレナは。


 その下。


『言葉が出ない時、少し待ってほしい』


『でも、待ちすぎて危ない時は、聞いてほしい』


『できた時は、できたと言ってほしい』


 最後まで。


 読む。


 しばらく。


 何も言わない。


「変?」


 アリシアが。


 先に聞いてしまう。


「いいえ」


 セレナは。


 すぐに答える。


「非常に有用です」


「有用?」


「本人が、何を支援として受け取りやすいか。明確です」


「でも」


「何ですか」


「できたって言ってほしいは」


 少し。


 恥ずかしい。


「子どもみたい?」


 セレナが。


 僅かに眉を寄せる。


「なぜですか」


「褒めてほしいみたい」


「褒めることと、事実確認は別です」


 アリシアが。


 少し顔を上げる。


「できた、は。事実?」


「はい」


 セレナは。


 紙を指す。


「昨日。鈴を見つけた。できた」


「うん」


「影で移動させた。できた」


「うん」


「能力情報を今日までに記録した。できた」


「うん」


「それを伝えることに、問題がありますか」


「……ない」


「なら、そのままでいいでしょう」


 アリシアの胸が。


 少し。


 軽くなる。


「ありがとう」


「まだ終わっていません」


「何が?」


「確認」


 セレナは。


 紙を裏返す。


「一つ。修正案があります」


「どこ?」


「『できた時は、できたと言ってほしい』」


「消す?」


「いいえ」


 その下へ。


 小さな字で。


 セレナが書く。


『失敗時は、できなかった事実と、次に直せる点を分けて伝える』


 アリシアは。


 文字を見る。


「どうして?」


「できた時だけ情報があり、失敗時に評価だけが残ると。次の行動へつながらないからです」


 昨日。


 間違えば。


 修正。


 今日。


 できなければ。


 次。


「……いい」


「追加してよいですか」


「うん」


「では、後で全員にも確認します」


 セレナは。


 紙を。


 丁寧に揃える。


「昼休み」


「集まる?」


「教官から連絡がありました」


 アリシアの身体が。


 少し固くなる。


「何?」


「昨日の能力記録案を見たい、と」


「先生が?」


「はい」


「誰?」


「昨日の教官と、各神器担当教官。それから戦術科の記録官」


 人。


 多い。


 見られる。


 自分が書いた。


 怖いこと。


 弱いこと。


 大丈夫を信用しないで。


 それも。


 先生に。


 読まれる。


 喉。


 固くなる。


 セレナが。


 アリシアの表情を見る。


「嫌ですか」


「……少し」


「提出しない選択もあります」


「でも」


「昨日の課題は、互いに能力を話し合うことでした。文書を教師へ提出するよう、命令されたわけではありません」


「セレナは、見せたい?」


 今度は。


 名前。


 少し。


 言いやすかった。


 セレナが。


 ほんの少し。


 目を細める。


「私は」


 少し考える。


「見せる価値があると思います」


「どうして?」


「私たちが、どこまで自分たちで考えたか。教官へ確認してもらえるからです」


「間違ってるかもしれない」


「そのために見せます」


「怖いことも?」


「全てではありません」


「どういうこと?」


「本人が非公開を希望する項目は、別紙にします」


 アリシアは。


 目を瞬く。


「分ける?」


「はい」


「昨日、私たちに話したこと。でも、先生には話したくないこともある?」


「あります」


 セレナの声。


 静か。


「教師だから、全てへ自動的にアクセスできるわけではありません」


 正確。


 境界。


「危険に関わる部分は共有する」


「はい」


「でも、過去とか。気持ちは?」


「本人が決める」


 白髪の。


 ルシアンが言ったこと。


 セレナも。


 受け取っていた。


「じゃあ」


 アリシアは。


 自分の紙を見る。


「私は、これ。全部見せていい」


「本当に?」


「うん」


「嫌われないために、ではなく?」


 昨日。


 確認。


 今日。


 また。


「違う」


 アリシアは。


 考える。


「先生にも。大丈夫を信じすぎないでほしいから」


「分かりました」


 セレナは。


 小さく頷く。


「では、昼休み。第一資料室です」


「演習室じゃない?」


「今日は文書確認です」


「分かった」


「それと」


「何?」


 セレナは。


 少しだけ。


 言葉を探す。


 珍しい。


「名前」


「うん」


「もう一度、呼んでください」


 アリシアは。


 目を大きくする。


「今?」


「はい」


「どうして?」


「先ほどは、呼んだ直後に用件へ移ったので」


「……セレナ」


「はい」


 今度は。


 すぐ。


 返事。


 セレナの口元が。


 ほんの少し。


 緩む。


「確認できました」


「何を?」


「問題なく呼べています」


「そこ?」


「そこです」


 焼き菓子の少女が。


 とうとう。


 笑いを堪えられず。


 肩を震わせる。


「ごめん」


「何ですか」


 セレナが見る。


「二人とも、ちょっと似てる」


「どこが?」


 アリシア。


 セレナ。


 二人。


 同時。


 少女は。


 さらに笑った。


「今の」


 アリシアとセレナが。


 互いを見る。


 少し。


 沈黙。


 それから。


 アリシアは。


 小さく笑う。


 セレナも。


 ほんの少しだけ。


 笑った。


 ◇


 昼休み。


 第一資料室。


 そこへ向かう廊下は。


 昨日より。


 少し騒がしかった。


 理由。


 六人。


 また。


 集まっている。


 レオは。


 資料室へ向かう途中から。


 すでに声が大きい。


「紙、持ってきた!」


「見れば分かります」


 セレナ。


「今日は丁寧に書いたぞ!」


「昨日の夜ですか」


「朝!」


「今日の朝?」


「起きてすぐ!」


「朝食は?」


「食べた!」


「いつ?」


「書きながら!」


「食事中に記録作業をしないでください」


「間に合ったんだからいいだろ!」


 アリシアは。


 少し後ろを歩く。


 隣。


 ミリア。


 昨日より。


 近い。


「アリシア」


「何?」


「パン、今日もある?」


「あるけど。教室の子の」


「そっか」


「残念?」


「少し」


 ミリアは。


 明るく笑う。


「でも、今度でいい」


「おじいちゃんに聞く」


「急がなくていいよ」


「うん」


 名前。


 ミリア。


 今。


 呼べる。


 呼ぶ?


 まだ。


 呼んでいない。


 セレナは。


 呼べた。


 次。


「ミリア」


 アリシアが。


 小さく言う。


 黄色い髪の少女が。


 歩きながら。


 ぴたりと止まった。


「え?」


 後ろのフィンが。


 危うくぶつかりそうになる。


「止まらないで」


「今、名前!」


 ミリアが。


 振り返る。


 顔。


 一気に明るい。


「アリシア、私の名前呼んだ!」


「うん」


「もう一回!」


「何で?」


「いいから!」


「廊下で止まると邪魔」


 フィンが。


 横を避ける。


「歩きながらにして」


「じゃあ歩く!」


 ミリアは。


 アリシアの隣へ戻る。


「もう一回!」


「……ミリア」


「はい!」


 大きな返事。


 前を歩くレオが。


 振り返る。


「何だ?」


「アリシアが名前呼んだ!」


「俺も呼べ!」


 すぐ。


 来る。


 レオ。


 呼びやすい。


 でも。


 みんな。


 見てる。


「……レオ」


「おう!」


 即答。


「俺の方が呼びやすいだろ!」


「どういう競争?」


 フィンが。


 呆れる。


 レオは。


 胸を張る。


「短い!」


「確かに二音」


「だろ!」


「私も三音」


 ミリア。


「私も三音です」


 セレナ。


「僕は二音」


 フィン。


 全員。


 フィンを見る。


「何?」


「フィン」


 アリシアが。


 言う。


 緑髪の少年が。


 少しだけ。


 目を開く。


「……はい」


 返事。


 思ったより。


 素直。


 ミリアが。


 にやにやする。


「嬉しい?」


「普通」


「口元」


「何」


「少し上がった」


「風のせい」


「廊下」


 アリシアが言う。


 昨日。


 メリルがノアへ言ったのと。


 同じような返し。


 フィンが。


 一瞬。


 黙る。


 それから。


 小さく笑う。


「アリシアも言うようになったね」


「ノアが言われてた」


「誰に?」


「友達に」


 友達。


 口から。


 自然に出た。


 焼き菓子の少女。


 友達。


 名前。


 まだ。


 本文の中で。


 正式に呼んでいない。


 でも。


 今。


 友達。


 そう言った。


 自分で。


 気づく。


 胸が。


 少し温かくなる。


「で」


 レオが。


 前から。


 振り返りながら言う。


「光は?」


 ルシアン。


 最後。


 白髪の少年は。


 少し後ろ。


 静かに歩いている。


 アリシアが。


 見る。


 ルシアンも。


 こちらを見る。


 柔らかな笑顔。


 でも。


 昨日。


 止めてほしい。


 そう言った人。


「ルシアン」


「うん」


 返事。


 それだけ。


 でも。


 目が。


 少し優しくなる。


「名前で呼んでくれて、ありがとう」


「ありがとう?」


「嬉しかったから」


 アリシアは。


 少し困る。


「名前なのに」


「名前だから」


 意味。


 まだ。


 全部は分からない。


 でも。


 五人。


 呼べた。


 レオ。


 セレナ。


 フィン。


 ミリア。


 ルシアン。


 廊下。


 それぞれ。


 違う返事。


 大きい。


 正確。


 少し照れる。


 嬉しそう。


 穏やか。


 属性では。


 分からなかった。


 名前を呼んで。


 返事が返る。


 その人。


 そこにいる。


「六人、揃ってる」


 廊下の端。


 生徒たちが。


 小さくざわめく。


「あれ、名前で呼んでた?」


「闇の子が?」


「仲良くなったのかな」


「昨日会ったばっかじゃないの?」


「早くない?」


「神器同士だから?」


 その言葉。


 神器同士。


 アリシアの胸へ。


 少し引っかかる。


 名前で呼んだのは。


 神器だからではない。


 昨日。


 話した。


 怖いものを知った。


 パンを分けた。


 止め方を考えた。


 だから。


 少し。


 名前になった。


 でも。


 廊下の人は。


 知らない。


 見えるものだけ。


 六神器。


 六人。


 一緒。


 アリシアは。


 訂正しようと。


 一瞬思う。


 でも。


 止める。


 危険ではない。


 誤解。


 今。


 全部。


 直さなくていい。


 歩く。


 名前を呼んだ。


 その事実は。


 自分たちの中にある。


 ◇


 第一資料室。


 演習室より。


 ずっと小さい。


 壁一面。


 書棚。


 中央。


 大きな楕円形の机。


 教師たち。


 すでに。


 何人か座っている。


 昨日の。


 年配の男性。


 灰色の髪。


 左頬の傷。


 今日も。


 濃紺の軍装に近い服。


 その隣。


 各神器担当教官。


 そして。


 記録官。


 紙。


 筆。


 インク。


 六人が入ると。


 男性が。


 時計を見る。


「時間通りだな」


「当然です」


 セレナが答える。


 レオが。


 少し得意そうに言う。


「俺も!」


「お前は廊下を走っただろう」


「今日は走ってない!」


「昨日だ」


「昨日の話か!」


「記録に残っている」


「廊下走ったのまで!?」


 記録官が。


 真顔で紙を見る。


「訓練棟退出後。廊下走行。教員より注意」


「消してください!」


「事実だ」


「戦闘と関係ない!」


「規則遵守傾向としては関係する」


 フィンが。


 小さく言う。


「朝から面白い記録だね」


「笑うな!」


 男性が。


 机を。


 指で二度叩く。


 静かになる。


「座れ」


 六つ。


 椅子。


 今回は。


 最初から。


 名前札が置かれていた。


『レオ』


『セレナ』


『フィン』


『ミリア』


『ルシアン』


『アリシア』


 神器名。


 ではない。


 人の名前。


 アリシアは。


 自分の札を。


 少し長く見る。


 アリシア。


 その隣。


 ルシアン。


 反対側。


 セレナ。


 六人。


 座る。


 年配の男性が。


 セレナを見る。


「能力情報をまとめたそうだな」


「はい」


「昨日の指示は、互いに話せ、だった」


「はい」


「文書化までは求めていない」


「口頭情報だけでは、忘却と認識差が生じると判断しました」


「誰の提案だ」


「私です」


「全員が賛成したか」


 少し。


 沈黙。


 レオが。


 手を上げる。


「最初は多いと思った!」


「それは反対か?」


「でも、やった方がいいと思った!」


「今は?」


「やってよかった!」


「理由」


 レオが。


 少し詰まる。


「……みんなの」


 言葉を探す。


「止め方が分かった」


 男性の目が。


 僅かに変わる。


「止め方?」


 セレナが。


 六人分の紙を。


 机へ出す。


「能力だけではありません」


 項目。


 神器名。


 距離。


 攻撃。


 防御。


 補助。


 限界。


 負担。


 恐怖。


 苦手。


 支援。


 男性。


 教師。


 記録官。


 全員。


 紙を見る。


 室内。


 静か。


 紙をめくる音。


 羽根ペン。


 少し。


 書き込む音。


 アリシアの胸。


 強く鳴る。


 自分の紙。


 読まれている。


 怖い。


 でも。


 座る。


 逃げない。


 年配の男性が。


 最初に。


 ミリアの欄で止まる。


『閉鎖空間では呼吸が乱れる可能性。詳細は本人が希望するまで聞かない』


「これは」


 男性が。


 ミリアを見る。


「誰が書いた」


「セレナ」


 ミリアが答える。


「内容は?」


「私が話した」


「詳細は聞かない、は」


 セレナ。


「私が追加しました」


「なぜ」


「危険回避に必要な情報と、本人の過去は別だからです」


 男性は。


 少し長く。


 セレナを見る。


「教師にも?」


「本人が話さないと判断した範囲は」


 セレナ。


 少しだけ。


 緊張。


 それでも。


「はい」


 室内。


 さらに静か。


 ミリアの手。


 膝の上で。


 少し握られる。


 怒られる。


 命令違反。


 そう見られる可能性。


 でも。


 男性は。


 すぐには何も言わない。


「危険に関わる最低限は共有する」


「はい」


「それ以上は、本人の同意」


「はい」


「妥当だ」


 ミリアの肩が。


 少しだけ。


 下がる。


 セレナも。


 ほんの少し。


 息を吐く。


 次。


 ルシアン。


『治癒継続時、視界白濁。手の震え。頭痛。失神可能性』


『本人が止められない場合、名前を呼ぶ。手首。目を閉じる』


 光担当教官が。


 顔を上げる。


「ルシアン」


「はい」


「今まで、ここまで明確に報告したか」


「一部は」


「失神可能性は?」


「報告していません」


 教官の表情。


 少し硬くなる。


「なぜ」


「止められると思っていました」


「実際は?」


「止められない時があります」


「誰が気づいた」


 ルシアンは。


 少し考える。


「皆です」


「誰が最初に」


「フィン」


 緑髪。


 フィンが。


 少しだけ。


 背筋を伸ばす。


「光が自分で止まれないなら、誰が止める、と」


 ルシアンが言う。


 男性の目が。


 フィンへ。


「なぜ聞いた」


「自分の意思だけで止められるなら、支援項目は必要ないと思ったからです」


「お前自身は?」


「間違えるくらいなら黙ることがある」


「それは」


 風担当教官が。


 静かに言う。


「こちらでも把握している」


「……はい」


「だが」


 教官は。


 フィンの紙を見る。


『確信がなくても、危険に関わる可能性があるなら仮説として共有する』


 その一文。


 指で触れる。


「これは誰が書いた」


「僕」


「昨日の訓練から?」


「はい」


「そうか」


 短い。


 でも。


 教官の声。


 少し柔らかい。


 次。


 レオ。


『近距離。高出力。広範囲。精密操作:本人評価=少し苦手/周囲評価=かなり苦手』


 年配の男性が。


 読む。


 口元。


 ほんの少し動く。


「これは」


 レオの顔が。


 嫌な予感。


「誰が書いた」


「全員」


 セレナが答える。


「おい!」


「事実です」


「少しだ!」


「別班の的を燃やしました」


「一回!」


「三つ中一つです」


「一回だろ!」


「被害対象数ではなく、事故回数を主張しているのですか」


「そう!」


「改善されていません」


 教師の一人。


 笑いを。


 咳で誤魔化す。


 年配の男性は。


 レオを見る。


「本人評価と周囲評価を分けた理由」


 フィンが答える。


「自分では気づかない部分があるから」


「誰か一人の評価では?」


「複数人が同じなら記録。意見が分かれれば併記」


 セレナ。


「いつ決めた」


「昨日の昼」


「教官の指示なしで?」


「はい」


 男性。


 沈黙。


 紙。


 一枚ずつ。


 ゆっくり。


 見る。


 次。


 アリシア。


 胸が。


 強く鳴る。


『闇黒猫刀・黒月』


『負担』


『一:冷たい』


『二:感覚が遠い』


『三:身体位置不明』


『二で報告』


『本人が大丈夫と言っても、状態質問を行う』


『言葉が出ない時、少し待ってほしい』


『待ちすぎて危険な時は、聞いてほしい』


『できた時は、できたと言ってほしい』


『失敗時は、できなかった事実と、次に直せる点を分けて伝える』


 男性の目。


 最後の二つで。


 止まる。


「アリシア」


「はい」


 喉。


 固い。


「これは誰が書いた」


「……できた、は私」


「次に直せる点、は」


「セレナ」


 名前。


 言えた。


 男性。


 わずかに。


 視線をセレナへ。


「なぜ追加した」


「成功時だけ明確な反応があり、失敗時が評価だけになると。本人が次の行動へつなげにくいと考えました」


「アリシアは」


 男性。


「それを望むか」


「はい」


「失敗を指摘されるのは嫌ではない?」


 嫌。


 怖い。


 でも。


「嫌です」


 正直。


 男性の眉。


 少し動く。


「でも」


 アリシアは。


 続ける。


「何が、できなかったか。次に何を直すか。分かるなら。聞きたい」


「怒られるのは?」


「怖い」


「評価されるのは?」


「怖い」


「それでも?」


「……分からないままより、いい」


 室内。


 静か。


 男性。


 少し長く。


 アリシアを見る。


「昨日」


 低い声。


「お前に言ったな」


「はい」


「自分の感覚まで疑うな」


「はい」


「今日は、自分で紙へ書いた」


「はい」


「一日で変わった?」


 アリシアは。


 首を横に振る。


「変わってないです」


「なら」


「まだ怖い」


「そうか」


「でも」


 少し。


 指。


 膝の上。


 握る。


「できたって言われると。次も、同じところから始められる気がする」


 男性の目。


 ほんの少し。


 柔らかくなる。


「悪くない」


 それだけ。


 でも。


 アリシアの胸へ。


 小さく。


 入る。


 悪くない。


 できた。


 似ている。


 次。


 始められる。


 ◇


 記録確認。


 さらに続く。


 教師たちは。


 能力の強さより。


 意外なところで。


 質問を増やした。


「誰が、この項目順を決めた」


「セレナです」


「恐怖条件を入れる案は」


「昨日の教官の発言から」


「仲間へ求める支援、は」


「途中で追加しました」


「誰が?」


 少し。


 沈黙。


 全員。


 互いを見る。


 誰。


 最初。


 白髪。


 ルシアンが。


「たぶん、僕です」


「たぶん?」


「止めてほしいと言ったところから、項目になりました」


「記録」


 記録官が。


 低く言う。


「従来の神器継承者訓練資料には、本人が仲間へ求める支援という項目はありません」


 六人。


 少し。


 驚く。


 セレナが。


 すぐに聞く。


「では、何がありますか」


「能力」


「はい」


「適性距離」


「はい」


「最大出力」


「はい」


「連続使用時間」


「はい」


「弱点」


「弱点?」


 ミリア。


 記録官。


「環境的不利。能力相性。身体負担」


「怖いものは?」


「通常、正式記録には入らない」


「どうして?」


 アリシアが。


 思わず聞く。


 記録官。


 少しだけ。


 こちらを見る。


「個人的情報だからだ」


「でも」


「何だ」


「怖いものが、戦いに関係するなら」


 ミリア。


 閉鎖空間。


 呼吸。


 ルシアン。


 治癒。


 止められない。


 フィン。


 間違い。


 黙る。


 自分。


 強い感情。


 影。


「必要だと思う」


 アリシアは。


 言った。


 記録官は。


 すぐに否定しない。


「そうだな」


 少し間。


「だから、今回の記録は興味深い」


 興味深い。


 アリシアは。


 少し分からない。


 年配の男性が。


 椅子へ深く座る。


「従来」


 声。


 低い。


「神器継承者の訓練は、個々の能力を最大化することから始める」


 六人。


 聞く。


「火は火を強くする」


「水は制御を精密にする」


「風は射程と索敵を伸ばす」


「土は防御力を高める」


「光は治癒と浄化を高める」


 最後。


 アリシア。


「闇については、現代記録がない」


 黒。


 未知。


「その後。能力が一定に達してから、連携へ移る」


 男性は。


 六人の紙を見る。


「だが、お前たちは」


 少し。


 指で。


 紙を叩く。


「能力の全容も分からない段階で。先に、止め方を決めた」


 レオが。


 少し不安そうに聞く。


「駄目だった?」


「いや」


「じゃあ?」


「面白い」


 フィンが。


 小さく。


「教官が面白いって言うと、嫌な予感がする」


 男性。


「正しい予感だ」


「ほら」


「次の訓練を変更する」


 六人。


 一斉に。


 少し姿勢が変わる。


 セレナ。


「変更?」


「当初は、各神器の能力測定を個別に行う予定だった」


「はい」


「やめる」


「ええ!?」


 レオ。


 明らかに残念。


「楽しみにしてたのに!」


「戦いたいだけでしょう」


 セレナ。


「測定だぞ!」


「あなたは出力を上げたいだけです」


「悪いか!」


「悪いとは言っていません」


 男性。


 手を上げる。


 静かになる。


「代わりに」


 六人。


 見る。


「六人で。互いの限界を確認する」


 アリシアの胸が。


 少し。


 強くなる。


「どうやって?」


 ミリア。


「まず、申告した範囲を試す」


「怖いところも?」


 ミリアの声。


 少し低い。


 男性。


 すぐに答える。


「本人が同意したものだけ」


 ミリア。


 少し。


 肩が下がる。


「閉鎖空間をいきなり作るつもりはない」


「……はい」


「恐怖を克服させるための訓練ではない」


「じゃあ?」


「仲間が」


 男性。


 六人を見る。


「どこまで知れば、危険を避けられるか。その確認だ」


 セレナの目。


 少し光る。


「つまり」


「何だ」


「能力の最大値ではなく。安全運用条件の実測」


 男性。


 少しだけ。


 口元を上げる。


「そうだ」


 セレナ。


 すぐに。


 紙を出そうとする。


 ルシアンが。


 その手へ。


 軽く触れる。


「今は聞こう」


「……はい」


 止める。


 すぐ。


 できた。


 アリシアは。


 それを見る。


 セレナ。


 少し。


 疲れている?


 でも。


 今は。


 聞く。


 男性。


 続ける。


「レオ」


「はい!」


「火の範囲。仲間がどこまで近づけば危険か」


「はい!」


「セレナ」


「はい」


「感知。情報過多になる前の範囲」


「はい」


「フィン」


「はい」


「確信のない情報を仮説として報告する訓練」


「……はい」


「ミリア」


「はい」


「防御中。閉塞感が生じない環境条件を確認する。狭所訓練はしない」


「はい」


 ミリアの声。


 少し。


 安心。


「ルシアン」


「はい」


「治癒継続時間。手の震えが出る前に止める」


「……はい」


「不満か」


「少し」


「なぜ」


「まだ治せるのに止めることになるから」


「だからやる」


 男性。


 迷いなし。


「お前は、治せるかどうかで止めるのではない。次も治せる状態で止めることを覚えろ」


 ルシアン。


 少し。


 黙る。


「はい」


 最後。


「アリシア」


「はい」


「冷え。感覚。身体位置」


「はい」


「二で報告」


「はい」


「三まで行かせない」


「……はい」


「不満か」


 同じ質問。


 アリシア。


 少し考える。


「三まで、試した方が分かると思った」


 ノアが。


 影の中で。


 低く言う。


『却下』


 教官より。


 早い。


 レオも。


「駄目だろ!」


 セレナ。


「必要ありません」


 ミリア。


「三は危ないって自分で言ったよ!」


 フィン。


「安全確認で危険域まで行くのは矛盾してる」


 ルシアン。


「二の境界を細かく見る方がいい」


 五人。


 一斉。


 アリシアは。


 少し。


 目を大きくする。


 男性。


 何も言わない。


 五人を。


 見る。


 アリシアは。


 胸。


 少し。


 温かい。


「……分かった」


「何が?」


 男性。


「三まで行かない」


「誰に言われたから」


「みんな」


「それで納得した?」


「うん」


「なぜ」


「止めるって。昨日決めたから」


 男性。


 少し。


 頷く。


「なら、それを守れ」


「はい」


 ◇


 話し合いの終盤。


 記録官が。


 一枚の大きな紙を。


 机へ広げた。


「この形式」


 六人の能力記録。


「正式な訓練資料へ試験導入したい」


 セレナ。


 すぐに。


 反応。


「全神器継承者へ?」


「まず、お前たち六人」


「その後は?」


「結果次第」


 セレナの目。


 さらに。


 真剣。


「項目を追加できますか」


「何を」


「本人評価と周囲評価。更新日。訓練結果。支援方法の有効性」


「多い」


 レオが。


 小さく言う。


「必要です」


 セレナ。


「また増えた」


 フィン。


「暫定記録ですから」


 ミリア。


「水、楽しそう」


「業務です」


「口元」


「夕方の光ではありません」


「今、昼」


 アリシアが言う。


 一瞬。


 沈黙。


 それから。


 ミリアが。


 笑う。


 フィンも。


 肩を揺らす。


 レオ。


「アリシアが言った!」


 セレナ。


 少し。


 頬が赤い。


「今のは」


「事実」


 アリシア。


「……そうですね」


 セレナ。


 小さく。


 認める。


 教師たち。


 六人のやり取り。


 見ている。


 年配の男性。


 少しだけ。


 目を細める。


「一つ確認する」


 六人。


 静か。


「お前たち」


 男性。


「昨日会ったばかりだな」


「はい」


 セレナ。


「それまで、五人は?」


 レオ。


「何回か顔合わせてた!」


「共同訓練は」


「ほとんどない」


 フィン。


「アリシアは」


「昨日が初めて」


 男性。


 少し。


 考える。


「なのに」


 紙。


「弱点を書いた」


 誰も。


 すぐに答えない。


「怖くなかったか」


 問い。


 アリシア。


 昨日。


 同じような。


 聞かれた。


 力。


 怖い。


 話す。


 怖い。


 ミリアが。


 最初に。


 小さく言う。


「怖かったです」


 全員。


 少し。


 見る。


 ミリア。


 いつも。


 明るい。


 でも。


 今。


 まっすぐ。


「狭いところの話。言いたくなかった」


「なぜ言った」


「危ない時。みんなが知らない方が怖いと思ったから」


 次。


 ルシアン。


「僕も」


「何が」


「止めてほしい、と言うのは。少し怖かった」


「どうして」


「弱いと思われるかもしれないから」


 レオ。


 すぐに。


「思わない」


 ルシアン。


 少し笑う。


「今は分かった」


 フィン。


「僕は」


 少し。


 間。


「間違うのが恥ずかしいって言う方が、恥ずかしかった」


 ミリア。


 笑いかける。


 でも。


 笑わない。


 今は。


 真剣。


 セレナ。


「私は」


 紙を見る。


「全員へ話すなら、私自身も書く必要があると思いました」


「義務?」


 男性。


「最初は」


「今は?」


 セレナ。


 少し考える。


「話してよかったと思います」


 レオ。


「俺は別に怖くなかった!」


 全員。


 レオを見る。


 男性。


「本当に?」


「……精密操作のところは少し嫌だった」


 ミリア。


 吹き出す。


 フィン。


「やっぱり」


「だって、かなり苦手って書かれた!」


「事実です」


「セレナ!」


 最後。


 男性。


 アリシアを見る。


「お前は」


「怖かったです」


「何が一番」


「大丈夫を、信用しないでって書くこと」


「なぜ」


「嘘つく人みたいだから」


「実際は?」


 ノアが。


 影から。


『高負荷時には嘘をつく』


「ノア」


『事実』


 室内。


 少し。


 空気が。


 柔らかくなる。


 アリシア。


 少し。


 頬。


 熱い。


「でも」


 男性。


「書いた」


「はい」


「なぜ」


「止めてもらいたいから」


 言った。


 自分で。


 少し驚く。


 昨日。


 ノアが止める。


 今日は。


 五人も。


 止める。


 先生も。


 止める。


「止めてもらいたい」


 もう一度。


 心の中。


 言う。


 弱い。


 ではない。


 戻るため。


 また。


 次。


 動くため。


 男性は。


 六人を。


 ゆっくり見る。


「なら」


 低い声。


「その記録は。能力表ではないな」


 セレナ。


「では」


「共同戦闘継続表」


 フィン。


「名前が堅い」


「では何がいい」


 ミリア。


「六人の説明書?」


 レオ。


「いいじゃん!」


 セレナ。


「軽すぎます」


 ルシアン。


「輪郭表」


 アリシア。


 顔を上げる。


「輪郭?」


 ルシアン。


「能力だけじゃないから」


 紙。


 名前。


 できる。


 できない。


 怖い。


 止める。


 頼む。


 まだ。


 全部ではない。


 線。


 少しずつ。


「六人分の輪郭」


 アリシアが。


 小さく言う。


 男性。


 聞いている。


「仮称」


 言う。


「六者輪郭記録」


 セレナの目。


 すぐに。


 輝く。


「正式名称として適切です」


 フィン。


「結局、堅い」


 ミリア。


「でも、ちょっと格好いい」


 レオ。


「六者輪郭!」


 ルシアン。


「気に入った?」


「うん!」


 アリシアは。


 紙を見る。


 六者輪郭記録。


 まだ。


 暫定。


 でも。


 自分たちで。


 最初に作った。


 先生に。


 出せと言われたからではない。


 危ない時。


 止めるため。


 失敗した時。


 戻るため。


 誰かを。


 力だけで見ないため。


 作った。


 六人分。


 ◇


 資料室を出る。


 昼休み。


 残り。


 少ない。


 六人。


 急いで。


 でも。


 廊下は走らない。


 レオが。


 何度も。


 走りそうになる。


「歩幅」


 セレナ。


「分かってる!」


「今、速くなりました」


「早歩き!」


「他者が遅れている」


 レオ。


 後ろを見る。


 アリシア。


 少し。


 遅い。


 レオ。


 止まる。


「ごめん」


 すぐ。


 速度を落とす。


 昨日。


 紐。


 引っ張った。


 歩幅。


 教官に言われた。


 今日。


 ちゃんと。


 見た。


「できた」


 アリシアが。


 言う。


 レオが。


 振り返る。


「何が?」


「歩幅。直した」


 レオ。


 一瞬。


 ぽかん。


 それから。


 大きく笑う。


「おう!」


 声。


 大きい。


 でも。


 アリシアも。


 笑う。


 できた時。


 できた。


 言う。


 自分だけではない。


 仲間にも。


 言える。


 セレナが。


 小さな紙へ。


 何か書く。


「何?」


 レオ。


「改善確認」


「今のも記録!?」


「必要です」


「何でも記録するな!」


「できたことも残します」


 レオ。


 少し止まる。


 その言葉。


 昨日までなら。


 文句を言ったかもしれない。


 今。


 少しだけ。


 嬉しそう。


「……ならいい」


 フィン。


「単純」


「うるさい!」


「また大声」


「お前も記録されろ!」


「もうされてる」


「何が!」


「皮肉」


「その項目あるのか!?」


 ミリア。


 笑う。


「作ろうか!」


「やめろ!」


 廊下。


 六人の声。


 周囲の生徒。


 見る。


「また一緒」


「仲いいな」


「火の子、怒ってる?」


「たぶん普通」


「闇の子、笑ってない?」


「笑ってる」


 アリシア。


 聞こえる。


 笑ってる。


 自分。


 笑ってる。


 恥ずかしい。


 でも。


 止めない。


 少しだけ。


 そのまま。


 歩く。


 ◇


 教室。


 昼休み。


 残り。


 七分。


 焼き菓子の少女が。


 席で待っていた。


 アリシアが戻る。


「おかえり」


「ただいま」


「間に合ったね」


「少し」


「パン食べる?」


 アリシア。


 時計。


 見る。


 七分。


「食べる」


 少女。


 嬉しそうに。


 包みを開いた。


 布の中。


 祖父が焼いた。


 小さなパン。


 朝より。


 少しだけ冷めている。


 でも。


 香草の匂い。


 まだ残っている。


「いい匂い」


 少女が。


 顔を近づける。


「薬草、少なめ」


「私のため?」


「おじいちゃんが」


「すごい」


「初めて食べるからって」


「……優しいね」


 その言葉。


 アリシアは。


 少し。


 胸が温かくなる。


「うん」


 少女は。


 パンを半分に割る。


 中。


 柔らかい。


 湯気は。


 もうない。


 でも。


 まだ。


 しっとりしている。


「半分いる?」


「私の?」


「一緒に食べるんでしょう?」


「でも、渡した」


「全部私が食べるって決めてないよ」


 少女が。


 半分を差し出す。


 アリシア。


 少し。


 迷う。


 自分が持ってきた。


 相手へ。


 渡した。


 それを。


 また。


 分けてもらう。


 変な感じ。


「いいの?」


「私が一緒に食べたいから」


 前にも。


 言われた。


 私が聞きたいから。


 私が渡したいから。


 相手が。


 自分で。


 選ぶ。


「……じゃあ」


 アリシアは。


 半分。


 受け取る。


「いただきます」


「いただきます」


 二人。


 同時。


 一口。


 少女。


 ゆっくり。


 噛む。


 アリシア。


 反応。


 見る。


 美味しい?


 硬い?


 薬草。


 変?


 聞きたい。


 でも。


 すぐには。


 聞かない。


 少女は。


 もう一口。


 食べる。


 それから。


「美味しい」


 言った。


 アリシア。


 少し。


 肩。


 下がる。


「本当?」


「うん」


「薬草、変じゃない?」


「全然」


「硬くない?」


「柔らかい」


「朝焼いたから」


「おじいちゃん、パン屋さん?」


「違う」


「毎日焼くの?」


「だいたい」


「すごい」


 少女。


 もう一口。


 食べる。


「これ、毎日食べてるの?」


「うん」


「いいな」


「……いい?」


「うん」


 いい。


 自分にとって。


 普通。


 朝。


 祖父。


 パン。


 スープ。


 ノア。


 同じ。


 それを。


 いいな。


 と言われる。


 少し。


 不思議。


「今度」


 アリシア。


 言う。


「違うパンもある」


「本当?」


「木の実」


「食べたい」


「おじいちゃんに聞く」


「無理しなくていいよ」


「うん」


「でも」


 少女。


 笑う。


「楽しみにしてる」


 楽しみ。


 また。


 少し。


 重い。


 でも。


 今日は。


 嫌ではない。


 持ってきたい。


 そう思う。


 ◇


 残り。


 昼休み。


 五分。


 少女。


 パン。


 食べながら。


「今日も、みんなと話した?」


「うん」


「五人?」


「うん」


「名前で?」


 アリシア。


 少し。


 笑う。


「呼べた」


「全員?」


「うん」


「すごい」


「レオは、呼びやすい」


「どうして?」


「短い」


「それだけ?」


「声が大きいから。返事が分かる」


 少女。


 笑う。


「セレナさんは?」


「二回呼んでって言われた」


「え?」


「確認したいって」


「何を?」


「名前で呼べるか」


 少女。


 少し。


 黙る。


 それから。


 笑い出す。


「やっぱり似てる」


「誰と?」


「アリシアとセレナさん」


「似てない」


「似てる」


「どこ?」


「確認するところ」


「私はそんなに」


『三回紙を確認した』


「ノア」


「何て?」


「三回紙確認したって」


「似てる」


「……少し」


 認める。


 少女。


 嬉しそう。


「フィンさんは?」


「普通って言ってた」


「嬉しくない?」


「口元上がってた」


「見たの?」


「ミリアが」


「ミリアさん、そういうの気づきそう」


「うん」


「ルシアンさんは?」


 アリシア。


 少し。


 思い出す。


『名前で呼んでくれて、ありがとう』


「嬉しいって」


「言ったの?」


「うん」


「優しいね」


「うん」


「レオ君は?」


「俺も呼べって」


「やっぱり」


 少女。


 笑う。


「みんな、違うね」


 その言葉。


 アリシア。


 少し。


 止まる。


 違う。


 属性。


 だけ。


 ではない。


 返事。


 違う。


 笑い方。


 違う。


 待ち方。


 違う。


 怖いもの。


 違う。


 できること。


 違う。


「うん」


 アリシア。


 小さく。


「違う」


「昨日より分かった?」


「少し」


「名前で呼んだから?」


 アリシア。


 考える。


「それも」


「それも?」


「話したから」


「うん」


「怖いこと」


「うん」


「止めてほしいこと」


「うん」


「名前で呼ぶと」


 少し。


 言葉。


 探す。


「その話した人が。ちゃんと、その人になる」


 少女。


 静かに。


 聞く。


「火の人じゃなく?」


「レオ」


「水の人じゃなく?」


「セレナ」


「風」


「フィン」


「土」


「ミリア」


「光」


「ルシアン」


 全部。


 すぐ。


 出る。


「闇は?」


 少女。


 少し。


 笑って聞く。


 アリシア。


 今日は。


 止まらない。


「アリシア」


 自分。


 名前。


 言える。


 少女。


 笑う。


「うん」


 それだけ。


 でも。


 胸。


 少し。


 熱い。


 ◇


 午後。


 戦闘基礎。


 今日は。


 昨日までと。


 少し違う。


 第一戦術演習室。


 でも。


 戦わない。


 中央。


 六つの立ち位置。


 床。


 円。


 昨日。


 鈴。


 探した場所。


 今日は。


 六人。


 それぞれ。


 武器。


 持つ。


 レオ。


 火鳥剣。


 セレナ。


 水蛇槍。


 フィン。


 風狼弓。


 ミリア。


 土亀斧。


 ルシアン。


 光白猫杖。


 アリシア。


 黒月。


 六つ。


 揃う。


 見学者。


 今日は。


 少ない。


 各担当教官。


 記録官。


 昨日の。


 年配の男性。


「今日は」


 男性。


「戦わない」


 レオ。


 分かりやすく。


 肩。


 落ちる。


「また?」


「不満か」


「少し」


「昨日も聞いたな」


「でも今日こそ」


「今日も戦わない」


「はい」


 ミリア。


 笑う。


 フィン。


「レオ、毎回同じ反応しそう」


「戦術演習室だぞ!」


「話すのも戦術」


 セレナ。


「分かってる!」


「声量」


「分かってる!」


 少し。


 下がる。


 アリシア。


 笑う。


 教官。


 六人を見る。


「昨日作成した」


 大きな板。


 出す。


『六者輪郭記録』


 書かれている。


 六人。


 少し。


 空気。


 変わる。


 自分たち。


 作った。


 名前。


 ついた。


「今日は」


 男性。


「この記録が。本当に使えるかを確認する」


 セレナ。


 すぐ。


 姿勢。


 正す。


「実測?」


「ああ」


「能力測定ではなく」


「安全運用条件」


 昨日。


 言った。


 「まず」


 男性。


「名前」


 六人。


 少し。


 意味。


 分からない。


「名前?」


 レオ。


「互いを呼べ」


 アリシア。


 胸。


 少し。


 強くなる。


「何で?」


 ミリア。


「戦闘中。属性名で呼ぶのか」


「呼ばない」


「火!」


「誰だよ!」


「お前だ」


「レオって言え!」


 フィン。


 少し笑う。


「今、自分で答え出した」


「……そうだった」


 見学の教官。


 少し。


 笑う。


 男性。


「昨日まで」


 アリシアを見る。


「お前は。五人を属性で認識していた」


「はい」


「今日は」


 少し。


 喉。


 緊張。


「レオ」


「おう!」


「セレナ」


「はい」


「フィン」


「はい」


「ミリア」


「はい!」


「ルシアン」


「うん」


 返事。


 全部。


 違う。


「逆」


 教官。


「アリシア」


 レオ。


 大きい。


「アリシア」


 セレナ。


 正確。


「アリシア」


 フィン。


 少し。


 穏やか。


「アリシア!」


 ミリア。


 明るい。


「アリシア」


 ルシアン。


 柔らかい。


 五つ。


 自分の名前。


 違う音。


 同じ。


 アリシア。


 少し。


 胸。


 熱くなる。


「戦闘時」


 男性。


「名前を呼ぶ理由は。感傷ではない」


 現実。


 声。


「誰へ指示したか。誰を止めるか。誰が戻る必要があるか。明確にするためだ」


 黒板。


『名前=対象指定』


「ただし」


 男性。


「名前を呼ぶことには。もう一つ意味がある」


 六人。


 見る。


「何だと思う」


 沈黙。


 レオ。


「返事する!」


「それもある」


 ミリア。


「自分のことだって分かる」


「それも」


 フィン。


「意識を戻す」


 男性。


 少し。


 頷く。


「そうだ」


 アリシア。


 胸。


 少し。


 強く。


「強い恐怖」


「過集中」


「怒り」


「能力暴走」


「疲労」


「戦闘中。人は。自分の役割だけになることがある」


 火。


 攻撃。


 水。


 整理。


 風。


 索敵。


 土。


 防御。


 光。


 治癒。


 闇。


 止める。


「その時」


 男性。


「名前は。その者を役割から引き戻す」


 アリシア。


 昨日。


 セレナ。


『アリシア!』


 ルシアン。


 ノア。


 名前。


 呼ぶ。


 戻る。


「今日は」


 男性。


「それを試す」


 ◇


 最初。


 簡単。


 六人。


 それぞれ。


 担当。


 レオ。


 正面。


 セレナ。


 中央。


 フィン。


 左。


 ミリア。


 右。


 ルシアン。


 後方。


 アリシア。


 基準点。


「今から」


 教官。


「一人ずつ。意図的に判断負荷を上げる」


 レオ。


 少し。


 嬉しそう。


「戦う?」


「戦わない」


「はい」


「課題」


 火。


 レオ。


 前。


 訓練用的。


 五つ。


 点灯。


「制限時間十秒」


「全部斬る!」


「ただし」


 教官。


「三つ目以降。精密操作の兆候を確認する」


 セレナ。


 記録。


 準備。


「開始」


 レオ。


 火鳥剣。


 一。


 斬る。


 二。


 斬る。


 三。


 火。


 少し。


 広がる。


「レオ」


 セレナ。


 呼ぶ。


「範囲」


「分かってる!」


 四。


 火。


 さらに。


 大きく。


 右手。


 握り。


 強い。


 アリシア。


「レオ」


「まだ!」


 役割。


 攻撃。


 全部。


 倒す。


 入り込む。


 教官。


 止めない。


「レオ!」


 ミリア。


 大きく。


「右手!」


 レオ。


 一瞬。


 動き。


 止まる。


 自分の手。


 見る。


 火。


 少し。


 落ちる。


「……握ってた」


「続行?」


 教官。


 レオ。


 少し。


 呼吸。


「四つ目で止める」


「理由」


「五つ目行くと広がる」


「よし」


 止める。


 五つ。


 全部。


 倒さない。


 レオ。


 少し。


 悔しそう。


「一個残った」


 アリシア。


 言う。


「でも」


 レオ。


 見る。


「止まれた」


 少し。


 間。


 レオ。


 笑う。


「できた?」


「うん」


「できた」


 記録官。


 書く。


 セレナ。


 紙。


『レオ:名前呼び+具体状態指摘で自己認識回復』


 フィン。


「長い」


「後で短くします」


 ◇


 次。


 セレナ。


 水。


 感知。


 床。


 小さな水滴。


 二十。


 配置。


 目を閉じる。


「形」


 教官。


「小球。棒。板。輪。石」


 複数。


 水。


 広がる。


 セレナ。


 感知。


「小球三。棒二。板四……」


 最初。


 速い。


 次。


 さらに。


 水滴。


 増える。


 三十。


 四十。


 情報。


 増加。


 セレナの声。


 長くなる。


「右奥に小球が二つあり、その手前には薄い板状の――」


 フィン。


「セレナ」


 返事。


 ない。


「セレナ」


 もう一度。


「今、情報を整理しています」


「多い?」


「まだ」


 まだ。


 大丈夫。


 アリシア。


 昨日。


 大丈夫。


 信用。


「セレナ」


 名前。


 呼ぶ。


 青髪。


 少し。


 顔。


 動く。


「何ですか」


「今。何個見てる?」


「四十……」


 止まる。


 自分。


 今。


 どこ。


「多い?」


 アリシア。


 少し。


 間。


「……多いです」


「縮める?」


 セレナ。


 すぐ。


 答えない。


 精度。


 全部。


 見たい。


 でも。


 教官。


 昨日。


 情報過多。


 縮小。


「縮めます」


 水。


 範囲。


 狭く。


 情報。


 減る。


 セレナ。


 息。


 吐く。


「戻りました」


「できた」


 ミリア。


 すぐ。


 言う。


 セレナ。


 少し。


 目を開く。


「……はい」


 少し。


 嬉しそう。


『名前+質問で過集中から自己申告へ』


 記録。


 増える。


 ◇


 次。


 フィン。


 風。


 目隠し。


 音。


 複数。


 教官。


 小さな石。


 室内。


 どこか。


 落とす。


 フィン。


 聞く。


「右奥」


 正解。


 次。


 二つ。


「左。中央」


 正解。


 次。


 三つ。


 そのうち。


 一つ。


 音。


 反射。


「……右」


 フィン。


 止まる。


「確信?」


 教官。


「六割」


「言え」


「右奥……たぶん」


 声。


 小さい。


 教官。


「仮説として」


 フィン。


 少し。


 黙る。


 間違う。


 恥ずかしい。


 昨日。


 言った。


 アリシア。


「フィン」


 名前。


 呼ぶ。


「何」


「仮説」


 一言。


 フィン。


 少し。


 息。


 吐く。


「仮説。右奥。壁反射で位置ずれの可能性」


 教官。


 確認。


「正解は。右中央。反射あり」


 フィン。


 少し。


 顔。


 固い。


「外れた」


「でも」


 アリシア。


「反射は合ってた」


 フィン。


 見る。


「できた?」


「うん」


「半分?」


「半分でも」


 フィン。


 少し。


 笑う。


「じゃあ残して」


 セレナ。


 すぐ。


 書く。


『位置誤り。反射仮説正解』


「ちゃんと分けた」


 フィン。


「約束です」


 ◇


 次。


 ミリア。


 土。


 防御。


 完全閉鎖。


 しない。


 半円。


 壁。


 三面。


 正面。


 開く。


「この形」


 教官。


「どうだ」


「平気」


「次」


 壁。


 少し。


 高く。


 正面。


 開口。


 狭く。


 ミリア。


 呼吸。


 少し。


 変わる。


 でも。


「平気」


 言う。


 ルシアン。


 見る。


 手。


 土亀斧。


 握り。


 少し.


 強い。


「ミリア」


「何?」


「息」


 ミリア。


 止まる。


 自分。


 呼吸。


 気づく。


「……少し速い」


「怖い?」


 アリシア。


 ミリア。


 正面。


 開いてる。


 でも。


 壁。


 高い。


「少し」


「出る?」


 レオ。


 すぐ。


 聞く。


 ミリア。


 少し。


 考える。


「まだ、試したい」


「続ける条件」


 セレナ。


「正面、広げて」


「対応」


 教官。


 壁。


 開口。


 広がる。


 光。


 見える。


 ミリア。


 呼吸。


 少し.


 戻る.


「これなら平気」


「違い」


 教官.


「出口が見える」


「他」


「人がいる」


 ミリア.


 ルシアン.


 見る.


「昨日も。ルシアンいた」


 ルシアン.


 少し.


 笑う.


「一人じゃない方がいい?」


「たぶん」


「仮説」


 フィン.


「閉鎖感は空間だけじゃなく。孤立感も関係する可能性」


 ミリア.


 少し.


 考える.


「……あるかも」


 教官.


「次回確認。今日はこれ以上やらない」


「はい」


 止める.


 深く.


 追わない.


 アリシア.


 そのこと.


 少し.


 安心.


 ◇


 次.


 ルシアン.


 治癒.


 訓練用.


 魔力消耗.


 人工傷.


 人形.


 連続.


 一体.


 二体.


 三体.


 ルシアン.


 光.


 柔らかい.


 治す.


「まだいけます」


 四体.


 手.


 少し.


 震える.


 セレナ.


「ルシアン」


「大丈夫」


 出た.


 アリシア.


 自分.


 胸.


 反応.


 大丈夫.


 高負荷.


 ルシアンも.


「ルシアン」


 今度.


 名前.


 少し.


 強く.


「手」


 白髪.


 見る.


 震え.


 小さい.


「……震えてる」


「止める?」


 ミリア.


 ルシアン.


 人工傷.


 まだ.


 一体.


 残る.


「あと一体」


 自分.


 昨日.


 あと一体.


 同じ.


 アリシア.


 すぐ.


「私も昨日、言った」


 ルシアン.


 見る.


「あと一体って」


「うん」


「止められた」


「うん」


「怖かった?」


「うん」


 ルシアン.


 人工傷.


 見る.


 治せる.


 まだ.


 でも.


 次.


 治せる状態.


 残す.


「止めます」


 光.


 消す.


 最後.


 一体.


 治らない.


 残る.


 ルシアン.


 少し.


 苦しい顔.


 教官.


「今の感情」


「治したい」


「他」


「残すのが嫌」


「他」


「自分ならできたのに、と思う」


「それでも止めた」


「はい」


 アリシア.


 言う.


「できた」


 ルシアン.


 少し.


 笑う.


「ありがとう」


 ◇


 最後.


 アリシア.


 黒月.


 中央.


 床.


 影.


 教官.


「今日は三まで行かせない」


「はい」


「一から二の境界を確認する」


「はい」


「方法」


 床.


 小さな木片.


 十.


 二十.


 三十.


 配置.


「影で触れろ」


 アリシア.


 影.


 広げる.


 一つ.


 二つ.


 十.


 感覚.


 床.


 木.


 机脚.


 靴.


 情報.


 増える.


「状態」


 セレナ.


「平気」


 ノア.


『禁止』


「……冷たくない」


 言い直す.


 五人.


 少し.


 笑う.


「十追加」


 木片.


 増える.


 影.


 広がる.


 冷たい.


 少し.


「冷たい」


「一」


 セレナ.


「続行?」


 アリシア.


「うん」


 次.


 木片.


 さらに.


 十.


 形.


 混ざる.


 情報.


 多い.


 影.


 触れる.


 床.


 靴.


 壁.


 木.


 机.


 自分.


 身体.


 まだ.


 分かる.


 でも.


 左手.


 少し.


 遠い.


 言う?


 まだ.


 少し.


 あと.


 確認.


「アリシア」


 レオ.


 大きい.


「今、何が見える!」


「木」


「何個!」


「……分からない」


「手!」


 ミリア.


「左」


 アリシア.


 左手.


 感じる.


 でも.


 少し.


 遠い.


「感覚?」


 セレナ.


 昨日と.


 同じ.


 名前.


 質問.


「少し遠い」


 言えた.


 早い.


 前より.


「二へ入る前?」


 ルシアン.


 アリシア.


 考える.


「……境目」


 ノア.


『そこで止める』


「止める」


 影.


 すぐ.


 戻す.


 床.


 木片.


 情報.


 減る.


 自分.


 足.


 手.


 胸.


「冷たい」


「一?」


「一に戻った」


「感覚」


「ある」


「身体」


「分かる」


 ルシアン.


「復帰」


 アリシア.


 息.


 吐く.


 昨日.


 二.


 まで.


 行った.


 今日は.


 境目.


 止めた.


「できた」


 自分.


 言う.


 教官.


 少し.


 頷く.


「今の」


 アリシア.


 教官.


 見る.


「二まで行ってない?」


「完全な二ではない」


「境目?」


「ああ」


「分かった?」


「少し」


「それでいい」


 全部.


 知らなくていい.


 一回.


 境目.


 見えた.


 記録.


 できる.


 ◇


 六人.


 再び.


 円.


 座る.


 六者輪郭記録.


 更新.


 セレナ.


 今日は.


 堂々と.


 紙.


 出す.


 でも.


 教官.


「休憩」


 セレナ.


 止まる.


「……はい」


 全員.


 笑う.


 四分.


 休む.


 アリシア.


 水.


 飲む.


 レオ.


「俺、五つ全部やりたかった」


 フィン.


「それやると記録の意味ない」


「でも倒せた」


「倒す訓練じゃない」


「分かってるけど!」


 ミリア.


「私は壁高くなるの嫌だった」


 ルシアン.


「でも言えた」


「うん」


 セレナ.


「私は」


 少し.


 言葉.


 止まる.


「情報過多を。自分で多いと言えた」


 アリシア.


「できた」


「はい」


 フィン.


「僕は外した」


 ミリア.


「でも反射当てた」


「半分」


「半分できた」


「……うん」


 ルシアン.


「僕は一体残した」


 レオ.


「でも止まった」


「うん」


 アリシア.


 自分.


「私は」


 少し.


 考える.


「二になる前に止めた」


 五人.


 すぐ.


 反応.


「できた!」


 ミリア.


「明確です」


 セレナ.


「昨日より早い」


 フィン.


「戻りも速かった」


 ルシアン.


「よし!」


 レオ.


 大きい.


 アリシア.


 笑う.


「できた」


 もう一回.


 自分.


 言う.


 ◇


 休憩後。


 六者輪郭記録。


 更新。


『レオ』


『高出力時:右手握り強化。火線拡張』


『名前+具体状態指摘で自己認識』


『全撃破より停止を選択できた』


『次:複数目標時、一人で全てを処理しない』


『セレナ』


『情報過多:説明長文化。返答遅延』


『名前+対象数質問で自覚しやすい』


『範囲縮小で復帰』


『次:自己申告を早くする』


『フィン』


『確信六割でも仮説報告可能』


『位置は誤ったが、反射仮説は正解』


『失敗と成功部分を分けて記録』


『次:確度を添える』


『ミリア』


『高壁+狭い開口で呼吸上昇』


『開口拡大で改善』


『同行者ありで負荷軽減の可能性』


『孤立感との関係:未確認』


『本人同意なしで深掘りしない』


『ルシアン』


『連続治癒四体目付近で手の震え』


『本人は継続希望』


『名前+身体兆候指摘+他者経験共有で停止可能』


『次も治せる状態で止める』


『アリシア』


『接触対象増加で冷感』


『情報過多時、左手感覚遠隔化』


『完全な二の前に境界あり』


『名前+具体質問で自己申告しやすい』


『境界で停止。復帰可能』


 最後。


 共通。


『名前を呼ぶ』


『役割ではなく本人へ戻す』


『できたことを残す』


『できなかったことと、次を分ける』


 教官。


 見る。


「これは」


 少し。


 紙。


 指。


「使える」


 セレナ。


 少し。


 嬉しそう。


「正式資料に?」


「まだ早い」


「……はい」


「一日で固定するな」


「はい」


「今日できた止め方が。次も同じとは限らない」


 全員.


 少し.


 引き締まる.


「更新しろ」


「はい」


「本人が変わる」


「はい」


「関係が変わる」


「はい」


「訓練で。怖さが減ることも。増えることもある」


「はい」


「だから」


 男性.


『更新日』


 紙.


 追加.


「必ず日付を残せ」


 セレナ.


 すぐ.


 書く.


「昨日より、さらに項目増えた」


 レオ.


「必要です」


「紙なくなるぞ」


 フィン.


「別冊にします」


「増える方向しかない」


 ミリア.


 笑う.


 アリシア.


 紙.


 見る.


 六人.


 輪郭.


 固定.


 ではない.


 変わる.


 名前.


 呼べるようになった.


 昨日.


 話せなかったこと.


 今日.


 話せる.


 昨日.


 怖かったこと.


 今日.


 少し.


 止められた.


 輪郭.


 濃くなる.


 でも.


 閉じない.


 ◇


 訓練終了。


 廊下。


 六人。


 今日は。


 昨日より。


 静か。


 疲れた。


 でも。


 悪い疲れではない。


 レオ。


 手。


 開く。


 握る。


「五つ目、やれたよな」


 セレナ。


「やれた可能性はあります」


「だろ!」


「でも、やる必要はありませんでした」


「分かってる」


「本当に?」


「分かってる!」


 フィン。


「声」


「今は廊下だけど!」


「廊下だから」


「……はい」


 少し。


 小さくなる.


 ミリア.


 笑う.


 ルシアン.


 アリシアの隣.


「今日は。昨日より早かったね」


「何が?」


「止めるの」


「うん」


「怖かった?」


「うん」


「止めたら。できないと思われる気がした?」


 アリシア.


 少し.


 考える.


「少し」


「今は?」


「できたって言われた」


「うん」


「だから」


 胸.


 少し.


 温かい.


「止めるのも。できたこと?」


「そうだと思う」


 ルシアン.


 笑う.


「僕も、今日覚えた」


「何を?」


「治さず残すことも。できたことになる時がある」


 人工傷.


 一体.


 残した.


 治せた.


 でも.


 止めた.


「嫌だった?」


「すごく」


「でも止めた」


「うん」


「できた」


「うん」


 名前.


 ルシアン.


 役割.


 光.


 治す.


 だけ.


 ではない.


 止める.


 怖い.


 嫌.


 それでも.


 選ぶ.


 人.


「ルシアン」


「何?」


「昨日より、分かった」


「僕のこと?」


「うん」


「何が?」


「治したい人」


 ルシアン.


 少し笑う.


「うん」


「でも。止まれる人」


 少し.


 間.


「今日は」


 付け足す.


 ルシアン.


 目.


 柔らかく.


「今日は、ね」


「うん」


「次も。止まれるようにする」


「うん」


 輪郭.


 更新.


 ◇


 教室。


 夕方。


 少女。


 待っている。


 アリシア。


 席。


 戻る。


「おかえり」


「ただいま」


「今日は?」


「戦わなかった」


「また?」


「うん」


「何したの?」


 アリシア。


 ゆっくり。


 話す。


 名前を呼んだ。


 レオ。


 止まった。


 セレナ。


 情報を減らした。


 フィン。


 間違えた。


 でも。


 半分合った。


 ミリア。


 壁。


 怖い。


 でも。


 条件。


 少し分かった。


 ルシアン。


 治せるのに。


 止めた。


 自分。


 二まで行かず。


 止めた。


 少女。


 最後まで。


 聞く。


「名前って」


 言う。


「そんなに大事なんだね」


「うん」


「呼ぶだけなのに」


「うん」


「でも。返事する」


「うん」


「役割じゃなく?」


「うん」


 少女。


 少し。


 考える.


「じゃあ」


「何?」


「私も、名前で呼んでいい?」


 アリシア.


 少し.


 止まる.


 少女.


 今まで.


 アリシア.


 呼んでいた.


 自分.


 名前.


 知っている.


 でも.


 ここまで.


 本文の中.


 何度も.


 少女.


 友達.


 焼き菓子.


 待つ.


 一緒.


 その人.


 名前.


 アリシア.


 口.


 開く.


「……メリル」


 少女。


 目。


 少し。


 大きくなる。


 アリシア自身も。


 少し。


 驚く。


 知っていた。


 もちろん。


 同じ教室。


 何度も。


 呼ばれている。


 でも。


 自分から。


 初めて。


 呼んだ。


「うん」


 少女。


 メリル。


 笑う。


「もう一回」


「今日、それ二人目」


「誰?」


「セレナ」


「じゃあ私も」


「……メリル」


「はい」


 返事。


 柔らかい.


 アリシア.


 胸.


 少し.


 熱い.


「ありがとう」


「名前なのに?」


「名前だから」


 ルシアン.


 同じ.


 アリシア.


 少し.


 笑う.


「今日、二回聞いた」


「何を?」


「名前だから」


「誰に?」


「ルシアン」


「そっか」


 メリル。


 笑う。


「じゃあ、同じだね」


「少し」


「少し?」


「うん」


「全部同じじゃなくてもいいよ」


「うん」


 昨日.


 友達.


 自然に.


 言った.


 今日.


 名前.


 呼んだ.


 メリル.


 もう.


 焼き菓子の少女.


 ではない.


 ◇


 帰宅.


 夕食.


 祖父.


「今日はどうだった」


「戦わなかった」


「そうか」


「止める練習」


「誰を」


「みんな」


「お前も?」


「うん」


「二まで行ったか」


「行く前」


 祖父.


 少し.


 顔.


 上げる.


「止めた?」


「うん」


「なら」


 短く.


「できたな」


 アリシア.


 少し.


 笑う.


「うん」


「自分で言える?」


「できた」


「そうか」


「レオも止まった」


「火」


「レオ」


「わざとだ」


「また」


「名前で言えるな」


「うん」


「水」


「セレナ」


「風」


「フィン」


「土」


「ミリア」


「光」


「ルシアン」


「友達」


 アリシア.


 止まる.


 祖父.


 少し.


 口元.


 動く.


「どうした」


「……メリル」


「そうか」


「知ってた?」


「何を」


「名前」


「聞いたことはある」


「いつ?」


「お前が寝言で」


「言ってない!」


 ノア.


『言っていたかも』


「ノア!」


『覚えていない』


「嘘」


 祖父.


 少し.


 笑う.


「飯食え」


「うん」


 胸.


 少し.


 恥ずかしい.


 でも.


 嬉しい.


 ◇


 夜。


 練習帳。


 今日。


 書くこと。


 多い。


 最初。


『六者輪郭記録』


『仮称として採用』


『正式資料へ試験導入予定』


 次.


『名前を呼ぶ』


『対象指定』


『意識を役割から本人へ戻す』


 レオ.


『攻撃へ入り込みすぎた時。名前+右手で気づいた』


 セレナ.


『情報整理へ入り込みすぎた時。名前+対象数質問で過多を自覚』


 フィン.


『間違いを恐れて止まった時。名前+仮説で共有』


 ミリア.


『狭さを我慢しかけた時。名前+呼吸確認』


 ルシアン.


『治療を続けようとした時。名前+手の震え』


 アリシア.


『二へ入る前。名前+具体質問』


『境目で止めた』


『戻れた』


『できた』


 その下.


『失敗』


『フィン:位置は外れた』


『でも、反射仮説は合っていた』


『失敗と成功部分を分ける』


 次.


『輪郭は固定しない』


『更新日を残す』


『今日できた止め方が、次も同じとは限らない』


 そして.


 最後.


『名前』


 アリシア.


 少し.


 手.


 止まる.


『レオ』


『セレナ』


『フィン』


『ミリア』


『ルシアン』


 少し.


 空ける.


『メリル』


 書く.


 胸.


 温かい.


 ノア.


 机へ.


 跳び乗る.


「今日は?」


 アリシア.


 聞く.


『百点』


「理由」


『六人の名前』


「うん」


『それだけではない』


「何?」


『メリル』


 アリシア.


 少し.


 見る.


「知ってた?」


『ずっと』


「どうして言わなかったの?」


『あなたが呼ぶまで待った』


「ずるい」


『なぜ』


「教えてくれてもよかった」


『名前を知ることと。名前で呼ぶことは違う』


 今日.


 ずっと.


 それ.


「うん」


『それに』


「何?」


『あなたは、自分で呼べた』


「うん」


『できた』


 アリシア.


 少し.


 笑う.


「百一点?」


『百点』


「増えない」


『最近欲張り』


「ノアが増やしたから」


『私のせいにしない』


 いつもの.


 でも.


 嬉しい.


 ◇


 最後。


 練習帳。


 一行。


『名前で呼ぶと、役割の向こうに人が見える』


 書く。


『火ではなく、レオ』


『水ではなく、セレナ』


『風ではなく、フィン』


『土ではなく、ミリア』


『光ではなく、ルシアン』


『闇ではなく、アリシア』


 そして。


『焼き菓子の少女ではなく、メリル』


 少し。


 笑う。


『役割は必要』


『でも、役割だけで呼ぶと。その人が何を怖がっているか。何を嬉しいと思うか。見えなくなることがある』


『名前を呼ぶ』


『返事が返る』


『その人が、そこにいると分かる』


 最後.


『止める時も』


『戻す時も』


『できたと言う時も』


『私は、名前を呼びたい』


 ペン。


 置く。


 灯り。


 消す。


 寝台。


 夜。


 ノア。


 足元。


「ノア」


『何?』


「ノアは、役割?」


『神獣』


「それ、役割?」


『種族』


「じゃあ、役割は?」


『あなたの監督』


「嫌」


『何が』


「監督だけじゃない」


 ノア.


 少し.


 沈黙.


「友達?」


『軽い』


「家族?」


『重い』


「相棒?」


 少し.


 長い.


 沈黙.


『……まあ』


「まあ?」


『暫定』


「セレナみたい」


『失礼ね』


「似てる」


『どこが?』


「確認する」


『必要だから』


「正確」


『当然』


「少し照れる」


『寝なさい』


「当たった」


『寝なさい』


 アリシア.


 笑う.


「おやすみ、ノア」


『おやすみ、アリシア』


 目。


 閉じる。


 今日。


 何度も。


 名前を呼んだ。


 呼ばれた。


 たった。


 それだけ。


 でも。


 昨日まで。


 火。


 水。


 風。


 土。


 光。


 闇。


 六つ。


 並んでいたものが。


 少しずつ。


 人になった。


 強い人。


 正確な人。


 嫌味を言う人。


 明るい人。


 優しい人。


 怖がる人。


 止まれない人。


 間違いを恐れる人。


 狭いところが苦手な人。


 褒められると。


 少し嬉しい人。


 そして。


 自分。


 名前。


 アリシア。


 闇ではない。


 六番目だけでもない。


 そこにいる。


 一人の人間。


 名前を呼ぶことは。


 役割を忘れることではない。


 むしろ。


 その役割を担っているのが。


 誰なのか。


 思い出すこと。


 戦場で。


 怖くなった時。


 力へ入り込みすぎた時。


 止まれなくなった時。


 名前を呼ぶ。


 そこにいる人を。


 役割の奥から。


 呼び戻す。


 そして。


 できた時も。


 名前で言う。


『レオ、できた』


『セレナ、戻れた』


『フィン、仮説を言えた』


『ミリア、怖いと言えた』


『ルシアン、止まれた』


『アリシア、戻れた』


 そうやって。


 一つずつ。


 名前へ。


 できたことを。


 返していく。


 アリシアは。


 眠りへ落ちる前。


 もう一度。


 今日呼んだ名前を。


 心の中で。


 ゆっくり。


 並べた。


 レオ。


 セレナ。


 フィン。


 ミリア。


 ルシアン。


 メリル。


 ノア。


 おじいちゃん。


 そして。


 アリシア。


 最後に。


 自分の名前も。


 忘れなかった。


 それが。


 今日。


 一番。


 静かに嬉しかった。

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