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『忘れられた六つ目の神器に選ばれました 〜人見知りな闇の少女と毒舌黒猫の学園英雄譚〜』  作者: 伊佐波瑞樹


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第18話 特殊魔力反応



 再測定の翌朝、アリシアは不思議なほど深く眠っていたことに気づいた。


 目を開けた時、最初に見えたのは、見慣れ始めた天井だった。


 中央学園第一寮、二〇八号室。


 最初の日にはよそよそしく感じた白い天井も、今は少しだけ自分の部屋の一部になっている。


 窓の外から朝の光が入っていた。


 薄い金色の光が机の端を照らし、昨日の練習帳の上に柔らかく落ちている。


 アリシアはしばらく布団の中で動かなかった。


 昨日、再測定が終わった。


 黒い光は、また出た。


 水晶の中に、黒い月のような形が見えた。


 そして、黒猫の影も。


 教師たちはそれを、特殊魔力反応と呼んだ。


 未分類。


 個別指導。


 危険と決めつけられたわけではない。


 それでも、普通ではない。


 アリシアは胸元に手を当てた。


 心臓は静かに動いている。


 昨日のように、痛いほど速くはない。


 怖さはまだある。


 でも、昨日とは少し違う。


 見た。


 逃げずに、黒い光を見た。


 その事実が、胸の奥に小さく残っていた。


「起きてるなら起きなさい」


 枕元からノアの声がした。


 アリシアは顔を向ける。


 ノアは寝台の端で丸くなっていた。


 金色の瞳だけを開け、こちらを見ている。


「おはよう、ノア」


「おはよう」


「昨日……夢じゃないよね」


「夢なら、私もずいぶん面倒な夢を見たことになるわね」


「そっか……」


「黒い光は出た。個別指導になった。食堂で蜜煮も食べた。全部現実よ」


「うん」


 アリシアはゆっくり体を起こした。


 布団から出ると、足元が少し冷たい。


 でも昨日の朝のように、膝が震える感じはなかった。


「今日……みんなに、どう言えばいいかな」


「事実だけ言えばいいわ」


「事実……」


「特殊魔力反応として個別指導になった。危険とは判断されなかった。通常の魔法基礎には当面参加しない。それだけ」


「黒い月は?」


「言わなくていい」


 ノアの返事は早かった。


 アリシアは頷く。


「黒猫の影も?」


「当然」


「うん……」


 全部を話せない。


 それは少し苦しい。


 でも、全部を話すには早すぎる。


 アリシアにも、それは分かっていた。


 ノアは寝台から降り、尻尾を揺らす。


「嘘をつく必要はない。でも、全てを話す必要もない」


「うん」


「聞かれたら、分からないことは分からないと言いなさい」


「うん」


「それから、勝手に謝らない」


「……うん」


 アリシアは制服に着替えた。


 リボンは今日は一度で結べた。


 少し嬉しくなって鏡を見ると、ノアが言った。


「まあ、まともね」


「まとも……」


「褒めてるわよ」


「ありがとう」


「礼を言うほどじゃないわ」


 いつものやり取り。


 それが、昨日より少しだけ温かく感じた。


 扉を開けると、ちょうどメリルが廊下に出てきたところだった。


「アリシアちゃん、おはよう」


「おはよう、メリルさん」


 メリルはアリシアの顔を見て、少し安心したように笑った。


「少し眠れた?」


「うん……思ったより」


「よかった」


「昨日は……ありがとう。待っててくれて」


「ううん。約束だったから」


 約束。


 その言葉に、胸が柔らかくなる。


 二人と一匹は食堂へ向かった。


 廊下では、すでに何人かの新入生が歩いている。


 アリシアを見る視線はまだあった。


 けれど、その色は少し変わっていた。


 昨日、再測定があったことを知っている者もいるのだろう。


 小声が聞こえる。


「再測定、終わったのかな」


「個別指導になるって聞いた」


「特殊魔力反応だって」


「何それ」


「分かんない。でも危険とかじゃないらしいよ」


 危険じゃないらしい。


 その言葉が耳に入った瞬間、アリシアの胸が少しだけ軽くなった。


 教務主任たちが、何かしら学園内向けに説明したのかもしれない。


 少なくとも、前より悪い噂ではなかった。


 もちろん、好奇心はある。


 疑いも少しある。


 でも、魔族という言葉は聞こえなかった。


 アリシアはそっと息を吐いた。


 ノアが足元で言う。


「背筋」


「うん」


 アリシアは少しだけ背筋を伸ばした。


 食堂では、ガレスとミランダがいつもの席で待っていた。


「アリシア!」


 ミランダが手を振る。


「昨日の蜜煮、おいしかったね!」


「う、うん。おいしかった」


「今日も食べたい!」


「朝から?」


 メリルが笑う。


 ガレスは真剣に頷いた。


「甘いものは朝でもいい!」


「ガレス君まで……」


 アリシアは少し笑った。


 席につくと、ガレスが声を少し落として聞いた。


「体調はどうだ?」


「大丈夫。昨日は少し疲れたけど、眠れたから」


「そうか!」


 ミランダも安心したように頷く。


「よかった。昨日、部屋に戻る時、ちょっとふわふわしてたから」


「見てたの?」


「うん。心配だったから」


 ミランダのまっすぐな言葉に、アリシアは胸が温かくなる。


「ありがとう」


 メリルが優しく言う。


「今日から個別指導の予定も出るんだよね?」


「うん。初回は明日じゃなくて、明後日。グラン先生が見るって」


「グラン先生って、測定の時にいたローブの先生?」


「うん」


「優しそうだった?」


 アリシアは少し考えた。


 グラン先生は優しいというより、慎重で静かな人だった。


「静かな先生だった。怖くは……なかったと思う」


「それならよかった」


 ガレスが腕を組む。


「特殊魔力反応か。かっこいいな」


「か、かっこいい?」


「普通じゃないってことだろ?」


 アリシアは少し固まった。


 普通じゃない。


 その言葉は怖い。


 けれど、ガレスの声には悪意がない。


 ミランダも目を輝かせる。


「専用訓練だもんね! すごい!」


「すごいかは……まだ分からない」


 アリシアは小さく言った。


「でも……昨日よりは、怖くないかも」


 言葉にしてから、自分で驚いた。


 本当に、少しだけそう思った。


 黒い光は怖い。


 でも、見られた。


 教師たちも拒絶しなかった。


 友達もこうして一緒に食べてくれている。


 それだけで、恐怖は少し形を変える。


 メリルが嬉しそうに笑った。


「それ、すごく大事だと思う」


「うん」


 ノアが椅子の上で小皿を待ちながら呟く。


「ようやく少しは進歩したわね」


 アリシアは小さく笑いそうになった。


 生活基礎の授業では、学園内での情報の扱いについて教わった。


 セリア先生は黒板に「噂」「報告」「記録」と書いた。


「学園には多くの人がいます。人が多い場所では、情報が早く広がります。けれど、早く広がる情報ほど、正確とは限りません」


 アリシアの手が止まった。


 噂。


 自分のことだ。


 黒い反応。


 特殊魔力反応。


 個別指導。


 それらはきっと、今日も誰かの口に上っている。


 セリア先生は教室全体を見渡した。


「誰かについて聞いた話を、確認せず広めることは慎みましょう。特に、相手の評価や安全に関わる話は注意が必要です」


 何人かの生徒が、ちらりとアリシアの方を見た。


 アリシアは少し肩を縮めそうになった。


 しかし、ノアが机の下の籠からこちらを見ている気がした。


 背筋。


 アリシアは顔を下げすぎず、ノートへ視線を落とした。


 セリア先生は続ける。


「もし不安なことを聞いた時は、本人を問い詰めるのではなく、教師へ確認してください。相手には話したくないこともあります」


 その言葉は、アリシアの胸に深く染みた。


 話したくないこと。


 話せないこと。


 それがあってもいい。


 セリア先生がそう言ってくれたように感じた。


 授業後、セリア先生がアリシアに近づいてきた。


「アリシアさん」


「は、はい」


「昨日の再測定、お疲れさまでした」


「あ……ありがとうございます」


「今朝、教務主任から簡単な共有を受けています。しばらく魔法基礎は個別になるそうですね」


「はい」


「生活基礎や他の授業で困ることがあれば、いつでも言ってください。通常班と違う動きになると、予定の確認が難しくなることがありますから」


「はい……」


 アリシアは少し迷ってから言った。


「あの……個別指導になること、みんなと違って……少し不安です」


 言えた。


 不安を相談として言えた。


 セリア先生は穏やかに頷く。


「当然です。人と違う予定は不安になります」


「はい……」


「だからこそ、予定を書いて見える形にしましょう。今日の放課後、簡単な週間予定表を作りましょうか」


「いいんですか?」


「もちろん。生活基礎の一部です」


 アリシアは胸が軽くなった。


「ありがとうございます」


 今度の礼は、落ち着いて言えた。


 戦闘基礎では、エレナ教官がアリシアを見るなり言った。


「体調は?」


「大丈夫です」


「昨日、再測定だったな」


「はい」


「無理はするな。だが、できるなら動け」


「はい」


 短い。


 けれど、それで十分だった。


 エレナ教官は再測定の詳しい内容を聞かなかった。


 黒い光のことも聞かなかった。


 ただ、今日の体調と授業への参加を確認した。


 それがありがたかった。


 今日の訓練は、昨日の視線誘導に続き、相手の誘いに乗らない練習だった。


 相手がわざと隙を見せる。


 そこへ飛び込むか、待つか。


 初心者には難しい訓練だった。


 カイルは何度も飛び込み、エレナ教官に「単純」と言われた。


 ミーナは慎重になりすぎ、「槍の距離を殺している」と指摘された。


 メリルは風魔法を想定して距離を取りすぎ、「逃げ癖」と言われた。


 アリシアは、木刀を構えると静かになった。


 相手の隙を見る。


 でも、すぐには入らない。


 祖父はよく、わざと肩を落とした。


 わざと足を止めた。


 アリシアが飛び込むと、次の瞬間、木刀で額を軽く叩かれた。


『見えている隙ほど、まず疑え』


 祖父の声が耳に残っている。


 エレナ教官がアリシアの前で、わずかに右側を開けた。


 入れそうな隙。


 木刀なら届く距離。


 けれど、アリシアは動かなかった。


 半歩だけ、外へずれる。


 エレナ教官の眉がわずかに動く。


「なぜ入らない」


「……右側が、空きすぎていました」


「続けろ」


「誘いに見えました。入ったら、左手側から返されると思って……」


 エレナ教官は短く頷いた。


「正解だ」


 周囲が小さくざわめく。


 カイルが悔しそうに言う。


「俺、全部入った……」


 ミーナが苦笑する。


「私も最初の一回は入ったわ」


 メリルはアリシアを見る。


「アリシアちゃん、そういうの本当に見えるんだね」


「祖父に……何度も引っかけられたから」


 アリシアは少しだけ笑った。


 その笑顔に、三班の空気が少し和らぐ。


 エレナ教官はそれを見ていたが、何も言わなかった。


 授業後、カイルがまたアリシアに近づいてきた。


「誘いって、どう見分けるんだ?」


「えっと……全部は分からないけど」


「さっきのは?」


「隙が……綺麗すぎたから」


「綺麗すぎる?」


「本当に崩れた時は、もっと変になると思う。息とか、足とか、肩とか……でも、さっきの先生は、隙があるのに他が整ってたから」


 説明しながら、自分でも整理していく。


 カイルは真剣に頷いた。


「なるほど……隙だけ見るんじゃなくて、全体を見るのか」


「うん……たぶん」


「たぶん?」


 カイルが少し笑う。


 アリシアは慌てる。


「あ、えっと……私の祖父の教え方では、そうだった、かな」


「それで十分だよ」


 ミーナも横から言う。


「アリシアの説明、分かりやすいわ。自信なさげだけど」


「う……」


 メリルが笑う。


「そこがアリシアちゃんらしいけど、もう少し自信持ってもいいと思う」


 アリシアは顔を赤くした。


 ノアが壁際から近づき、尻尾で足を叩く。


「減点対象ね」


「小声で言わないで……」


 カイルが不思議そうにノアを見る。


「今、鳴いた?」


「あ、うん。ノア、お腹すいたのかな」


 ノアは完璧な猫の顔で鳴いた。


「にゃあ」


 ミーナが微笑む。


「賢い猫ね」


 ノアの尻尾が少し得意げに揺れた。


 昼食後、アリシアはセリア先生のもとで週間予定表を作った。


 生活基礎。


 戦闘基礎。


 魔法個別指導。


 図書館自習。


 食堂。


 寮の休息時間。


 紙に書き出すと、頭の中で絡まっていた予定が少し整った。


「予定が違うことは、不安を生みます」


 セリア先生は言った。


「でも、見える形にすると、不安は少し扱いやすくなります」


「はい……本当に、少し分かりやすいです」


「よかった。変更があれば、その都度書き換えましょう」


 アリシアは予定表を大切に持ち帰った。


 午後の自習時間、図書館へ行くと、意外な人物が歴史棚の前にいた。


 青髪のショート。


 眼鏡。


 手には分厚い本。


 リーネだった。


 アリシアは足を止めた。


 リーネもこちらに気づく。


「アリシアさん」


「あ……リーネさん」


 声が少し震えた。


 リーネは表情を変えずに言った。


「昨日の再測定は終わったのですね」


「は、はい」


「特殊魔力反応と聞きました」


 やはり知っている。


 アリシアは少し身構えた。


 リーネはそれに気づいたのか、眼鏡を押し上げた。


「警戒させるつもりはありません。興味はありますが、無理に聞くつもりもありません」


「興味……」


「未知の魔力反応は、学術的に非常に珍しいので」


 リーネは淡々と言った。


 悪意はない。


 ただ、本当に知的興味なのだろう。


「でも、あなたが話したくないことを聞くのは非効率です。信頼関係を損ねれば、得られる情報も減ります」


「えっと……」


 言い方は少し不思議だった。


 優しさなのか、合理性なのか。


 たぶん両方ではない。


 リーネはリーネなりの考えで、踏み込みすぎないようにしている。


 アリシアは少しだけ緊張を緩めた。


「ありがとう……ございます」


「礼は不要です」


 ノアが足元で小さく呟いた。


「私と似たこと言うわね」


 アリシアは吹き出しそうになった。


 リーネが首を傾げる。


「どうしました?」


「あ、いえ……ノアが」


 ノアはすました顔で座っている。


 リーネはノアを見る。


「その黒猫も、以前から気になっています」


 ノアの耳がぴくりと動く。


 アリシアの胸が跳ねる。


「え……」


「従魔登録では魔力微弱。しかし、あなたの測定反応と同時期に学園へ来ている。偶然かもしれませんが、観察対象としては興味深い」


 ノアは普通の猫の顔をしている。


 リーネはじっと見ている。


 アリシアはどう答えるか迷った。


 嘘はつきたくない。


 でも本当は言えない。


「ノアは……私の大事な子です」


 自然に出たのは、その言葉だった。


 リーネは少し目を瞬かせた。


「そうですか」


「はい」


「では、大事にするといいでしょう」


 意外な返事だった。


 アリシアは少し驚く。


 リーネは本へ視線を戻す。


「ところで、あなたは歴史資料を探しているのですか?」


「あ……はい。地方伝承を少し」


「五聖人関連?」


「……はい」


「なら、その棚より一つ奥です。そこは建国史中心なので、地方伝承は隣の分類にあります」


 リーネは迷いなく棚を示した。


 アリシアは驚いた。


「詳しいんですね」


「本の分類は覚えました」


「もう……?」


「必要なので」


 当然のように言う。


 すごい。


 アリシアは素直にそう思った。


「あの……ありがとうございます」


「礼は不要です。探す時間が短縮されるのは双方に有益です」


 やはり少し独特だった。


 けれど、嫌ではなかった。


 アリシアは示された棚へ向かった。


 そこには確かに、昨日見た地方伝承や口承記録に近い本が並んでいた。


 リーネの言う通りだった。


 しばらくして、リーネも近くの席に座った。


 彼女は水属性の魔法理論書を読んでいる。


 アリシアは地方伝承の本を開いている。


 会話はない。


 でも、沈黙が苦しくなかった。


 同じ机で、それぞれ違う本を読む。


 時々ページをめくる音だけがする。


 ノアは足元で丸くなっている。


 図書館の静けさの中、アリシアは少し不思議な気持ちになった。


 リーネとはまだ友達ではない。


 距離はある。


 でも、怖いだけの相手ではなくなった。


 知識で繋がれる人。


 そういう距離があるのかもしれない。


 夕方、部屋に戻ったアリシアは、練習帳を開いた。


『今日は再測定の結果が周りにも少し伝わっていました。特殊魔力反応という言葉になりました。まだ見られるけど、魔族という言葉は聞こえませんでした。セリア先生と予定表を作りました。戦闘基礎では誘いに乗らない練習をしました。図書館でリーネさんと話しました』


 ペンが止まる。


 リーネさんと話しました。


 その一文が少し不思議だった。


 五属性の一人。


 水の少女。


 冷静で、知識があって、少し不器用な人。


 アリシアは続けて書く。


『リーネさんは、私の反応に興味があると言いました。でも、無理に聞かないと言ってくれました。少し変わった言い方だったけど、嫌ではありませんでした』


 書き終えると、ノアが机の上へ飛び乗った。


「今日は?」


「点数?」


「ええ」


 ノアは少し考えた。


「八十七点」


「昨日より下がった……」


「昨日は再測定補正よ」


「補正、多いね……」


「今日はよくやったわ。噂に飲まれなかった。授業も受けた。予定表を作った。リーネとも話した」


「減点は?」


「リーネにノアのことを聞かれた時、顔が固まりすぎ」


「だって……」


「でも答えは悪くなかったわ」


 アリシアはノアを見る。


「私の大事な子、って言ったこと?」


 ノアの耳がぴくりと動く。


「……余計な確認をしない」


「あ、ごめ……じゃなくて、うん」


「減点を免れたわね」


 アリシアは少し笑った。


 窓の外は夕暮れだった。


 再測定は終わった。


 黒い光は、特殊魔力反応という名前を得た。


 日常は少しずつ戻っている。


 けれど、完全に同じではない。


 アリシアの中で、黒い光はもうただの恐怖ではなくなっていた。


 図書館の断片。


 夜の守り手。


 個別指導。


 リーネとの接点。


 新しい道が、少しずつ枝分かれしていく。


 怖い。


 でも、知りたい。


 アリシアは練習帳を閉じ、ノアの背を撫でた。


「明後日から、個別指導だね」


「そうね」


「怖いけど……少し、知りたい」


「それでいいわ」


 ノアは静かに目を細めた。


「怖さと知りたい気持ちが一緒にあるなら、今は十分よ」


 アリシアは頷いた。


 夜はまだ遠い。


 けれど、窓の外の空には、少しずつ青い影が混ざり始めていた。


 その色を、アリシアは以前より少しだけ優しいと思った。

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