第166話 感じたときだけを見るのではなく、感じなかったときに何が足りなかったのかも確かめる
翌朝、生活観測区画の窓には薄い雲がかかっていた。
昨日までの強い朝日とは違い、空全体が白く霞んでいる。雨が降るほどではないらしく、庭の石畳は乾いたままだったが、風には少し湿り気があり、植え込みの葉が揺れるたびに、まだ夏の始まりきらない柔らかな匂いが室内へ流れ込んできた。
アリシアは目を覚ますと、いつものように胸へ手を置いた。
冷たさはない。
震えもない。
痛みも、息苦しさもなかった。
昨夜、東側奥部では弱い自然変動が一度起きている。
そのとき確認されたのは、昨日まで「持続型」と暫定的に呼んでいる微弱な波形だった。
けれど、アリシア自身には何もなかった。
正確には、睡眠中だったため「何も感じなかった」と断言するより、「起きるほどの自覚反応は確認されなかった」とした方が正しい。
目を覚ましてからも、それらしい違和感は残っていない。
「……ない」
小さく呟く。
『何が?』
寝台の足元で丸くなっていたノアが、耳だけを動かした。
「冷たさ」
『今朝も?』
「うん」
『昨日の夜も寝てたんだから、当然じゃない?』
「寝てても感じることあるかもしれないでしょ」
『あるかもしれないけど、だからって毎朝胸を触って残響探すのもどうかと思うわよ』
「残響って何」
『知らない。今作った』
「適当じゃん」
『でも分かるでしょう』
「分かるのが悔しい」
アリシアは胸から手を離し、上体を起こした。
机の上には、朝の通常報告と一緒に、昨夜の自然変動だけを抜き出した薄い紙が置かれている。
昨日までなら、起きてすぐその紙へ手を伸ばしていたかもしれない。
今日は、少しだけ待った。
自分の身体を見た。
窓の外も見た。
それからようやく報告書へ手を伸ばす。
『一応、順番変えたのね』
「何が?」
『紙より先に自分見たでしょう』
「前から見てるよ」
『最近は紙と自分が同時だったわ』
「細かい」
『観測って細かいんでしょう?』
「便利に使うなあ」
ノアは返事の代わりに欠伸をした。
アリシアは昨夜の記録を開く。
時刻。
東側奥部新反応の弱い低下。
低下幅は小さい。
立ち上がりは緩やか。
継続時間は比較的長い。
その前後に、持続型の微弱波形候補。
名前のない光、変化なし。
小空洞、変化なし。
西側補助連絡線、明確な対応なし。
アリシア、自覚反応なし。
見慣れた形式だった。
けれど、その並びを見たとき、今までと少し違う問いが浮かんだ。
「……感じなかった方にも、ちゃんと形ある」
『何が?』
「昨日までは、感じたときの波形ばっかり気になってた」
『そりゃ、自分に関係してそうならね』
「でも感じなかったときにも波はある」
『ええ』
「しかも今回は持続型」
アリシアは紙へ顔を近づける。
「変調型じゃない」
『だから?』
「変調型だと感じやすいかもしれないって思ってた。でも、今までは感じた方を中心に比べてたでしょう」
『そうね』
「感じなかった持続型をちゃんと並べたら、変調型に何があって、持続型に何がないのか見えるかもしれない」
ノアは少しだけ目を開いた。
『ようやく「なかったもの」に興味が出てきたのね』
「前から見てるよ」
『前は“感じなかった”って事実を残してた。今は“感じなかった方に何が欠けてるか”を探そうとしてる』
言われて、アリシアは少し黙った。
「……違う?」
『少しね』
「いい違い?」
『知らない。サーラに聞きなさい』
「ノアが言ったのに」
『私は猫よ』
「それ便利すぎる」
そのやり取りの途中で、隣の寝台から小さな布の音がした。
「……朝?」
子供が目を開ける。
「うん。おはよう」
「おはよう」
今朝の子供は、すぐ窓を見なかった。
最初に自分の両手を見る。
指を動かす。
それから足元の布団を押し下げる。
「手、大丈夫」
「うん」
「昨日、黒いの触ったから」
木箱の中。
茶色い布状のものの下にあった、冷たく硬い黒っぽい物体。
昨日初めて指先で触れた。
触れたあと、子供自身の怖さが五まで上がり、そこで箱を閉じた。
「痛くない?」
「ない」
「変な感じは?」
「ない」
「じゃあ今日も触る?」
アリシアは聞かない。
子供自身が少し考えてから口を開く。
「分からない」
「うん」
「でも昨日、冷たいと硬いは分かった」
「うん」
「黒いの、なくなった?」
「箱開けないと分からないね」
「うん」
子供はそれ以上すぐ箱へ向かわなかった。
代わりに、隣の寝台を見る。
「おはよう」
顔のない存在は横になったままだった。
胸の十一の光。
朝の薄曇りの中では、いつもより少し見えにくい。
子供は目を細める。
「……一つ?」
少し待つ。
もう一つ。
「二つ」
さらに少しして、三つ目がごく弱く明るくなる。
「三つ目、弱い」
アリシアも目を向ける。
「うん」
「明るいに入れる?」
以前なら数だけを決めたかったかもしれない。
今の子供は少し迷ってから、自分で言う。
「……三つ目は、少し明るい」
「うん」
「二つは明るい。もう一つは少し」
「それで残す?」
「うん」
子供は机に置かれている小さな記録紙を取る。
最近は、十一の光の「数」だけでなく、どの位置が明るいかも、簡単な丸の並びで残すようになっていた。
十一個の小さな丸。
そのうち二つへ色をつける。
三つ目は、少し薄く。
「昨日の位置と同じ?」
アリシアが尋ねる。
子供は昨日の紙を見ようとして、一度止まる。
「比べる?」
「子供が見たいなら」
少し考えた。
「今は今日だけ書く」
「うん」
「あとで比べるかも」
「うん」
子供は今日の三つだけを残した。
◇
朝食の頃には、昨夜の自然変動について学院長から正式な説明が入った。
「学院長」
「いるぞ」
「今日も寝た?」
子供が先に聞く。
「寝た」
「何時間?」
「昨日より長い」
「何時間?」
「六時間」
「増えた」
「増えた」
「いい?」
学院長が一瞬止まる。
「睡眠時間だけ見ればな」
「じゃあ今日は六時間の日」
「そうしてくれ」
アリシアは麦粥を食べながら笑った。
『完全に定着したわね』
「何が?」
『学院長の睡眠記録』
「本人嫌そう」
「聞こえてるぞ」
軽いやり取りが終わってから、学院長の声が少し真面目になる。
「昨夜の東側自然変動について、朝の照合が終わった」
アリシアはすぐに顔を上げた。
「持続型?」
「ああ。現時点ではそう分類している」
「変調は?」
「ほぼなし」
「奥側の低下は?」
「小さい。立ち上がりも緩やか」
「私、寝てた」
「そうだ」
「起きなかった」
「そうだな」
学院長は少し間を置いた。
「ただし、“何も感じなかった”ではなく、“睡眠を中断するほどの自覚反応は確認されなかった”と記録している」
「うん」
「起床後も?」
「ない」
「なら、それも追加しておく」
子供が麦粥を混ぜながら聞く。
「昨日の昼は感じた?」
「うん」
「昨日の夜は感じなかった」
「うん」
「何が違う?」
「それを今日考える」
アリシアが答えると、学院長も続ける。
「昨日までの整理では、アリシアが自覚反応を示した記録は、変調型かそれに近い波形と重なることが多い」
「持続型は?」
「無反応側に多い」
「じゃあ持続型は感じない?」
子供の問いに、アリシアはすぐ答えようとして口を閉じた。
「……今の記録では、感じないことが多い」
「絶対じゃない?」
「うん」
「どうして?」
学院長が答える。
「持続型でも強さや途中の変化が条件を超えれば感じる可能性がある。逆に変調型でも弱すぎれば感じない例が一つある」
「じゃあ、形だけじゃない」
「そうだ」
「強さも?」
「候補だ」
「速さも?」
「候補」
「長さも?」
「候補」
子供が露骨に眉を寄せる。
「またいっぱい」
「増えたっていうより、分けてる途中かな」
アリシアが言う。
「分ける?」
「うん。前は全部“何か波がある”だった。でも今は、短いの、長いの、途中で変わるのって分けてる」
「そしたら?」
「どれなら私が感じるか比べられる」
「感じなかったのも?」
「うん」
子供は少し考え、木箱へ視線を向けた。
「昨日、黒いの触った」
「うん」
「今日はまだ触ってない」
「うん」
「触った日と触らない日、違う?」
「違うね」
「触らなかったら分からない?」
「触らなくても、見えるものはあるかも」
「昨日、触る前に冷たいか分からなかった」
「うん」
「でも黒いは見えた」
「うん」
「じゃあ、しなかったことも比べる?」
「そういうことかも」
子供は少し納得したように頷いた。
◇
午前の会議では、最初から「次の刺激を入れるか」ではなく、「昨夜感じなかった記録をどう扱うか」が議題になった。
場所は生活観測区画近くの小会議室。
学院長、副学院長、サーラ、魔導具教師、土の神器継承者、安全管理担当、治療教師、若い観測員、そしてアリシアとノア。
若い観測員は、席につく前から少し嬉しそうだった。
「今日は俺、最初から呼ばれてます」
「昨日もいただろ」
副学院長が資料を受け取る。
「そうなんですけど、最近ちゃんと会議員みたいになってきたなって」
「調子に乗るな」
「乗ってません」
「顔が乗ってる」
「顔で判断しないでくださいよ」
『人のこと言えないわね』
ノアの声に、アリシアが少し笑う。
「ノア何て?」
若い観測員が尋ねる。
「顔に出てるって」
「猫にまで」
『までって何よ』
「怒った」
「すみません」
いつものように、少しだけ空気が緩んだ。
そのあと、サーラが机へ三種類の記録を並べた。
「今日、最初に比べるのはここです」
短時間型。
持続型。
変調型。
それぞれ数例ずつ。
ただし、波形が完全に同じものをまとめたわけではない。
暫定分類だ。
「アリシアさんが自覚反応を示した七例」
サーラが一枚目を指す。
「変調型または変調型に近いものが五。短時間型が一。残り一は当時の波形記録が不十分です」
「無反応側は?」
アリシアが尋ねる。
「東側奥部に変化があったが、アリシアさんに確認できる自覚反応がなかった九例。変調型一、持続型四、短時間型二、波形としては判定不能または確認なしが二」
若い観測員が腕を組む。
「やっぱり変調型が多い」
「反応あり側には、ですね」
「無反応側の変調型一つは?」
「かなり弱い」
「どのくらい?」
魔導具教師が別紙を差し出す。
「現時点で単純比較できる範囲では、アリシアさんが〇・五程度の冷感を申告した最弱例より、さらに三割前後低い」
「じゃあ閾値?」
若い観測員が言う。
すぐ自分で続ける。
「の可能性」
「そうです」
サーラが頷く。
「ただし、強度だけで説明すると、まだ合わない例があります」
「どれ?」
「短時間型でアリシアさんが反応した一例です。最大振幅は弱い。ただし立ち上がりが非常に急でした」
アリシアがその資料を見る。
「じゃあ、弱くても急なら感じることある」
「可能性があります」
「持続型は?」
「弱い状態が長く続くものが多く、立ち上がりも緩やかです」
「だから感じにくい?」
「候補です」
若い観測員が指で机を叩きながら考える。
「強さだけじゃない。速さだけでもない。変調型ってこと自体が大事かもしれない。でも変調型でも弱すぎると感じない」
「はい」
「じゃあ……変化量?」
サーラは目を上げる。
「どういう意味ですか?」
「最初から強いかじゃなくて、途中でどのくらい変わるか。振幅の差」
魔導具教師が資料を取る。
「それは比較していませんね」
「できる?」
アリシアが尋ねる。
「できます。波形記録が残っているものについては」
「今?」
「計算自体は」
若い観測員が少し得意そうな顔をする。
「俺やります?」
副学院長が即答する。
「サーラと二人でやれ」
「一人じゃない」
「信用は半分だ」
「上がってる!」
「前は三割だったんですか?」
記録係が笑う。
サーラも少し呆れながら資料を集める。
「では、変調幅も比較対象へ追加します」
アリシアは、その言葉を聞いた瞬間に少しだけ身を乗り出した。
「今日、刺激しない?」
学院長が横目で見る。
「したいか?」
「したい」
「何点?」
「八」
「でも?」
アリシアは少し口を閉じた。
以前なら、ここで「やりたいからやる」と気持ちが先へ出ていたかもしれない。
「……今、比較項目増えた」
「うん」
「変調幅を見て、それで次の刺激条件決めた方がいい?」
「俺はそう思ってる」
「じゃあ今日は刺激なし?」
「少なくとも午前は」
「午後は?」
「この比較結果次第だ」
「すぐやりたい」
「そうか」
「でも」
アリシアは自分の胸へ手を置く。
「今日やらない方が、次の一回がちゃんと使えるなら、待つ」
学院長が少しだけ笑う。
「昨日までより言うの早くなったな」
「いっぱいやったから」
『待つ練習ばっかりね』
「ノア何て?」
「進歩したって」
『そんな綺麗に訳してないわよ』
会議室に小さな笑いが起きた。
◇
午前の後半。
アリシアは会議室へ残らなかった。
比較計算はサーラたちへ任せ、生活観測区画へ戻る。
以前なら、自分のことに関係するなら最後まで張り付いていたかった。
今日は少し違う。
必要になれば呼ばれる。
それまで自分ができることはない。
そう思って戻った。
「帰った」
子供が机から顔を上げる。
「ただいま」
「刺激した?」
「まだ」
「しない?」
「今日は比較してから」
「行きたい?」
「刺激したいは八」
「でもしない?」
「まだね」
子供は少し考える。
「私も箱、まだ」
「触らない?」
「今は」
木箱は朝から閉じたままだった。
「開けたいは?」
「六」
「怖さは?」
「二」
「じゃあ開ける?」
子供は少し笑う。
「数字だけじゃ決めない」
「そうだった」
『完全に返されてるわね』
「ノアうるさい」
子供は箱を見た。
「昨日触った黒いの、今日も同じか知りたい」
「うん」
「でも今日は、先に絵描く」
「何の?」
「昨日触ったときの」
机の上に、十一の光を記録した紙とは別の白紙が置かれている。
子供はそこへ木箱の形を描き始めた。
蓋。
茶色いもの。
その下に少しだけ見えた黒い細長い形。
完全に正確ではない。
それでも、昨日自分が見た範囲を、自分の手で残そうとしている。
「黒いの、こんな?」
アリシアが近くで尋ねる。
「もっと細い?」
「分からない」
「じゃあ?」
「昨日見えた感じ」
「うん」
「本当の形と違うかも」
「それでも残す?」
「うん。昨日の私がそう見えた」
アリシアは少し黙った。
「それ、大事かも」
「何が?」
「見えたものと、本当のものが同じじゃないかもしれないって分けること」
子供は筆を止める。
「絵、嘘?」
「嘘じゃないよ。子供が昨日そう見た記録」
「本物じゃない?」
「本物そのものではない」
「うん」
子供は少し考えてから、紙の端に小さく書く。
『昨日見えた』
文字はまだ少し歪んでいる。
「これでいい?」
「うん」
そのあと、子供はようやく木箱へ近づいた。
「開けたい七」
「上がった」
「絵描いたら、もう一回見たくなった」
「怖さは?」
「三」
両手を蓋へ添える。
ゆっくり持ち上げる。
昨日と同じくらい。
茶色いもの。
その隙間の奥。
黒っぽいもの。
「ある」
「うん」
「昨日と同じ?」
子供はすぐには答えない。
目を細めて見る。
「……似てる」
「同じとは言わない?」
「分からない」
「うん」
子供は昨日触れた位置へ指を近づける。
けれど、触れる直前で止めた。
「今日は触らない」
「どうして?」
「見たら、絵と少し違った」
「どこが?」
「もっと横にある」
子供は目線で追う。
「細いと思ったけど、横に続いてるかも」
「そうなんだ」
「今日触ったら、また触った方が気になって、形見なくなるかも」
アリシアは少し驚いた。
「今日は見る方?」
「うん」
「触りたいは?」
「五」
「下がった?」
「形見たいが大きくなった」
「そっか」
子供は箱を閉じず、しばらく蓋を持ったまま見ていた。
「茶色いの、少しずらしたらもっと見える?」
「そうかもしれない」
「触ることになる」
「うん」
「じゃあ今日はしない」
「うん」
数十呼吸。
それだけ見て、子供は蓋を戻した。
「今日分かったの?」
「黒いの、昨日思ったより横にあるかも」
「うん」
「触らなくても分かった」
「そうだね」
「昨日触ったから、触るのが次だと思った」
「うん」
「でも次、見るでもいい」
「うん」
子供は少し嬉しそうに笑った。
◇
昼前。
比較結果が出た。
サーラが生活観測区画へ直接来た。
学院長は扉の外。
若い観測員も一緒だ。
「結果出ました」
「早い」
「計算自体は単純でしたから」
若い観測員が言う。
「俺が半分」
「三割です」
サーラが即座に訂正する。
「減った!」
「最初の整理で二回列をずらしましたよね」
「直したじゃないですか」
「だから三割です」
『厳しいわね』
「ノアが笑ってる」
「もう慣れました」
アリシアは資料を受け取る。
「で、どうだった?」
サーラが机へ三枚の紙を並べた。
「変調幅を比べると、アリシアさんが自覚反応を示した五例では、全て一定以上の振幅変化があります」
「全部?」
「現存記録上は」
「無反応側の変調型は?」
「変調幅がかなり小さい」
「じゃあ、変調型の強さ?」
「より正確には、“変調前後の差”が候補として上がります」
アリシアは紙を見る。
波形の高さそのものより。
途中でどれだけ変わったか。
「最初弱くても、途中で大きく変われば感じる?」
「可能性があります」
「最初から強くても、あまり変わらないと感じない?」
「今のところ、そういう比較に使える例が足りません」
「じゃあ次、それ?」
アリシアの声が少し速くなる。
学院長が扉の外で言う。
「落ち着け」
「落ち着いてる」
『顔は走ってるわよ』
「ノアうるさい」
「次の刺激候補は二つです」
サーラが言う。
「一つ。開始強度を昨日と同程度にして、途中の振幅だけ少し変える」
「変調幅を見る」
「はい」
「もう一つ?」
「開始強度を少し上げるが、途中で変化させない」
「強いけど一定」
「そうです」
アリシアは目を見開く。
「それなら、強さと変調幅を分けられる」
「一日で両方はやりません」
「分かってる」
「本当に?」
「分かってるってば」
若い観測員が小さく笑う。
「俺も最初そうでした」
「今もでしょ」
アリシアが返すと、彼は一瞬黙った。
「……そうですね」
「素直」
「成長です」
サーラが咳払いする。
「今日行うなら、私は“変調幅だけを増やす”案を推します」
「どうして?」
「今の記録で最も差が見えた項目だからです」
「強さ固定?」
「開始強度は昨日と同程度。途中から一段だけ振幅を増やす。ただし安全範囲内です」
「何呼吸?」
「全体は十呼吸。前半五呼吸は昨日と同程度。後半五呼吸だけ一段上げる」
「昨日より長い」
「そうです」
アリシアの眉が少し寄る。
「条件二つ変わらない?」
サーラの目がわずかに動く。
「長さと変調幅」
「そうですね」
「じゃあ分かりにくくならない?」
会議の空気が少し変わる。
若い観測員がアリシアを見る。
学院長は何も言わない。
サーラが少し考えてから答えた。
「その指摘は正しいです」
「じゃあ?」
「全体を五呼吸のままにします。前半二呼吸は昨日と同程度、後半三呼吸で一段だけ上げる」
「短い?」
「変調幅を作るには足ります」
「安全?」
「昨日の総負荷を超えません」
アリシアは少し安心して息を吐いた。
「それなら一個だけ?」
「厳密には波形形状は変わります。ただ、観測目的としては変調幅に絞れます」
学院長が扉の外から言う。
「よく気づいたな」
アリシアは少し照れた。
「いっぱい言われたから」
『今日は本当に褒められてるわよ』
「珍しい?」
『私じゃなくて学院長に』
「そっちか」
子供が二人を見て笑う。
◇
午後。
刺激試験は予定通り、一条件だけで行われることになった。
アリシアの位置は生活観測区画。
昨日と同じ椅子。
同じ向き。
できるだけ同じ人数。
同じ時間帯に近づけるため、開始時刻も昨日とほぼ同じにした。
ただし、天候。
アリシアの睡眠時間。
朝食。
気分。
完全に同じにはできない。
それも全部記録した。
「開始前確認」
サーラが言う。
「痛み」
「ゼロ」
「苦しさ」
「ゼロ」
「胸部違和感」
「なし」
「疲労」
「一」
「怖さ」
「三」
「期待」
「九」
『高い』
「分かってる」
「参加したい気持ち」
「九」
子供が横から聞く。
「昨日より上がった」
「今日は見たいことはっきりしてるから」
「変調幅?」
「うん」
「難しい言葉」
「私も昨日までちゃんと分かってなかった」
「今は?」
「途中でどのくらい変わるか」
「そっちの方が分かる」
「私も」
安全管理担当が扉の外から確認する。
「停止条件は昨日と同じです。痛み一以上、苦しさ一以上で即申告。怖さ六で終了。ただし数値に関係なく本人希望で終了可能」
「うん」
「刺激中に自然変動が先行した場合は中止」
「うん」
「東側準備?」
『完了しています』
「西側」
『完了』
「名前のない光、小空洞、十一の光については通常観測のみ。意図的な刺激・関連付けはしない」
「十一の光も?」
子供が聞く。
「記録は続けます。ただし今日の刺激との関係を見る試験ではありません」
「うん」
子供は納得したように頷く。
顔のない存在は寝台へ横になっている。
胸の十一の光は、昼前から二つだけ少し明るい。
子供は、それを刺激試験へ結びつける言葉を口にしなかった。
「開始まで十呼吸」
室内が静かになる。
アリシアの呼吸。
換気術式。
窓の外で葉が擦れる音。
ノアは机の上で座っている。
子供は自分の椅子に座り、黙っている。
五呼吸。
四。
三。
二。
一。
『刺激開始』
前半。
一呼吸。
二呼吸。
昨日と同程度の弱い刺激。
アリシアには何もない。
三呼吸目。
後半へ切り替わる。
『振幅一段上昇』
四呼吸。
胸は静か。
五呼吸。
『刺激終了』
アリシアは少し息を止めそうになり、すぐ吐いた。
「今、何もない」
「記録」
六呼吸。
七。
『東側補助連絡線、減衰開始』
八。
九。
十。
まだない。
アリシアの胸に、落胆が少しだけ入り始める。
「期待、七」
「下がった?」
子供が小さく聞く。
「うん」
「怖さ?」
「三」
十一。
十二。
十三。
『奥側新反応、低下開始』
昨日より一呼吸ほど早い。
その直後。
アリシアの胸の奥へ、冷たさが触れた。
「来た」
昨日よりはっきりしている。
「強さ?」
「一」
「痛み」
「ゼロ」
「苦しさ」
「ゼロ」
「方向」
「東寄り」
「怖さ」
「四」
東側から続報。
『奥側低下、継続。変調型波形候補、振幅上昇確認』
その言葉から一呼吸も経たないうちに。
冷たさが少し増した。
「……一・五」
サーラの筆が速くなる。
「上がった?」
「うん」
「昨日最大一」
「今日は一・五」
アリシア自身も、その差をはっきり感じる。
痛くはない。
けれど、昨日より存在感がある。
冷たい指先で胸の奥を軽く押されているような感覚。
「怖さ四・五」
「相談基準五未満」
「うん」
「続けたい?」
「続ける」
刺激はすでに終わっている。
ここからは反応の推移を見るだけ。
『変調型振幅、現在最大』
同時に。
「……二」
アリシアが息を吸う。
昨日より明確に強い。
ノアが机の上で立ち上がった。
『アリシア』
「痛くない」
『聞いてない』
「大丈夫……じゃなくて、痛みゼロ、苦しさゼロ、怖さ五」
安全管理担当がすぐ反応する。
「怖さ五。継続相談です」
アリシアは胸へ手を当てた。
冷たさ二。
怖さ五。
知りたい気持ちは、まだ高い。
「ここで見たい」
「前進や追加刺激はありません」
「うん」
「今の反応が強くなれば終了します」
「分かった」
サーラが確認する。
「本人継続希望。現条件維持」
数呼吸。
冷たさ二。
それ以上は上がらない。
東側奥部の低下も最大付近。
変調波形も最大。
その後、先に変調幅が縮まり始めた。
『変調波形、減衰』
アリシアの冷たさも。
「一・五」
少し遅れて。
「一」
さらに。
「〇・五」
『奥側新反応、基準復帰へ』
アリシアの胸から冷たさが抜ける。
「消えた」
数呼吸後。
『奥側新反応、基準値復帰』
西側。
さらに遅れて。
『微弱対応波形を確認』
「私?」
サーラが聞く。
「何もない」
「怖さ」
「三」
「期待」
アリシアは少し笑った。
「九」
『戻ったわね』
「だって」
子供も笑う。
「嬉しい?」
「かなり」
◇
刺激後観測を終えたあと、最初に行われたのは喜ぶことではなく、安全確認だった。
痛みゼロ。
苦しさゼロ。
冷感ゼロ。
頭痛なし。
指先異常なし。
疲労二。
怖さ二。
魔力循環にも明確な乱れはない。
治療教師が最後に頷く。
「現時点で身体への負荷増大は確認できません」
アリシアはそこでようやく大きく息を吐いた。
「……終わった」
「うん」
子供が少し身を乗り出す。
「昨日より冷たかった?」
「うん」
「昨日一?」
「最大一」
「今日は二」
「うん」
「波も大きかった?」
サーラが答える。
「変調幅は、昨日より大きかったです」
「じゃあ同じ?」
子供が言う。
アリシアはすぐ頷きそうになり、止まる。
「……似た変わり方」
「同じじゃない?」
「同じ方向に増えた」
「うん」
「でも一回だから」
「また?」
「また」
子供は少し不満そうにしつつも、以前ほど苛立たなかった。
「でも前より?」
「かなり材料増えた」
アリシアは胸へ手を置く。
「波の変わり方が大きくなったら、私の冷たさも強くなった」
「感じなかった持続型は?」
「変わり方が小さかった」
「じゃあ、感じるのは変わる波?」
「今はそれが一番近そう」
子供は少し考える。
「変わるのが大きいと、アリシア分かる?」
「かもしれない」
「それ、六つ目?」
「たぶん、六つ目に関係する感覚」
「まだ名前ない」
「うん」
「でも、前より形ある」
「うん」
子供は少し笑った。
「分からない、また小さくなった」
「少しね」
◇
午後の照合会議では、珍しく最初から空気が少し明るかった。
だからこそ、サーラは冒頭で釘を刺した。
「結果が期待と合ったからこそ、慎重に見ます」
若い観測員が頷く。
「こういうときが一番危ない」
「何が?」
アリシアが聞く。
「『ほら当たった』って言いたくなるんですよ」
「言いたい」
「ですよね」
「お前が共感してどうする」
副学院長が呆れる。
「でも、言いたくなるのは事実です」
「言うのはいい。記録と結論を混ぜるな」
「はい」
アリシアも頷く。
「私も言いたい」
「何を?」
「変調幅で感じるって」
サーラが少し笑う。
「では、言ってください」
「え?」
「感想として」
アリシアは少し戸惑う。
「……変調幅が大きいと感じる気がする」
「はい」
「かなり」
「はい」
「嬉しい」
「それも記録しますか?」
「自分の練習帳に」
「それがいいですね」
会議が始まる。
昨日。
刺激開始後十四呼吸で奥側低下。
アリシア冷感最大一。
変調幅、小。
今日。
刺激開始後十三呼吸前後で奥側低下。
アリシア冷感最大二。
変調幅、昨日より明確に大。
開始強度は同等。
総刺激量は安全範囲。
西側対応波形は両日とも遅延。
西側対応時、アリシア自覚反応なし。
「時間対応」
若い観測員が指す。
「今日も東側奥部変化とアリシアさんの冷感開始は近い」
「はい」
「変調幅が増えたあと、冷感も強くなった」
「はい」
「最大点も近い」
「はい」
「復帰も近い」
「はい」
「西側は遅れて出たけど、アリシアさん無反応」
「はい」
若い観測員は一度息を吸った。
「少なくとも二回の比較では、変調幅が大きい条件ほど、アリシアさんの自覚反応が強い」
「そう言えます」
アリシアの目が少し大きくなる。
「言っていい?」
「二回の比較では、という条件付きで」
「……嬉しい」
『そこじゃないでしょう』
「でも」
サーラも否定しなかった。
「重要な進展です」
アリシアは少し黙った。
自分が期待していた方向へ、一つ結果が寄った。
嬉しい。
だからこそ。
「次、もっと強くする?」
口から出る。
そして自分で止まる。
「……は、すぐじゃない」
学院長が笑う。
「早かったな」
「言い直すの?」
「うん」
アリシアは少し恥ずかしくなる。
「強くしたらもっと感じるか確かめたい。でも、今日は怖さ五まで上がった」
「そうだ」
「冷感二でも痛くはなかったけど、前より怖かった」
「うん」
「だから次、同じ日にもう一段上げるのは嫌」
安全管理担当が頷く。
「その判断でいいです」
「明日も?」
「明日については、今日の身体状態と夜間経過を見てから」
「うん」
「さらに強度を上げるかどうかも未定」
「分かってる」
アリシアは一度、資料へ視線を落とす。
「次は強さより速度かもしれない」
魔導具教師が言う。
「どうして?」
「今日、変調幅と自覚反応の強さが対応する可能性は上がった。ただ、変調幅を作るために途中の立ち上がりも変わっている」
「完全に一個じゃない?」
「完全には分けられません」
アリシアの眉が寄る。
「じゃあ今日のも?」
「価値はあります。ただ、次は立ち上がり速度を一定にして振幅を変える、あるいは振幅差を同じにして速度だけを変える必要があります」
「難しい」
「観測はだいたいそういうものです」
若い観測員が言う。
アリシアが彼を見る。
「サーラさんみたい」
「嬉しいような怖いような」
「褒めてます」
「褒め方を学んだ方がいいですね」
サーラが真顔で返し、会議室に笑いが起きた。
◇
夕方。
生活観測区画へ戻ると、子供は木箱を開けてはいなかった。
代わりに、昼前に描いた絵の横へ、もう一本の線を足している。
「何描いたの?」
「今日見た黒いの」
「昨日より横に続いてるかもってやつ?」
「うん」
「触らなかったね」
「うん」
「今、触りたい?」
「四」
「下がった?」
「絵描いたから」
「怖さは?」
「二」
子供は紙を見つめる。
「触るより、形気になる」
「そっか」
「明日、茶色いの少し動かしたいかも」
「うん」
「でも、茶色いの動かすと黒いの触るかもしれない」
「そうだね」
「じゃあ、茶色いのだけ動かせるか先に見る」
「うん」
子供はそこで、アリシアの顔を見る。
「アリシア、今日強かった?」
「冷たいの?」
「うん」
「昨日より」
「怖かった?」
「最高で五」
子供の表情が少し真剣になる。
「止めた?」
「追加の刺激はもうなかった。そこで観測続けるか相談して、私はその場で見る方を選んだ」
「六じゃない」
「うん」
「五は相談」
「うん」
「見たいが大きかった?」
「うん。でも、もっと強くなったら止めるって決めた」
「強くならなかった?」
「二で止まって、そのあと下がった」
「じゃあ今日そこまで」
「うん」
子供は少し安心したように頷いた。
「次、もっと強いのする?」
「まだ決めてない」
「したい?」
「今は六」
「下がった」
「今日、思ったより怖かったから」
「知りたいは?」
「九」
「そこ高い」
「うん」
子供が笑う。
「知りたい九でも、やりたい六」
「別なんだよね」
「数字いっぱい」
「でも分かりやすい」
「うん」
◇
夜。
顔のない存在は、夕食前に三歩だけ歩いた。
子供は途中で数えず、座ったあとに「今日は三」と残した。
胸の十一の光は、その時点で四つが明るかった。
朝に少しだけ明るかった三つ目は、夜にははっきり明るくなっている。
ただし、別の一つは暗くなった。
子供は十一個の丸を描いた紙へ、その位置を残した。
「朝と違う」
「うん」
「数は?」
「朝は二つ明るい、一つ少し。今は四つ明るい」
「増えた?」
子供は少し考えた。
「明るい数は増えた」
「うん」
「今日、アリシア刺激した」
そこでアリシアの心臓が少しだけ跳ねる。
子供も自分で止まる。
「……でも関係あるは分からない」
「うん」
「時間、同じ?」
「顔のない人が歩いたのも、光が変わったのも、刺激試験からかなりあとだよ」
「じゃあ近くない」
「少なくとも時間はね」
「記録する?」
「十一の光はいつも通り残す」
「刺激と一緒にする?」
「今はしない」
子供が頷く。
「まだ根拠ない」
「うん」
その言葉を聞いて、アリシアは少し笑った。
「言うようになったね」
「アリシアも」
「私も?」
「いっぱい言ってる」
「確かに」
『二人して観測員みたいになってるわね』
「ノア何て?」
「褒めてる」
『半分』
「半分だって」
「いつも半分」
子供が笑った。
◇
寝る前。
アリシアは自分の練習帳を開いた。
今日書くことは、昨日よりさらに多かった。
昨夜の持続型。
自分は眠っていて、自覚反応なし。
起床後にも残留感なし。
午前、変調型と持続型を比較。
変調幅が、自覚反応あり側で大きい傾向。
午後。
開始強度を昨日とほぼ同じにし、途中の変調幅だけ大きくする刺激。
東側奥部低下。
変調波形の振幅上昇。
自分の冷感〇から一、一・五、最大二。
怖さ最大五。
痛みゼロ。
苦しさゼロ。
西側対応時は自覚反応なし。
書き終えてから、アリシアは筆を止めた。
学院の正式記録なら、ここまでで十分だ。
自分の記録には、もう少し書きたい。
『昨夜感じなかった持続型を見たことで、今日の変調型との違いが分かった。感じなかった記録がなかったら、今日の結果だけ見て「強い波なら感じる」と決めたかもしれない』
そこで少し考える。
もう一行。
『今日は期待した通りの結果が出て嬉しかった。だからこそ、次は期待と違う結果が出ても同じように残したい』
『随分殊勝じゃない』
「何その言い方」
ノアが机の横へ座る。
『嬉しかったんでしょう』
「かなり」
『なら喜べばいいのよ』
「喜んでる」
『でも、喜んでる自分を警戒してる』
「ちょっと」
『何で?』
「答え見つけた気になりそうだから」
『なれば?』
「え?」
思っていなかった返事に、アリシアは目を瞬く。
『一瞬くらい、「これかも!」って喜んでもいいでしょう』
「でも」
『そのあと記録見て、「まだか」って戻ればいいのよ』
「そんな軽くていいの?」
『何でも一回で完璧にしようとする方が、あなたには危ないわ』
アリシアは少し黙った。
「……じゃあ」
『何?』
「今日は、ちょっとだけ当たった気がして嬉しい」
『ええ』
「変調幅かもしれない」
『そうね』
「六つ目が、その変化を感じてるのかもしれない」
『そうかもしれない』
「私、ちょっと近づいたかも」
『何に?』
アリシアは胸へ手を置いた。
「六つ目が何なのかに」
ノアは今度、すぐには茶化さなかった。
『そうね』
短い返事だった。
それで十分だった。
◇
その夜。
東側地下区画には、新しい大きな変動は起きなかった。
名前のない光は同じ位置。
小空洞も静穏。
奥側新反応も基準範囲。
西側補助連絡線にも新しい対応波形なし。
生活観測区画では、子供が木箱を開けずに眠り、顔のない存在の十一の光は三つまで明るさを落としていた。
アリシアの胸にも、冷たさは残っていない。
けれど、今日得られた比較は残っている。
感じた変調型。
感じなかった持続型。
弱い変調では感じなかった例。
変調幅を大きくしたとき、昨日より強くなった冷感。
東側奥部との近い時間対応。
西側へ遅れて出た反応を、アリシアは感じなかったこと。
まだ正式な答えではない。
六つ目が何を受け取っているのかも分からない。
受け取っているのかさえ、本当には分からない。
通信波候補が本当に「通信」なのかも不明。
それでも、以前より一つだけはっきりしたことがある。
感じた記録だけでは、境目は見えない。
感じなかった記録があるからこそ。
何が足りなかったのか。
どこから違い始めたのか。
そこを比べることができる。
強さなのか。
速さなのか。
変調幅なのか。
継続時間なのか。
その組み合わせなのか。
次の問いは、昨日よりずっと小さくなっている。
アリシアは寝台の中で目を閉じる前に、一度だけ自分の胸へ手を置いた。
今は何も感じない。
その何もないことも。
今日の自分なら、少し前より大事に残せる気がした。
答えがある瞬間だけを見るのではなく。
答えが見えなかった瞬間にも、何が足りなかったのかを探す。
その積み重ねの先で。
忘れられた六つ目の神器が、何を感じ。
何をつなぎ。
なぜ自分を選んだのか。
その輪郭は、ほんの少しずつ。
けれど確かに。
昨日までより近いところまで、形を持ち始めていた。




