第16話 再測定前夜
再測定の日が、少しずつ近づいていた。
朝起きて、制服に袖を通す。
食堂へ行き、メリルと並んで朝食を取り、ガレスとミランダの大きな声に少し笑う。
生活基礎で学園の規則を学び、戦闘基礎で木刀を握り、図書館で古い伝承の断片を探す。
一日は、形だけなら穏やかに進んでいる。
けれど、アリシアの胸の奥には、ずっと小さな石が沈んでいた。
三日後。
二日後。
そして、明日。
魔法演習棟第二測定室。
教務主任と測定担当教師のみ立ち会い。
個別再測定。
その予定が近づくたびに、胸の奥の石は少しずつ重くなっていった。
黒い光。
水晶柱の中に浮かんだ、夜の欠片。
五つの属性石が震えた瞬間。
周囲のざわめき。
魔族という言葉。
あれが、今度は少人数の前で起きる。
大勢に見られないだけましだとノアは言った。
確かにそうだ。
でも、教師たちだけだからこそ、逃げ場がないような気もした。
誤魔化せない。
見逃されない。
きっと、細かく調べられる。
自分の中にあるものが、どこまで見えてしまうのか分からない。
アリシアは朝食のパンを小さくちぎりながら、ぼんやりと考え込んでいた。
「アリシア」
ガレスの声で、はっと顔を上げる。
「は、はい」
「またパンが粉々になってるぞ」
「え……」
手元を見ると、パンは小さくちぎられすぎて、皿の上でほとんど欠片になっていた。
メリルが心配そうに覗き込む。
「大丈夫? 再測定のこと?」
その言葉に、アリシアの肩が少し揺れた。
隠す必要はない。
みんな知っている。
けれど、口にすると不安が形になる。
アリシアは少し迷ってから、小さく頷いた。
「うん……明日だから」
ミランダの表情が柔らかくなる。
「そっか。明日かぁ」
「個別なんだよな」
ガレスが腕を組む。
「なら、前よりは落ち着いてできるんじゃないか?」
「落ち着いて……」
「人が少ないんだろ?」
「うん。でも……先生たちだけだから、逆に緊張するかも」
「そういうものか」
ガレスは真剣に考える。
そして、なぜか力強く頷いた。
「なら、飯を食え!」
「またそれ……」
メリルが苦笑する。
ガレスは真面目だった。
「腹が減ってると、余計に不安になる!」
ミランダも大きく頷く。
「分かる! お腹が空くと、全部悪い方に考えるよね!」
「ミランダも?」
「うん! お腹が空くと、斧が重く感じる!」
その基準はよく分からない。
けれど、二人の真剣さに、アリシアは少しだけ笑った。
ノアが椅子の上で魚の小皿を前にしながら、淡々と言う。
「脳筋二人にしては、意外と本質を突いてるわね」
アリシアはまた笑いそうになり、慌ててスープを飲んだ。
メリルが首を傾げる。
「アリシアちゃん?」
「ううん……ちょっと、スープが熱くて」
ノアは涼しい顔で魚を食べている。
ずるい。
けれど、そのやり取りのおかげで、パンの欠片を少しずつ口へ運ぶことができた。
「アリシア」
ミランダが言った。
「明日、終わったら食堂で待ってるよ」
「え……」
「再測定が終わったら、お腹空くと思うから!」
ガレスも頷く。
「俺も待ってる!」
「私も」
メリルが静かに言う。
「結果がどうでも、終わったら一緒に食べよう」
その言葉に、アリシアの胸が少し熱くなった。
結果がどうでも。
黒い光が出ても。
何も出なくても。
変な結果でも。
終わったら、一緒に食べよう。
それは、明日の向こう側に置かれた小さな灯りのようだった。
アリシアはパンを握る手に少し力を込める。
「……うん」
声は小さかった。
けれど、ちゃんと届いた。
「終わったら……食堂に行く」
「約束!」
ミランダが笑う。
「約束だな!」
ガレスも言う。
メリルも頷いた。
約束。
また一つ、明日へ進む理由ができた。
午前の生活基礎では、学園内での報告書の書き方を習った。
セリア先生は黒板に丁寧な字で例文を書きながら説明する。
「報告書は、感情を消すものではありません。ただし、事実と感情を分けて書くことが大切です」
アリシアはペンを握る。
事実と感情。
「たとえば、『廊下で転んだ』は事実です。『恥ずかしかった』『痛かった』は感情です。どちらも大切ですが、混ぜてしまうと相手に伝わりにくくなることがあります」
セリア先生の声は穏やかだった。
「自分の中で何が起きたのか整理するためにも、事実と感情を分ける練習をしましょう」
アリシアはその言葉に強く引かれた。
黒い光。
事実。
怖かった。
感情。
属性石が震えた。
事実。
魔族と言われた気がした。
事実かもしれない。
でも、それで自分が魔族だと決まったわけではない。
それは、周囲の反応と自分の恐怖が混ざったもの。
アリシアはメモを取りながら、少しだけ胸の中が整理されていくのを感じた。
事実。
感情。
分けて考える。
ノアが机の下の籠からこちらを見ている。
使いなさい。
そう言われている気がした。
授業の練習では、昨日の出来事を簡単に事実と感情に分けて書く課題が出た。
アリシアは少し迷ったが、戦闘基礎のことを書いた。
事実。
『戦闘基礎で足運びの練習をした。エレナ先生に前へ呼ばれ、外を取る動きを確認した。カイルさんとミーナさんに、足の残し方を聞かれた』
感情。
『見られて緊張した。でも、木刀の動きを見てもらえたことが嬉しかった。祖父に教わったことを少し役立てられて、安心した』
書き終えると、少し照れくさかった。
でも、前より自分の気持ちが見えやすかった。
セリア先生が机の間を回り、アリシアの紙を見た。
「よく分けられていますね」
「あ……ありがとうございます」
「事実と感情を分けると、自分を責めすぎずに振り返れます」
セリア先生は微笑んだ。
「アリシアさんには、この練習は向いているかもしれません」
「私に……?」
「はい。丁寧に感じ取れる人ほど、感情が大きくなりすぎることがありますから」
アリシアは少し驚いた。
丁寧に感じ取れる。
自分では、ただ怖がりなだけだと思っていた。
音も、視線も、空気も、人の表情も、全部が気になって疲れる。
それは弱さだと思っていた。
でも、セリア先生は違う言葉をくれた。
丁寧に感じ取れる。
その言い方だけで、胸の中の自分が少しだけ責められなくなった気がした。
「……ありがとうございます」
今度の礼は、少し落ち着いて言えた。
戦闘基礎では、エレナ教官がいつも通り無駄なく訓練を始めた。
「今日は視線誘導だ」
教官の言葉に、生徒たちが少しざわつく。
「相手は、見ている場所に意識が引っ張られる。初心者ほど、視線が正直だ。打つ場所を見る。逃げる方向を見る。怖いものを見る」
アリシアは胸に刺さるものを感じた。
怖いものを見る。
まさに自分だ。
人混みでも、怖い視線を探してしまう。
噂をしているかもしれない生徒を見てしまう。
黒い反応を思い出すものを見てしまう。
戦闘でも同じなのだろうか。
エレナ教官は続けた。
「逆に言えば、視線を使えば相手を動かせる。だが、まずは自分の視線を制御しろ」
訓練は、相手の肩や腰を見ながら、視線だけで誘いをかける基礎だった。
難しかった。
剣を持つカイルは、どうしても打つ場所を見てしまう。
ミーナは槍先に意識が向きすぎる。
メリルは視線が相手の武器から外れにくい。
アリシアは、最初こそ静かにできたが、相手の目を見る練習になると少し固まった。
人の目。
真正面から見る。
それが苦手だった。
メリルと向かい合っているのに、目を合わせ続けるだけで胸が落ち着かない。
「アリシアちゃん、大丈夫?」
「う、うん……目を見るのが、少し」
「分かる。ずっと見るの、緊張するよね」
メリルは優しく言った。
エレナ教官が近づいてくる。
「アリシア」
「は、はい」
「目だけを見る必要はない。相手の顔全体を見る。もっと広く取れ」
「顔全体……」
「お前は戦闘時、視野は広い。だが人の目を意識した瞬間、狭くなる」
まさにその通りだった。
アリシアは頷く。
「はい」
「メリルも同じだ。相手の武器に意識が吸われすぎる。二人とも、相手全体をぼんやり見る練習をしろ」
「はい」
二人でやり直す。
相手の目を見ない。
でも、逸らしすぎない。
顔全体。
肩。
呼吸。
木刀の位置。
杖の角度。
少しずつ、視線の圧が和らいでいく。
アリシアは息を吐いた。
「少し……大丈夫かも」
「私も」
メリルが笑う。
戦闘の練習が、人と向き合う練習にもなっている。
そのことに気づき、アリシアは少し不思議な気持ちになった。
授業後、カイルが近づいてきた。
「アリシア、明日再測定なんだよな」
急に言われて、アリシアは少し体を固くした。
「う、うん……」
「あ、悪い。嫌だったか?」
「ううん……大丈夫」
カイルは少し言いにくそうに頭をかいた。
「その……頑張れって言っていいのか分からないけど。頑張れ」
アリシアは目を瞬かせた。
「え……」
「黒い反応とか、俺にはよく分からないけどさ。戦闘基礎で見てるアリシアは、ちゃんと努力してるやつだと思うから」
胸が熱くなる。
「だから、変な噂はあんまり気にするなっていうか……いや、気にするよな。ごめん」
カイルが慌てる。
アリシアは首を横に振った。
「ありがとう……嬉しい」
声は小さかったが、ちゃんと言えた。
カイルは少し照れたように笑った。
「おう。明後日また足運び教えてくれ」
「うん……分かることなら」
カイルは去っていった。
ミーナも通り際に言う。
「再測定、うまくいくといいね」
「ありがとう」
アリシアは答えた。
噂する人もいる。
警戒する人もいる。
でも、こうして声をかけてくれる人もいる。
黒い反応だけではなく、木刀を握る自分を見てくれる人たちがいる。
それが、明日への不安をほんの少しだけ薄めてくれた。
午後、図書館へ行くと、受付の司書がアリシアを見るなり小さく頷いた。
「アリシアさん。申請の件、仮許可が出ています」
「えっ」
思ったより早かった。
アリシアは驚いて足を止める。
ノアも耳を動かした。
「セリア先生の署名がありましたので、上級資料室の一部資料を閲覧できます。ただし、今日はこちらの閲覧机で、私の管理下で読んでもらいます」
「は、はい……ありがとうございます」
司書は奥の棚へ行き、一冊の薄い本を持ってきた。
表紙は古い革で、文字は擦れている。
『辺境信仰断章』
アリシアは息を飲んだ。
「これは写本です。原本ではありませんが、古い山間部信仰についてまとめられています」
「山間部……」
「夜の守り手に関する直接記述は多くありません。ただ、関連すると思われる部分があります」
司書は慎重に本を開き、該当箇所に紙片を挟んだ。
「ここから数ページです。書き写しは可能ですが、持ち出しはできません」
「分かりました」
アリシアは閲覧席に座った。
ノアは足元。
司書は少し離れた位置で見守っている。
ページを開く手が震えた。
古い文字。
読みにくい表現。
けれど、そこには確かに書かれていた。
『五色の灯火を掲げる祭祀の外に、黒き布を敷く村あり。村人曰く、灯火に照らされぬ道を守るものへの席なり』
アリシアは息を止めた。
灯火に照らされぬ道を守るもの。
黒き布。
外に置かれた席。
次の行。
『その守り手に名を問うことを禁ず。名を問えば夜は去り、追うものが来ると伝う』
名を問うことを禁ず。
夜は去り、追うものが来る。
意味は分からない。
けれど、胸がざわつく。
アリシアは必死に書き写した。
次のページ。
『古き歌に曰く、五つの火は道を照らし、一つの影は足跡を消す。火を讃えよ。影を呼ぶな。されど影なき道に、朝は来ず』
アリシアの手が止まった。
五つの火。
一つの影。
足跡を消す。
影なき道に、朝は来ず。
これは、今までより近い。
五つと一つ。
光と影。
表と裏。
ノアの尻尾が、アリシアの足に触れた。
震えていた。
ほんの少し。
ノアが震えたのか、アリシアがそう感じただけなのか分からない。
アリシアは小声で言った。
「ノア……」
「書き写しなさい」
ノアの声は低かった。
アリシアは頷き、文字を写す。
手が震えて、字が少し歪んだ。
それでも書いた。
五つの火は道を照らし、一つの影は足跡を消す。
火を讃えよ。
影を呼ぶな。
されど影なき道に、朝は来ず。
しばらくして、司書がそっと声をかけた。
「時間です」
「あ……はい」
アリシアは慌ててペンを置いた。
もっと読みたかった。
けれど、今日はここまで。
本を閉じる時、胸の奥が強く引かれた。
司書は本を受け取り、静かに言った。
「興味深い資料でしょう」
「はい……」
「ただし、古い断章は断定を許しません。焦らず、他の資料と照らし合わせなさい」
「はい」
アリシアは深く頷いた。
図書館を出ると、ちょうどメリルが魔法基礎を終えてやって来た。
「アリシアちゃん、読めた?」
「うん……すごいのが、あった」
「すごい?」
「あとで……部屋で話してもいい?」
メリルはアリシアの表情を見て、すぐに頷いた。
「うん。食堂の後で聞くね」
夕食の席で、アリシアは少しぼんやりしていた。
ガレスに「またパンが細かいぞ」と言われ、慌てて食べる。
ミランダに「明日終わったら甘いもの食べよう」と言われ、少し笑う。
メリルは無理に聞かず、隣で静かに食べてくれた。
その夜、二〇八号室にメリルを招いた。
初めてだった。
自分の部屋に、友達を入れる。
それだけでアリシアは少し緊張した。
メリルは部屋を見回し、優しく笑った。
「アリシアちゃんの部屋、綺麗だね」
「荷物が少ないだけで……」
「ノアちゃんの場所もある」
寝台の端に置いた小さな布を見て、メリルが笑う。
ノアは机の上で澄ました顔をしていた。
アリシアは練習帳を開き、書き写した一文を見せた。
メリルはゆっくり読んだ。
「五つの火は道を照らし、一つの影は足跡を消す……」
声に出された瞬間、部屋の空気が少し変わった気がした。
メリルは真剣な表情になる。
「これ……昨日の夜の守り手より、もっとはっきりしてるね」
「うん」
「五つと一つ……」
「うん……」
メリルはアリシアを見る。
何かを聞きたそうだった。
けれど、すぐには聞かなかった。
アリシアはその沈黙に少し救われた。
「アリシアちゃんのおじいさんが言ってた伝承って、こういう感じだった?」
優しい聞き方だった。
踏み込みすぎない。
でも、無関心でもない。
アリシアは少し考えてから頷いた。
「似てる……と思う。祖父は、表で照らすものと、影で守るものがあるって……言ってた」
「そっか」
メリルはもう一度文字を見た。
「影を呼ぶな。だけど、影がなければ朝は来ない……不思議だね」
「うん」
「怖い感じもするけど……悪いものとして書いてるわけじゃない気がする」
その言葉に、アリシアの胸が熱くなった。
「本当?」
「うん。だって、朝は来ないって書いてる。必要なものだったんじゃないかな」
必要なもの。
闇が。
影が。
アリシアはノアを見る。
ノアは黙っていた。
けれど、その金色の瞳は静かに揺れていた。
メリルは練習帳を閉じる。
「明日、再測定だよね」
「うん」
「怖い?」
「怖い」
「でも……この資料を見た後だと、黒い反応の見え方も少し変わるね」
「変わる?」
「うん。怖いだけじゃなくて、何か意味があるのかもしれないって思える」
アリシアは胸元を押さえた。
意味。
黒い反応の意味。
夜の守り手。
一つの影。
足跡を消すもの。
まだ分からない。
でも、黒い光はただの異常ではないのかもしれない。
「メリルさん」
「うん?」
「明日……終わったら、食堂に行くね」
メリルは優しく笑った。
「うん。待ってる」
「結果がどうでも?」
「結果がどうでも」
その言葉に、アリシアは泣きそうになった。
でも、泣かなかった。
代わりに、小さく笑った。
「ありがとう」
メリルが部屋へ戻った後、ノアがようやく口を開いた。
「いい友達ね」
アリシアは驚いてノアを見る。
「ノアが素直に褒めた……」
「減点」
「えっ」
「余計なことを言ったから」
「うぅ……」
ノアは机の上から、練習帳の一文を見る。
「一つの影は足跡を消す」
静かに呟く。
「ノア……これ、知ってるの?」
ノアは長く黙った。
そして、小さく言った。
「少しだけ」
「少しだけ?」
「昔、聞いたことがあるわ」
「誰から?」
ノアは答えなかった。
その沈黙が、いつもより深かった。
アリシアはそれ以上聞けなかった。
ノアは窓辺へ移動し、夜の外を見た。
「明日の再測定では、たぶんまた反応が出る」
「うん」
「でも、怖がるだけじゃなく、見なさい」
「見る?」
「黒い光を」
ノアは振り返る。
「逃げるものとしてじゃなく、自分に繋がるものとして」
アリシアの胸が震えた。
黒い光を見る。
怖いものとしてではなく。
自分に繋がるものとして。
「できるかな」
「できるかじゃない。やるのよ」
「……うん」
「私もいる」
その一言が、何より強かった。
アリシアは頷いた。
練習帳に、今日の最後の一文を書く。
『明日、再測定があります。怖いです。でも、黒い光をちゃんと見ようと思います。逃げるものとしてではなく、私に繋がるものとして』
書き終えると、手が少し震えていた。
ノアが近づき、尻尾でアリシアの手首を軽く叩いた。
「今日の点数は?」
アリシアが聞く。
ノアは少し考えた。
「九十点」
アリシアは目を見開いた。
「九十……?」
「事実と感情を分けた。戦闘基礎で見えたものを言えた。図書館で上級資料を読んだ。メリルに話した。明日から逃げなかった」
「減点は?」
「パンを粉々にした。何度か沈みすぎた。あと、私の沈黙を急かそうとした」
「ご、ごめ……じゃなくて……気をつける」
「よろしい」
九十点。
今までで一番高い。
アリシアは胸が熱くなった。
再測定前夜。
怖くて、逃げたくて、胸の奥に石が沈んでいる。
それでも、今日の自分は九十点だった。
その事実が、明日の自分を少し支えてくれる気がした。
窓の外には夜が広がっている。
黒い夜。
その中に、小さな星がいくつか光っていた。
アリシアはノアの隣に立ち、夜空を見上げた。
五つの火は道を照らし、一つの影は足跡を消す。
影なき道に、朝は来ず。
その言葉の意味は、まだ分からない。
けれど明日、黒い光をもう一度見る。
怖い。
でも、見る。
アリシアは胸元の守り袋に触れた。
「おじいちゃん……明日、頑張るね」
声は小さかった。
けれど、夜の中にまっすぐ落ちた。
ノアは何も言わなかった。
ただ、尻尾の先でアリシアの手をそっと叩いた。
それだけで十分だった。




