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《虫人》 - Insecter  作者: Risa (虫人の人)
デスサイズ編
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第30話  伝令?



《伝令?》


アルカディア・東方検問所——


ライフルを構えたユミナとミオナが、絶え間なく引き金を引いていく。

同時に、二人の銃口から噴き出る朱い火炎と灰色の煙——。


ズドドドォ——ンッ!! ドドドドォ——ンッ!!


すぐ目の前で轟音が鳴り響き、高い耳鳴りがする——。

飛び出た薬莢は検問所の壁に当たり、軽い音を立てて地面へと転がっていった。


「く……っ! 速いわね!!」


まるで工場の機械のように、的確に銃口の角度を変えていく。

その様子からも、敵が動き回っていることは容易に想像がつく。


——あの見た目で、そんなに速く動けるものなのか……?


三人のローブは、いずれも大きな鎌を備えたオオカマキリ型だ。

しかも一人は大柄な男で、とても俊敏そうな図体には見えなかった。



数分が経っても戦闘が終わることはなかった。

だが、銃声は次第に止んでいく。

一人、また一人と仕留めていったのか——。

否、減っている銃声は、むしろ検問所の方だったのだと、後になって気付く——。


「右よ!」


「了解!」


ユミナとミオナが短い言葉を交わす一方で、俺たちはその様子を壁にしゃがみながら見ていた。


カチン——ッ!


そして、撃鉄が落ちる空虚の音が鳴る——。

ユミナの弾が切れたのだ。


「ミオナ! 再装備リアーム!」


「了解!」


その声で、二人がほぼ同時に壁に隠れる。

素早くミオナはアサルトパックを降ろし、弾の入ったマガジンを何個か取り出す。


「投げます!」


「こっちよ!」


無駄のない、短いやり取りが続く。

ユミナの足元を見ると、空マガジンがいくつも転がっている。

それは、ミオナの足元でも同様だった。


投げ渡されたマガジンを受け取り、二人は空になったポーチを再び満たしていく。

一つずつ、しかし手早く。

そして、ポーチの蓋を閉じていく。


再装備リアーム完了! 行くわよ!」


「はい!」


互いに眼を合わせ、ライフルを同時に壁から突き出す。


しかし——


「……いない——?」


照準したままのユミナが、検問所の外を見渡す。

気付くと、さっきまで鳴り響いていた検問所の銃声は、大幅に少なくなっていた。

鳴り響いているのは、せいぜい一つか二つだろう。


「やったのか——?」


敵を探る二人に対し、俺は静かに問いかける。


そして、銃声は止んだ——。


戦闘の終了とも言えるその状況に、俺は安堵の息を付く。

だが、二人はかえって、ライフルを握り締めるのだった。


「どこに……。」


沈黙の中、ミオナがヘッドセットに軽く手を当てる。


「——CAN構成! こちらミオナ。検問隊長、ナユカ、聞こえますか——!」


少なくとも、増援部隊の指揮官であるナユカは、検問所とのやり取りのために、CAN無線を構成しているはずである。

しかし、いくら待っても、応答はない。


「何が起きてんだよ——。」


二人の横で、俺はただ、聞くことしかできなかった。


「——検問所の銃声が止んだ——。残ってるのは私たちだけよ——。」


現実を突きつけるように、ユミナが言い放つ。


「——ナユカ——ちゃん——……。」


それを隣で聞いていたミオナは、泣くでも怒るでもなく、一瞬だけ眼を見開くと、虚空を見つめる。


静まり返る検問所——。

俺は、後ろで一緒にしゃがみ込んでいたサイチとサユキと目を合わせる。


「いいぜ。あいつらに森閃組の恐ろしさを思い知らせてやる——」


「兄上は総長です。死んでもらっては、組が困ります——。」


静かに刀の柄を握り締める二人。


残されたのは俺たちだけ——。

近接武器を専門とする二人の出番が、来てしまったのかもしれない。








突如として襲来したデスサイズ——。

東方検問所から銃声が消え、また普段通りの静けさが戻ろうとしていた。


だが、その静けさは異様なものでしかない。

先ほどまで検問兵や増援部隊が激しく交戦していたというのに、今ではその面影は殆どない——。



俺たちは検問所の一角に集まり、簡単な作戦会議を行っていた。


「いい? アイツらがこの検問所を通ったら終わり。街は破壊され、住民は喰い殺されるわ——。

 今、ここで戦えるのは私たちだけ。でもまずは、敵の状況を知る必要があるわ。簡単な偵察を開始して——……」


ユミナが淡々と説明を続ける。

俺、サイチ、サユキの三人は静かにそれを聞いていた。

その後ろでは、ミオナが地下本部と連絡し、更なる増援と救護部隊の要請を行っている。


「——はい。敵の状況は現在不明です——。ですが、敵装備に銃が確認されています。

 追加の増援と救護チームもこちらにお願いします。——はい。では——。」


無線を終えたミオナが、俺たちの方へ戻ってくる。


「無線、終わりました。すぐ来るみたいですよ。十分くらいで——」


「了解だわ。——あ、ミオナはそのまま検問所の警戒しててもらっていい?」


「わかりました。」


状況は複雑である。

敵の状況は分からない、味方からも明らかに損耗が出ている——。

切迫しているとも、休戦しているとも言えるこの状況——。

まずはユミナが言った通り、敵の情報が必要である。


——次は俺たちだ。敵がどこで何をしているのか——。

  それが分からないことには、いつ襲われてもおかしくない——。


「ちょっと。あんた聞いてるの?」


一人で考え事をしていると、ユミナが俺に向かって注意する。


その直後だった。


「敵です。一名、こちらに向かって来ています——。」


ミオナが静かに言い放つ。

検問所のすぐ前——通路を挟んだ向かい側に、先ほどの大男が徐々に歩み寄ってきている。

俺たちはすぐさま会議をやめ、再び通路の方へ身構えた。


「——はぁ……。毎回この役は俺なんだよな……。」


大男はそんな愚痴をこぼしながら、正面に現れたミオナと対峙する——。


「よぉ。通させてもらうぜ——。」


「ここから先は、アルカディア共生国の領土です。身分証明ができない者は、いかなる場合においても、ここを通過することはできません——。」


まるでプロの検問兵のような、丁寧だがどこか冷淡な口調で、その歩みを止めさせる。


——そっか……。ミオナはもともと北東の検問兵だったっけ……。


ミオナの説教じみた言葉に、大男は呆れたように続ける。


「あぁ、あぁ。わかったわかった。そういう堅苦しいのは苦手なんだよ——。

 んで、何度も言うが、俺たちはセラフィン女王国の正式な伝令で——」


そう言いながら、大男がローブの中に手を入れる。


——さっきの銃か……!?


その場の全員がそれを疑った。

ミオナと肩を並べてライフルを構えるユミナ、腰の刀を握るサイチとサユキ——。


だが、器用に大鎌で挟むように取り出したのは、大きな印鑑のある一枚の書類だった。


「これだよ。ほら、女王印あるだろ——?」


大男の言葉に、ミオナが書類に向かって目を凝らす。


「セラフィンで、何があったんだ——?」


俺もつられるように口を開き、書類へ意識を向けていく。


「詳しい話は本部の方でさせてもらう——だから今は、ここを通せって言ってんだよ——」


大男は低く答える。

だが、ユミナは一切の興味を示さない。


「無駄よ。視線を逸らさせて奇襲しようなんて、思わないことね。」


その一声で、俺たちは我に返る。


「わ、罠——……?」



そして、警戒する俺たちの様子に、大男は大きくため息をついた。


「はぁ——……。ったく、違ぇよ……。なんでアルカディアの軍隊は皆そうなんだ……。」


愚痴る気持ちはよくわかる。

俺も以前、入国時に疑われ、危うく殺されかけたのだから——。


しかし、今回は状況が全く違う。

少なくとも、今の段階で知り得た情報では、身体的・服装的な特徴が、国際テロ組織デスサイズと一致し、

威圧的な態度と強行な手段の中で、銃を発砲し、検問兵との戦闘を繰り広げた——。

例えデスサイズではないのだとしても、その一連の行動を知った以上、尚更ここを通すわけにはいかない。


考えていることは、ミオナも同じだった。


「——その女王印が本物だったとしても、セラフィンの正式な伝令なら、ハチ型であるはずです。

 それに、そのTEXSは、民間TEXSメーカー《EAS》のものです。そのローブの下の腕に付けているのは、同社のLAG-25——。

 その装備は、セラフィン女王国の制式装備ではありません。」


「ほう——? 大した知識だ。……なるほどね——。」


大男はローブを少し捲ると、もう片方の大鎌を確認するように覗かせる。

金具とベルトで固定された、長いバレルを持つマシンガン——。


否、彼が見ていたのは、もっと大きなものだったのかもしれない。

自身の大鎌を、まるで呪われた何かのように、目を細めて静かに眺める——。


すると——


「——ダラス! いつまでやっている——!」


気付くと、検問所の前には残りの二人の姿があった。


「——すまんな、待たせて——。じゃあ、ここは通れないってことでいいな——?」


大男——ダラスが改めて確認するように問う。


「言ったでしょ。あんたたちみたいな紛いモノが、来るとこじゃないのよ。」


ユミナの態度は変わらない——ただ厳しく言い放つ。


「そうか——。……なら、やっぱり——無理やり通させてもらうしかねぇなァ——ッ!!」


狭い通路に響き渡るダラスの声。

そして、二人めがけて襲い掛かっていく。


「こっちのセリフよ! 無理やり止めさせてもらうわ! ミオナ!」


「はい!」


ユミナとミオナが同時に発砲する。

移動するローブめがけて、的確に銃口を向けていく——。


しかし、ローブを貫通しても、内側に纏った外殻装備には、とても歯が立たない——。


そして、急接近したダラスが、勢いよく大鎌を薙ぎ払う。


ガィン——ッ!!


その瞬間、一閃の太刀筋が走り、火花を散らす——。


「私のことを忘れてもらっては困るな——。」


刀を斜めに傾け、大鎌を受け流した紅い影——。

サユキが二人の前に出たのだった。


「小賢しいな——なら、これならどうだ——ッ!!」


再び、ダラスが大鎌を振り上げる。

重力と質量、そして持てる筋力を最大限に活かした渾身の一撃——。


「おりゃあ——ッ!!」


すかさず、サユキが刀を振り上げる。

その両脇で、ユミナとミオナが援護射撃をする。


ズドドドォンッ!! ドドドォン!!


だが、ダラスは止まらない。


「サユキ——ッ!避けろ——!」


後ろで叫ぶ、兄の姿——。

しかし避ければ、その長い大鎌はユミナやミオナにも当たりかねない。

サユキは真っ向から、それを受けきるしかなかった。


ガィンッ!!


再び火花が散る——。

膝を沈めて衝撃を受け流そうとするが、その質量はサユキの想像を遥かに上回っていた。


「ぅあ……——っ!」


一瞬で押し潰されそうになり、逃がし切れなかった衝撃が、サユキを後方に吹き飛ばす——。


「サユキ——ッ!!」


俺とサイチはすぐさま、地面を転がったサユキの方へ走り寄った。


「サユキ! 大丈夫か——!」


「あぁ、問題ない——! それより——……!」


俺たちはサユキの目線の先を見た。

検問所の通路で、ユミナとミオナに再び大鎌を振りかざすダラスの姿。


「やべぇな……あいつ……。」


俺はそんなことを呟く。

その横で、サユキが立ち上がり、検問所の方へ向かっていく。


「お前、少し休んで——」


「ダメだ。私が行かなければ——!」


言いかけた言葉に、サユキは断固として反対する。


俺の中ではもう充分だと結論付いていた。

何故なら、あの場にはユミナがいる——。

その近接戦闘力の高さに、俺は安心していたのだった。


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