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《虫人》 - Insecter  作者: Risa (虫人の人)
デスサイズ編
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第28話  不穏

挿絵(By みてみん)



《不穏》


東蟲機構・アルカディア支部——


それから数日経ったある日のこと——。


俺、ユミナ、ミオナのいつものメンツは、オフィスのソファに腰かけていた。

対面に座るカブト兄妹——サイチとサユキを眺めながら、湯気を立たせるレイドウ茶を口へ運ぶ——。


「んで——? そういえば、東蟲機構に入るって——? 二人で——?」


俺はサユキのみならず、サイチにも改めて問いかけた。


思えば、サユキが以前アルカディアに来たのは、兄のサイチを追ってここに来たに過ぎない。

その時に壊された扉は、相変わらず直っていない。


「あぁ——俺は入るぜ。」


「なら、私もそうしよう——。」


サイチは、ヴァーダントラインでの一件で、再び外遊という形でツバルから許しを得たわけだが、

本人は安定した生活費を稼ぐためにも、機構の試験には臨む気満々らしい。


そして今回——サユキもまた、試験を受けると言い出している——。


——兄妹そろってか……。一人でも手間なのに、二人か……。


そもそも一度に二人も受けて、双方が採用されるとは限らない。

それに、世界を見たいとか見聞を広めたいとか好き勝手に言うのは構わないが、俺みたいに外交員になれる保証なんて無い——。


沈黙の中、俺は茶を啜る。

このややこしい兄妹をどう収めるべきか、俺は考えるのだった。


そこへ、ユミナが口を挟む。


「まぁ、いんじゃない?」


俺は思わず吹き出しそうになる。


「いや、いいって——他人事のように言うなよ……。」


だが、ユミナは言葉を重ねる。


「他人事じゃない。——っていうか、受けたいなら勝手に受ければいいでしょ?

 わざわざこっちが面倒見る筋合いなんて、どこにもないわ。」


それもそうだが——。

飽くまでサイチが、外交員になりたいと言い張るのはまだいい。

実際、俺の伝手でキミカさんに話を通したり、多少は面倒を見ることくらいはできる——。


だが、物事をややこしく考えすぎていたのは、俺の方だったのかもしれない。


道筋はもう示した。あとは自分でやればいいだけである。

俺は頭の中で整理しなおすと、小さくため息を吐いた。


「はぁ……。じゃあ、あれだな。とりあえず試験、二人で受けて来いよ。キミカさんには俺の方から言っとくから——。」


もうそれでいい。それしかない。

そう自分に言い聞かせるのだった。


「——具体的には、どんな勉強をすればいいのだ——。」


すかさず、サユキが尋ねる。

レイドウ茶には一切手を付けず、ただ拳を握って畏まったような姿勢で座っている。


「そうだなー……。一般教養とか? ヴァーダントラインはアルカディア語なんだろ? なら、言語面は大丈夫だろ。

 あとは数学とか多少の国家情勢とか——二人ならすぐ受かるよ。俺は苦戦したけど——。」


俺が一番苦戦したのは、この国家情勢だった。

訳の分からない虫人世界の単語の意味をひたすら覚え、必死に勉強したのを、今でも覚えている。


だが俺と違い、この二人は虫人世界で育ち、政務に触れてきた部分もある。


——もしかしたら、余裕で受かってしまうかもな——。


あとは枠の問題——機構が任用するかどうかだ。

自信に満ち溢れる二人の様子に、俺は再びレイドウ茶を一口啜る。

そして、機構モニターのメッセージ欄を開き、キミカ宛の文章を打ち込んでいったのだった——。




そんな時——



ミオナが、ヘッドセットに軽く手を当てる。


「——はい。はい……そうですか。わかりました——。」


俺たちの視線が、一斉にミオナの方へ向く。

ミオナもまた、通信を終えると、俺たちの方を見て、その内容を伝える。


「東方検問所で、不可解な三人組が現れたとのことです。現在は検問兵が対処中ですが、近くのパトロールに増援要請が来ています——。」


「東方? 北東のすぐ近くだよな——ついでに行ってみるか?」


俺たちは顔を見合わせる。

東方検問所は、北東海港へ抜ける街道のすぐ近くだ。

なら、増援に顔を出した後、そのままサイチとサユキを港へ向かわせればいい。


ミオナは静かに続ける。


「そうですね。——メッセージを送ったら行きましょうか。

 東方検問所の件が終わりましたら、そのまま北東海港へ行って、東蟲機構本部行きの船に乗れば間に合いますから——」


「ああ、助かるよ——。」


「すまない——。」


サイチとサユキが、短く頷く。

そんなやり取りをした後、俺は再びモニターへ向き直り、メッセージ欄を開く——。


「おーけー。受験の件だけ先に打ち込むから、ちょっと待っててくれ——」


すると、メッセージ欄の上に、キミカからの通話着信が表示される。


「——あれ、こんな時間に——……?」


いつもなら、通話は夜か朝の定時報告の時にかかってくる。

だが、モニターの時計を見ると、まだ昼前である。


迷わず俺は、その通話に出る。


「——はい。ユウジです。どうしました——?」


モニターが繋がると、少し困ったような顔をしたキミカは手元のファイルを机に置きながら、静かに席に着く。


「あ、よかったです——。」


「え——あ、何がですか……?」


繋がった瞬間、キミカは安堵の息をついた。

これは何かあった——そう解釈するのが自然なのだろう。

キミカは続ける。


「実は、数日前から、同機構加盟国 《セラフィン女王国》との連絡が取れなくなってしまったんです——。

 それで、回線点検も兼ねてユウジさんに連絡してみたんですけど——大丈夫そうですね。」


「はぁ、はい——。こっちは特に問題なさそうです——。」


「そうですね——。あ、それでお願いがあるんですけど、セラフィンとの連絡が繋がらないので、

 そちらからセラフィンへ連絡していただいてもよろしいでしょうか。

 恐らく、連絡先一覧に登録されているはずです。」


「あ、はい——ちょっと待ってください——。」


ホーム画面に戻り、俺は連絡先一覧からセラフィンの項目にカーソルを合わせる。


「あ、ありました。オフライン……になってますね——。」


「そうですか——。一応かけてみてください。私はもう少し業務があるので、かかったらまた連絡ください。」


「わかりました——。」


そう言うと、キミカは少し忙しそうに通話を切ったのだった。


——なんか、いつもと雰囲気違うな……。


連絡先の画面に戻り、今度はセラフィンとの通話を試みる——。

ふと周りを見ると、何やら落ち着かない様子のサイチとサユキ。

そして、いつまでやってんのよと言わんばかりのユミナの姿。


プー、プー……。

しかし、いくら待っても呼び出し音が鳴るだけで、通話が繋がることはなかった。


「——あれ、やっぱかかんないや……。」


確かめながら、独り言のように呟く。

俺はコップを机に戻すと、そのまま機構モニターのメッセージ欄を開いた。


「ちょっと、いつまで待たせるのよ。先行っちゃうわよ?」


しびれを切らしたユミナが、オフィスの入口で騒ぎ立てる。


「あ、あぁ——待っててくれ。これで終わりだから……。送信、と——。」


キーボードのエンターキーを押し、無事、キミカに送信されたことを確認する。


「オーケー。……んじゃ、行くか。」


その言葉を聞いた瞬間、ユミナが扉を開け、一目散に廊下へ出ていく。


俺はポケットにスマホがあるのを確認すると、ミオナと軽く目線を交わし、ユミナの後をついていった。

サイチとサユキも、その後に続いてオフィスを出ていく。


東方検問所の増援要請——。


それだけなら、ただの小さな揉め事で済んだのかもしれない。

だが、同じタイミングで《セラフィン女王国》との連絡がつかないことを知った。


そのタイミングの重なりに、俺は少し違和感を覚えたのだった——。






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