旧虫国 ファルケースと死の鎌
中間プロローグ——
《ファルケースと死の鎌》
1991年にソ連が崩壊し、ロシア連邦が誕生した。
しかし、その歴史は長くは続かなかった——。
2000年代初頭、世界各地で暴れる虫怪人の存在を受け、各国では人間を守るための体制が築かれる。
G7やその他の国連加盟国では安全保障委員会の決議で、国連制圧軍が編制されたのだった——。
制圧軍は次々に怪人を鎮圧し、各地の治安維持と平和維持活動に努めていった。
一方、虫人は世界各地で数を増やし、同じ平和と生命の安全を掲げ、虫人による国家体制を築き上げていた。
ナグナリア、ロカスト、ファルケース、ルナリサ、アピスフェリア——。
虫人国家の建国が次々と宣言され、やがて《ロディニア自由連邦》として結実。
虫人による国家群は、国際社会にその存在を示し、五年にわたる繁栄を築いた。
しかし、人間世界——国際連合との対立は、かえって強まるばかりだった——。
2010年、互いに平和を掲げながらも、その主張がすれ違っていく中、
ついに国連制圧軍と自由連邦との戦闘が勃発する。
それは、ロシアでもまた同様だった——。
ロシアは先陣を切り、自由連邦への武力制裁に踏み込んでいく。
食糧となる植物資源を求め、領土を広げざるを得なかった《ロカスト》は、
ロシア防空軍の空爆を含む制圧作戦を受ける。
貿易の盛んだったロカスト国家の崩壊は、
自由連邦全体の衰退を決定づける出来事となった。
カマキリ型の虫人による遊牧国家《ファルケース》にも、
ロシア側の矛先が向けられることになる。
ファルケースは、狩猟と平和を重んじる虫人国家だった。
彼女たちにとって鎌は、獲物を仕留めるための道具であると同時に、
一族の誇りを示す象徴でもあった。
だが、ロシア側は、ファルケースが同国内の住民を喰らったと主張した。
ロシアはその主張を理由に、武力制裁へ踏み切る。
ロシア防空軍のSu-24M3 フェンサー戦闘爆撃機によって、
ファルケースの集落は空爆され、国家としての機能は壊滅する。
その後も、食人事件について事実確認が行われることはなかった。
族長サイズには、国連制圧軍本部から《リーパー》というコードネームが付けられた。
食人鬼の族長——それが、人間社会が彼女に与えた呼び名だった。
生き残ったカマキリ型虫人たちは国際テロ組織に指定され、《デスサイズ》と称されるようになった。
長い鎌を持ち、顔を隠し、身分を隠して生きる者たち。
だが、それは彼女たち自身が名乗った名ではない。
ファルケースの生き残りたちは、自らを《メアファルケース》と呼んだ。
『誇りを持って生きなさい。私の鎌たち』
族長サイズが、最期に遺した言葉だった。
ファルケースは滅びた。
だが、鎌を持つ者たちは、滅びた国の名と誇りだけを抱え、身分を隠して生きることを余儀なくされた。
最後の主要構成国である甲虫系国家《ナグナリア》で内戦が本格化すると、
自由連邦は事実上の崩壊状態に陥り、各虫国は徐々にその衰退の道を歩んでいったのだった。
ロシア連邦は、人間国家の英雄となった——。
月日が経ち、ロシア国内では、より安全で平和な世界を掲げる人間たちが台頭していく。
八月革命——
それを機に、新たな連邦国家体制——《新ソヴィエト社会主義共和国連邦》が樹立され、
虫人への弾圧が加速すると、国内の虫人は次々に一掃されていった。
平和を掲げる二種類の人類——
人間による虫人の制圧活動、国際的な対立——
旧虫国《ロディニア自由連邦》は、崩壊したのだった——。




