第27話 返還
《返還》
東蟲機構・アルカディア支部——
後日——。
ヴァーダントラインでの一件で、俺たちが咎められることはなかった。
というより、今回はヴァーダントライン内での問題ということで収められており、
俺たちが総長を逃がしたとか、そういった機構問題へ発展することはなかった。
——あいつが上手くまとめたんだろうな……。
俺はあのできる男——ツバルの顔を思い浮かべる。
あの口下手で不愛想な男が、重臣たちを黙らせられるとは到底思えない、というのが俺の本音である。
俺はそれらをまとめ、モニター越しのキミカへ報告していった。
「——あら、それは大変でしたね……。怪我とかはなかったですか——?」
「——ま、まぁ一応——。」
俺は、隣に置いた防弾ベストをモニターの前に出すと、その中に入れていたボロボロになったセラミック防弾版を取り出した。
「まぁ——!」
驚きのあまり、両手で口元を抑えるキミカ。
「一応、これ新しいの欲しいなーって、思ったり……なんて。」
するとキミカは、思い出したように机のファイルを開き出した。
「そうそう——そういえばなんですが——ヴァーダントラインへ行っている間、《インセスケルト》の方から連絡がありましたよ。」
「インセス……? って、何でしたっけ——?」
「インセスケルト設計局ですよ。ほら、アルカディアのLMとか作ってる——」
ほらと言われても、そのメーカー名を聞くのは初めてだった。
LMを作っているということは、TEXSメーカーだということだろう。
「えっと——なんで俺に、TEXSのメーカーが?」
「はい。なんでも、人間用のTEXSの試作型ができたみたいなので、試しにどうですか? なんてことを言われまして。
防弾ベストやヘルメットじゃ心もとないなーと思って、実はオーケーしちゃったんですよね。いいですよね?」
「あ、あぁー……まぁ、はい。いいですけど。——俺、どうすればいいんですか?」
「いい感じになったら、支部の方に送ってくれると言ってました。」
「そうですか——わかりました。」
「そんなに構えないでくださいよ。ユミナちゃんやミオナちゃんの方が詳しいと思うので、聞きながらでいいと思いますよ。」
「はぁ、まぁわかりました。」
「それでは、また何かありましたら連絡くださいね。それでは——」
「はい。また——」
モニター画面がホーム画面に戻ると、俺はつい、小さくため息をついた。
そんな様子を、ユミナとミオナは後ろから、静かに見守っていた。
「へぇ、面白そうじゃない。人間用なんて。」
「外殻はありませんから——防弾ベストのようなものですかね?」
思い思いに言葉を発する二人。
正直、素人の俺にそんなことを言われても、と言いたい気持ちでいっぱいだった。
今後の行動で身に着けると考えると、余計に——。
「防弾ベストでいいのに——。」
少なくとも、プロの太刀筋を受けきれた——それだけで充分だ。
今後そんなことが起きるなんて滅多にないだろうし、戦闘員ではなく外交員らしく行動したいものである。
そう思いながら、俺は部屋の隅で蹲るサイチを見た。
「お前、いつまでそうやってんだよ……。」
「だってよぉ……なんか嫌な気配がするし——」
「はぁ……またかよ——。」
サイチは一体、どこの器官でそれを感じているのか——。
人間の俺にとっては分かりたくても分からない。
すると——
ミオナのCAN無線に、本部から連絡が入る。
「——はい。はい——すみません。はい……わかりました。では——」
眉をしかめるミオナの様子に、俺たちは顔を見合わせる。
だが、無線を終えたミオナは、いつもの明るい感じに戻っていた。
「——ACVが、返ってきました!」
「ACV? あー、あの、置いてきた装甲車か——」
「はい! で、その——ヴァーダントラインの方から、北西検問所で受け取りになるんですが、その——」
要は、私は護衛だから、護衛対象もついて来てください——そういうことだろう。
「じゃ、いきましょ!」
どもるミオナの言葉を遮るユミナ。
俺たちはサイチを置き去りに、北西検問所へ足を運んだのだった。
アルカディア・北西検問所——
白くそびえたつ街の壁——。
検問兵の検査を受けて商人たちが通過していく中、受領に対応するガードたちが次々とそこへ集まっていた。
「いつもよりガード多いな——。」
「恐らく、車両管理を担当している者たちですね……。」
ミオナが応えると、ユミナはすかさず、俺を盾にするように、後ろに隠れた。
だが——
「ユミナー! ミオナー!」
検問所の方で、二人の名前を呼ぶ声——。
見ると、普通のLMとは少し違う、より高度な装置を備えたLMのガードがそこに立っている。
「げっ、やっぱりいる……。」
それはユミナにとって、あまり嬉しい話ではなさそうだ。
「誰なんだ? あれ——」
「アゼリアさん……十二戦士ですね……。車両とか武器とか担当してる方です……。」
恐る恐る、ミオナがその名を口にする。
そして気付くと、ミオナまで俺の後ろに隠れてしまっている。
「なんでお前まで俺に隠れてんだよ……。」
俺は護衛二人の盾となり、アゼリアの方へ歩いていったのだった。
「——これは、ユウジさん。お初にかかります。アゼリア・アルカディアです。以後、お見知りおきを——」
——なんで俺の名前知っているんだ——?
セルラの時もそうだったが、初対面であるというのに、十二戦士は皆、なぜか俺の名前を知っている。
「あ、外交員のユウジです。よろしくお願いします——。」
差し出された手を握って軽く握手を交わすと、アゼリアは俺の後ろに隠れた二人の方を見た。
「ユミナ、ミオナ。ちょっと来なさい——。」
恐る恐るアゼリアの前に出るユミナとミオナ。
アゼリアが二人を探していた理由は明確だった。
それは、アルカディア・ガードとして、武器を雑に扱ったり、移動先に車両を置いていった件についてだった。
——ガードじゃなくて良かった……。
二人が説教される中、俺はついそんなことを考えている。
ふと隣を見ると、小柄な虫人が立っている。
「やぁ、ユウジさん。久しぶりですね。」
見るとそこには、出発前に出会ったコカマキリ型の住民——ユリハが立っている。
「あ、えっと——ユリハさん? どうも——」
ぎこちなく挨拶をすると、ユリハはいつものように、両腕の鎌をゆらゆらと揺らす。
「帰られたんですね。二人は大丈夫でしたか?」
「あー。えぇ、まぁ——。」
なんとなく俺は、曖昧な答えを返す。
その二人というのは、ユミナとミオナを指しているのか——
はたまた、内輪揉めの件で、サイチとサユキのことを指しているのか——。
どちらのことを言っているのかは不明だが、どちらも結果的には大丈夫だったことに変わりはない。
「そうですか。なら、よかったです。」
ユリハはそれだけ言うと、静かにその場を去っていく。
——あれ……この声どこかで——。というか、なんで出発のこと知ってるんだ——?
アルカディアを出発したのは早朝で、街に出ていた住民はほぼいなかったはずである。
それに、窓の狭い装甲車だったのもあって、俺たちの出発を知る住民など、殆どいないはずだった。
そんな他愛ない疑問が、俺の中で過る。
そんな中、ため息をつくミオナとユミナがこちらに戻ってくる。
「はぁ……。怒られちゃいました……。気を付けないとですね……。」
「気を付ける……? はぁ……ったく、全部あのクソカブトのせいなんだから——。私のせいじゃないわよ——。」
怒られた後の反応は、それぞれだ。
だが今回に関しては、どちらも間違ったことは言っていない。
サイチが逃げなければ、アレは完全に温泉旅行になり得ただろう——。
「まぁまぁ、あいつも色々大変だったんだろうし、新しい仲間が増えたって考えれば——」
そう言いかけた時だった——
「はーい! どいてくださーい! 車両通りますよー!」
一時的に商人たちを退避すると、一台の装甲車が検問所を通過する。
灰色の煙を吐き、アゼリアのもとへ真っすぐと走ってくる。
ブロォオンッ!!
エンジンを切ると、運転席から降車したガードが、アゼリアに向かって敬礼する。
「引き取り完了しました。こちらを——」
「ご苦労様でした。」
アゼリアは、ガードから書類を受け取ると、ゆっくりとこちらを見る。
ユミナとミオナは、この装甲車を借用した本人だ。
二人は近づき、差し出された書類に署名していった。
「もう置いてくるんじゃないですよ。」
そんな中——
「あれ、装甲車にまだ人乗ってるよな——?」
中をよく見ると、後部座席で苦戦する虫人が見える。
——あぁ、あれ——ドア開けれないヤツだ……。
出発前のことを思い出し、俺はつい懐かしく思ってしまう。
そのまま装甲車に近づき、思い切りドアノブを捻ってやる。
ガコォン……ッ!
ロックが外れ、中から紅い外殻の女性虫人が、ゆっくりと足を伸ばす——。
「気を付けてください、高いですから——」
「すまない——こういうのはあまり慣れていなくてな——」
手を差し出し、その女性と眼が合う。
——サ、ユキ……?
「お、まえ——……。」
一瞬で場が凍り付く。
否、凍り付いたのはここにいる二人だけだ。
「ちょっと、何やってるのよ……げっ——」
戻って来たユミナが、見た瞬間に凍り付く。
「あ、サユキさん。——大丈夫ですか?」
続いてミオナも戻ってくるが、すぐに冷静になり、モードを切り替える。
「あ、あぁ——うん。大丈夫だ。問題ない——」
顔を見ていたミオナが、ゆっくりと視線を移す。
その先にあったのは、俺と繋いだままの手だった。
「ん……?」
首を傾げ、ただ微笑みかけるミオナ。
「あ、ちが、これは——っ!」
俺とサユキの声が重なる。
しかしミオナはまだ、何も言っていない。
俺たちはそんなミオナの様子に、ポケットに手を突っ込むか、服に手を巻くことしかできなかった——。
そこへ、ユミナが眉をしかめて問い詰める。
「んで——?」
言葉足らず過ぎる質問に、皆が疑問を浮かべる。
だが、ユミナは続ける。
「で。——なんでここに居るのって聞いてんのよ。」
「あ、あぁー、そのー……私も少し見聞を広めたくてな——」
「あっそ。——まぁ、勝手にすれば。」
自分で聞いたのにもかかわらず、ユミナは興味なさそうに遮る。
しかし、サユキは続ける。
「だからその、……東蟲機構に入ろうと思って——。」
「は——?」
思わず俺の口から、情けない声が飛び出すのだった。
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