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こんなんなりましたけど?  作者: 槙 秀人
episode2・まじっすか…これが真相?本能寺!
7/10

“デマ”という名の火種

明智勢が本能寺へ向けて進路を変えてから、まだ一刻も経っていなかった。

だが、隊列の空気はすでにどこかざわついていた。

兵たちの間に、言葉にならない緊張が漂っている。


そんな中、ぽつりと誰かが呟いた。


「……とうとう殿様の堪忍袋の緒が切れたんじゃねぇか?」


その声は小さかった。

だが、妙に耳に残る響きだった。


「そうかもな……最近の信長様は、光秀様にきつすぎる」


「今、信長様を討てば……」


「もしかして……天下は光秀様のモノに!?」


最初は冗談めいた囁きだった。

だが、兵たちの胸に溜まっていた鬱憤が、その言葉に火をつけた。


まるで乾いた草原に火種を落としたように、噂は瞬く間に広がっていく。


そして、最初に言い出した男が、周囲に気づかれぬよう、じりじりと隊列の外へ離れていくのが目についた。


(……あれ、怪しいな)


俺はそいつの動きを目で追った。

すると、男はふと振り返り、俺と目が合った瞬間、顔を引きつらせた。


「で?お前は何処のモンだ?……あー、その顔、羽柴様のところで見たことあるわ!」


「!!?」


男は突然、腰の刀を抜き、俺に斬りかかってきた。


反射的に俺は剣を抜き、相手の刃を弾き飛ばす。

金属がぶつかる甲高い音が響き、周囲の兵が振り返った。


男の剣筋は荒い。

力任せで、隙だらけだ。


俺は軽く受け流し、男の刀を叩き落とした。


「な、なんだお前……!」

「それはこっちのセリフだよ。お前、羽柴のとこの間者だろ?」


男は歯を食いしばり、吐き捨てるように言った。


「別に……俺は光秀様をそそのかしたわけじゃねぇ!あれは、お前ら明智勢の気持ちを代弁しただけだ!!」

「……あ〜、まぁ、確かになぁ……」


周囲の兵たちが、気まずそうに視線をそらす。

どうやら、信長の横暴に腹を立てている者は多いらしい。

光秀を慕う者ほど、その傾向は強い。


(でもこれ、失敗するんだよなぁ…成功させるのも違うだろうし…。そもそも踊らされて祭り上げられるのは光秀らしくないしなぁ)


俺が考え込んでいると、男がニヤリと笑った。


「さっきの早馬の話は本当か?あいつもお前の仲間だろう?」


「……ああ。そもそも信長様に毛利のところへ来てもらうのは、援軍というより“調印”のためだったらしいからな」


(おいおい、こいつ……情報通すぎない?絶対ただの下っ端じゃないだろ)


「つまり援軍要請は……」


「あわよくば、お館様を亡き者に――という殿の目論見だろうな」


「ふ〜ん……」


俺が曖昧に返すと、男は逆に俺を値踏みするように見てきた。


「ところでお前は何者だ?」


「援軍で駆り出された農民だよ。羽柴様の軍勢に招集されたこともある」


「ホントかよ!あの技でか?お前、侍になるべきだぜ!口きいてやるぞ?」

「ダメだ。農業の担い手を簡単に減らしちゃいけねぇ!!」


「!!……確かにな。それがお前の矜持か?」


「そんな大層なもんじゃねぇよ」


(そもそも俺、本来ここに居ねぇし……)


「ん?」


「なんでもねぇ」


男はしばらく俺を見つめていたが、やがてふっと笑った。


「お前はこのまま本能寺に向かうのか?それとも……」


「それとも?」


「俺と一緒に、羽柴様を迎えに行くか?」


「は?」


あまりに突拍子もない提案に、俺は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

だが、男の目は真剣だった。


「光秀様がどう動くかはわからん。だが、羽柴様は必ず動く。お前の腕があれば、どちらに転んでも損はしねぇ」

「……いやいやいやいや」


俺は頭を抱えた。


(本能寺の変の裏側に、こんな“火種”があったなんて……歴史書には絶対書かれてないぞ……)


だが、ここで俺がどう動くかで、歴史が変わる可能性がある。


前回の龍馬の件で、俺はそれを痛いほど理解していた。


(さて……どうする、俺?)


男は俺の返事を待っている。

周囲の兵たちも、息を呑んでこちらを見ていた。


その空気の中で、俺は――


まだ答えを出せずにいた。


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