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鵺の娘  作者: 水無月
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第二十三夜




「―――夜鳥灯さん?」


「ふぁい!?」







****





あの後、本当に凄い静電気なのかどうかを問いただしていると、鵺が帰宅した。


『なんだ、どうかしたのか』


「お帰りなさい、お父さん!

 あのね、さっき天にぃが私の頭触ったらバチィっていったの!!

 凄い静電気だっておじさまも天にぃも言うんだけど絶対おかしい!!」


『む・・・?

 そうなのか?』


『何をいっておる、灯。

 ちっとばかしすんごい静電気じゃと言っておろうが』


『そうだぞ、灯。

 そんなに私達の言うことが信じられないのか・・・?』


「う・・・、そうじゃないんだけど・・・!」


『ふむ・・・、

 灯よ、きっと天やぬらりひょんの言う通りだろう。

 気にするな』


「・・・むー・・・。わかった」


あまり納得してい無さそうな灯だが、信頼している三妖怪に言われればそうなのかもしれないと考え始める。

きっと天文学的な数値で出た凄い静電気なのだろう。

ちなみに天文学的という言葉は最近読んだ本に書いてあったので気に入って使っている。

正確な意味合いで使えているかどうかまでは分からないが。


『それより灯、今日の夕餉はなんだ?』


「あ!

 そうだ、今日はどうしよっかなー」


鵺の言葉に、灯の脳内は一瞬で静電気から離れ、今日の夕食一色に染まる。

簡単とは言わないで上げて欲しい。

台所を預かるもの、夕食の献立は重要なものなのだ。


いそいそと台所へと消えていく灯に、三妖怪は無言で頷き合う。

そして灯の姿が見えなくなった瞬間、薄い結界を居間に張った。


『して、何事だ?』


鵺は天とぬらりひょんを見据えながら問う。

先程は二人に合わせてああ言ったが、灯の言う物凄い静電気がそうでないことは分かっている。


『急かすな、天よ』


『・・・私は、依然あれと同じものを感じたことがある』


『同じもの?』


『あぁ、あれは陰陽師や祓師はらいしが使っているものだった』


『!!

 陰陽師や祓師が灯の側に居るとでもいうのか!?』


『可能性は捨てきれん。

 彼奴らは我々を滅する事に生涯を懸けていると言っても過言ではないからな』


そう言う三妖怪の記憶に、かつての忌々しい思い出がよみがえる。

何もしていない妖怪を、何匹狩られた事か。

確かに、人間を害する妖怪はいる。

だが、それが全てではない。

もちろん、彼らのしている事は理解できる。

自分達だって、同胞狩りを阻止すべく何人もの人間を屠ったのだから。


しかし、それと灯は別問題だと思っている。

灯は、人間だ。

確かに妖怪との関わりは深い、だが、それだけの事だ。

灯が聞いたら泣いて激高しそうなものだが、実際にそうなのだ。


『・・・問題は、何故今、ということじゃな』


『どういうことだ?』


『蛇神がきな臭い動きをしておる』


『・・・蛇神だと?』


ぬらりひょんの言葉に、天が最初に反応する。

妖怪の中でも、天敵を言うのは存在する。

烏天狗にとって、蛇一族がそれなのだ。


『何故だ』


『わからぬ、目立った動きをしておるわけでもないからのぅ。

 ただ、その陰陽師たちと時期が合いすぎじゃ。

 何かしらあったと考えるのが道理じゃろうて』


三妖怪は頭をひねる。

蛇一族にとっても、陰陽師や祓師というのは共通の敵だ。

むしろ、自分達よりも多く狩られているのだから不倶戴天の敵といっても過言ではないはず。

蛇は執着心が凄い。

そんな彼らが陰陽師たちと手を組むなど考えにくいのだ。


『わからぬな、そもそも蛇が灯を狙う意味もなかろう』


『それもそうだ。灯は吾の娘であるだけの、ただの人間なのだ。

 あれを喰らったからといって、力が増すわけでもない』


『・・・私の方で少し探っておこう。

 灯に万が一のことがあってもいけない』


『そうじゃの、天、頼むぞ。

 わしも留意しておこう。

 鵺、主はしっかりと灯を守っておれ』


『言われなくとも』


「天にぃー、出来たから手伝ってー」


『わかった』


話しが終わるのと同時に丁度良く、灯の夕餉の支度が終わったらしい。

相変わらず鵺は呼ばないまま、天に手伝いを求める。


『ぬぅ・・・、吾も人型で生活すべきか・・・』


『やめておけ、嫉妬は見苦しいぞ、鵺』


結界を直ぐに解き、天が灯の元へと腰を上げる間、鵺は悶々と考え込んだ。





****




「夜鳥さん、初めましてだよね。

 俺は安陪、よろしく」


「えっと、よろしくね、安陪君」


灯は戸惑いを隠せなかった。

彼はその見た目と愛想の良さから常にクラスメートたちに囲まれていたはずだ。

灯はそこに入っていく勇気はなく、ただ外から見ていただけなのに、どうして声を掛けられたのだろうか。


そんな灯の考えを呼んだのか、皇はにこりと笑みを浮かべる。


「夜鳥さん、近くの山に住んでいるんでしょう?

 俺、そこの近くに住んでてね。

 ただ、山には入らない方が良いって聞いてさ、どうしてかなって」


「あぁ、あそこ、お父さんの友人の山なの。

 私有地だからじゃないのかな」


灯は当たり障りのない答えを言う。

そう言うように昔から言われていたから、許容範囲内の質問だ。


「・・・そうなんだ。

 今度、遊びに行ってもいいかな?」


「えっとーー、聞いてみてからになるかな!」


灯はそれだけ言うと、そろそろ行かなきゃと逃げるように皇の前から去る。


「―――他愛もなさそうだな」


皇がそう呟いたのを聞かないまま。





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