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中川さんがほんの少し前にいるように感じる。
「いける!どうだ!!」
第一ターンマークで中川さんを置き去りにするようにモンキーターンをする。
我ながら完璧なターンになった。
名前をつけるなら、やはり「介錯ターン」だろう。
もうプロとしての諦めもつくだろう。
気がつくと、大時計前の失格ランプが付いている。
最悪だな。きっと中川さんだ。クビ確定のレースで勇み足。踏んだり蹴ったりな展開だろう。
やけに失格艇番号が付くのが遅い。
こういうときは2艇以上のフライングで、慎重な判定が行われていることが多い。
自分は……つられてないよな……
失格艇確定ランプが付く。
「1」
え?
嘘だろ?
久しぶりの準優勝戦とはいえ、自分が気合の空回りとは……
ただ、「2」は付いていない。
スタートラインが見えないとはいえ、中川さんは2センチは前にいたような気がする…
自分がレースから離れた後、中川さんは1着でゴールをした。
笑顔はなかった。
レースが終わり、陸上に上がる。
「行ってくる。片付けよろしく。福田、ごめんな」
ここでいう「行ってくる」とは、「運営本部に謝りに行ってくる」ということだ。
「失礼します!!」
目の前に現れたのは遠藤競技委員長、通称「エンチョウ」
職人気質で神経質な事もあり、法律にはもちろん、外部に出ない内部規定にも厳しく、自分にも他人にも厳しい、いろいろな人から信頼されている委員長だ。
「お前が珍しいな。勘弁してくれよ」
自分には頭を下げることしかできない。
「本当に申し訳ないです…」
「タイミングは掴めてたのか?」
「掴めていたはずだったんですが…掴めてませんでした…」
委員長は深い溜め息の後、告げた。
「反省文な」
地元では約5年ぶりのフライング。
反省文を書きながら、リプレイを見る。
どう考えても中川さんは自分の前にいたはずだ。もし前じゃなくても、同時くらいのタイミングでスタートを切っている。
しかし、リプレイを見る限り、中川さんは自分より少し後ろにいた。




