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VAMPIRE KILLING  作者: 冷麺
第Ⅰ章『吸血鬼討伐篇』
17/27

14:【華ガ散ル刻】-②

 翌朝。

 舞は御影に送られ、【月鬼隊(げっきたい)】の借り家に戻り、朝を迎えた。久しぶりに秋奈と合い、何があったのかを語りつつ横になっていたら、眠ってしまっていたようだ。


「私が居ない間、ちゃんとご飯食べれてた?」


 二人とも起床し、学校へ向かう準備をする中、舞が秋奈に訊ねる。


「え? うん。殆ど外食だったけど」と、彼女は答えた。


「外食かあ、何食べてたの?」

「駅近くのレストランの生クリームかつ丼」

「えッ……」


 舞は軽く引いた。

 生クリームかつ丼と言えば祓間市一番のゲテモノ料理の上に死ぬほど不味いと有名なものだったからである。以前ふざけ半分で葉月が食べていたが二日ほどグロッキー状態になっていたのを思い出す。


「よくそれ食べれたね……死ぬほど不味いのに……」

「へ? そうなの? 意外といけたよ、あたし」


 秋奈はケロッとした表情で答える。味覚がぶっ壊れてる人間も居るのだなあと彼女は思った。

 

「準備出来た?」


 舞は制服に着替えて鞄を手に取ると、秋奈に聞いた。彼女は「うん」と頷くと二人はそのまま借り家に戸締りをして通学路を歩き出す。


「葉月の言ってた話って何だろう……?」


 ボソッと舞は昨日葉月が電話越しに伝えてきた言葉を思い出す。いつも明るい彼女にしてはかなり真面目なトーンだった。


「話? 葉月ちゃんが?」

「うん。結構真面目そうな感じだったから……。一週間も留守にしちゃってたからちゃんとそのことも謝らないとなあって」

「なるほどねえ……」


 秋奈が少し興味ありげな表情で頷いた。

 彼女たちがと人気のないある川を横断する橋に差し掛かった時であった。二人の前に、小柄な人影が立ち止まっていた。真っ白なパーカーを羽織り、チャックは首元まで閉じられていた。そして真黒なミニスカートを履き、漆黒の髪が風に(なび)いている。その姿こそ見覚えがないが、その顔に覆われた黒い仮面(マスク)には、見覚えがった。


「あれは……『黒仮面(ブラックマスク)』……!」


 舞は、そう言った。

 あの仮面、あの仮面を被って今そこに立っている彼女こそ、自分の父親を殺した張本人の【吸血鬼(ヴァンパイア)】だ。


「『黒仮面』って、あの――」


 秋奈が言葉を発した刹那、『黒仮面』は蒼い粒子と共に刀を発現させ、瞬時に二人に斬りかかる。突然の出来事であったが、舞は素早く【刃機(じんき)】を発現させ、『黒仮面』の刀をそれで受け止める。ギリギリと刃同士が擦れ、火花が散った。


「やあ、久しぶり、舞ちゃん。元気してた?」と、黒い仮面の向こう側から、舞と似た声質で舞に言った。

「どの面下げてそんなことを……! クソ野郎……!」


 強い声を出しながら、舞は彼女の刀を振り払った。『黒仮面』はくるりとバック転をして間を取る。そこへ向かって、刃機を装展させていた秋奈が『大流星軍(メテオスラッシャー)』を打ち込んだ。『黒仮面』は軽くそれを避ける。火を纏った岩石球は橋のアスファルトを抉り、その破片が飛び散った。飛び散った破片の一つが『黒仮面』の仮面を直撃し、ヒビが入る。

 続いて舞が『火超封月(かちょうふうげつ)』で、火球を『黒仮面』に向かって放った。


「ここでお前を殺してやる……!」


 舞の言葉には憎しみが込められていた。

 放たれた火球が、よろめく『黒仮面』に直撃する。――かの様に見えたが、彼女はあの火球を刀一本で防ぎ切った。


「こんな付け焼刃の攻撃じゃあ、ボクを倒すなんて出来ないよ」


 そう余裕の言葉を放つ『黒仮面』。戦慄する舞。

 すると、『黒仮面』の付けている仮面が、火球を防いだ衝撃でとどめを刺されたのか、遂に割れて地面に落ちた。ついに、『黒仮面』の素顔が彼女たちに曝け出された。


「――あーあ、この仮面、お気に入りだったのに。どうしてくれんの?」

「その顔……!」と、舞はさらに戦慄し――。

「やっぱりあなただったんだ」と、秋奈はその正体に納得する表情を見せた。


「『黒仮面』……その正体は――黒刀死織(こくとうしおり)……いや、斬鳴静(きりなりしずか)の方が良い?」


 秋奈は『黒仮面』――死織を睨むかのように言った。すると、彼女は小さく笑う。


「そんな目で睨まないでよ、秋奈。怖いじゃん。それに――斬鳴の名前は捨てた。呼ぶなら静にしてくれない?」


 彼女の声は突然低くなり、表情も厳しくなる。


「なんで――なんで、お前の顔が……私と同じなの……?」


 舞は彼女に向かって訊ねた。

 そう、彼女の顔は――殆ど舞と同じだったのだ。目の大きさ、鼻の高さ、唇の明るさから顔のパーツの位置まで……舞と遜色ないものだった。


「なんでって……分かるでしょ。――お姉ちゃん」

「――は?」


 舞は一瞬思考が停止した。彼女から放たれたまさかの言葉を飲み込むことが出来なかった。


「――わ、私に兄妹なんて居ない……ずっと家族はお父さんだけで――」

「でしょうね。あいつは、私の存在を隠し続けてたんだもの。知らなくて当然よ。でも、これが事実。私が妹で、あなたがお姉ちゃん。私達は双子なのよ。しかも――」

「その話をする為だけに来たわけじゃないでしょ? 静」


 遮るかのように秋奈が死織に向かって言った。


「ねえ、秋奈ちゃん……あいつの言ってる事って……」

「――その話はまた後で。月鬼隊としてはこいつを早く討伐しないと……」


 秋奈はそう言って死織を睨む。


「やだなあ。まだボクの事を恨んでるの? ――私の事を裏切ったのはそっちの癖に」

「一体何があったって言うのよ……」


 舞は話についていけず混乱する。

 自分の父親を殺したのは自分の双子の妹で、更には過去に秋奈たち月鬼隊と因縁があり――今まで知らなかった情報が一気に流れ込んでいる。混乱するのも無理はない。


「で、何をする為に此処に来たのか、って話だっけ――。うーん、そうだなあ。言うなれば……」


 死織はニタリを不気味な笑みを浮かべた。


「――時間稼ぎ」

「一体どういう……」と舞が聞き返そうとした時、ポケットに入れたスマートフォンが着信音を響かせる。それは、秋奈のスマートフォンも同じだった。

 彼女たちは死織を見ながらスマートフォンを取り出す。それを見ていた彼女は手を顔の位置にまで上げながら戦意はないと示す。

 それでも彼女たちは気を付けながら電話に出た。


「もしもし――」

『こちら月鬼隊本部――現在、祓間市、私立轟哭高校にて吸血鬼――『アゲハ』の襲撃を確認――これは現在祓間市に在中の血鬼祓隊員に通達しております……。繰り返します、現在祓間市の私立轟哭高校にて『アゲハ』襲撃を確認――犠牲者は多数――』

「なっ……!」


 舞は衝撃を受ける。まさか、あの吸血鬼――『アゲハ』が自分の高校を襲っているとは夢にも思わなかった。まずい、早く向かわなければ……あそこには――!


「葉月ッ……!」


 彼女は高校へ向かうために駆けだそうとする。しかしここにはまだ黒刀死織が――。どうあの障壁を除外するか――。そう考えていたのだが、彼女の姿は忽然と消えていた。


「あいつ、何処に……!」と、舞が叫ぶ。

「それよりも早く、学校に行かないと……!」と、秋奈が舞に向かって言った。舞は焦りながら頷くと、直ぐに学校へ向かって駆けだした。

 一刻でも早く向かわなければ、犠牲者は増える一方だ。それに、葉月の安否も確認しなければ……。

 舞は走りながら葉月のスマートフォンに電話をかける。しかし、何コールしても電話に相手が出る事は無かった。


「――ッ……!」


 舞は感情を抑え込むかのように唇を噛みしめて走り続けた。




    ◇    ◇    ◇    ◇    




 ――一方、月鬼隊本部。突然の『アゲハ』の襲撃によって、オペレータールームはかなりの騒ぎとなっていた。支部長である血業(ちぎょう)は一人動じず、指揮を執っていた。


「支部長、現在星詠副隊長と朝霧副隊長候補が轟哭高校へ向かっています。同時に、星詠副隊長からの報告で『黒仮面の正体は黒刀死織、若しくは斬鳴静であることを確認。10分ほどの遭遇後、姿を消した』とのことです」


 一人の女性オペレーターが彼に向かって報告する。


「二人だけでは戦力が乏しい。他に迎えそうな隊長格は?」

「現在、雨昊(あまそら)隊長が討伐任務を終えて合流しようと向かっています。他の隊長格は合流に時間がかかりそうです」

「――了解だ。なるべく、戦力を轟哭高校へ向かわせろ」


 彼は他のオペレーターに支持を出すと、大きく溜め息を吐いた。


「……このタイミングで『黒仮面』――いや、斬鳴の出現……『アゲハ』はあいつと関わりのある誰か、か……? なら、あいつの目的はなんだ……?」


 彼は伸びた髭を触りながら考え込む。すると、一人の女性が血業に話し掛ける。


「どうした、真理(まり)

「支部長。上喰(うわばみ)隊長からの報告が」


 そう言って軽く頭を下げたのは、月鬼隊の副支部長であり、代々月鬼隊の(おさ)を担う血業家の分家である牙哉(きばや)家の長女であり、過去には血鬼祓として活躍していた血業牙哉真理(ちぎょうきばやまり)だ。


「報告? 何についての」と、彼が訊ねる。

「以前発見された『アゲハ』による襲撃を受けたと思われる男性の死体についてですが……詳しく調査したところ……どうやら、あの死体は人間ではなく吸血鬼のものと分かったそうで」


 と、真理は流ちょうな喋り方で報告する。


「つまりそれは吸血鬼同士の争いに敗れた吸血鬼の死体だと?」

「いえ、上喰隊長も最初はそう思ったそうですが……体内のCe粒子が全て失われいる様で。その死体に、一度別の何者かのCe粒子が入った後、その全てが失われている、と……」

「――つまりそれは……」

「血を吸われた人間が、Ce粒子の反応で吸血鬼化し、その吸血鬼を殺害した可能性が高い、ってことです」


 人間の吸血鬼化――。

 数々の伝承にある様に、こちらの吸血鬼に血を吸われた人間は吸血鬼となってしまう。しかし、それはかなり確立の低い出来事で、意図的に吸血鬼にさせようと思ってもかなり難易度が高い。殆どの場合が血を吸われ尽くして死亡し、偶然吸血鬼として適合しても精神崩壊を起こしてしまう。

 人間が吸血鬼として覚醒するのは、滅多に起きない事なのだ。

 真祖吸血鬼がみずらかの血を分け与えて吸血鬼に変貌させることもあるらしいが、やはり確率的には難しい。


「――その仮説が正しければ、『黒仮面』がけしかけてその人間を吸血鬼に変えた可能性もありえるのか……」


 『アゲハ』と死織は恐らく何らかの関係が存在する。

 そして、轟哭高校の生徒でもある舞と秋奈に接触を図った。

 『アゲハ』は何らかの方法で吸血鬼化した人間である――。

 その時、彼の脳内に一つの結論が開花する。


「一刻も早くあの二人以外の隊長たちを集めろ……出来れば、あの二人が『アゲハ』と遭遇する前に……」


 彼の重い声が、オペレータールームに静かに響いた。




    ◇    ◇    ◇    ◇    




 私立轟哭高校。

 舞と秋奈は漸くそこへ辿り着いた。正門は既に警察官によって封鎖させられており、何台もの救急車がサイレンをけたましく鳴らしていた。多くの轟哭高校生がそこで保護されており、葉月が居ないかと舞は一人一人顔を見ていく。しかし、そこには葉月の姿は見られなかった。

 偶然、同じクラスメイトの子が居たので、舞は話し掛ける。


「ねえ、山本君。葉月を……明海さんを見なかった?」

「え、いや……見てないな、悪いけど」


 彼は怯えた表情で震えながらそう答えたのち、顔を俯けた。

 よほど、『アゲハ』の襲撃で衝撃的な光景を見せつけられたのだろう。


「葉月……!」


 舞は彼から離れ、黄色いテープで封鎖された正門に向かった。


「舞ちゃん、気持ちは分かるけど……隊長達の到着を待った方が――」

「時間なんてない、早くしないと葉月が……」


 心配している秋奈の事を振り切って、彼女はテープを押しのけて学校へ入ろうとする。それを刑事である薄毛のベージュ色のコートを着た男が止めようとする。


「おいおい、嬢ちゃん。こっからは危ないから入っちゃダメだ――」

「邪魔よ!」


 取り押さえようとする警官たちを舞は力強く振り払って、直ぐにそのまま走りだして、校舎の中に入って行った。秋奈は追いかけようとするも、さっきの舞の行動のせいで余計に警官が増えたので、どうにかして別の場所から校舎へ向かおうと決め、その場を離れた。


 彼女は静かになった校舎に足を踏み入れた。一階は既にもぬけの殻で、きれいさっぱり何も残っていない。ここまで不気味な学校は始めてだった。


「葉月……どこに居るの……?」


 舞はポケットから再びスマートフォンを取り出す。そしてダイヤルを葉月に合わせて、電話を掛けた。数コールしても、彼女が電話に出る気配はない。「ダメか……」と諦めかけた時、ふと着信音が聴こえた気がした。その音は、彼女が階段に近付く度に大きくなる。


「うっ……」


 舞は階段を上り始めて数段、吐き気を催した。そう、そこには頭部を失い大量に血を流している男子高校生の死体が転がっていたのだ。むわっと血の匂いが段々きつくなる。そして二階へ到着した時、舞は叫んでしまった。


「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 そこ。

 に。

 

 転がる 転がる 転がる 捨てられる。


 多く 大量大量 嵩張る 夥しい量の――。


 死 死 死 死


 死 死 死 死


 死 死 死 死 


 死 死 死 死


 首 腕 頭 足 足 手首 首 


 赤 真っ赤 紅 赤 赤 血 血 血 血


「はアッ……ハアッ……なんでこんな……」


 いくら血鬼祓とはいえ、そこに転がる夥しい量の死は、舞の精神を打ち砕こうとする――。

 そしてそこから聞こえる聞き慣れた着信音。


「嘘……嘘だと言って……」


 赤く色塗られた廊下から聞こえる、もう知っている着信音。葉月のお気に入りの旋律(メロディー)。現実を理解したくない。この転がった死の中に、彼女が居ると思いたくない――。

 だが――。

 舞は見つけてしまう。

 血だまりに残された壊れかけのスマートフォン。舞が電話を止めれば、数秒の後、着信音も消える。


「あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 慟哭。

 激昂。

 それに呼応するかのように現れる、死をもたらした怪物(モンスター)

 後者の窓ガラスをぶち破り、その場にある死体を踏みつけ、羽根を広げ、蒼き瞳で舞を見つめる。

 ――『アゲハ』。


「お前……お前が……――お前、お前が……お前を殺しておけば、あの時逃がさなければ……葉月は……!」


 舞は『アゲハ』の出現に合わせて、刃機を装展する。そして間髪入れず、彼女は『火超封月』の火球を生み出し、奴に向かって撃ち放つ。それは超電磁砲(レールガン)の如く、早いスピードで正確に『アゲハ』目掛けて進んだ。

 

「――――――――――」


 『アゲハ』はそれを避けるそぶりも見せず、直撃する。Ce粒子の衝撃波が発生し、何枚かの窓ガラスを割った。廊下に散らばった死体がさらに欠損し、宙を舞う。床が抉られ、埃が舞った。そして、徐々に『アゲハ』の姿が露わになる。

 奴が纏っていた黒いコートは燃え尽き、中に来ていた服が少し焦げ付きながら風に靡く。それは、ここ――私立轟哭高校の女子生徒の制服。そして、奴の素顔も漸く現れる。――それは、舞の見覚えのある顔であった――。


「――なんで、葉月、あなたが…………!」


 舞は衝撃を受けた表情を見せる。

 吸血鬼・『アゲハ』、その正体――それは、舞の親友・明海葉月だったのだから。

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