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VAMPIRE KILLING  作者: 冷麺
第Ⅰ章『吸血鬼討伐篇』
18/27

15:【華ガ散ル刻】-③

今回の文字化けは仕様です。


https://tools.m-bsys.com/development_tooles/char_corruption.php

【地獄n蜿」縺碁幕縺?◆迸ャ髢】


「た、助けて、誰か……!」


 人気のない路地裏。葉月は一人――月夜の下、吸血鬼に襲われていた。

 その吸血鬼たる男は――まるで怯え、慌てふためく葉月の姿を見て快感を感じていた。

 昔からそうだった。

 普段か澄ました表情で、まるで地球は自分たちのものだと言わんばかりに闊歩する人間たちをこうやって遅い、殺し、その血を喰らう。なんとも素晴らしい快感だ。

 

「誰も助けなんか来ねえよ、お嬢ちゃん」


 にひひ、と気色の悪い笑みを浮かべ、彼は葉月を追い詰める。


「そんな……行き止まり……!」


 彼女の逃げ込んだ場所は、三方向壁に囲まれた場所だった。周りには腐った生ごみが散らかっていた。葉月はそれにすら気付かず、その場に座り込んでしまう。はあはあと大きく息を吐く。此処までかなり走っていたから、かなり息が上がっていた。


「いや……いや……!」


 迫る吸血鬼に、葉月は嫌悪を示す。しかし、彼からすればそんなものどうとでもいい。吸血鬼からすれば、人間はただのか弱いエサにしかすぎないのだから。

 彼は蒼い粒子を発生させ、刀を形成させると、容易く葉月の右腕を斬り飛ばした。くるくると飛んで彼女の後ろに堕ちた。鮮血が噴出し、血の海を生み出す。


「―――――――ッ……!」


 あまりの激痛に、声が出ない。葉月はその場に伏してしまった。それを見て彼は葉月の服を掴み、首にがぶりと噛み付いた。


「あうッ……」と、瞬時に葉月の顔面は蒼白する。


「久しぶりだぜえ、こんな若い女の血は――」

「いや、死にたく……ま……い……」


 葉月は残された腕で抵抗しようとするも、出来ない。人間――しかも弱り切った人間の力では、吸血鬼に適う訳がない。そう、彼女に残された道は、死のみだった……。


「――……えあ?」


 ――その時だった。彼が吸っていたはずの血は、全て葉月の元へ逆流する。何が起こったか、彼は理解出来ぬままだった。そして、逆流した血が完全に葉月の身体を再び巡る。同時に葉月の両目は蒼く輝きだした。


「遘√?窶ヲ窶ヲ遘√?隱ー縲∽ココ髢凪?補?募精陦?鬯シ?」


 彼女の発する言葉は、誰にも聞き取れない。

 ――葉月は混乱する彼の首筋に思いっきり噛み付いた。「うぎゃっ」と、彼は叫び声をあげる。次第に吸われていく己の血を守るため、葉月を思いっきり彼は蹴っ飛ばした。

 しかし、葉月はダメージをあまり受けず、よろめくだけであった。そして、吸血鬼から血を吸収したことにより、彼女は完全に衝動へ飲まれる。背中からメキメキと、アゲハ蝶の様な羽根が生え、蒼く輝く。


「ひっ、ひいいい……!」


 その様を見ていた彼は、その場から逃げようと走り出す。

 刹那、彼の霄ォ菴を大量の棘が刺さり、肉は蠑輔″陬ゅ°繧後k。そしてそのまま地面に転がり、仰向けの状態になる。


「たっ――――」


 その後に続く言葉を発する前に、大量の棘が彼を繧コ繧ソ繝懊Ο縺ォ蠑輔″陬ゅ>縺溘?ょスシ縺ッ縺昴?蠕後?、もう一度も動くことなく、完全に息絶えた。


「わ……たし、は――こんなこ……t」


 ――人間の吸血鬼化。

 極稀に発生するその現象は、その名の通り、人間が吸血鬼に変貌してしまう事を言う。

 だが、偶然にも吸血鬼化しても、その際に発生する吸血鬼としての本能と人間としての精神が相反し、最終的には邊セ逾槭?蟠ゥ螢翫r襍キ縺薙☆。

 完全に吸血鬼化した場合は、吸血鬼としての人格と人間としての人格が融合したり、若しくは同時に二つの人格を宿す。中には、完全に吸血鬼の人格に飲まれる場合がある。

 葉月は現在、縺九↑繧翫≠繧??繧?↑迥カ諷九〒縺ゅ▲縺溘?ゅ%縺ョ縺セ縺セ縲∝精陦?鬯シ縺ィ縺励※縺ョ莠コ譬シ縺ォ鬟イ縺セ繧後※繧ゅ♀縺九@縺上↑縺??ゅ□縺後?∝スシ螂ウ縺ッ蠑キ螟ァ縺ェ邊セ逾槫鴨縺ァ蟾ア繧剃ソ昴→縺?→縺吶k縲よ腐縺ォ縲∝精陦?鬯シ迥カ諷九→莠コ髢鍋憾諷九r蛻?j譖ソ縺医k莠九′蜃コ譚・縺ヲ縺?◆縺ョ縺?縲


「あ、ああああ、縺ゅい莠懷薄髦ソ蜷セ莠槫薄縺∬尸蝠槭ぃ繼縺ゅい莠懷薄髦ソ蜷セ莠槫薄縺∬尸蝠槭ぃ繼」


 蠖シ螂ウ縺ョ莠コ譬シ縺ッ谺。隨ャ縺ォ鬟イ縺セ繧後※縺?¥窶補?輔?

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 縲?縺昴@縺ヲ縲√%縺ョ迥カ諷九r莉慕オ?s縺ァ縺?◆鮟貞?豁サ郢披?補?輔?ょスシ螂ウ縺ィ闡画怦縺悟?莨壹≧縺セ縺ァ縺ッ縲√◎縺?□縺上↑縺九▲縺溘?。




◇    ◇    ◇    ◇




「繧上?√o縺滂ス凪?ヲ窶ヲ縺イ縺ィ縲√r縲∵サ?⊂縺吶@縺九↑縺」


 ――目の前に立つ『アゲハ』こと明海葉月(あけみはづき)は、虚ろに蒼く光る眼を舞に向けながら、解読不能な声を発する。それは寒気がする程不気味で、とても葉月が発しているとは思えない様な声だった。


「葉月、葉月でしょ……? 何で……!」


 舞は目の前の事象を信じることが出来ない。

 当然だ。

 つい一週間前、共に遊びに出かけた親友が、今、目の前に吸血鬼として存在している。彼女は、地下鉄の乗客を惨殺し、更には自分の通う高校の生徒をも惨殺してしまっていた。

 ――いつからだ?

 葉月は、いつから(じぶん)を騙していた? 騙っていた? 欺いていた?

 自分が吸血鬼でありながら、ずっとそれを隠していたのか?

 いや――・

 そんな筈はない。

 彼女はれっきとした人間だった。

 吸血鬼は味覚を知らない。

 なぜなら――。彼らは血以外の味を知らない。ヒトの作る食べ物を彼らが食べても味を感じる事は出来ない。それから栄養を取る事も出来ず、そのまま体外へ排出される。彼らの身体構造的に、血以外から栄養を取れないようにされているからだ。

 それを基準にすれば、彼女は人間だったのだ。

 共に味わった。甘いものも辛いものも――共に食した。一緒にカレーライスを作ったり、彼女が作った弁当を食べた事もあった。それは――吸血鬼にはできない。


「――――縲手干陜カ鬚ィ陦?(縺九■繧?≧縺オ縺?£縺、)縲」


 葉月が何かを告げた。

 その時、彼女の背後に円形に蒼い棘が並ぶ。そしてそれは舞へ向かって放たれる。

 舞は苦虫を嚙み潰したような表情で、刀から火球を発生させると、こっちへ向かう棘をそれで相殺した。すると、葉月は背中から蟲の脚の様な蒼く輝く触手を六本発生させ、その先端を刃の様に尖らせる。羽根を動かし舞へ向かって突撃する。


「――葉月ッ!」


 舞は刀を変幻自在に振り、その触手を斬り飛ばした。が、一本だけ斬り損ねる。それが、舞の左肩を貫いた。「ぐぁッ!」と、痛みに思わず声を漏らす舞。葉月は舞を貫いたままそこから飛翔していく。三階、四階、屋上を仕切るコンクリート床をぶち抜いていく。そのダメージは舞にも入る。そして彼女たちは空を舞う。


「正気を取り戻して……お願い……!」


 彼女は刀から火球を発生させると同時に、電気を放電させ、その全てを葉月に向かって撃ち放つ。葉月は触手を再び発生させて火球を受け止める。が、火球の威力は高く瞬時に触手は燃え尽きる。遅れて電撃が葉月を襲う。しかし、電撃を喰らっても然程ダメージを喰らってるようには見えなかった。

 ――『花蝶風血(ブラッディフラワー)』。

 吸血鬼と化した明海葉月の血能(アビリティ)である。

 Ce粒子で形成された羽根により空中を舞う事が可能になり、更には触手によって遠距離からの攻撃・吸血を可能にした。そして十三の棘を生み出し、それを射出する事で人間であれば瞬時に殺害する事が出来る。

 何故、吸血鬼になったばかりの彼女が血能を使えるのか――。




◇    ◇    ◇    ◇




「実は、ちょっとばかりあの吸血鬼に細工させてもらったんだ」

「…………?」


 葉月が吸血鬼と化したあの日、彼女は死織と出会っていた。


「あいつに、ボクの血を混ぜておいた。と言っても、眠らせた状態で。そして君が吸血した時点で、ボクが仕込んでおいた血が、君の中で目覚めた。まあ、賭けに近い状態だったからねえ。なんとか上手くいって良かったよ」


 彼女はにたりと笑いながら言う。


「どう……いう……」


 葉月はたどたどしい口調で彼女に訊ねる。


「血能を持つ吸血鬼が人間や吸血鬼に血を分け与えると、血能を扱える状態になる。発現する血能は分け与えた本人とはまた別になるけど。ただの吸血鬼を舞ちゃんに殺させても意味が無い。ちょっとばかし強くないと困るんだよね」

「――舞……なんであなたが……」


 葉月は舞の言葉を聞いて戦慄する。

 死織はさらに顔を歪ませて笑った。そして、発現させた刀を葉月の額に当てた。


「そこから先は知らなくていい、明海葉月。君はただもう、夢の中に居ればいいんだよ。後から先は――もう一人の君だけが居れば良いんだから」

「なに……を……」


 葉月は瞼を閉じて、その場に倒れる。すると、Ce粒子が発生し、彼女の背中から対の羽根が生え、瞳は蒼く輝き、再び立ち上がった。


「殺せ。殺して殺して殺しまくれ。そして舞ちゃんに絶望を分け与えてあげるんだよ? 君は強いんだ。なんでたってボクの血を飲んだのだから。だってボクは――」



◇    ◇    ◇    ◇




「――――――‼」


 葉月は再び触手を発生させると、全てを舞に向けて伸ばす。舞はそれを刀で弾く。が、一本のみが舞の胸を貫く。


「ぐッ……!」


 痛みが舞を襲う。葉月はそのまま大きく舞を貫いた触手を振りかぶって、体育館目掛けて振り下ろした。舞の胸から触手が抜けると、とてつもなく早いスピードで体育館の天井をぶち抜いて床に墜落する衝撃で彼女の周りの床が砕け、クレーターの様になる。葉月もまた天井を破って、床に静かに着地した。


「葉月……なんで…………いや、私が――」


 ボロボロになり、血まみれになった舞が、ゆっくりと立ち上がる。それでも、彼女は諦めない。どうにかして、葉月を救う方法があるのだと。その希望にだけ縋り、舞は立つ。何度でも、何度でも。


「舞ちゃん!」


 体育館の扉を開けて、秋奈が現れる。先ほどの舞が墜落する様を見て、此方へ駆けつけたようだった。

 彼女は『大流星軍』で葉月に牽制をかけてから舞の元へ辿り着く。火炎の岩石を喰らった葉月は体育倉庫にまで吹っ飛んでいった。


「秋奈ちゃん……」

「これがあの……『アゲハ』……? うそでしょ、なんで明海さんが……!」


 『アゲハ』の正体が明海葉月であることを知り、秋奈も驚愕の表情を浮かべる。


「私のせいだ……私が……守れなかった。一週間も呑気に寝てる間に……葉月は……! ねえ、秋奈ちゃん……葉月を、葉月を助ける方法は……? 私が血鬼祓になったみたいに、どうにかして、葉月を――」

「…………」


 秋奈はバツの悪そうな顔をする。


「――悪いけど舞ちゃん、あそこまで完全に吸血鬼になってしまったらもう――戻す術はないよ。吸血鬼になってから時間も経ってるだろうから、自我は吸血鬼に飲み込まれてる」


 舞の縋っていた希望は、いとも容易く打ち砕かれる。


「そん……な……」


 絶望に伏した舞を見て、秋奈はただ、同情する表情を見せる。


「……その気持ち、分かるよ。私にも。私だって、守りたい人が居た。でも、守れない事の方が多かったから。何度もあったんだ、私。――いや、私だけじゃない、御影ちゃんや雨昊隊長……他の血鬼祓だってそう。私達は常に、何かを失う。それでも、前に進むしかないんだよ。だから――戦わないと」


 秋奈は、いつもとは違う、とてもまじめな表情で舞にそう言った。

 彼女は、涙を浮かべながら、秋奈の言葉を聞いていた。

 ――失ってでも、前に進むしかない。時間は前にしか進まない。決して、時間は戻らない。ひたすらに、前に先に進み続ける。


「クソッ、クソッ、クソッ‼」


 舞は篭る感情の全てを吐き出すように叫ぶと、再び立ち上がる。そして、体育倉庫の物品を放り投げながら再び彼女たちの前に葉月が現れる。それを見て舞は一気に葉月に詰め寄っていく。同時に、秋奈は援護するため少し離れて葉月に向かっていく。

 彼女は二人を見ると触手そして棘を発生させ、舞に向けて放った。秋奈は『大流星軍』の火炎を纏った岩石を上手くコントロールし、触手を砕き、棘を消し炭へと変える。

 

「うりゃあああああああああああああああああああああああ!」


 同様する葉月に向かって、舞は飛び掛かり、彼女の胸を刀で貫く。


「!!」


 ダメージを受ける葉月。舞はそのまま彼女から離れようとせず、顔を葉月に近付ける。


「葉月! 葉月! お願い、戻ってきて!」


 蒼く虚ろに光る双眼の葉月に、舞は何度も名前を呼ぶ。


「舞ちゃん!?」

「私は舞! あなたの親友! そしてあなたは葉月! 明海葉月よ! 思い出して!」


 ギリギリと刀を突き刺したまま、舞は叫び続ける。葉月は触手を発生させると、舞の脚を突き刺す。しかし、舞はそれでも彼女から離れようとしなかった。


「舞ちゃん! 離れて! 殺され――」


 秋奈は葉月が新たに生み出した触手が頭を狙っているのを見る。彼女は再び刀を振り上げ『大流星軍』をいつでも放てるように準備する。そして触手が頭に遂に刺さろうとしたその瞬間だった。


「――ま……い……?」


 その声色は、いつもの葉月のものだった。舞は一瞬驚愕の表情を浮かべる。そして、葉月に話し掛けると同時に、彼女から刀を引き抜いた。傷口は一瞬で修復される。すると、葉月から出ていた触手や羽根も自然に消えていく。


「葉月!? 葉月! やった、戻って来れた……!」

「ま……い……やっと……会えた……でも……もう、わた……し……」


 葉月は震える声で言う。舞は大きく首を振った。


「ダメよ、そのまま強く気を保って! じゃないとまた吸血鬼に……!」

「ねえ……舞……お、願い……わた……し……を……この、まま……」

「聞きたくない!」


 葉月が行こうとしている言葉を察したのか、舞は大きな声で拒否する。


「おねがい……まい……いまのうちに……わ、たし、を……じゃないと……また、舞たち……を、傷付けちゃう……」

「いや、嫌! 何か、何か方法が……きっと!」

 

 しかし、葉月は震えながら首を振った。舞はそれを見て再び涙を滲ませる。


「ねえ……親友、でしょ……さいごのわがまま……私が、私である内に……殺して……」

「葉月ッ……!」

「あなたにしか、頼め……ない……おねがい、ね……?」


 そう言って葉月は舞を両手で押して自分から離した。そして、葉月はそこへ座り込む。もう、彼女は覚悟が出来ていた。

 殺されるならせめて、舞の手で。これ以上、人を殺したくない。眠りの中で気が付いていた。自分と血縁のある者の血は、栄養価が高い。故に、彼女は――『アゲハ』は、自身の父親を殺害し、その血を喰らった。それだけじゃない、飢えに耐え切れず、家で母親すら殺した。もう、戻れない所にまで堕ちてしまっているのだ。これ以上、もし生き続ければさらに人を殺すことになる。前に居る舞ですら、喰らってしまうかもしれない。そうなる前に――。


「こんなの、こんなのって……」

「ごめ……んね、ま……い……わたし……が……よわい、ばっかり、に……」

「違う……違う! 弱いのは私! お父さんも、葉月の事も守れなかった、私が……!」


 舞は大粒の涙を流して言う。

 だが、後悔しても葉月は戻らない。運命は残酷にも彼女に試練を与える。自分の親友をこの場で殺害せよ、と。現実はいつも非情で残酷で、人に幻想を与えない。

 ――故に人は常に夢に、希望に縋る。それでしか、この世界を生きていくことが出来ないから。


「舞は、弱くなんかない……弱くない、よ……。だから、お願い……舞は……生き続けて、私の分まで……」


 舞は涙でぐしゃぐしゃになった顔で、柄を潰すくらいの力で握って、ゆっくりと振り上げる。その手はぷるぷると震えていた。それを見て葉月は、安堵したかのような表情を見せると、再び、口を開いた。これが、最期の言葉として舞に伝える為に。


「――ありがとう、舞……大好き、だよ――」


 それが、葉月の最期の言葉だった。優しさの溢れる、いつもの葉月の笑顔のまま、彼女は目を閉じる。

 慟哭。

 舞は乱れた感情を声にして溢れ出させた。そして、せめて一瞬で逝ける様に、刃を首に向ける。そして、舞は叫びながら刀を振った。空を斬っていく刃はやがて葉月の皮膚を切り裂き、血管を切り裂き、骨を砕き、血肉を引き裂いた。刃は完全に、葉月の首を斬った。

 その手ごたえが、感触が、確かに舞の掌に伝わった。

 斬られた首は、数秒のラグの後、ごろりと地面に転がる。残された胴体から血が溢れ、どさりと音を立てて倒れると、その場に赤い水だまりを作り上げた。


「……あ……あはっ……こ、ろした……わたしが……わたしがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」


 その葉月のなれの果てを見て、舞はその場に膝を着いて叫ぶ。彼女の脳裏には、これまでの葉月との思いでが走馬灯の様に駆け抜けていく。

 ――小学生の時、初めて出会った時。独りだった舞に話し掛けてくれた。

 ――中学生の時、一緒に帰り道を笑いながら帰った。

 ――高校生になって、一緒にお昼にご飯を食べたり、出かけたりもした。

 ――父親が殺された時、家に泊まらせてくれたり、慰めてくれた。

 ――久しぶりに一緒にショッピングモールへ出かけて、映画を見て、スイーツも食べた。

 いつも、彼女は笑顔で舞を迎えてくれた。辛い時も苦しい時も、舞が頼りにしていたのは彼女だった。

 だが。

 だが――。

 だが、彼女は死んだ。居ない。存在しない。生きていない。もう二度と口を開くことも、笑顔になる事もない。いずれ残された肉体は朽ち果て、消え去る。

 殺した。殺したのだ。自分が、今、この手で、彼女を殺した。

 私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。私が殺しました。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。


「舞ちゃん……」


 泣き崩れる舞を、秋奈はただ見ている事しか出来なかった。どういう結果であれ、こうなってしまっていたのだろう。秋奈が殺しても、舞が殺しても、結果は同じであった。大切な人を喪うという苦しみは、変えられない。

 そこへ、御影と雨昊の二人が駆け付けた。月鬼隊からの緊急情報を聞き、自身の討伐任務を終えて漸く辿り着いたのだ。二人は、目の前の光景を見て、決してめでたく事態が収束したわけではないという事を察する。


「――どうやら、ハッピーエンドってわけじゃあ……ないみたいだな」

「――舞……」


 やるせない表情を見せる雨昊。御影は静かに舞に近付こうとする。が、秋奈がそれを引き留めた。


「星詠秋奈……なんで」

「………………」


 ふるふると、彼女は静かに首を振った。それを見て、御影は静かに俯いた。

 この気持ちを、この苦しみを共有する事は出来ない。誰にも。

 一人で全ての感情を吐き出せるまで、全てを吐き出せるまで、見守る事しか出来ないのだ。

 

 ――吸血鬼『アゲハ』による虐殺事件。

 その正体である明海葉月を舞が自身の手で殺害したことによって、この事態は漸く収束を迎えた……。





 

 【報告書】2024/4/28

 吸血鬼『アゲハ』による犠牲者

 一般人……206名

 血鬼祓……5名

 物的損害数……地下鉄車両3台、私立轟哭高校4教室、および体育館

 討伐者……月鬼隊隊員・朝霧舞 月鬼隊第2部隊副隊長・星詠秋奈

 備考……『アゲハ』の正体は朝霧舞隊員の友好関係にあった明海葉月であり、最終的に朝霧舞隊員が自身で殺害。これによる精神的負担は多大なるものである為、暫くの間カウンセリングが必要であると考える。また、直前に黒刀死織(斬鳴静)との接触があり、明海葉月の吸血鬼化に深く関わっていると思われる。

 今回の高ランク吸血鬼の討伐含め、複数体の吸血鬼を星詠副隊長の援助ありとはいえ討伐をやり遂げている為、朝霧隊員の副隊長昇格には一切考慮する事はないと考えます。以上。


 報告書作成者 月鬼隊第二部隊隊長・雨昊蒼馬(あまそらそうま) 


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