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VAMPIRE KILLING  作者: 冷麺
第Ⅰ章『吸血鬼討伐篇』
19/27

16:【Blue Moon [first chapter ending]】

 ――《あの日》から一か月後。

 二度に渡る大量虐殺事件はとある精神異常者により引き起こされたと世間に公表され、やがてその事件は早くも風化していき、今では何事もなかったかのように世界は日常を繰り返していた。

 ネットでは都市伝説の様に、この事件が語られ、政府によって隠蔽された真実が存在しているとまことしやかにささやかれてた。

 

 月鬼隊の本部ビル、【(ネスト)】その屋上。

 蒼い月が輝く中、彼女――舞は一人、その月下佇んでいた。あの日以来――彼女の髪は徐々に黒く染まりつつあった。今では髪の約半分が漆黒に染まっている。彼女の精神状態を表すかのように。


「葉月――私ね、月鬼隊の副隊長になったの」


 舞は誰も居ないその場所で、静かに呟く。


「葉月を討伐して、その功績が認められて……ね。私って……はは、最悪だよね。自分の親友を殺して、それが功績になって、昇格だなんて。酷い女。最低の親友。――本当、死んだらいいのに、ね。ねえ? 葉月。皆……皆忘れちゃった、あなたの事。何もないかのように、最初からそこに居なかったように、世界が巡ってる。残酷だよ。とても。誰が死んでも、世界は何事も無いように、未来へ向かって進み続けてる」


 彼女は手の平に握られた葉月の写真を見る。

 昔、高校の入学式の時に一緒に撮った一枚の写真。彼女は写真の中で、幸せそうに微笑んでいた。もうこの笑顔を、現実で見る事は出来ない。写真か、記憶の中でしか、それを見る事は出来ないのだ。


「あなたは――私の事を強いって言ってくれた……でも弱い。私は……親友すら守れなくて、結局私が殺すことになるなんて……。もしかしてさ、あの時の事を覚えてたのかな? 一緒に言ったでしょ、幽霊の出る墓場……本当は吸血鬼の仕業だったけど。――だから葉月は、私が血鬼祓として目の前に現れても、何も言わなかったのかな? ――なんて、今更聞こうだなんて思っても、もう遅いけど」


 死者は決して、再び口を開かない。死んでしまえば、何も言えないのだ。

 写真に写る葉月も、当然喋る事は無い。


「あれから……私が自分が嫌なの。嫌で嫌で仕方ない。何度もそう思うんだ。死んでしまえって、夢で何度も見ちゃうんだ。私の様な奴なんて、死ねばいいって。死んでしまえ、死んでしまえって。だから、私、死んじゃおうかなって」


 自虐の笑みを浮かべる舞は、その右手に刃機(じんき)の刀を握ると、その刃を首に一度当てた。そして舞は左手で伸びている髪を握ると、白銀の髪を刀で斬った。斬られた髪を舞はその場で離すと、そのまま地面へ向けて撒いた。同じように、逆サイドの髪も切る。


「もう、あの頃の私は死んだ。弱くて最低な、朝霧舞は居ない。――私のやる事はただ一つ。黒刀死織、そしてこの世界に蔓延る吸血鬼共を全員殺す。殺し尽くす。一匹残らず、この世から消し去ってやる。誰が死のうが、誰が吸血鬼になろうが関係ない。葉月(あなた)を追い詰めた吸血鬼(ゴミ)共を、必ず――殺しきってやる」


 そう月夜に告げる舞の声色は、以前とは違い、非常に冷たく、無慈悲なものだった。表情も、以前までの朗らかなものから冷めきった表情にへと変わっていた。

 髪の色は完全に漆黒に染まる。その胸に秘める憎悪と復讐心を示すかのように、黒々と――。




◇    ◇    ◇    ◇




 同時刻。

 太平洋に存在するとある岩だらけの孤島。

 その地下に、小さな灯りだけが置かれた、真っ白な部屋。その中央に位置するは十三の席が置かれた円卓。大理石で作られたと思われるその椅子には、それぞれ番号が割り振ってある。当然、割り振れる数字はⅠからⅩⅢ。 

 そこに集まるは――【真祖十三血鬼】。古来存在した、【失われし七支族(ロストセブン)】と呼称される真祖吸血鬼たちの末裔、若しくはその血を与えられた吸血鬼たちの組織。

 薄暗く、ほとんどの者達は顔が見えない。同時に、ⅠとⅤとⅥに当たる真祖吸血鬼はそこに参加していなかった。そしてもう一人――第Ⅹ位に当たる真祖吸血鬼……黒刀死織(こくとうしおり)がそこに現れる。


「遅いぞ、黒刀……遅刻だ」


 現れた死織に遅刻を告げるのは、以前舞たちの前に姿を現した真祖第Ⅲ位『心裏(マインド)』のグヴィラス=イッサカル。彼は知恵の輪を数秒で解くと、その場に置いた。

 彼女は彼の言葉を面倒そうに聞くと、彼に言い返す。


「こんなところに拠点を置く方が悪いでしょ。どれだけ時間がかかると思ってるの」

「おい、口が過ぎるぞ、黒刀」


 続いて舞に告げるのは、真祖第ⅩⅢ位『剣聖(ソード)』の剣沢宗司(けんざわそうじ)。彼もまた、以前舞と戦ったことのある吸血鬼だ。


「はあ? 真祖でもなく血も分け与えられてないあんたが、私にそんな口を叩かないで貰えない?」


 死織は宗司に向かって挑発するかのように言った。


「貴様の様な若造、血など無くとも切り伏せることが出来る」

「へえ? じゃあやってみる? ボクに勝てるの? 君が?」

「静かにしろ、二人共」


 挑発し合う二人を牽制するのは、真祖第Ⅳ位、アルドフ=フォン=アシェル。長い金髪を揺らした美形の白人の彼は、鋭い目つきで彼らを見る。それを見て、二人は互いを挑発するのを止めた。


「ふん……というか、またⅤとⅥは居ない訳? ボク、まだあった事ないんですけど」

「――彼らは別の任務に就いている。容易く此処へ呼び出す事は出来ぬ。故に、この会合への不参加を赦しているのだ」

 

 銀髪であり、またエジプト人の様な掘りの深い男性……真祖第Ⅱ位である彼、カルティシア=シメオンが口を開く。現在、第Ⅰ位にあたる真祖吸血鬼が不在の為、彼が組織の代わりの長を務めていた。


「別の任務、ねえ」と、死織は疑いをかける様な感じで言った。


「その彼らからの言伝である。我らの計画遂行の為にある程度の素体が必要という事だ。故に素体集めの為、極東を拠点とする剣沢、フレア、アメル……君たち三人にそれを託す」

「具体的に何すりゃいいんだ? 最近暇なんだよ、なんせずっと待機せよ、ばっか言われてたからなあ?」


 赤い髪をモヒカンのように立てる真祖第ⅩⅠ位、フレアがカルティシアに訊ねる。


「何もしなくてもよい。時期に……血鬼祓(やつら)が其方へ現れるだろう。君たちはそれらを狩れば良い。それを素体として彼らに渡せば、計画に必要なピースが一つ埋まる」

「狩ればいい、か。なら俺様の本領発揮、と言ったところだぜ」

 

 と、フレアは不敵な笑みを浮かべながら言った。


「極東を拠点にって…私は?」


 死織はカルティシアに自分をアピールする。


「――君は計画において切り札に当たる存在……無暗に動くな。しかして安心せよ、君が必要な場面は必ずやってくるだろう。故に、私からの支持を待っていればいい」

「切り札、ね……まあ、良いんじゃない? ボクは何時でも準備出来てるし」

「極東を拠点に……ならば我らのみが集まればいい。ではなぜ全員を呼びつけた? 話はそれだけじゃないのだろう?」


 剣沢が彼に訊ねた。


「無論。これだけの為に呼んだわけではない。もう一つ、話がある」


 彼が円卓の中央に向かって手をかざした。すると、グラス程の穴が開き、そこから砕けた様な小さなまがまがしい黒く輝く石が姿を現す。


「これは?」と、グヴィラスが聞く。

「――かつて、我々の祖が生まれるよりもはるか前、この星で邪悪なる神達の戦いがあった。その争いを終わらせるために、三人の『古き者たち』が作り出した【絶望(パン)希望(ドラ)の函】が存在した。役目を終えたそれは六つに砕け散り、世界の様々な場所へ散らばったとされる。これはその一つ……言うなれば、【(パンドラ)欠片(パーツ)】、だ」

「パンドラパーツ……」と、感心するかのように剣沢が呟く。

「元の物からは格が落ちるものの、これには非常に高い魔力が込められている」

「魔力?」

 

 死織は隣に座っているフレアに訊ねた。


「ほらあれだよ、昔の人間共が使ってた魔法ってやつの大本になる力の根源みてえなモン」

「へー、なるほどね」


「何故それを? 我々に、それで魔術師にでもなれと?」

「正解に近いな、剣沢。このパンドラパーツがあれば、かつて魔術師が行使していたとされる空間転移能力を扱えるようになるという。諸君にはこれを分け与え、更なる力の強化を行ってもらう」

「空間転移?」と、再び死織は隣のフレアに訊ねた。

「ほら、ワープみてえなモンだ。よく人間共の書いてる物語とかであるだろ」

「へー、なるほどね」


「確かにその力があれば……今後訪れる戦いにおいても血鬼祓の優位に立てる」と、グヴィラスは頷いた。

「だが、注意すべき点が存在する。空間転移能力の制約。一つ、それは一度自身が訪れた場所にでしか移動は出来ない。二つ、それは何度も行えば身体に多大なるダメージが蓄積される。三つ、空間転移する前に身体に大きな損傷がある場合、反動によって身体は砕け散る――以上だ。時と場合を考慮し、諸君らは上手くこの力を行使してもらえば――我らの計画はより高い可能性で完遂するだろう」

「一度自分が訪れた場所にしか行けない……ああ、そういうこと」


 死織はその制約を聞いて、何故自身が切り札に指名されているのかを理解した。


「制約は理解したが……では一体どうやってそれを習得する?」と、剣沢が訊ねる。


「――簡単な話だ。パンドラパーツを諸君に直接、埋め込むのだ」


 グヴィラスは右手を翳して掌を握りしめる。すると、パンドラパーツは砕け、十個もの小さな石に分けられた。


「さあ、『真祖十三血鬼』に選ばれし諸君。我らが(あるじ)の為に、更なる高みへといこうではないか」


 そう言ってカルティシアは不敵な笑みを浮かべた……。





 血鬼祓と吸血鬼の長きに渡る戦い。

 それは、新たな局面を迎える事となる――。









 第Ⅰ章『吸血鬼討伐』篇――END.


これにて第1章、完結です。


読了、誠にありがとうございます。

面白いと思ってくれた方は評価・感想を頂けたら幸いです。


The image of the title is…


『Blue Moon』(2018) produced by fripSide

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