何でもしてあげる③
「本日は、才木和海の誕生日を祝しまして……」
「やめろやめろ」
「カズ君が一発芸を披露してくれます」
「俺がやんの!? メグか遼がやる流れだろ!?」
「嫌よ。私がそんなことやって面白いわけないじゃない」
「右に同じ。僕はそういうキャラじゃないからね」
「俺だってそんなキャラじゃねぇよ!」
桂岡の駅前にあるファミレスにて、俺の誕生日を祝うために集まってくれたのは、幼馴染であるメグこと北岡芽実と、霧ノ宮遼の二人。
メグにも遼にもそれぞれの友人がいるはずだが、お互いの誕生日には毎年欠かさず三人で集まるのが恒例行事となっている。
「で、和海って何歳になったんだっけ?」
「何で一日に同じやり取りを三回もやらないといけねぇんだよ!」
「カズ君と出会った時のこと、今でも思い出すわ。あの頃のカズ君ったらこんなにちっちゃかったわね……」
「お前達も年相応にちっちゃかっただろうが!」
「昔はもっと可愛げが……いや、今の姿が想像できないくらい尖ってたよね、あの頃の和海は」
「うるせーよ!」
小学生の時からずっと友達という関係にあるのは、今やメグと遼の二人ぐらいだ。小中と同じ学校に通っていた奴は桂岡高校に何人かいるものの、俺の過去をよく知っているのはやはり二人に限られる。
と、こうして三人で集まっても、そんな豪勢な食事をするわけでもなく、ファミレスで駄弁りながら各々好きなものを食べるだけである。一応、バイトで稼いでいる遼が俺の飯代を奢ってくれるが。
「やっぱりこの三人で集まると、不思議と昔のことを思い出すね。和海、覚えてる? 中学の修学旅行の時、財布を亡くしたメグが泣いていたのを」
「私の恥ずかしい過去を掘り返すのやめてくれない?」
「まぁメグらしい泣き方だったよな。恥ずかしいからって拳をギュッと握りしめて泣くのを堪えて平気そうに振る舞ってたけど、めっちゃ体震えてたし……ってメグ、俺のコーラに醤油を注ごうとするんじゃない!」
「黒いから平気よ平気」
メグもあまり人のことを言えないぐらいには強がりな奴だ。あの時はメグの財布が見つかって本当に良かったと思う。
「修学旅行と言えば、遼だって京都で迷子になってたじゃない。金閣寺で」
「迷子になっていた小さな外国人の女の子を見つけて、放っておけなくてね……」
「それでお前まで迷子になってたら意味がないだろうが。苦労してお前を見つけた時、外国人の女の子を連れ回してたからびっくりしたんだぞこっちは」
遼は妹である桃の前なら兄としてしっかり者になるのだが、桃から離れると急にポンコツになる変な奴なのである。
「思えば、僕達はいつも和海に助けられてばっかりだね。和海がいなかったら僕達は今頃、ここにいなかったかもしれない」
「それは流石に言い過ぎ……いや、お互い様だろ。お前達がいなかったら俺もここにはいなかったかもしれない」
持ちつ持たれつ、という関係が理想的だと俺は思っている。何かあればお互いにすぐ相談するし、相談にものる。
普段の学校での俺とは少しだけ違う自分を保てるのは、この二人の前でだけだろう……。
「そういえばなんだけど」
懐かしい思い出話に花を咲かせている途中、デザートのパフェを食べながら、メグがふと何かを思い出したかのように呟く。
「カズ君が中学卒業したらアメリカに留学するって噂あったけど、あれって結局何だったの?」
……こうして、俺の込み入った事情を知っているのも、そしてそういう話に切り込めるのも、この二人ぐらいだろう。
話を聞いていた遼も手を止めて俺の様子を伺う中、俺はケーキを一口食べてから言う。
「あれは、あの人が俺を海外に送り込もうと企んでたってだけの話だ」
「じゃあ、事実ってことなのね」
「俺が断ったから、話はおじゃんになったけどな。あと、正しくはイギリスかスイスの寄宿学校だ」
「どうして断ったんだい? もしかして、僕達と離れ離れになるのが嫌だったとか?」
「普段はそういう素振り全然見せないのに、カズ君も中々寂しがり屋ね……」
「やめろ。俺の過去を捏造するんじゃない。単純に自分がその環境に慣れられる気がしなかっただけだ」
日本とは全く文化の違う異国の地で、これまでと全く環境の違う寮生活、しかも紳士淑女の卵達が集まるような場に俺が馴染めるわけがない。
もっと広い世界を見てみたい、という意味では多少の興味はあったが……短期留学ではなく、そのまま海外の大学への進学も見越した長期間の留学に望む勇気などなかったのだ。
「でも、和海なら海外でも結構やっていけそうだけどね。大体、和海が桂岡に進学したのも意外だったし。松楠も結構楽しいよ?」
「確かに、遼を見てると楽しそうな学校だなとは思うよ」
「そうだね。宇宙人と未来人と超能力者が通ってるし」
「どうなってるんだよ、この世界観は」
最近アニメか小説でも触れたのだろうか。最早聖典のようなものだし。
そして、今日も掴めない雰囲気で笑う遼の隣で、メグは不思議そうな表情で口を開く。
「そうね。カズ君は松楠とか藤咲の方も行けただろうに、どうして桂岡だったの? カズ君なら行けたでしょ」
「もしかして、メグのことを追って?」
「カズ君も素直じゃないわね……」
「勝手に決めつけるのやめろ」
「よくよく考えれば、私もリハジョに落ちて滑り止めで入っただけだったわね」
俺が海外留学の話を断り、学力で言えばもっと上の学校も目指せたはずなのに桂岡高校に進学したのは、まぁ色々と複雑な経緯がある。
流石に、それは二人に話すようなものでもない。
「さて、お待ちかねのプレゼント交換会だね」
「いや、誕プレを交換会することあるか?」
「私と遼で交換して、それをカズ君にプレゼントするのよ」
「それは意味がある行為なのか……?」
まず、メグが小包を俺に差し出した。封を解くと、中には結構年季の入っている一冊の文庫本が入っていた。
「これは……海外の古典か?」
「えぇそうよ。B◯◯K◯FFで買ってきたわ」
「それはもうちょっと隠せ」
「132円よ」
「まぁ古そうな本だしな」
「クーポン使ったから32円だったわ」
「つまり、それがメグの和海に対する気持ちの金額ってことだね」
「そんなこと言わんでいい」
読書家のメグは毎年俺の誕生日プレゼントとして本を贈ってくれる。メグがおすすめしてくれた本に外れはないから楽しみではある、そこに値段なんて関係ない。
「どんな内容なんだ?」
「マゾヒズムの語源になったとも言える物語よ」
「聞きたくなかったなぁそれは」
「百年以上前にこんな本が誕生するぐらいなのだから、人類の性癖ってまだまだ進化すると思うのよね。文学の奥深さを感じられるわ」
メグがおすすめしてくれる本に外れはないことはないのだが、何だか内容が少々尖っているような気がするのは毎度のことである。おそらくメグも色んな本を読みすぎて、普通の内容じゃ満足できなくなっているのだろう。
「さて、次は僕から和海へのプレゼントだよ」
次に遼が俺にプレゼントしてくれたのは、桂岡八幡宮の無病息災のお守りだった。
「お守りか。何だか珍しいプレゼントだな」
「本当はロンギヌスの槍を用意しようと思ったんだけどね」
「どういう経緯で?」
この間の教会でのことといい、俺ってそんなにロンギヌスの槍と縁があるの?
「和海って魔術師になれる素質ありそうだし、せっかくだからそれで英霊でも召喚してもらおうかと思ったんだけど……」
「俺のどこを見てマスターの素質があると思ったんだ?」
「やっぱり日本でロンギヌスの槍を触媒にすると違う英霊が出てきそうだからやめたんだよね」
遼が思い留まってくれて良かった。もしかしたら俺が英霊として碇◯ンジとか召喚してしまう可能性があったし。
「あと、これは桃からのプレゼントだよ」
「あぁ、この間描いてくれてた絵か。仕上げてくれたんだな」
「AIを使って和海を笑わせようとしたんだけど、AIを使っても和海の仏頂面を変えることは出来なかったらしくてね……」
「AIに勝てるなんて凄いわね、カズ君」
「いや、AIに勝っても何も嬉しくないんだが?」
遼の妹である桃は入院生活が続いておりこの場には来れなかったが、わざわざ俺のためにプレゼントを用意してくれている良い子である。
「そういえば、和海って僕達以外の人からもプレゼント貰えた?」
「あぁ、一応な。友達に昼飯奢ってもらって、後は……後輩から栞を貰った」
「後輩? もしかして、最近文芸部に入った美紅のこと?」
「あぁ。これなんだがな」
俺は椎田から貰ったシロツメクサの栞を二人に見せた。
すると、二人はその栞を興味深そうにジッと見つめた後、互いに見合ってコソコソと話し始める。
「ねぇメグ、これどう思う?」
「これはきっとカズ君へのラブコールに違いないわ」
「僕もそう思う。とうとう和海にもモテ期が来たんだね……」
「おい、何を好き勝手言ってるんだお前ら」
「カズ君の最初で最後のモテ期到来ね」
「おう、喧嘩売ってるのかこの野郎」
「でも、和海を好きになった人って苦労しそうだよね」
「わかるわ」
「わかるわじゃねぇんだよぶっ飛ばすぞ」
牧もそうであったように、メグと遼の二人も、椎田の俺へのプレゼントが特別なものである、と考えているようだ。
あくまで俺は、以前椎田を助けたことのお礼だと思って受け取ったのだが……俺はこれを、どう受け止めるべきなのだろう。
そして、それ以上に俺を悩ませる誕プレがもう一つ。
「あと、こんなものを貰った」
俺は、テーブルの上に一枚の紙切れを置いた。
「「な、なんでもしてあげる券……?」」
メグも遼も驚いたような表情で口を揃えて言う。
「だ、誰がこれを?」
「俺の隣の席の、小日向雪歩って奴だ」
「お、女の子から!?」
「ゆ、雪歩から貰ったの……?」
二人の反応は頷けるものだ。
『何でもしてあげる券』なんてプレゼント、やはり普通じゃない。どう考えても異常だ。
「も、もしかして本当に和海にモテ期が来ているのか……?」
「カズ君は、これをどう使うつもりなの?」
「いや、どうって言われても、俺も悩んでるところなんだが……」
「まさか、女の子相手にあんなことやこんなことを……!?」
「お前は俺がそんなことをするような奴だと思ってるのか」
「カズ君のことだし、雪歩の目の前でこの券をビリビリに破りそうよね」
「俺はそこまで極悪非道じゃない!」
実際、この券をどう使おうかかなり悩んでいるところではある。
使わない、という選択肢もあるにはあるが、それはそれで雪歩から勇気がないねなんてからかわれそうで癪なのである。
しかし、しょうもない使い方をしたらそれはそれでからかわれそうだし、この券をプレゼントされた時点で、俺はほぼ詰み状態なのではないだろうか……。
俺はメグと遼に相談こそしてみたが、結局この券の有効な使い方に結論を出せないまま、現地で解散することになったのだった。
「じゃあね、和海。また桃に顔でも見せてやってよ」
「あぁ、近々行くつもりさ」
「私の妹にも会いに来てね」
「メグには妹なんていなかっただろ」
「いるわよ、イマジナリー妹が」
「自分でイマジナリーって認めてる時点で存在してないだろうが!」
俺とは別方向へ帰るメグ達と別れ、俺は帰途につく。
家に帰れば、姉貴がささやかながらケーキを用意してくれているはずだ。まぁ姉貴が食べたいだけなのだろうが、姉貴とも思い出話に花を咲かせるとしよう……。




