大型連休? 何それ美味しいの?①
「シスターって入院したことあるか?」
「ありますよ」
「え? 何かの病気で?」
「いえ、保育器の中にいただけですけど……」
「それをカウントするなら、皆入院経験あるだろ」
今日も今日とて以下略。俺もすっかり入り浸ってしまったものだ。
「それは冗談として、私は入院したことありますよ」
「そうなのか」
「はい。恋の病を患ってしまいまして……」
「それはどのタイミングで退院出来る病気なんだよ」
このシスターに好かれてしまった奴は大変だと思う。
ていうか、このシスターはどういう奴がタイプなのだろうか。新車独特の匂いがする奴とか、コオロギのモノマネが上手い奴とかだろうか。
「恋の病に舐めてかかってはいけませんよ、才木さん。貴方は恋の病に罹ったことはないのですか?」
「ない」
「本当に?」
「ないって言ったらない」
「才木さんの初恋の相手はどんな方でしたか?」
「いたとしても、お前に教えるつもりはないぞ」
「では当ててみましょう……ズバリ、才木さんの初恋の相手は、電子レンジですね!?」
「そうそう、この過酷な現代社会に疲れて冷え切ってしまった心をすぐにチンして温めてくれる……って、俺の少年時代を何だと思ってるんだ!」
この世界には数十億もの人が住んでいるのだから、一人や二人ぐらいはいそうだがな、初恋の相手が家電製品って人は。
それはそれとして……この教会は、俺の初恋にゆかりのある場所でもあるのだが、それをシスターに話すつもりはない。
「ところで才木さん。今日も何かお悩みで? 今日は良い品が入荷しましたよ」
「ここってそういう場所じゃないだろ。言い方も何か怪しいし」
「本日の目玉商品はどうのつるぎですね」
「せっかくの教会なんだからセーブさせてくれよ。まぁ悩みはあるし、半ば懺悔みたくはなるのだが……もうすぐゴールデンウィークが始まるだろ? でも、予定がすっからかんなんだ」
この日本において大型連休を楽しめる人がどれだけいるかはわからないが、俺はあまり楽しめない側の人間である。
俺は部活に所属していないし、今はバイトもしていない。いつもの休日なら知り合いの手伝いなんかをすることもあるが、そういう知り合いは家族旅行だとか友達と遊びに行くというめでたい予定が入っているのである。
「せっかくの長い休日だから有効活用したいんだが、特に何も思い浮かばなくてな……」
新しい趣味を探してみようかとは思ったが、どれも自分に合うかわからず、チャンレジする意欲すら湧かないという状況だ。
「なるほど……貴方の告白、しかと受け止めました。そんな正直者の貴方にはきっと、神様からのお導きがあることでしょう……」
「ちゃんと時間を有効活用したいんだが、どうすれば良いと思う?」
「焦る必要はありません。確かに時間は有限ですが、もう少し心に余裕を持ちましょう。さすれば時間はゆっくり流れていくものです」
「そんなものかな……」
「えぇ、そうです。今、神様がお腹を下してトイレに籠もっていらっしゃいますので、もう少し待ちましょうか」
「トイレ待ちかよ、この時間は」
神様ってトイレとか行くんだ。ていうかお腹下すことあるのか。神様のお腹を下す食物って最早伝説レベルの兵器だろ。
そして、シスターがコンタクトを取っているらしい神様がようやくトイレから出てきたようで──。
「神は貴方を赦さないでしょう」
はい、いつもの。多分お腹を下してた神様は機嫌が悪かったに違いない。
「今度はどうなるんだ?」
「お腹を下しやすくなります」
「とばっちりが過ぎないか?」
「ですが才木さんの排泄物が積もりに積もって、やがて天まで届く高さになるでしょう」
「そうなる前に俺を殺してくれないか」
「そして、やがて神の怒りに触れてう◯ちの塔は破壊されてしまうのです……」
「嫌過ぎるだろ、そんな神話」
「そう、まさに神がお腹を下した醜い人間に審判を下したというわけです」
「言うと思ったよこの野郎! そういうのは良いから、時間を有効活用するためのアドバイスとか、何かないか?」
そのボケありきでこの話を作ったのだろう、このシスターは。一体どれだけこの話を温めていたのだろうか。
それはそれとして、人生で一度しかない、高校二年生のゴールデンウィークをどう過ごすか俺は悩んでいるわけだが──。
「Y◯uTubeを見て時間を潰しましょう」
「それは本当に時間を有効活用していると言えるのか?」
「何をおっしゃいますか、天下の動画サイトを舐めてはいけませんよ。複数人のギャングに銃を向けられている時にこっそり出前を注文する方法を教えてくれるライフハックもあるかもしれないですし」
「いつ使うんだよ、そんなライフハック」
「ですから、複数人のギャングに銃を向けられている時です」
「俺はそんなライフハックがためになるような場所に生まれた覚えはない」
ライフハック云々は置いておいて、確かに動画サイトを眺めている分にはかなり時間を潰せるだろうが、多分数時間経過した後に「なんだか時間を無駄にした気がする……」と我に返ってしまうだろう。
「それに、流行に疎いと時代に取り残されてしまいますよ。毎日Y◯uTubeやTikT◯kを見て流行をチェックしましょう」
「確かに、俺はあまりSNSとか見ないしなぁ……」
「面白い動画もたくさんありますからね。陰陽師が楽しそうに踊っている動画もありますし」
「それが流行したの、大分昔の話だろ」
「いえ、古典回帰ですよ。モーツァルトのようなものです」
俺はシスターのことを同年代だと思っていたが、もしかして干支が一周するぐらいの年代差があるのだろうか。それを知ってる俺も俺だが。
「後は映画やアニメを一気見する、というのはいかがでしょうか? せっかくサブスクで色んなコンテンツに触れられる時代になったわけですし」
「おすすめの映画とかあるか?」
「デイ・ア◯ター・トゥモローはいかがですか?」
「そこは天使にラ◯ソングをとかにしてくれよ、せっかくなんだから」
「でもあの方はシスターではないですし」
「それはそうかもしれないが」
俺は色んなものに溢れた環境で育ったから様々なコンテンツに触れることも出来たが、有名な作品は結構見尽くしてしまったから、もっと新しい世界を見てみたいものだ。
「後はそうですね……一日中家に籠りっぱなしなのもなんですし、散歩はいかがでしょうか? 体を動かすことは健康にも良いですし、外に出てみることで新しい発見や素敵な出会いがあるかもしれませんよ」
「そんな都合の良い話があるか?」
「あるかはわかりませんが、夢を見るのも大切なことですよ。トラックに轢かれて異世界転生すれば、夢のハーレムを築けるかもしれませんし」
「せめてこの世で夢を見させてくれ」
だが、確かに散歩というのは悪くないかもしれない。幼い頃から住んでいる桂岡の街ですら全て踏破したわけでもないし、近辺には松楠海岸や櫻ノ島など有名な観光地もたくさんある。
きっとそういう有名な観光地はゴールデンウィーク中かなり混んでいるだろうが、穴場のようなスポットを探すのも悪くないだろう。
「ちなみにですが、ゴールデンウィーク中丸々勉強時間に使う、という考えはないのですか?」
「そんなに時間かけたってしょうがないだろ。俺は一日に勉強する時間を決めてるんだ」
「二分ぐらいですか?」
「少なくとも三、四時間ぐらいはやってるよ! 休日だったらもう少し増やすが、あまり時間を伸ばしたって集中力が持たないからな。俺は量より質派だ。そういう勉強とかの時間を考慮しても、やっぱり空いている時間はあるからな」
勉強時間はこれだけにしよう!と考えるだけで俺は集中力を高めているつもりなのだが、何か急な予定が入ってしまうと勉強時間ではなく睡眠時間が犠牲になってしまう。最近は雪歩が俺のことをよく手伝ってくれるようになったから、多少は楽になっているが……。
「真面目なのですね、才木さんは」
「よく言われるよ」
「ですが、才木さんは一生に一度しかない十七歳という時間をそんなことに費やしてもいいのですか?」
「やめろ、なんだその囁きは。俺は将来のために自己投資してるんだ」
「恋なんていかがですか? 大切なパートナーが出来ると人生充実しますよ。作りたくないですか? 優しくてグラマラスなお姉さん系シスターの彼女」
「お前がグラマラスかは知らないが」
「将来のために頑張ることも大切ですが、時には程よくうつつを抜かすことも大切ですよ。そういった経験が将来役に立つことだってありますし、どれだけ金銭的に豊かであっても心が貧しければ、楽しいと思えることも少なくなってしまいますからね」
心が貧しい、か……。
何か胸に刺さる恐ろしい言葉だ。確かに、俺が楽しいと思える場面というのは結構少ないかもしれない。
それこそ、あの悪魔……いや天使と一緒にいる時ぐらいなのかもしれない、最近は。
「いかがですか? 彼女、作ってみたくなりましたか?」
「それとこれとじゃ話が別じゃないか?」
「いえいえ、これも貴重な人生経験です。才木さんが彼女を作ったら神様もきっと大喜びです……ハッ! たった今、私は神託を受けました」
「そんな特殊能力があったのか?」
「神は言っています。才木さん、貴方は優しくてミステリアスなお姉さん系シスターと結ばれるべきであると!」
「グラマラスの部分自信無くなってるじゃねぇか! もういい、俺は帰る! じゃあな!」
「えぇ、私はいつでも才木さんの告白をお待ちしております」
「そういう意味の告白じゃないだろ!」
今日はやけにシスターが積極的だった。何か飢えているのだろうか、俺は怖くなって懺悔室からそそくさと退散したのだった。
そして、いよいよゴールデンウィークの到来だ。
外を出歩いてみることで何か新しい発見や出会いがあれば……こういう時にあの悪魔のような天使の姿を想像してしまう自分を、未だに受け入れられずにいた。




