夢中で頑張りすぎた君へ。大人しく休んで③
『①黒ずきんちゃん』
『②昔々ある所に、黒ずきんという可愛らしい女の子が住んでいました』
『③ある日、黒ずきんは親父から「アガリを持ってこないオオカミを始末してこい」と命じられ、オオカミが住んでいるカブキの森へと向かいました』
『④黒ずきんはカブキの森で迷わないように、 持ってきた銃弾を一つ一つ並べていきましたが、野生の鉄砲玉が銃弾を食べてしまいました』
『⑤武器を失った黒ずきんが森の中を進んでいると、お菓子で出来た奇妙な家を発見します』
『⑥お菓子の家には七人の巨人が住んでいて、黒ずきんに襲いかかりました』
『⑦しかし、ズキズキの実の頭痛の能力者である黒ずきんは、見事七人の巨人を打ち破ったのです』
『⑧しかし、黒ずきんは運悪く海軍に捕まってしまい、インペ◯ダウンに収監されてしまいます』
『⑨インペ◯ダウンでオオカミと出会った黒ずきんは他の囚人達と共に脱獄に成功し、家族皆で仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし』
……以上が、俺達が作り上げたリレー小説だ。
「傑作ね」
「どこがだよ!」
リレー小説の出来に満足げのメグに、俺は思わずツッコミを入れてしまう。
俺はメグこと幼馴染の北岡芽実に文芸部の手伝いを頼まれて、こうして放課後に図書室を訪れたわけだが、ただ単にリレー小説の書き手が欲しかっただけらしい。
「でも中々良い出来じゃない? 最後にちゃんとオオカミのことも伏線回収してるし」
「こんなの伏線回収に入るのか!?」
今日は俺の姉貴であり文芸部の顧問でもある国語教師、才木琴子も活動に加わっており、メグを含めた文芸部員六名に姉貴、手伝いとして参加している俺と、そして──。
「黒ずきんって名前だったからどこかにオオカミはいたと思ってたよ。まさか黒ずきんが裏社会の人間だとは思わなかったけどね」
俺と同じくメグに誘われた雪歩の、計九名でリレー小説を作っているところなのである。
まぁ小説というよりかは童話みたいな内容だったが、他の人がどんな発想を持っているのか、新しい発見を求めてこういうリレー小説考案会を文芸部は定期的に開催しているらしい。
「ちなみにだが、黒ずきんに極道感を入れた奴はどこのどいつだ?」
「私だけど」
「やはりお前か、北岡……」
俺は不満を言いたくてしょうがなかったが、「私が何かした?」と言わんばかりの表情をしているメグを見て、俺はもう諦めてしまった。
「お前のせいで黒ずきんがアサシンっぽくなっちまったじゃねぇか」
「でも黒ずきんってそういうコードネームっぽくないかしら?」
「だとしても、もっと童話っぽく出来ただろ!」
このリレー小説は、それぞれの書き手が一文ずつ加えていく形式で、さらに書き手は一つ前の一文しか知ることが出来ないため、話の全体がどうなっているのか、書いている時はさっぱりわからないのである。
「じゃあ、黒ずきんをズキズキの実の頭痛の能力者にしたのは?」
「私~」
「姉貴……じゃない才木先生、いくらワ◯ピが好きでも頭痛の能力者はないだろ!」
書き手は多い方が面白いとのことで顧問である姉貴も参加しているのだが、やはり俺の嫌な予感は的中した。こういう時に真面目な顔して全力でふざけるのがメグと姉貴なのである。
「いや、本当はオオカミを海軍大将ってことにしたかったんだけど、それじゃワ◯ピ過ぎるかなと思ってやめたのよね。銀狼って感じにすれば大将っぽくない?」
「ワ◯ピ感もりもりの文章が回ってきた俺の身にもなってくれ」
「あ、そうなの? 和海だってワ◯ピ要素出してるじゃない、インペ◯ダウン」
「ズキズキの実とか出されたらそうなるしかねぇだろうが!」
姉貴の文章が回ってきた時、ここからどうやって軌道修正しようか俺がどれだけ悩んだと思ってやがる。しかも俺の次は結末という終盤も終盤なのだ。
「でも、雪歩がちゃんと童話っぽく締めてくれて良かったわ」
「特に意味もなく家族って書いたけど、話が話だけにそういうファミリーっぽいよね」
「確かにそういう一家かもね」
「ていうか、結局オオカミって金を上納してないんじゃないのか?」
「だからオオカミにとってはバッドエンドかもね」
雪歩視点だと、まさかオオカミがまだ上納金を出せてないとは思わないだろうからな。俺と雪歩視点だと、黒ずきんは完全にワ◯ピの登場人物になってしまっている。
その後もいくつかリレー小説を作成したが、コインランドリーの洗濯機に転生したおじさんがオリンピックで金メダルを取る話だとか、秋葉原で部屋を探していた女子大生が秋葉原で不動産喫茶をオープンする話だとか、なんとも頭が痛くなってくる奇怪な物語が出来上がっていった。
話が変な方向に進んでいくのは大体メグと姉貴のせいだが……その世界観を普通に受け入れている文芸部員達も中々の曲者揃いである。
とまぁ、出来上がった奇怪な物語を読んで他の文芸部員達が爆笑している中、メグは怪訝そうな表情で俺に声をかけてきた。
「ねぇ、カズ君。いつの間に雪歩を名前で呼ぶようになったの?」
現状、雪歩のことを雪歩と名前で呼んでいるのは俺とメグだけ……というか本人曰く定員は二人までらしい。雪ちゃん呼びしている三門は別枠なのだろうか。
メグは去年雪歩と一緒のクラスで仲が良いみたいだし、お互いに名前で呼び合う仲なのはわかる。
しかしメグからすれば、同じクラスになって一ヶ月も経たない内に、俺が雪歩とそんなに親睦を深めたのが不思議でしょうがないのだろう。
「最近だが」
「どうして?」
「何が?」
「どうして雪歩のことは名前で呼ぶのに、私はダメなのかしら?」
……そして、メグが若干不機嫌そうにしている理由もわかる。
昔、俺はメグのことをメグと呼んでいたのに、いつの頃からか人前では北岡と呼ぶようになったからだろう。多分中学ぐらいの時だったと思うが。
「北岡は北岡だろ、ノースヒルズ」
「誰がノースヒルズよ。私にも芽実って名前があるんだけど? カズ君ならよく知ってるわよね? 小学生の頃、私の名前を漢字で書けるよう何度も練習させたもんね?」
「あぁそうだな。おかげさまで自分の名前より上手く書けるようになったよ」
ダメだ。なぜ雪歩は良いのにメグはダメなのか、メグを論破するための理論武装が出来ない。
俺が雪歩の方を向いて彼女に助けを求めようとしたが、彼女は悪魔のようにニヤニヤと笑っているだけだ。
まさかコイツ、俺とメグのこのやり取りまで計算の内なのか!?
「私は悲しいわカズ君。昔、櫻ノ島で一緒に誓ったじゃない……『海賊王に、俺はなる!』って」
「他にもっと良いエピソードあっただろ、メグ」
「でも、カズ君との思い出なんて大体……って、え?」
メグはパチクリと目を見開いて驚いていた。
別に二人きりの時だったら俺だって普通にメグと呼ぶのに、なんてワガママで気難しい幼馴染なのだろう。
一方でメグは自分の胸をギュッと押さえ──そして、大きな溜息をついてから言った。
「……はぁ。やっぱり何もときめかないわね」
「わかった。もう二度と名前で呼ばないからな、北岡」
「幼馴染モノのラブコメって一体何が良いのかしら……」
何で俺は名前で呼ぶようせがまれて、せっかく名前で呼んであげたのにがっかりされないといけないんだ。
こういう風に、メグは恋愛に恋い焦がれているのに全然縁がないから色々と拗らせてしまっている。それをいつも小説という媒体に落とし込んでいるのだ。
これ以上メグと一緒にいると変なことに巻き込まれそうだったため、リレー小説の手伝いも終わったことだし俺は帰ろうと席から立ち上がったのだが──。
「────っとぉ!?」
突然立ちくらみがして俺は倒れかけたが、なんとか椅子にしがみついた。
「か、和海君!?」
「ど、どうしたの!?」
雪歩やメグ、姉貴は慌てて俺の側に駆け寄って、心配そうな面持ちで俺の顔を覗き込んでくる。他の文芸部員達もざわついていたが、俺は何とか立ち上がった。
「いや、ちょっとふらついただけさ」
と、俺は平気そうに振る舞おうとしたが、何だか頭が重くて視界がぐらつくし、若干の吐き気にも襲われていた。
そんな症状に襲われているのを隠し通せるわけもなく、雪歩は俺の制服の袖を掴みながら言う。
「和海君、顔色悪いよ。保健室で休んだ方が良いよ」
「いや……」
俺は強がって断ろうとしたのだが……雪歩の不安げな表情を見た俺は、その提案を断ることが出来なかった。
「和海、病院行く? 車出すけど」
「いや、少し休めば大丈夫だと思う」
「無理はしない方が良いわ。帰りは送ってあげるから、保健室でゆっくりしときなさい」
「あぁ、わかったよ……」
……何故だろう。
昔はこのぐらいの具合の悪さなら平気そうに振る舞うことが出来たはずなのに、俺は今、雪歩の付き添いの元、保健室へと向かっている。
雪歩は、俺のこの仮面を剥がそうとする悪魔なのだろうか?
いや、あるいは天使なのかもな……。
保健室の先生に事情を説明して、俺はしばらくベッドで休ませてもらうことになった。
そして、雪歩はベッドの側に椅子を置いてニコッと微笑み──。
「やっと、二人きりになれたね」
保健室に悪魔降臨なう。
さらに具合が悪くなりそうなんだが……?




