夢中で頑張りすぎた君へ。大人しく休んで①
「なぁ、シスターって友達いるのか?」
「三と二分の一人ぐらいですかね」
「その二分の一人はどうやってカウントしてるんだ?」
今日も今日とて、俺は教会の懺悔室でシスターと話していた。こういうトンチキな返しをされると、向かい側の部屋にいるシスターが人間の形をしているのか怖くなってくる。
「ちなみに、才木さんにはどのくらいお友達がいらっしゃるのですか?」
「まぁ、パッと思い浮かぶのは五人だな」
「くっ、負けました……こんな低レベルな戦いに負けるなんて悔しいです……!」
「低レベルって言うんじゃない」
名前を覚えている知り合いならざっと百人以上はいると思うが、それを友達と呼ぶのかどうかは難しいところだ。せいぜいビジネスフレンドというぐらいである。
「才木さんのお友達って、全員男性ですか?」
「いや、半々ぐらいだが」
「両性具有……?」
「いや、そういう意味の半々じゃない」
「魚人やケンタウロスのような方とお友達なんですか……?」
「男子二人と女子三人だよ!」
牧とメグと小日向……雪歩と、後は別の高校に通っている幼馴染の男子が一人、ソイツの妹が一人というぐらいだ。
「才木さん。女の子三人と友達だとおっしゃいましたね?」
「あぁ、そうだが」
「才木さんは、男女の友情が成立するとお考えですか?」
「な、何を言いたい?」
「あぁ何と哀れなことでしょう。才木さんの二人のご友人が、才木さんを巡って壮絶な戦いを繰り広げていることをご存知でないなんて……!」
「んなもんフェイクニュースだ」
よりにもよって雪歩達が俺を巡って戦うなんて絶対にありえないことだ。
「そういうシスターの友達って。一体どんな奴なんだ?」
「まず一人目はヂュプジェバンガララ星人の方です」
「せめて地球人をカウントしてほしい」
「二人目は三色団子さんです」
「ハンドルネームか?」
「三人目はクマのぬいぐるみです」
「せめて生き物ではあってくれ」
「残る二分の一人目はVTuberです」
「お前はあれを有機物と無機物の中間だと思っているのか?」
まぁ、俺はこういうモードの時のシスターの話なんて話半分でしか聞いていないが、こんな愉快な奴なら結構友達は多そうだ。
いや、案外こういうタイプの人は表だと人見知りだったりするのだろうか? いざ顔を合わせたらもじもじしてしまうシスターの姿も見てみたいが……。
「ゴホッ、ゴホッ」
「才木さん? 体調が悪いのですか?」
シスターと話している最中、俺はつい咳込んでしまった。
「あぁ……いや、大丈夫だ。そうだ、まぁこれが今回の懺悔なんだがな」
「まさか、まだ夜は冷える季節だというのに裸で屋外を駆け回っていたのですか!?」
「俺はそんなトンチキな日常を送っていない!」
と、大声を出すと俺はまたゴホゴホと咳き込んでしまう。シスターに心配されたが、ただ風邪気味というだけだ。
そして、俺の体調が悪くなった理由には心当たりがあり過ぎるのである。
「昨日は曇ってて、この時期にしては結構冷えただろ? まぁ制服の上にコートを羽織る程じゃなかったが、ちゃんと制服着てても肌寒く感じるぐらいだったんだ。んで放課後、俺はいつも通りこの教会に来ようとしたんだが……学校で寒そうに体を震わせてる知り合いがいてな。そいつに制服の上着を貸したは良いものの、その後この教会でいつものように花壇の手入れをしていた俺はガタガタと体を震わせ、体調を崩してしまいました、とさ。人助けも良いが、ちゃんと自己管理もしっかりしないとなって思い知らされたよ……ゴホッ、ゴホッ」
下手に強がって上着を貸したのが最大の過ちか。いや多少面倒ではあるものの、一旦家に帰ってから寒さ対策を万全にして教会に来れば良かっただけの話でもある。
しかし、学校から教会方面と家方面は真逆だから面倒くさいのである。
「なるほど……自己管理もままならない自分の不甲斐なさを懺悔されたいのですね? 貴方の告白、しかと受け止めました。そんな正直者の貴方にはきっと、神様からのお導きがあることでしょう……」
「まぁ懺悔というか、俺は風邪を早く治したいけどな」
「それではここでクエスチョンです」
「なんだよ急に」
「果たして、才木さんは神に赦されるのでしょうか?」
「オチは想像ついてるからさっさとしてくれ」
俺はまた懺悔の内容がしょぼいなんて言われやしないかと思っていたが、内容はどうであれ話し相手になってくれるシスターは俺にとってありがたい存在である。
こんな幸せがいつまでも続いてくれたなら、と俺は夢見ていたのだが──。
「神は貴方を赦さないでしょう」
もう最早テンプレ的な展開になってきたぞこれ。
「今度はどうなるんだ?」
「才木さんの靴紐がほどけやすくなります」
「じゃあ固結びにするだけだな。対策は万全だ」
「そして才木さんの緊張の糸はほどけにくくなります」
「精神的ダメージがでかすぎるんだろ。俺はもっと平穏な人生を送りたいんだが、どうにかならないのか?」
今後俺の人生は胃痛に悩まされてばかりになってしまいそうだ。大学受験や就活など、将来的に俺に降りかかるであろう様々な重大イベントに耐えるメンタルを作り上げるためにも、ここはしっかりとシスターのアドバイスを聞こうと思ったのだが──。
「簡単なことです。才木さんが改造手術を受けてサイボーグになればいいのです」
「なるほどな。全身が機械になれば風邪を引くどころか体調を崩すことすらなくなるし、これは名案だ……ってなるかぁ! そんなテクノロジーはまだ存在しないだろ!」
「では今すぐコールドスリープして、そんな未来が来るまでひたすら待ってみては?」
「他力本願過ぎるだろ! 大体、変な改造手術を受けて俺が仮◯ライダーにでもなったらどうするんだよ」
「才木さんにはシ◯ッカーの戦闘員の方がお似合いですよ」
「イーッ! ふざけるな!」
昨今は技術進歩が激しいとはいえ、不老不死が実現されるのかどうか、その可能性は未だ未知数と言えるだろう。ヒーロー側になれるのならちょっと嬉しいが、悪の軍団と戦うことを使命として戦うのは、俺には荷が重い。
「後はそうですね……いっそのことバカになってみてはいかがでしょうか?」
「なるほどな。確かにバカは風邪を引かないって言うし……ってバカ野郎。大体、バカになるって具体的にどうすればいいんだよ」
「何も難しいことではありませんよ。才木さんは少々真面目過ぎる節があるので、時には肩の力を抜いてみるのも良いかと思われます。常に気を張っていては知らず知らずの内に体が強張り、疲れも溜まってしまいます。ありがたいことに週に二回も休日があるのですから、ちゃんと心と体も休ませてあげるのが大切ですよ」
……大体はおちゃらけているくせに、割と親身に相談に乗ってくれるところが、このシスターの恨めしいところである。
この間も寝不足の件で相談したが、自覚がないままいつの間にか疲れが溜まっていて、その影響力で免疫力も下がって風邪を引きやすくなっているのだろう。
「しかし、休むと言ったって具体的に何をすれば良いんだ?」
「才木さんは、何か趣味をお持ちではないのですか?」
「教会の手入れだ」
「私の仕事を趣味程度のものだとおっしゃりたいのですか?」
「いや、そういうつもりはなくて」
「ふふ、冗談です。私も才木さんがいらっしゃるまでア◯プラ見ていましたし」
「いや、お前はもっと働けよ」
「面白いですよ、ブ◯ックラグーン」
「確かにシスター出てくるけども……」
俺の趣味って何だろう? 日頃からしていることと言えば、それこそ誰かの手伝いか。
俺だって趣味は一応持っているが、それは恥ずかしくてシスターには言えないし、他に気を休められるような趣味なんてあっただろうか。それではとても休めてるとは言えないだろうし、何か新しい趣味を探すべきだろうか……。
「なぁシスター。俺に合いそうな何か良い趣味ってあるか?」
「乗馬はいかがですか?」
「本当にそれが俺に合ってると思ってるのか?」
「勿論です。女の子は誰しも白馬の王子様に憧れるものなのですよ」
「俺が白馬に乗っても王子様にはならないぞ」
「いえいえ、そんなことはありません。想像してみてください、立派な毛並みの雄々しい白馬、瑞々しい緑のターフ、鳴り響くファンファーレ……」
「いや、想像したら完全に競馬場にいるんだが?」
そういえば俺の腐れ縁の友人にも、白馬の王子様を待ち焦がれている奴がいたなぁ。そりゃ男子高校生だって美少女の転校生を夢見るんだし、そういうものか。
「大体、乗馬なんて上流階級の嗜みっぽいが……」
「でしたら人間に乗るのでも構わないのでは?」
「構わないわけないだろ」
「ですが、時に人に跨る行為を乗馬と暗喩することもあるとかないとか……」
「やめろ、こんな場所で変なこと想像させるなって言ってるだろ! 俺はもう帰る! じゃあな!」
「えぇ、ゆっくりお休みくださいね」
幼い頃は親の背中に跨ってキャッキャとはしゃいでいた時代だってあったはずなのに、人はどうしてこんなにも心が汚れていってしまうのだろうか。
しかし、趣味か……何かを始めようと意気込んでも、それが長続きするような未来が見えない。
せっかくだし、知り合いに聞いてみるか。
最近出来た、新しい友達にも。




