第7章 第三話:新たな日常
下駄箱を後にし、自分たちの教室がある二階へ向かう。
二階の2年生のフロアに着いた一行。三階へ向かう階段の前で、薫が足を止めた。
彼女の教室は三階、一年生のフロアだ。 薫は別れ際、浩紀を真っ直ぐに見つめて言い放った。
「浩紀さん。いつでも私に会いたくなったら、教室に来てくださいね」
そう言い残し、彼女は一度も振り返ることなく階段を昇っていく。
浩紀は苦笑いを浮かべ、杏奈はムッと頬を膨らませ、沙織はあからさまに呆れた顔でその背中を見送った。
その後、二階の廊下を歩き、杏奈の教室であるB組の前で足をとめる。
「アン、何かあったらいつでも連絡して。……すぐに会いに行くから」
浩紀はそう言って、最後にもう一度だけ杏奈の手を強く握り、惜しむように、ゆっくりと指先を離していった。
杏奈は浩紀に一度微笑んでから教室へと入っていった。
杏奈を見送った浩紀と沙織は、自分たちの教室があるA組へと入る。
「そういえば沙織、葛谷の時はホントにありがとな。もし、沙織がいてくれなかったらと思うとぞっとするよ」
「……杏奈のためにも、校内で広まりすぎなくて良かったわよね」
席に着きながら、沙織は少し声を落として答えた。
「ホントにそうだな。それで今朝、アンとも話したんだけど……沙織、何か欲しい物とか、してほしいこととかあるか? お礼がしたいんだけど……」
浩紀の真剣な問いかけに、沙織はふっと悪戯っぽく口角を上げた。
「それなら……浩紀に、私と子供造ってもらおうかしら?」
冗談めかして言ったものの、沙織の顔はみるみるうちに林檎のように真っ赤に染まっていく。
そんな挑発に慣れていないことは、その真っ赤な顔からも明らかだった。
「それ、アンに俺が殺されるから」
そうなった時の杏奈の顔を思い浮かべて青い顔をする浩紀。
「ふふ、冗談よ。私も杏奈に殺されかねないし。……お礼は、いい案が浮かんだら二人に言うわ」
(いくらなんでも初めてで妊娠はいただけないわよね。でもいつかは……)
「ああ、そうしてくれ」
会話が途切れると、沙織は背後にある自分の席へと戻っていった。
ホームルームのチャイムが鳴る数秒前。
浩紀の前の席の太田が、滑り込むように教室に飛び込んできた。
「今日もギリギリセーフだぜ……。そうだ浩紀、昨日、敦子と電話しててさ。またみんなでどっか遊び行きたいって話になったんだけど、今週末とか暇か?」
「たしか、予定はなかったと思うけど」
「なら杏奈や薫も誘って、どっか行こうぜ!」
「ああ。あと、沙織もだな」
その何気ない太田の提案が、浩紀を中心とした4人に波乱を呼ぶことになろうとは二人共まで気が付いていなかった。
担任の教師が教室に入ってきた。
昨日までの嵐が嘘のような、けれど、どこか以前とは違う新しい日常が、チャイムの音と共に動き出した。
第7章第3話をお読みいただきありがとうございます。
今回急遽決まったみんなでのお出かけ。
次回はどこへお出かけするのかを決定します。
そして今回太田が行った提案がさらなる嵐を巻き起こしそうな予感……
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