第7章 第二話:火花散る下駄箱
二人は繋いだ手を離さないまま、冷たい冬の空気の中、しっかりとした足取りで校門をくぐった。
登校中の生徒たちの視線がつないだ手に集まるが、今の浩紀と杏奈には、その視線さえも二人の絆を強めるスパイスでしかなかった。
「そうだ、今度沙織にもちゃんとお礼をしないとな」
浩紀の言葉に、杏奈は深く頷いた。
「そうだね。沙織に背中を押してもらったり、ヒロと一緒に助けに来てくれたりしたもんね。本当に感謝してるの」
「アンはいい友達を持ったよな」
浩紀がしみじみと呟くと、杏奈は少しだけいたずらっぽく、けれど強い光を宿した瞳で彼を見上げた。
「……うん。でも、ヒロの唇を奪ったことに対しては思うところもあるけどね……。いくら友達だからって、ヒロは絶対に私だけのヒロなんだから!」
その言葉に浩紀が沙織にされたキスを思い出し、一瞬目をそらしたが、すぐに視線を杏奈に戻すと、二人の視線が合わさり、同時に顔を赤らめるのだった。
二人が下駄箱に到着すると、背後から自信に満ちた、それでいてどこか楽しげな声が響いた。
「譲ってくれなんて、最初から言わないわよ。私は杏奈、あなたから浩紀の心を奪い取るんだから」
振り返ると、そこには腕を組み、不敵な笑みを浮かべた沙織が立っていた。
彼女の瞳には、かつての迷いや杏奈への過度な遠慮はもう見えなかった。
一人の女性として、そして、浩紀に恋をするライバルとしての覚悟が、その瞳に満ちていた。
「私的には、別に譲ってくださるのでも構わないですよ?お姉ちゃん」
さらに重なるようにして、いつの間にか背後に忍び寄っていた薫が静かに口を開く。
相変わらず杏奈に向ける顔は浩紀に向けるものと違い無表情だが、その言葉には実利を重んじる彼女らしい鋭さが含まれていた。
沙織の「宣戦布告」と、薫の「静かな挑発」。
挟み撃ちのような状況に、以前の杏奈なら萎縮してしまったかもしれない。
しかし、今の彼女は違った。
「ヒロは絶対に渡さないんだから」
杏奈はそう答えると、浩紀の手をいっそう強く握りしめた。
その顔には、向けられた敵意や独占欲を真っ向から受け流し、さらにその上を行くような、眩しいほどに晴れやかな笑顔があった。
その笑顔を見て、沙織は一瞬呆気にとられたように目を見開き、やがて「ふん」と鼻を鳴らして視線を逸らした。
「……ますます、面白くなってきたじゃない」
薫は繋がれた二人の手を見つめたまま、小さく首を傾げる。
「その余裕、いつまで保てるか楽しみにしてるね、お姉ちゃん」
下駄箱に並ぶ三人の間に、浩紀を巡ってパチパチと火花が散る。
それは、かつての「異物」が入り込む隙など微塵もない、あまりに熱く、泥臭く、そして純粋な恋の戦いの始まりだった。
第2章第2話をお読みいただきありがとうございます。
今回は杏奈に沙織と薫が改めて宣戦布告したお話になります。
杏奈も成長し、二人に負けずにちゃんと言い返せてますね。
「杏奈、よく言った!」と思った方や、「薫や沙織も頑張れ!」と思われた方、この物語を応援して下さる方(純粋、不純は問いません(笑))は、ブックマーク及び評価☆にて応援よろしくお願いします。
毎日19時ごろに1話ずつ投稿していきますので、よろしくお願いします。




