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『幼馴染の境界線 ―僕の祈りと、君の憧れ―』  作者: サッサン
間幕

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間幕 第一話:あの日の青い花(薫編)

後書きにて作者をモデルにした新作のお知らせを載せております。後書きもお読みいただけると幸いです。

葛谷が退学し、平穏を取り戻してから数日たった日の夜。

薫は自室の勉強机に座り、おもむろに小さな鍵を取り出すと、机の引き出しの鍵を開けた。

その引き出しには薫にとって大切な宝物が閉まってある。

その宝物の中から一つのラミネートされた(しおり)を取り出した。

これは特に薫が大切にしてきたものである。

中央には、少し色あせた青い花が押し花となって閉じ込められている


「ラミネートして正解だったわね。これでお兄ちゃんの愛をこれから先もずっと見ていられるわ」


栞を見る薫の瞳は怪しい光を孕みながらも、言いようのない幸福感で満たされていた。

薫は栞を胸元に抱きしめ、静かに目を閉じ、過去に思いを馳せた。


ーーー


私が小学5年生の時、中学生になった長女・香澄と小学6年生だった次女・杏奈はまるで太陽のような存在であった。

姉二人は物おじしない明るい性格で、外見も華やかであり、成績も優秀で常に周りの注目を集めていた。

それに比べ、背も低く引っ込み思案であり、特別に秀でたものを持たない薫は、華やかな姉たちの陰に隠れてしまっていた。

そして聞こえてくる姉たちを誉める大人たちの声。


「香澄ちゃんは美人の上に勉強もできてすごいね」


「杏奈ちゃんはホントいるだけで周りが華やかになるわ」


そんな言葉を聞くたびに、その言葉の裏に「それに比べて三女の薫は……」という言葉を感じ取り、卑屈になっていった。

そして薫が最も嫌っていた言葉があった。


「薫ちゃんもお姉さんたちを見習って、立派な女性になるんだよ」


この言葉を聞かされているときの私は、まるで私自身には何の存在価値もないと言われているように感じていた。

こんな私の傍にも独りだけ姉たちと比較をしない人がいる。一つ年上のお隣のお兄さんの浩紀さんだ。

ちょっとしたことでも「薫ちゃんは凄いね」「薫ちゃんその髪型とても可愛いね」と言ってほめてくれた。だから浩紀といるのが好きだった。

でもその浩紀さんは姉である杏奈のことを好きなことは誰の目からも明らかだった。

それでも、私は大好きなお兄ちゃんの妹としてそばにいられるだけで幸せだった。


ーーー


そしてあの日がやってきた。その日も家の庭先で周りの大人たちからちやほやされている杏奈がいた。

そしてそんな杏奈と些細なことで喧嘩になる。

すると、周りの大人たちは皆、「薫ちゃん、わがまま言っちゃだめだよ」と言って杏奈の味方をしたのだった。


(私の事なんてやはり誰も見てくれないんだ……)


そう思うとやり切れない思いになり、一人自室に逃げ、カーテンを閉めて暗くなった部屋で膝を抱えていた。ここだけが唯一誰からも「姉たちとの比較」をされない場所であった。

その様子を隣の家の庭から浩紀が見ていた。

浩紀には薫の気持ちがよく分かった。

常に優秀な兄の博康と比較されてきたからだ。

どんなに頑張って優秀な成績をとっても、それ以上の存在である博康がいるせいでかすんでしまう。

そして「浩紀」としてではなく、「博康の弟」として見られてきたのだ。

だからこそ、薫が抱える比較されるつらさや個人としてみてもらえない寂しさを知っており、同じ痛みを感じているであろう薫のことを常に気にかけてきたのであった。


ーーー


薫はずっとベッドの上で膝を抱えて丸くなっていた。

窓の外は日が傾き、夕日が間もなく沈み切ろうとしていた。


(私の存在なんていてもいなくても変わらない。……見てもらえるのはお姉ちゃんたちだけなのよ……)


不意に扉がコン、コンとノックされる。

また何か嫌なことを言われるだけだと思い、薫はあえて返事をしなかった。

すると再度ノックをする音がして、扉越しに浩紀の声が聞こえてきた。


「薫ちゃん、もし嫌じゃなかったら中に入ってもいいかな?」


(お兄ちゃん!どうしてここにいるの?)


いつもであれば姉の杏奈の傍にいるはずの浩紀。その浩紀が今私の部屋の扉の前に立っている。

その事実に薫は驚き、混乱した。

そんな薫をよそに、浩紀は薫の返事を待たずに続けた。


「薫ちゃんに渡したいものがあるんだ。だから開けてくれないかな?」


その声はいつもの穏やかな、薫の大好きな声だった。

その声を聴いた薫は体が勝手に扉へと向かっていた。

そしてドアノブを掴むとゆっくりとまわす。

ガチャっという音と共に扉が開かれた。

そこにはいつもの優しい笑顔の浩紀が一人で立っていた。


「薫ちゃんやっぱりここにいたんだね」


そういうと浩紀は背中に隠していた小さな青い花を薫に差し出した。

小さい中にもどこか凛としたものを感じる花であった。


「これあげるよ。……薫ちゃんに似合うと思ってさ」


それを素直に受け取る薫であった。


(お兄ちゃんはお姉ちゃんではなく、私のためにこの花を摘んで持ってきてくれたんだ)


二人はベッドに横並びに座ると、浩紀が優しく薫の手を握った。

その途端薫の目からとめどなく涙があふれ出した。


(この人だけは私のことを常に見ていてくれる……)


薫が泣き止むまで浩紀は何も言葉を発しようとはしなかった。

ただただ優しく手を握っていた。

薫が落ち着くと、彼は静かに語りかけた。


「上が優秀だとホント大変だよね。俺もその苦労はわかるからさ。俺でよかったらいつでも話聞くからね。俺は薫のお兄ちゃんだからさ」


そう言って浩紀は優しく微笑んだ。

その言葉は「孤独」の中にいた薫を浩紀という光が救い出してくれた瞬間であった。

香澄お姉ちゃんでも、杏奈お姉ちゃんでもない。

「私の中の孤独」を見つけてくれたのは、浩紀さんだけだった。

もらった青い花は香澄お姉ちゃんの手を借りて栞にした。

香澄を頼ったのはたまたまそこにいたからであって、花を栞にできれば誰でもよかった。しかし、杏奈だけは避けたかった。

それは、そのころから無意識に浩紀の心を独占する杏奈をライバル視していたからなのかもしれない。

「今度は自分が、傷つき、打ち捨てられた浩紀を見つけ出し、救い上げ、私が横で支えてみせる。たとえそれが姉妹の関係を完全に決裂させることとなったとしても。」

その誓いを胸に抱いた瞬間、幼い日の淡い憧れは、決して消えることのない「恋と執着」という名の甘い猛毒へとその姿を変えた。


ーーー


過去の思い出の中から現実へ戻ってきた薫。


「浩紀さんは私に光を当ててくれる太陽。最後にそのお兄ちゃんの隣で、お兄ちゃんを支えるのは私だからね……」


薫は一人浩紀への想いを口にしていた。

窓の外、夜空では太陽の光を反射した三日月が綺麗に輝いているが、雲がその輝きを覆い隠そうとしていた。





間幕の第1話:あの日の青い花(薫編)をお読みいただきありがとうございます。


今回はキャラクター総選挙で2位になった薫(1位は作者)の過去のお話を書かせていただきました。

薫が浩紀を心の底から好きになったきっかけのお話になります。

お読みいただき、いかがでしたでしょうか?

良かったら感想頂けると嬉しいです。

私的に浩紀が無自覚に人たらしな気がしなくもないのですが……。


明日からは第7章に突入予定です。お楽しみに。投稿時間は毎日19時を予定しております。


※作者をモデルにした作品を新たに作り、別作品として投稿しておりますので、是非そちらもお読みいただけると嬉しいです。ブックマーク及び評価☆でのご協力をお願いします。是非、皆様の力でランキング入りへの押し上げをお願いいたします。

「食いしん坊たちの御朱印集め紀行」 URL: https://ncode.syosetu.com/n0158mi/

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