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『幼馴染の境界線 ―僕の祈りと、君の憧れ―』  作者: サッサン
【第二部】第6章:異物によって試される絆

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第6章 第八話:歪な欲望

6月15日から急遽、この話とは雰囲気の違う「食いしん坊たちの御朱印集め紀行」という小説を投稿し始めました。基本的なコンセプトは旅先での御朱印集めとグルメや観光とほんのちょっとの恋愛要素を楽しむ話です。シリアスな話に疲れたときにでも、是非読んでみてください。


( URL: https://ncode.syosetu.com/n0158mi/ )

放課後、生徒会室での用事を済ませた沙織は、下駄箱で所在なさげに立つ浩紀を見かける。


「浩紀? 杏奈は一緒じゃないの?」


「アンの奴……葛谷に最後に渡したいものがあるって呼ばれたらしくて。もう待ち合わせから10分過ぎてるんだよなぁ」


沙織の表情が瞬時に険しくなる。


「私、さっき葛谷が音楽室に入っていくのを見たわ。浩紀、すぐに行きましょう。あいつが私を見る目は、吐き気がするほど汚らわしかった……。まるで女性を性欲のはけ口の様に見るような、そんな腐った目よ!」


二人は胸騒ぎを抑えられず、全速力で旧校舎へと駆け出した。


ーーー


浩紀たちが音楽室へ向かおうとする20分前、音楽室には葛谷が弾くピアノの美しい旋律が響いていた。

杏奈は「目を閉じて聞こえる音だけに集中して聞いてほしい」という彼の言葉を信じ、椅子に座り、素直に目を閉じて聴き入っていた。

一曲目が終わると、「曲が淡った後も少しの間目を閉じて余韻に浸るのがマナーなんだよ」という葛谷のアドバイスを信じ、目を閉じている杏奈の背後に葛谷は静かに立ち、隠し持っていたガムテープで彼女の両手首を椅子の背もたれに固定した。


「っ!? 何するの葛谷君!」


驚く杏奈を無視し、葛谷は彼女の両足も椅子の脚に一本ずつ、手際よく固定していく。


「ホントに君は人を疑わないんだね。……好きなだけ叫ぶといい。この音楽室は防音の上、今日はこの周辺の教室は一切使われていないから、誰も助けには来ないけどね」


葛谷は椅子の周りをゆっくりと歩き、怯える杏奈を蛇のように見下ろしながら、冷酷な笑みを浮かべた。


「杏奈ちゃん、君は本当に何も分かってない。浩紀君が君を守ることに必死になっている。でも、君のその『無自覚な優しさ』や『人を疑わない素直さ』が、彼を傷つけ、いつか彼を殺してしまうかもしれない。実際君は僕の手の上で面白いぐらい転がってくれたよね」


葛谷は杏奈のすぐ背後に立ち、スマートフォンの録画機能を起動させた。


「そして今もまさに僕の手の中にいる……」


カメラに杏奈の細い首筋を映しながら、冷たい指先を這わせた。

指が触れるたびに、触られた部分が汚されるような感覚を受け、杏奈の体は拒絶反応で激しく震える。

葛谷はその反応を楽しむように、彼女の耳元で囁き続けた。


「杏奈ちゃん、僕がなぜ君をねらったと思う?」


そのふいに投げかけられた問いに答えられずにいると、葛谷は杏奈の正面側に回り、少し離れた場所から杏奈の全身を映しながら、答えなど初めから期待していないとばかりに勝手に語りだした。


「以前僕にもいたのさ。浩紀君にとっての杏奈ちゃんのような存在がね。僕たちは子供のころから一緒で、高校に入るときに付き合い始めたんだよ。当初は『私はあなたが誰よりも好き』とか言っていたくせに、1年もたたないうちに『他に好きな人ができた』って言って一方的に捨てられたんだ。だから僕はその時誓ったんだよ。必ず復讐してやるって。」


狂気じみた顔をしながら熱く語る葛谷を見て杏奈は強い恐怖を覚えた。

杏奈は指輪と胸のネックレスを感じながら強く願う。

(ヒロ、私を守って)


「僕はね自分を磨いたよ。女子受けの良い外見、人当たりの良い雰囲気やしゃべり方、他にも頑張って手に入れた。ピアノもその一つだよ。そして、俺はあの幼馴染も取り返してやったんだ。あの男が見ている前で幼馴染を抱いてやった時の、あの男の絶望した顔は今でも忘れられないよ。」


「あなたは狂っているわ!そんなことして一体何になるっていうのよ!」

杏奈は葛谷を否定した。


「何になるかって……。そんなの僕が楽しいからに決まってるじゃないか!結局その幼馴染の女をどうしたと思う?……僕はね、取り戻したあいつを隅々まで堪能し、たくさん恥ずかしい映像を撮ってから、あいつが俺に依存しきった時に他の女に乗り換えてやったのさ!あの時の絶望した彼女の顔は最高傑作だったよ。その後は彼氏のいる女を堕としては同じようなことを繰り返したもんだ。でもさすがにやりすぎてしまってね、転校せざるを得なくなってしまった。そこで見つけたのが杏奈ちゃん、君だったんだよ!君が僕を信じて相談しに来た時は笑いをこらえるのが大変だったよ。原因が僕だっていうのにね。そして……これから君と浩紀君にも、あの女と同じ絶望した顔を見せてもらうからね」


熱く語る葛谷に対し杏奈が反論した。

「私とヒロの絆は何があっても壊れたりしないわ!だから絶望なんて絶対にしない!」


「生意気な女だ。ほんとあの幼馴染の女を思いだせるよ、君は。どうせそんなことを言ってられるのも今うちだろうけどね。これから君が僕にされることをすべて映像に記憶してあげるからね」


そ言うとゆっくりと恐怖をあおるように再度カメラをかざしながら杏奈へと近づき、杏奈のほほに手を触れさせた。


「見てごらん、こんなに震えて。……浩紀君は、君が僕にこうされている間も、君を疑っているかもしれない。また君が僕に抱きしめられているんじゃないかって。」


「……違う……ヒロは、そんなこと……っ!」


「いいや、同じさ。君がこれから僕の手に堕ちることで、あいつの中の『アン』は汚されて特別でなくなるんだ。……さあ、最後にあいつとの思い出を全部、僕が汚してあげるよ」


葛谷がいよいよ杏奈の顎を強く掴み、その唇を強引に奪おうと顔を寸前まで近づけた。そのおぞましい吐息が触れる距離で、杏奈は涙に濡れた瞳に、決して折れない拒絶の炎を宿して言い放った。


「……奪えないわ。……貴方がどんなに私を辱めても…」


杏奈は、背もたれに固定された手の指先で、薬指に宿る「銀の指輪」の感触を必死になぞりました。

そして、制服の下で肌に触れている「月のネックレス」の冷たさが、今の自分を浩紀と繋いでいる唯一の鎖だと信じて、歯を食いしばったのです。


(痛い……怖い……。でも、これがある限り、私はまだ、ヒロだけのアンなんだから……!)


「体は汚せるかもしれない……でも、私の心にあるヒロとの時間は、貴方みたいな空っぽな人には……絶対に、汚させない!!」


その杏奈の言葉に 激昂した葛谷がその頬を平手打ちした。そして、卑猥な笑みを浮かべながらその赤くなった頬を指でなぞった。そして、杏奈の顎を持ち上げて上を無理やり向かせた。


「これから君のすべてを汚してあげるよ。まずはこの生意気な口を汚してあげる。そのあとでも君は同じことが言えるのかな?」


(もし唇を汚されても決して屈しない!)


葛谷の唇が杏奈に近づき、吐息が杏奈の唇に届こうとしたまさにその時、 バタンッ!! 音楽室の扉が、凄まじい衝撃と共に蹴破られた。


「アン!!!」

「そこまでよ、クズ男!」


飛び込んできたのは、怒りに燃える浩紀と、スマートフォンを構えた沙織だった。沙織のカメラは、拘束された杏奈と葛谷の卑劣な凶行をしっかりと収めていた。


「……っ、貴様ぁぁぁっ!!」


理性をかなぐり捨てた浩紀が、獣のような咆哮と共に葛谷に躍りかかる。

浩紀の渾身の拳が葛谷の顔面にめり込み、葛谷はピアノの脚に激突して昏倒した。


「アン、大丈夫か! アン!!」


浩紀は急いで拘束を解き、震える杏奈の体を抱きしめて包み込んだ。


「ヒロ……っ。私、守ったよ……絆も、唇も……あいつには、渡さなかったから……っ」


安堵から溢れ出した涙と共に、杏奈は浩紀の胸の中に崩れ落ちた。浩紀は、壊れ物を扱うように、けれど誰にも渡さない強さで彼女を抱きしめた。


「……ああ、わかってる。よく頑張ったな、アン。もう大丈夫だ。これからは、僕が一生お前を守るから」


浩紀は杏奈の涙を拭い、彼女が死守したその唇に、清らかな誓いの口づけを落とした。

扉の壊れる音を聞いた教員が来るまでの間、音楽室は静寂に包まれていた。


第6章第8話をお読みいただきありがとうございます。


葛谷が無理やり杏奈を汚し、それを映像として残すことで絶望をさせるという力技に出てきた話でした。

葛谷がゆがんでしまった理由も彼の口から語られましたが、それで許されることではないですよね。

無事浩紀たちが間に合って本当に良かったです。


「杏奈よく頑張ったね!」「浩紀よくぞ間に合ってくれた」と思ってくれた方、この先のお話が気になる方は、ブックマークと評価☆で応援をお願いします。

これからの執筆の活力になりますので。


毎日19時に1話ずつ投稿していきますのでよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
間に合って良かった! 沙織ちゃん有難う! 本当泣きそうでした。
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