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『幼馴染の境界線 ―僕の祈りと、君の憧れ―』  作者: サッサン
第1章「軽井沢の迷宮」

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九話:二階の独白、揺れる天秤【加筆&修正】(26年5月28日)

二階の自室に逃げ込んだ杏奈は、重い木の扉を閉めるなり、ベッドに倒れ込んだ。

高原の爽やかな風がカーテンを揺らしているが、今の彼女にその心地よさを感じる余裕はなかった。


(……なによ、もう! みんなして、わざとやってるの!?)


まず、怒りの矛先は浩紀に向かった。

いつもなら、どんな時でも真っ先に自分を誘うはずの浩紀。

それなのに今日は、自分をほったらかしにして、あんな「新参者」の畑中さんや、調子に乗っている妹の薫と一緒にさっさと出かけてしまったことが許せなかった。


(ヒロもヒロよ! 私が博康お兄ちゃんを見てたからって、声くらいかけなさいよね。あんなデレデレ鼻の下伸ばしちゃって……最低!)


八つ当たりだと分かっていても、独り言が止まらない。

だが、怒りの裏側に、じりじりと嫌な予感が混じり始める。


(……それにしても、畑中さん。あんなに堂々とヒロを誘うなんて、やっぱりヒロのことが好きなのかな。それに、薫まで……。あの子、最近やけに「浩紀兄ちゃん」って懐いてるけど、まさか……)


二人とも、浩紀の「幼馴染の親友」という彼の隣を独占している特別な座から私を追い出し、その空いたスペースに恋人というもっと特別な存在として入り込むことを虎視眈々と狙っているように見えて仕方がなかった。

自分にとっては当たり前すぎて意識もしなかった浩紀の隣が、実は他人から見れば魅力的な「特等席」だったのではないか。

そんな不安が胸をよぎる。


(……ダメダメ。何考えてるの、私)


杏奈は首を大きく振って、思考を振り払った。 窓から入ってくる爽やかな風に気が付き、気持ちを落ち着かせるためにベランダに出た。そして、杏奈が視線を外へ向けると、階下の庭で博康と香澄が楽しげに談笑しているのが見えた。


(私が好きなのは、博康お兄ちゃんなんだから。……お姉ちゃんとあんなに仲良さそうにしてるの、正直面白くないけど。でも、あそこに入っていくためには、もっと大人にならなきゃいけない)


姉の香澄は、博康と対等に話している。

自分にはまだ足りない「大人の余裕」を感じた。

目指すべきはあの「洗練された関係」であり、浩紀との子供っぽい小競り合いに固執している場合ではないのだ。

だって、自分を救ってくれた「王子様」は博康なのだから……。そう自分に言い聞かせた。


(そうよ。ヒロが誰とどこへ行こうが、私は気にしない。私は私の恋を頑張るだけ。……そう決めたんだから)


自分を納得させるように、杏奈は強く拳を握りしめた。

しかし、決意とは裏腹に、胸の奥には依然として「もやもや」とした霧が立ち込めている。

それは、夕暮れ時の軽井沢に広がる深い霧のように、じわじわと彼女の心を侵食していた。

一度も、ただの一度もこちらを振り返らずに森へ消えていった浩紀の背中。

その拒絶にも似た静かな後ろ姿は、まるで自分が浩紀の傍から押し出されてしまうような気がして、爽やかな風の入り込む部屋で、不意に激しい寒気を感じていた。外の太陽はいつの間にか沈み行く夕日へと変わっていた。

第9話を読んでいただき、ありがとうございます!


今回は全編「杏奈の心の独白」でした。

失いかけて初めて気づく、ヒロという「特等席」の価値。

杏奈の考えはこのまま変わるのか、それとも博康お兄ちゃんを追い求め続けるのか……!?

どちらに行くにせよ、後悔だけはしないでほしいですね。頑張れ、杏奈!


少しでも「先が気になる!」と思ってくれた方、あるいは「杏奈、ちょっとこっち来い(笑)」とアドバイスしたくなった方、ぜひ【ブックマーク】や【評価(下の☆☆☆☆☆をポチッとな!)】で応援していただけると、更新のパワーになります!


毎日19時ごろ(予定)に更新していきますので、明日もお見逃しなく!

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