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『幼馴染の境界線 ―僕の祈りと、君の憧れ―』  作者: サッサン
【第二部】第6章:異物によって試される絆

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第6章 第六話:沙織の献身

月曜日。

登校した浩紀の周りには、誰一人として近づけないほどの冷たい壁ができていた。

放課後の廊下。

生徒会の掲示物を貼り替える浩紀の動きは正確無比だが、その瞳には光がなく、まるで精巧な機械のようだ。

本来なら杏奈のいるB組の前を通る際は、必ず教室を覗いて彼女を探していたはずの彼だが、今は隣に誰が立っているかさえ興味がないように見える。


「ヒロ……」


掲示板の前に立つ浩紀の背中に、杏奈が震える声で呼びかけた。

浩紀は作業の手を止めることなく、視線すら合わせずに氷のような声で言い放つ。


「……河合さん。その呼び方はやめてくれってお願いしたよね。特別な用がないなら、声をかけないでほしい」


「河合さん」、 その他人行儀な呼び方に、杏奈はその場に立ち尽くすことしかできなかった。

背後では、葛谷が「今はそっとしておきなよ」と、優しげな顔で杏奈の肩に手を置いていた。

その光景がさらに浩紀の心を閉ざさせた。


ーーー


放課後、一人で屋上にいた浩紀の前に、沙織が立っていた。


「いつまでそんな死んだ魚みたいな目をしてるのよ、浩紀!」


「……沙織か。悪いけど、今は一人にしてくれ」


「嫌よ。あんたのそんな顔、見てられないわ。……ねえ、杏奈が葛谷といたのがそんなにショック? あいつの術中にはまった杏奈の『無知』を責めて、一生そうやって殻に閉じこもるつもり?」


沙織の激しい言葉に、浩紀は初めて感情を露わにする。


「……お前に何がわかる! 目の前で二回も、あいつはあの男の腕の中にいたんだぞ! 相談してたなんて、そんなの言い訳に決まってるだろ!」


「いいえ、言い訳じゃないわ。あの子はただの馬鹿正直なお人好しなのよ! ……でも、もういいわ」


沙織は一歩、浩紀に詰め寄った。

沙織の瞳には確かな覚悟と決意が宿っていた。

沙織は下を向いている浩紀の顎を掴み、無理やり上を向かせると、その唇に自らの唇を重ねた。

それは、文化祭の時のような事故などではない。

紛れもなく、沙織の明確な意志によってなされた口づけであった。

呆然とする浩紀に、ゆっくりと唇を離した沙織が言い放つ。


「私はあなたのことが大好きよ。だけど、私が欲しいのは今のあなたじゃない。怖くても、杏奈とちゃんと向き合って話し合える、そんな男なの。そしてここで改めて宣言するわ。私は、杏奈の大切な幼馴染で恋人である浩紀を、杏奈から奪ってみせる。今したキスは、そのための前払いよ」


沙織は真っ直ぐに彼を見据え、目に光が戻り始めた浩紀に諭すように告げた。


「私は杏奈の友人として、あの子を信じてる。だから、あなたたち二人を必ず立ち直らせてみせる。……私が、正々堂々、杏奈から貴方を奪うために」


沙織はそのまま屋上の扉を開け、女子テニス部の主将としてコートに立とうとしていた杏奈の前へと向かった。


「杏奈!」


部員たちが驚く中、沙織は杏奈に言い放つ。


「私、浩紀に告白してきたわ。貴方が彼を信じられず、葛谷なんかにうつつを抜かしてる間に、彼は大きな傷を負ったわ。……だから、今日から私はあんたの友人である以上に、浩紀を奪い合うライバルになる。そして彼の傷を癒すわ!文句、ないわよね?」


沙織の真正面からの宣戦布告。

それは、葛谷の甘い毒に当てられ、悲劇のヒロインのように沈んでいた杏奈の目を覚まさせる強烈な一撃だった。


(……沙織に、ヒロを取られる……?)


その瞬間、杏奈の脳裏にあのイブの夜のことが思い出される。そして、杏奈の胸の奥で、あのイブの夜に博康に気づかされ感じた浩紀を失ってしまうかもしれないという激しい「焦燥」と、誰にも彼を渡したくないという強い「独占欲」が沸き上がった。

博康への憧れを「初恋」だと思い込んでいたあの頃とは違う。

ヒロを失うという恐怖が、彼女の眠っていた本能を呼び覚ましたのだ。


「……待って、沙織。私は……私はまだ、ヒロのことを諦めてない!」


「だったら、その弱々しい顔をやめなさい! 葛谷に相談なんて甘えた真似はやめて、自分の足で浩紀の心を取り戻しに行きなさいよ!」


沙織は背を向けて歩き出す。

自らの唇を噛み締め、涙を堪えながら。


(……これでいいのよね。私は、私にできるやり方で、二人を救うんだから……)


その様子を、ポニーテールの少女・薫が校舎の陰から見ていた。


「……沙織さん、格好よすぎるよ。負ける気はこれっぽっちもないけど、おかげで面白くなってきた。お姉ちゃんがようやく『狩る側』の顔になったね。少しは頑張ってくれないと張り合いがないですからね」


そして、自分の計画が狂い始めたことに気づいた葛谷は、部室棟の影で冷たい舌打ちを漏らしていた。

冬空の下、それぞれが様々な思いを胸に動き出そうとしていた。


第6章第6話をお読みいただきありがとうございます。


今回の話の主役は完全に沙織ですね。沙織、お前カッコよすぎるだろ( ;∀;)

沙織によって気力を取り戻した二人が一度は葛谷に壊されてしまった絆を再び再構築できるのか、次話をお待ちください。


頑張った沙織のエールを送ってくれる方は、ぜひブックマーク及び評価☆でこの作品を応援してください。作者が沙織に届けておきます(笑)


毎日19時に1話ずつ投稿しておきますので、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
いやー急展開ですね! じれじれが楽しくなって来ました! とは言え、 杏奈ちゃんのお人好しには、私もムカつきますけど……
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